労災でもらえるお金|労災給付の一覧とその他にもらえる補償の可能性
労災を原因として労働者に損害が発生した場合は、損害を補てんするために労災保険の給付という形でお金がもらえます。労災保険の給付でもらえるお金は、労災によってどのような損害が生じたかによって異なります。
もっとも、労災保険の給付だけでは、発生した損害のすべてを補てんできるとは限りません。労災発生の原因によっては、労災給付の他にも補償が得られる可能性がないか確認しておく必要があります。
たとえば、事業主に安全配慮義務違反が認められる労災や、第三者の故意または過失が認められる労災では、損害賠償請求することでお金がもらえる可能性があるでしょう。
本記事では労災が発生した場合、どのような方法でどのようなお金をもらうことができるのか、「労災保険」と「損害賠償請求」という二つの視点からみていきたいと思います。
目次
労災でもらえるお金は「労災保険」または「損害賠償請求」から
労災保険からもらえるお金一覧
労災が発生した場合には、労災保険により給付を受けることができます。
労災保険の給付としてもらえるお金の内容は、以下の通りです。
労災給付 | 内容 |
---|---|
療養(補償)給付 | 診察・投薬・処置・手術など、治療費用への給付 |
休業(補償)給付 | 労災によって仕事ができなくなったことによって生じる損害に対する給付 |
傷病(補償)年金 | 治療開始から1年6ヶ月経っても治らず、傷病等級が1~3級に該当する場合の給付 |
障害(補償)給付 | 治療しても体に障害が残った場合になされる年金や一時金の給付 |
介護(補償)給付 | 労災による後遺障害で、常時又は随時介護が必要な場合にかかる介護費用に対する給付 |
遺族(補償)給付 | 労災で労働者が死亡した場合に遺族に対してなされる給付 |
葬祭料(葬祭給付) | 労働者が死亡した場合の葬儀費用 |
労災保険の給付内容ごとに労働基準監督署への申請手続きを行うことで、給付を得ることができます。
労災保険に関する基本的な解説や、よくある質問については関連記事『労働災害保険とは?給付の仕組み・内容とQ&A集』をご確認ください。
年金形式の労災給付もある
死亡した場合、後遺障害等級1級~7級に認定された場合、重大な傷病を被った場合には、年金形式で労災保険の給付を受け取ることができます。
年金形式で労災給付を受け取っている場合、労働基準監督署に対して年に一度の定期報告が必要です。
また、年金の受給要件は細かく決まっているので、こちらの関連記事『労災年金の金額・要件と申請期限・給付期間|厚生年金と両方受け取れる?』の内容もあわせてご覧ください。
損害賠償請求からもらえるお金一覧
労災の発生の原因が事業主の安全配慮義務違反や、第三者の故意または過失による場合には、労災によって生じた損害について事業主や第三者に損害賠償請求を行うことが可能です。
損害賠償請求によってもらえるお金の内容は、以下の通りになります。
損害賠償請求 | 内容 |
---|---|
治療費 | 治療のために必要となった費用 |
入通院交通費 | 入院や通院するために発生した交通費 |
入通院付添費用 | 入院中の生活や通院する際に付添が必要な場合に発生する費用 |
入院雑費 | 入院中の生活用品や通信費用などをいう |
休業損害 | 怪我の治療のために働けないことで生じる損害 |
逸失利益 | 後遺障害が生じた、または、死亡したことで将来得られるはずの収入がられなくなったという損害 |
葬儀費用 | 被害者の葬儀を行うために必要な費用 |
慰謝料 | 被害者に生じた精神的苦痛を金銭化したもの |
修理費用など | 物損に関する費用 |
請求可能な内容を合計した金額を、事業主や第三者に損害賠償請求しましょう。
事業主や第三者に損害賠償請求する場合、まずはじめに選ばれる方法が「示談交渉」です。
示談交渉とは、労働者と事業主や第三者が損害賠償に関する話し合いを行い、争いごとを解決しようとすることをいいます。
労災が発生した場合の示談交渉による解決までの流れを詳しく知りたい方は、関連記事『労災事故の示談交渉を進める流れとコツ|示談交渉すべき労災とは?』をご確認ください。
注意|労災保険と損害賠償請求は支給調整される
労災保険により既に給付を受けている部分は、二重取りを防止するために損害賠償請求を行うことができないことに注意してください。
そもそも、損害賠償とは損害を与えてきた相手に対して、損害に対する補償を求めることです。労災保険と損害賠償請求どちらからも補償内容が同一のお金を受け取ってしまうと、損害に対する補償を超えて利益が生まれてしまいます。
補償内容が同一の場合、労災保険と損害賠償請求の間で支給調整が行われます。支給調整の方法は、「控除」と「求償」の2つです。
支給調整が行われるのは、あくまで補償内容が同一の場合のみです。労災保険と損害賠償のどちらか一方しか請求できないという意味ではありません。
二重取りにならない範囲で、労災保険と損害賠償請求をうまく組み合わせれば、最大限の補償を手にすることができるのです。
支給調整の方法についてさらに詳しくは、関連記事『労災の損害賠償算定と請求方法!労災と民事損害賠償は調整される』で解説しています。どのような労災なら損害賠償請求ができるのかといった基本的な内容から、労災保険を受給していても損害賠償請求すべき理由などについても解説していますので、より理解が深まるでしょう。
「労災保険」からもらえるお金の詳細
怪我の治療費用に関してもらえるお金
労災が原因で怪我を負った場合の治療費用は、労災保険の療養補償給付または療養給付によって補償されます。
補償される範囲は、治療のために必要であったといえる治療費、入院費、交通費などです。
給付を得るための手続きは、労災指定病院で治療を受けたかどうかにより異なります。
労災指定病院で治療を受けた場合は、労働者が治療費を負担する必要がなく、治療を受けた病院に必要な書類を提出すると、病院が給付を受けることになります。
一方、労災指定ではない病院で治療を受けた場合には、労働者が治療費を一旦負担し、労働基準監督署へ必要な書類提出することで、負担した費用の支払いを受けることが可能となるのです。
労災の場合は健康保険を利用できないため、全額負担となることに注意してください。
労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説
仕事を休んだためにもらえるお金
労災によって仕事を休んだために生じる損害については、休業補償給付または休業給付によって補償されます。
休業した日ごとに、給料を日額化した金額のおよそ80%の額が支払われることになるのです。
ただし、休業を始めてから3日間は給付の対象となりません。
もっとも、業務災害によって休業となった場合には、休業を始めてから3日間の部分についても会社から休業による補償を受けることが可能です。
労災における休業補償の計算方法は?給付条件・期間・申請手続きを解説
怪我が完治しない場合にもらえるお金
労災により生じた怪我を治療しても完治しない場合には、後遺症が残ることがあります。
この後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定がなされた場合には、障害補償給付または障害給付を受けることが可能となるのです。
給付の内容は、障害に程度に応じて認定される等級によって異なります。等級が重い場合には年金として毎年一定の金額が支給され、等級が軽い場合には一時金の支払いとなります。
給付を受けるためには、労働基準監督署に後遺障害が発生していることを証明する書類を提出し、労働基準監督署による後遺障害等級認定を受けることが必要になるのです。
適切な後遺障害等級認定を受けるためには専門知識が欠かせないため、専門家である弁護士に相談するとよいでしょう。
労災の後遺障害とは?障害等級の認定基準と金額早見表、給付の流れ
介護が必要になった場合にもらえるお金
労災が原因で怪我を負い、介護が必要になった場合の介護費用は、労災保険の介護補償給付または介護給付によって補償されます。
給付の内容は、被災した労働者が常時介護の状態か、随時介護の状態かで異なります。
また、要介護状態になった場合は、労災保険とあわせて介護保険も併用することができます。ただし、労災保険と介護保険が重複しない範囲で利用できるという意味なので注意してください。
労災と介護保険は併用できない?介護補償給付との給付調整も解説
死亡した場合にもらえるお金
労災が原因で死亡した場合、労災保険の遺族補償給付または遺族給付によって補償されます。
事故前3ヶ月の賃金から割り出した日額と、事故前1年間の特別給与から割り出した日額から給付の金額は決まります。労災保険の請求人は、亡くなった労働者の遺族です。
さらに、葬儀費用として、労災保険の葬祭料または葬祭給付も補償として受け取ることができます。
労災事故で死亡…労災の申請方法と遺族補償給付額|慰謝料は請求できる?
こんな場合も労災保険からお金がもらえる?
退職しても労災保険でお金がもらえる?
労災保険は労働者を対象としている保険であることから、退職により労働者でなくなると、労災保険からお金がもらえなくなると考えている方は多いのではないでしょうか。
実際には、退職しても労災保険からお金をもらうことが可能です。退職したことでもらえるお金が減額することもありません。
また、退職前に労災保険からお金をもらっていなくても、退職後に労災保険給付の申請を行うことでお金をもらうこともできます。
しかし、退職後に労災保険に関する申請を行う場合には、働いていた時のように会社の協力が得られず、自力で行う必要もあるでしょう。
会社が労災保険未加入でもお金がもらえる?
労働者を雇用している会社は、基本的に労災保険に加入する義務があります。
しかし、労災保険金を支払いたくないために会社が労災保険に未加入なケースがあるのです。
もっとも、会社が労災保険に未加入であっても労働者は労災保険からお金をもらうことができます。
この場合には、会社の協力が期待でないため、労働者が自力で労災保険給付の手続きを行う必要があるでしょう。
一方、労災保険が未加入である会社には、未払い保険料の徴収や、労災保険給付のために生じた費用の全部または一部を収めるといった処置がなされるのです。
会社が労災保険に未加入の場合における対処法!個人事業主の特別加入とは
労災保険でもらえるお金が打ち切られるケース
労災保険からもらえるお金については、給付の打ち切りによりもらえなくなります。
怪我が完治したり、治療の効果が望めなくなったという症状固定の状態になったと判断されれば、療養補償給付・療養給付の支給が打ち切りとなるでしょう。
また、傷病等級や障害等級に該当する症状が発生しなくなった場合には、傷病補償年金・傷病年金および障害補償給付・障害給付の支給は打ち切りとなるのです。
以上のような労災保険の打ち切りに対して不服がある場合は、審査請求を行うことができます。
労災保険が打ち切りになるケースとは?2つの対応策とともに解説!
「損害賠償請求」からもらえるお金の詳細
精神的苦痛に対してもらえるお金(慰謝料)
労災によって怪我を負ったことにより生じる精神的苦痛に対しては、慰謝料を請求することができます。
しかし、労災保険では慰謝料は給付対象外であるため、損害賠償請求によって支払いを求めることが必要です。
労災が発生した場合に請求できる慰謝料は、以下の3種類となります。
- 入通院慰謝料
怪我の治療をするために入院や通院を行ったことで生じる慰謝料
入通院の期間に応じて金額が異なる - 後遺障害慰謝料
労働者に後遺症が残り、後遺症の症状が後遺障害に該当する場合に生じる慰謝料
認定される後遺障害等級に応じて金額が異なる - 死亡慰謝料
労働者が死亡した場合に生じる慰謝料
労働者の家庭における立場に応じて金額が異なる
入通院慰謝料は後遺障害慰謝料や死亡慰謝料と同時に請求することができますが、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料は同時に請求することはできません。
仕事を休んだことでもらえるお金
労災による怪我が原因で仕事を休んだために損害が生じた場合には、休業損害の請求を行うことが可能です。
労災保険でも休業補償給付または休業給付として同様の請求が可能ですが、休業損害では休業開始から請求を行うことが可能であり、給料を日額化した金額の100%分を請求することができるという違いがあります。
そのため、休業に関する損害全額について請求したいのであれば、休業損害の請求を行うことが欠かせません。
労災で休業損害が請求できる場面とは?休業補償との違いがわかる
将来の収入が減少したことでもらえるお金
労災によって生じた怪我を治療しても完治せず、後遺症が残ることがあります。
後遺症の症状が後遺障害に該当し、後遺障害の症状が原因で以前のように働けない場合は、本来得られたはずの収入が得られなくなるという損害が発生するのです。
このような損害を逸失利益といい、後遺障害が生じたと認定された場合に請求することが可能となります。
しかし、将来の収入や働ける年齢を予想したうえで請求金額を計算する必要があるため、金額の算定が難しいことに注意してください。
適切な金額を請求したい場合には、専門家である弁護士に相談するべきでしょう。
損害賠償請求が可能になるのはどういう労災の場合?
安全配慮義務違反があった労災か確認しよう
労災の発生が事業主の安全配慮義務違反による場合には、事業主への損害賠償請求を行うことが可能です。
安全配慮義務とは、雇用関係にある労働者の生命や身体への損害が生じないように、事業主が安全な職場環境を整えるというものになります。
そのため、事業主は危険発生が予想できる業務行為により労働者に損害が生じないよう、適切な危険防止措置をとるという義務があるのです。
このような義務に違反したことが原因で労災による損害が生じた場合は、安全配慮義務違反があるとして、事業主への損害賠償請求が可能となります。
第三者の故意または過失があった労災か確認しよう
労災の発生が第三者の故意または過失による場合には、第三者への損害賠償請求を行うことが可能です。
労災事故では、過失について争われることが多いので、過失について考えておきましょう。過失とは、どのような結果に結びつくか認識しておらず不注意でミスが生じることをいいます。
ここで注意しておきたいのが「過失割合」についてです。過失割合とは、事故が発生した原因の度合いを数字で表したものになります。労働者に過失がない事故であれば損害のすべてを請求する権利がありますが、労働者にも過失が認められると損害のすべてを請求することはできません。
安全配慮義務違反があった労災の場合も同様ですが、損害賠償請求する場合は労働者自身にも過失が認められてしまうと損害賠償請求できるお金が減額されてしまいます。損害賠償金を過失割合に応じて減額することを過失相殺といいます。
損害賠償額が左右される過失割合について認識しておく必要があるでしょう。
もっとも、労働者自身に過失が認められても、労災給付に関しては満額支給されるので安心してください。
労働者にも過失があった事例については、関連記事『労災で自分に過失があるときの損害賠償や労災保険は?過失相殺の有無を解説』をご覧ください。
損害賠償請求を検討しているなら弁護士にご相談ください
労災が発生した場合には、労災保険給付や損害賠償請求を行うことで発生した損害を補てんするために必要なお金をもらうことが可能となります。
発生した損害の内容に応じたお金がもらえるよう、適切な方法により請求を行うことが必要となるでしょう。
そのため、どのように請求を行えば十分なお金がもらえるようになるのかについて、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
労災事故でご家族を亡くされたり、重篤な後遺障害を負ったりして、事業主などに対して損害賠償請求をご検討の場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了