父が仕事で亡くなった|労災認定後に家族が検討すべき会社への損害賠償請求
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この記事のポイント
- 労災認定を受けることと、会社への損害賠償請求は別です
- 会社に落ち度があったかどうかで、損害賠償請求の可否が決まります
- 損害賠償請求の方法には示談交渉や裁判があります
一家を経済的に支えてくれていたお父さんの死は、残された家族にとって悲痛なものです。
仕事に起因した死亡事故で労災認定を受けた場合でも、実は十分な補償とはいえない可能性があります。
この記事では、労災認定を受けたあと、家族が検討すべき会社への損害賠償請求について説明します。どういった場合に、お父さんの労災事故に関する損害賠償請求ができるのかをみていきましょう。
目次
なぜ労災で損害賠償請求が必要?
仕事が原因で死亡してしまった場合、労災事故として認定されます。
労災保険は労働基準監督署宛てに申請して受給する保険金で、損害賠償請求するものではありません。
しかし、労災保険からの補償だけでなく、職場に対して損害賠償請求して賠償を受けるべき労災事故もあります。労災認定を受けることと、会社に損害賠償請求をすることは別です。
労災保険の給付だけでは不十分
労災保険からの給付は法令で定められた通りに支払われます。
給付は手厚いものですが、いいかえれば法令で定められている範囲でしか補償されません。
まず死亡事故に関する労災給付に含まれないものには、慰謝料があります。
慰謝料とは?
被害者が負った精神的損害の緩和を目的として支払われる金銭のこと
労災事故の死亡慰謝料相場は2,000万円~2,800万円程度とされていますが、労災認定を受けただけでは慰謝料は受けとれません。会社に損害賠償請求していく必要があります。
逸失利益にも注意したい
また、逸失利益という損害項目にも要注意です。逸失利益とは、死亡によって失われてしまった今後の経済的利益をいいます。
家計の中心を担っていたり、若くして亡くなってしまった方ほど、死亡逸失利益は高額になり数千万円にのぼることもあるのです。逸失利益の金額は個々に異なるため、正しい計算方法を知っておくことは重要になります。
死亡事故の逸失利益|計算方法と職業ごとの具体例、生活費控除とは?
会社の落ち度によって労災が起こる場合もある
労災事故は労働者自身のミスや、偶発的に起こってしまうもののほかに、会社の安全配慮義務違反により発生する場合があります。
安全配慮義務とは?
労働者が健康に、安全を脅かされることなく就労できるよう、会社が注意するべきという義務
イメージしやすいように、安全配慮義務違反の一例をあげてみます。
- 従来のマニュアルではなく簡素化した手順で作業するように命じられた。その結果、労災事故が発生してしまった。
- 長時間労働や職場の配置転換、厳しいノルマなどの心労が重なってうつ病を発症し、自死してしまった。
会社が安全配慮義務を果たさなかったために労災が起こった場合には、会社に対する損害賠償請求が認められるのです。安全配慮義務違反の有無を判断するポイントは関連記事を読めばわかります。
労災事故に関する損害賠償請求の進め方は?
会社に対する損害賠償請求の方法は複数ありますが、ここでは「示談」と「裁判」の2つに分けて説明します。
父の会社と話し合い示談による解決を目指す
示談とは、当事者同士の話し合いにより合意を結び、裁判外での解決を図ることをいいます。お互いがある程度譲歩をすることで、共に納得できる賠償内容を決めるものです。
示談交渉を円滑に進めるためには、次のようなポイントを押さえておきましょう。
示談交渉をうまく進めるには?
- 自身の損害を算定しておく
会社からの提示額を受け入れるのか判断するため - 資料や証拠を集めておく
自身の主張を相手に理解してもらうため - 感情的にならないように努める
話し合いが不要にこじれないようにするため
示談交渉は、裁判と比べて早期解決の見込みがあること、お互いにある程度納得感をもって解決できること、費用が安く済むといったメリットがあります。
そのため、いきなり裁判で損害賠償請求するのではなく示談交渉にて解決を目指すケースが多いです。
労災発生から示談までの流れを知り、もっと示談についてのイメージを掴みたい方は関連記事も読んでみてください。
父の会社を相手に裁判を起こす
示談交渉がうまくいかない場合には、会社を相手に民事訴訟(裁判)を起こすことも視野に入れねばなりません。
主張が認められれば損害賠償金を受けとれますが、もし会社側に責任がないと判断されれば一切の賠償金を得られない可能性もあります。
また、裁判は一度で終わるとは限りません。有利な判決となっても、会社が上訴した場合には判決は確定せず上級審で再度審理されます。こうなると判決が確定するまでに長期化してしまうでしょう。
弁護士による解決をおすすめする理由
示談交渉であっても、裁判で認められうる金額の請求は可能です。
ただし、会社側がすんなり受け入れてくれるとは限りません。適正な金額で示談するためにも、損害を正しく算定すること、証拠や資料を集めること、落ち着いて交渉することが重要なのです。
また、裁判では資料や証拠がより厳格に審査されるほか、書類作成などの事務手続きも増えます。会社側が弁護士を立ててくることも予想されるでしょう。
- 損害賠償請求におけるストレスや不安を軽くしたい
- 適正な金額の損害賠償金を請求したい
- 書類作成などの専門性の高い部分は任せたい
こんな方は弁護士への相談・依頼を検討していきましょう。
家族が知っておくべき損害賠償請求の基礎知識
家計を支えていたお父さんの労災は、家族にとって非常につらいものです。
ましてや労災の原因が会社にあるとすれば、適正な賠償をしてほしいというのも当然の感情でしょう。
ここからは家族が知っておくべき損害賠償請求の基本についてQ&A形式で解説していきます。
会社への損害賠償請求額はいくらぐらい?
労災での死亡事故の場合、慰謝料は2,000万円~2,800万円程度が相場です。金額は死亡したお父さんへの慰謝料と、残されたご家族への慰謝料で構成されています。
ただし、損害賠償請求すべき金銭は、慰謝料だけではありません。慰謝料以外にも死亡逸失利益など損害に応じた請求が必要です。
以下に会社の安全配慮義務違反が認められた裁判例を示します。
過重労働による不整脈・心停止による死亡
被害者は会社における長期間の過重労働により、不整脈による心停止を発症して死亡しました。遺族は会社らに対して、債務不履行による損害賠償請求の裁判を起こしたのです。(東京地方裁判所 平成29年(ワ)第29993号 損害賠償請求事件 令和3年4月28日)
裁判所は会社の安全配慮義務違反を認め、故人である父が一家の支柱として働いていたことから、死亡慰謝料として2,800万円を含む約5,180万円の損害賠償金を命じました。
裁判による賠償金額
損害費目 | 金額 |
---|---|
死亡慰謝料 | 2,800万円 |
死亡逸失利益 | 約2,700万円 |
葬儀費用 | 150万円 |
労災保険との調整による控除 | 約1,010万円 |
賠償金額※ | 約5,180万円 |
※弁護士費用などを反映した最終的な支払金額
賠償金の内訳は慰謝料以外にも逸失利益や葬儀費用など様々にあり、それらをひとつずつ算定することで適正な金額がわかります。そのためこれまでの裁判例は参考にはなりますが、全く同じ金額が認められるわけではないのです。
亡くなられた場合の慰謝料を含むトータルの賠償金の見積もりは、弁護士に任せることをおすすめします。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

父に労災発生の責任があると言われたら?
労災事故の損害賠償請求では、過失次第で賠償金が減額されてしまいます。
ただし、お父さんに何らかの落ち度があったとしても、それだけで損害賠償金が一切認められないと判断するのは早計です。
お父さんにミスがあったとしても、ミスが起こった理由を考えるべきでしょう。
そのミスの原因が会社の落ち度にあったなら、会社への損害賠償請求すべきです。
過失が損害賠償にどのような影響を与えるのかは、以下の関連記事でより詳しく解説中です。
労災で自分に過失があるときの損害賠償や労災保険は?過失相殺の有無を解説
下請け会社で働いていた父の損害賠償請求先は?
下請け会社の従業員が労災にあったときには、元請け会社への損害賠償請求が認められる場合があります。
ただし、原則として、元請け会社がかならず賠償責任を負うわけではありません。下請け会社の従業員が、事実上、元請け会社の指揮・監督下で働いていると判断されれば、元請け会社にも安全配慮義務が求められるのです。
建設・工事現場ではこうした下請け・元請けという関係性は珍しくありません。
誰に対して請求できるのか、元請け会社はどんな責任を負うのかを整理しておきましょう。
下請けの労災事故において元請け会社が負うべき責務や裁判例を紹介
長時間勤務の実態を会社が認めないときは?
損害賠償請求をするうえでは、会社側が長時間勤務の実態を把握していたのか、長時間勤務を減らすためにどんな対応を取っていたのかなどに注目すべきです。
長時間勤務に対して会社が適切な対応を取らなかったことは、安全配慮義務違反にあたる可能性があります。
会社側は「お父さんが希望して長時間勤務していた」「お父さんが隠れて長時間勤務をしていたから気づけなかった」「お父さんは自己判断で仕事を持ち帰っていた」などと説明するかもしれません。
しかし、会社に設置された防犯カメラの記録やPCの稼働状況、タイムカード、仕事の進捗などの証拠を十分に集めて、本当に会社に落ち度がなかったかは慎重に検討すべきです。
会社に落ち度があると認められた実際の裁判例も併せて確認しておくと、損害賠償請求の検討に役立つでしょう。
過労死の慰謝料相場は?損害賠償請求の根拠と訴訟事例や請求方法も紹介
労災保険金と損害賠償金は両方受けとれる?
労災保険金と損害賠償金の二重取りはできません。
たとえば労災保険から療養補償給付(いわゆる治療費)を受けている場合、会社から治療費を損害賠償金として受けとれない仕組みです。
ただし、労災保険から慰謝料(精神的損害)の給付はありませんので、慰謝料については会社から損害賠償金として受けとることができます。
遺族補償年金と逸失利益の調整
会社から死亡逸失利益を受けとる時は原則一括ですが、労災からは遺族補償年金という年金形式で給付を受けます。
そのため会社から死亡逸失利益を受けとったなら、労災保険からの遺族補償年金は一定の待機期間または給付停止期間を経てから受けとることになるでしょう。
労災と損害賠償請求の関係、保険金と賠償金の調整について理解を深めたい方は、関連記事も参考にしてください。
労災事故の原因が会社にあるのではないかと感じている方へ
労災認定を受けるだけでなく、会社に対する損害賠償請求が認められる労災があることを紹介してきました。
会社の安全配慮義務違反によって労災事故が起こってしまった方は法律相談で今後の見通しを立てることをおすすめします。
まずは無料相談を活用しませんか
労災事故は事故現場に家族が居合わせていないことも多いものです。
会社との話し合いを行い、必要な資料を集めることで、会社への損害賠償請求を検討していく必要があります。
労災事故によってお父上を亡くされた場合の会社への損害賠償請求について、アトム法律事務所では無料の法律相談をおこなっています。
- 会社から提示された示談金額に納得がいかない
- 会社との示談交渉が進まない
- 会社への裁判も視野に入れている
たとえば、こういったご家族のお悩みについて、アドバイスを受けられる可能性があります。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士


高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了