労災の後遺障害等級|認定基準と障害(補償)給付の金額早見表
労働災害で後遺障害が残ったら、労災の申請をすることで労災保険から給付金を受け取ることができます。もっとも、給付金を受け取るには、障害等級の認定を受けていることが前提です。
労災の障害等級における認定基準、後遺障害が認定されたらもらえる給付金の金額、後遺障害が認定されるためのポイントなどをわかりやすく解説しています。
目次
労災による後遺障害の障害等級表
後遺障害とは、労働災害で負った怪我が治りきらず、何らかの症状が残ってしまった状態をいいます。
後遺障害は症状の程度に応じて14段階で区分されており、症状の程度が最も重いものが障害等級1級、最も軽いものが障害等級14級となります。
もっとも、「後遺障害」として扱われるためには、労働災害によって残った症状が障害等級として認定されなければなりません。
障害等級表と認定基準
後遺障害として認定されるための基準を障害等級表で確認してみましょう。
認定基準 | |
---|---|
1級 | 両眼が失明したもの そしやく及び言語の機能を廃したもの 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 両上肢をひじ関節以上で失つたもの 両上肢の用を全廃したもの 両下肢をひざ関節以上で失つたもの 両下肢の用を全廃したもの |
2級 | 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 両上肢を手関節以上で失つたもの 両下肢を足関節以上で失つたもの |
3級 | 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの そしやく又は言語の機能を廃したもの 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 両手の手指の全部を失つたもの |
4級 | 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの そしやく及び言語の機能に著しい障害を残すもの 両耳の聴力を全く失つたもの 一上肢をひじ関節以上で失つたもの 一下肢をひざ関節以上で失つたもの 両手の手指の全部の用を廃したもの 両足をリスフラン関節以上で失つたもの |
5級 | 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 一上肢を手関節以上で失つたもの 一下肢を足関節以上で失つたもの 一上肢の用を全廃したもの 一下肢の用を全廃したもの 両足の足指の全部を失つたもの |
6級 | 両眼の視力が〇・一以下になつたもの そしやく又は言語の機能に著しい障害を残すもの 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの せき柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 一手の五の手指又は母指を含み四の手指を失つたもの |
7級 | 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指を失つたもの 一手の五の手指又は母指を含み四の手指の用を廃したもの 一足をリスフラン関節以上で失つたもの 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの両足の足指の全部の用を廃したもの 外貌に著しい醜状を残すもの 両側のこう丸を失つたもの |
8級 | 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの せき柱に運動障害を残すもの 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指を失つたもの 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指の用を廃したもの 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 一上肢に偽関節を残すもの 一下肢に偽関節を残すもの 一足の足指の全部を失つたもの |
9級 | 両眼の視力が〇・六以下になつたもの 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの そしやく及び言語の機能に障害を残すもの 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 一耳の聴力を全く失つたもの 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 一手の母指又は母指以外の二の手指を失つたもの 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの 一足の足指の全部の用を廃したもの 外貌に相当程度の醜状を残すもの 生殖器に著しい障害を残すもの |
10級 | 一眼の視力が〇・一以下になつたもの 正面視で複視を残すもの そしやく又は言語の機能に障害を残すもの 十四歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
11級 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 十歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの せき柱に変形を残すもの 一手の示指、中指又は環指を失つたもの 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
12級 | 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 七歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 一耳の耳かくの大部分を欠損したもの 鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 長管骨に変形を残すもの 一手の小指を失つたもの 一手の示指、中指又は環指の用を廃したもの 一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの 局部にがん固な神経症状を残すもの 外貌に醜状を残すもの |
13級 | 一眼の視力が〇・六以下になつたもの 一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 正面視以外で複視を残すもの 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 五歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの 一手の小指の用を廃したもの 一手の母指の指骨の一部を失つたもの 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの |
14級 | 一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの 三歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 一手の母指以外の手指の指骨の一部を失つたもの 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 局部に神経症状を残すもの |
出典:厚生労働省「労働者災害補償保険法施行規則 別表第一 障害等級表」
2つ以上の後遺障害が残ったら併合される
労災で2つ以上の後遺障害が残った場合、障害等級は併合または併合繰り上げが行われます。
併合
同一の労働災害で障害等級14級とそれ以外の後遺障害が残った場合、重い方の等級をとることをいいます。
(例)
障害等級14級と8級の後遺障害が残った場合、重い方の等級である8級を障害等級とします。
併合繰り上げ
同一の労働災害で障害等級13級以上の後遺障害が2つ以上残った場合、最も重い等級が1から3つ上の級に繰り上がることをいいます。
14級については等級の繰り上げは起こりません。
併合繰り上げのルール
- 障害等級5級以上の後遺障害が2つ以上なら、重い方の等級が3つ繰り上がる
- 障害等級8級以上の後遺障害が2つ以上なら、重い方の等級が2つ繰り上がる
- 障害等級13級以上の後遺障害が2つ以上なら、重い方の等級が1つ繰り上がる
(例1)
障害等級5級と4級の後遺障害が残った場合、重い方の等級である4級が3つ繰り上がるので、障害等級は1級となります。
(例2)
障害等級8級と7級の後遺障害が残った場合、重い方の等級である7級が2つ繰り上がるので、障害等級は5級となります。
(例3)
障害等級13級と5級の後遺障害が残った場合、重い方の等級である5級が1つ繰り上がるので、障害等級は4級となります。
後遺障害等級ごとにもらえる障害(補償)給付の金額
後遺障害等級ごとに支給内容が異なる
労働災害で怪我をしたり後遺障害が残った場合、労災保険からもらえる支給内容は、主に療養・休業・傷病・障害・介護に関するものに分けられます。
労働災害は業務災害と通勤災害が代表的なものとしてあげられるのですが、それぞれ支給される項目の名称は異なります。ただし、名称は異なっても補償の目的は同じです。
業務災害 | 通勤災害 | |
---|---|---|
療養に関するもの | 療養補償給付 | 療養給付 |
休業に関するもの | 休業補償給付 | 休業給付 |
傷病に関するもの | 傷病補償給付 | 傷病給付 |
障害に関するもの | 障害補償給付 | 障害給付 |
介護に関するもの | 介護補償給付 | 介護給付 |
労災からもらえる主な支給内容の中でも特に、後遺障害が残った場合にもらえる障害補償給付や障害給付については、障害等級に応じて給付方法や金額が異なります。
障害等級1~7級の場合と障害等級8~14級の場合で支給される名称が違いますので確認しておきましょう。
- 業務災害:障害補償年金
- 通勤災害:障害年金
- 共通 :障害特別支給金、障害特別年金
- 業務災害:障害補償一時金
- 通勤災害:障害一時金
- 共通 :障害特別支給金、障害特別一時金
障害等級1~7級と障害等級8~14級との大きな違いは、「年金形式」か「一時金形式」かという点です。
年金形式は、支給要件に該当する月の翌月分からが対象となり、毎年偶数月に2ヶ月分ずつ死亡するまで年金が支払われます。
一時金形式は、決められた金額が一回きりで支払われるものです。
障害特別支給金に関しては、障害等級に関わらず一時金形式で受け取ることになります。
支給金額早見表を確認する前に必要な知識
支給金額早見表を確認する前に、「給付基礎日額」と「算定基礎日額」について知っておく必要があります。これら日額の割り出し方を知っておけば、早見表を確認する時も理解がスムーズになるでしょう。
給付基礎日額とは
障害等級1~7級の場合の障害補償年金・障害年金、障害等級8~14級の場合の障害補償一時金・障害一時金は、「給付基礎日額」を用いて計算します。
給付基礎日額は、「労働基準法の平均賃金に相当する額」が原則です。
もう少し具体的にいうと、労災事故が発生した日や労災による疾病の発生が確定した日の直前3ヶ月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額をいいます。
ただし、ボーナスや臨時で支払われる賃金は含まれません。
たとえば、毎月の賃金が30万円で、労働災害が4月に発生した場合、給付算定日額は以下のように計算します。暦日数は、1月が31日、2月が28日、3月が31日の90日間とします。
- (30万円×3ヶ月)÷90日間=1万円
算定基礎日額とは
障害等級1~7級の場合の障害特別年金、障害等級8~14級の場合の障害特別一時金は、「算定基礎日額」を用いて計算します。
算定基礎日額は、「特別給与の総額を365で割った額」が原則です。
もう少し具体的にいうと、労災事故が発生した日や労災による疾病の発生が確定した日以前1年間の特別給与の総額を365で割った額をいいます。
特別給与の総額は、給付基礎日額の算定で除外されたボーナスなど3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金のことです。そのため、臨時で支払われた賃金は特別給与に含まれません。
障害等級1~7級の支給金額早見表
障害等級1~7級の場合の支払い基準は、以下の早見表の通りです。
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の313日分 |
障害特別支給金 | 342万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の313日分 |
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の277日分 |
障害特別支給金 | 320万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の277日分 |
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の245日分 |
障害特別支給金 | 300万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の245日分 |
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の213日分 |
障害特別支給金 | 264万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の213日分 |
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の184日分 |
障害特別支給金 | 225万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の184日分 |
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の156日分 |
障害特別支給金 | 192万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の156日分 |
障害補償年金 障害年金 | 給付基礎日額の131日分 |
障害特別支給金 | 159万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の131日分 |
障害等級8~14級の支給金額早見表
障害等級8~14級の場合の支払い基準は、以下の早見表の通りです。
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の503日分 |
障害特別支給金 | 65万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の503日分 |
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の391日分 |
障害特別支給金 | 50万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の391日分 |
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の302日分 |
障害特別支給金 | 39万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の302日分 |
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の223日分 |
障害特別支給金 | 29万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の223日分 |
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の156日分 |
障害特別支給金 | 20万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の156日分 |
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の101日分 |
障害特別支給金 | 14万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の101日分 |
障害補償一時金 障害一時金 | 給付基礎日額の56日分 |
障害特別支給金 | 8万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の56日分 |
年金を受給する際の注意点
障害等級1~7級で年金給付を受ける場合は年に一回、定期報告書を提出しなければなりません。定期報告書とは、労災の受給要件を確認する書類です。
定期報告書は、被災者の生年月日に応じて提出日が決まっています。
- 生年月日が1~6月の場合:毎年5月31日まで
- 生年月日が7~12月の場合:毎年10月31日まで
定期報告書を提出しないと、定期報告書を提出するように督促を受けます。この督促も無視して定期報告書を提出しないと、年金の支給が差し止められます。
忘れず提出するようにしてください。
症状が再発したり悪化した時の年金
定期報告書で、症状が再発したり悪化したりする場合、障害等級が変更される可能性があります。
反対に、症状が軽快した場合も同様に、障害等級が変更される可能性もあります。
労災で後遺障害等級が認定されるまでの流れ
障害補償給付や障害給付を受け取るためには、後遺障害認定される必要があります。認定を受けるまでの流れを簡単にみていきましょう。
(1)医師による症状固定の診断
医師が症状固定の診断をしたら、後遺障害の申請が可能になります。
症状固定とは?
症状固定とは治療をこれ以上つづけても、症状の大幅な改善が認められなくなった状態のこと
労災保険上、症状固定のことは「治癒」ともいいます。症状固定となると、これまで労災保険から受けていた療養補償給付や休業補償給付は給付されなくなり、かわりに後遺障害の申請を始める段階となるのです。
症状固定についてさらに詳しくは、こちらの関連記事『労災の症状固定とは?症状固定で変わることと後遺障害認定|再発時の対応も解説』をご覧ください。
ちなみに、労災保険を利用する場合、労災保険指定医療機関を受診すれば、本人が療養費を支払う必要はありません。労災保険指定医療機関以外の病院を利用した場合、本人が療養費を立て替える必要があるので注意が必要です。
(2)後遺障害診断書と請求書を準備して提出
症状固定の診断が出たら、後遺障害診断書や請求書を準備します。
まず、後遺障害診断書の作成は医師に依頼します。
労災に申請する場合は、労災指定の後遺障害診断書の書式を使用しなければなりません。後遺障害診断書のほか、レントゲン写真や検査結果などの資料も収集しましょう。
請求に際して必要となる診断書の発行に必要な費用としては、労災保険から4000円まで支給されます。4000円を超える部分は自己負担することになるので注意が必要です。
診断書の費用について詳しくは、こちらの関連記事『労災申請に必要な診断書の費用は誰が負担する?自己負担の可能性は?』もあわせてご確認ください。
つづいて、事業主の証明を受けた請求書を用意しましょう。請求書には基本的に事業主の証明が必要になります。
申請に必要な請求書は、厚生労働省のホームページ「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」または労働基準監督署で入手することができます。
労災保険の申請自体は、本来、被災者やその家族が行うことになりますが、事業主が手続きを代理することもあります。労働災害にあったら、会社の労災担当者に相談してみましょう。
もっとも、事業主が証明に協力してくれない場合、事業主の証明がない請求書を提出するしかありません。
この場合、労働基準監督署に対して、会社に労災の証明がもらえなかった事情などを記載した文書をあわせて提出すれば受理してもらえるでしょう。
決まった書式はないので、書き方に困ったら労働基準監督署に相談することをおすすめします。
請求書の提出先は、請求したい給付の種類ごとに異なるので注意しましょう。
給付の種類 | 提出先 |
---|---|
療養補償給付 療養給付 | 労災保険指定医療機関 :病院や薬局等を経て所轄の労働基準監督署長 労災保険指定医療機関以外 :所轄の労働基準監督署長 |
休業補償給付 休業給付 | 所轄の労働基準監督署長 |
障害補償給付 障害給付 | 所轄の労働基準監督署長 |
介護補償給付 介護給付 | 所轄の労働基準監督署長 |
(3)労働基準監督署の審査と面談
労働基準監督署によって面談による審査がおこなわれます。
診断書やレントゲン写真といった資料だけでは分からない症状を、面談では直接伝えることが可能です。面談の当日に慌てないよう、症状が的確に伝えられるよう事前に準備しておきましょう。
もっとも、事前の準備といってもむずかしく考える必要はありません。
たとえば、「どんな時に症状を感じますか?」というような質問が来た場合、「動いたら痛い」という表現よりも、「椅子から立ち上がる時に痛い」と表現した方が症状が相手に伝わりやすいでしょう。
このように具体的なシチュエーションを添えて伝えることも大事だといえます。
(4)認定結果の通知書が届く
面談から数ヶ月経つと、認定結果の通知書が届きます。労災保険における後遺障害の審査は3ヶ月程度になることが多いといわれています。3ヶ月程度というのはあくまで目安であり、場合によっては3ヶ月以上、審査に時間がかかることもあるでしょう。
無事に認定を受けられれば、給付金が指定の口座に振り込まれます。
認定されなければ、不支給決定通知が届きます。
労災の後遺障害等級認定で知っておきたいポイント
後遺障害等級の認定では後遺障害診断書が重要
後遺障害の認定では面談による審査がおこなわれることは先述しましたが、面談の前に提出する医師による診断書の記載が充実していることも前提としておさえておきたいポイントです。
医師は治療のプロではありますが、後遺障害が認定されるための診断書を作成するプロとはいえません。
たとえば、肩関節を骨折して曲げにくくなる可動域制限が残ったにもかかわらず、診断書に可動域制限が記載されていなかったとします。
これでは後遺障害の認定条件が十分に記載された診断書とはいえません。
後遺障害の認定条件を満たした診断書となっていることが大切なのです。
後遺障害等級認定のために行うべきことをより詳しく知りたい方は『労災による後遺症が後遺障害として認定される方法と給付内容を解説』の記事をご覧ください。
後遺障害等級の認定結果が不服なら審査の請求を申し立てる
後遺障害が非該当だったり、認定を受けた等級が想定していたよりも低くて納得いかないような場合、再び審査してもらえるように不服申立てを行うことができます。
審査請求
審査請求は、労働者災害補償保険審査官に対して行います。労働者災害補償保険審査官は、労災保険の請求に対して決定をおこなった労働基準監督署がある各都道府県の労働局に置かれています。
審査請求は、口頭・書面・電子申請で行うことができます。審査請求ができるのは、労災保険の請求を行って、後遺障害の認定結果を知ってから3ヶ月以内です。
審査官が審査請求を受けると、審査請求の審理を開始します。
審査官が審査請求を棄却したことに不服がある場合、再審査請求または処分取消請求訴訟へと進みます。
再審査請求または行政訴訟(処分取消請求訴訟)
再審査請求は、労働保険審査会に対して書面を提出して行います。審査会の裁決が出るまで通常、半年から1年程度の期間を要する点を留意しておきましょう。
また、再審査請求でなく行政訴訟である処分取消請求訴訟を提起することもできます。
傷病補償給付・傷病給付は受け取れなくなる
労災保険で後遺障害が認定されると、二重取りできない給付があるので注意しましょう。
二重取りできない給付
- 業務災害の場合:傷病補償給付と障害補償給付
- 通勤災害の場合:傷病給付と障害給付
傷病補償給付・傷病給付とは、治療開始から1年6ヶ月経っても治らず傷病等級が1~3級に該当する場合にもらえる給付です。
傷病補償給付・傷病給付を受け取っており、症状固定となって後遺障害が認定されると、障害補償給付・障害給付へ切り替わります。
後遺障害認定されるだけでは慰謝料はもらえない?
労働災害によってケガを負ったり後遺障害が残ったら、労災保険から給付が受けられます。しかし、労災保険だけでは損害を十分にカバーできないこともあります。
労災保険だけでは損害を十分にカバーできないものの代表格としてあげられるのが「慰謝料」です。
慰謝料は会社や第三者に損害賠償請求する必要がある
労災保険の給付は法律で上限が決められているため、実際の損害と比べると労災保険で足りない損害があることもあります。
また、労災保険で給付される項目の中に、慰謝料は含まれていません。
後遺障害が残るようなケースでは、後遺障害が残る原因となった相手に対して慰謝料などを損害賠償請求できるのですが、労災保険の申請とは別に行う必要があります。
このように労災保険で足りない損害や、そもそも労災保険から支払われない慰謝料などの損害に関しては、労働災害が生じた原因となったものに対して損害賠償請求が可能になります。
労災で損害賠償請求する相手としては、主に会社や第三者が考えられるでしょう。
どのようなケースなら損害賠償請求できるのか
労働災害のすべてのケースで、損害賠償請求が認められる訳ではありません。
安全配慮義務違反など会社の落ち度が認められるケースや交通事故のケースで、損害賠償請求できる可能性があるのです。
会社の落ち度が認められるケースであれば会社に対して損害賠償請求ができ、交通事故のような第三者によって労働災害が起きた場合はその第三者に対して損害賠償請求ができます。
安全配慮義務違反の関連記事
労災により後遺障害が生じたら弁護士に相談しよう
労災保険の申請だけでは不十分なので、損害賠償請求を検討した方がいいこともあるとはいっても、ご自身だけではどのような損害が不足しているのか、どのくらいの慰謝料がもらえるのかわからないことも多いと思います。
損害賠償請求で適切な補償を獲得するためには、弁護士に一度、相談することをおすすめします。
労災により後遺障害が生じた場合には専門家である弁護士に相談し、アドバイスを受けるべきでしょう。本来、得られるはずの慰謝料の請求が行えるようになります。
後遺障害が生じた場合には大金を請求できる可能性があることからも、弁護士に相談するメリットは大きいです。
後遺障害による症状により体の自由が効かなくなってしまった方にとっては、損害賠償請求を行うための手続きを弁護士が代わりに行ってくれるので、大きなメリットとなるでしょう。
弁護士に相談・依頼するメリットや、弁護士の探し方などについて詳しく知りたい方は『労働災害は弁護士に法律相談|無料相談窓口と労災に強い弁護士の探し方』の記事をご覧ください。
弁護士に相談するのであれば、費用の負担が生じな無料の法律相談を受けると良いでしょう。
アトム法律事務所の法律相談窓口
労災によって重篤な後遺障害が生じ、会社などに対して損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料法律相談をご活用ください。
まずは、法律相談の予約をお取りいただくところからお願いしています。法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、いつでもご連絡可能です。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
まとめ
- 労災の後遺障害は、障害等級1級~14級までの14段階で障害が区分されている
- 後遺障害の障害等級に応じて支給される内容や金額は異なる
- 労災で後遺障害の申請をするにはまず医師による症状固定の診断を受ける
- 労災の後遺障害の審査は面談が原則
- 労災保険からは慰謝料が支払われないので、労働災害が起きた原因のものに損害賠償請求する必要がある
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了