労災の後遺障害慰謝料の相場と請求方法|自賠責との併用や労災先行の意味
更新日:
労災事故によって後遺障害が残った場合、労災保険から障害(補償)給付を受けることができます。
しかし、労災保険からの補償には慰謝料が含まれていないため、事故の責任が会社や第三者にある場合には、別途損害賠償請求によって後遺障害慰謝料を請求せねばなりません。
後遺障害慰謝料は、労災保険の補償範囲外であり、損害賠償請求によって獲得することが可能です。
後遺障害慰謝料の金額は後遺障害等級ごとに異なり、一般的には110万円から2,800万円の範囲で設定されています。
この記事では後遺障害等級ごとの慰謝料相場と計算方法のほか、後遺障害等級の決まり方、慰謝料請求の流れを解説します。
労災が交通事故であり、後遺障害について労災保険を先行させるのか、労災先行した場合の流れを知りたい方にとっても役立つ内容になっています。
目次
労災で後遺障害が残った場合の慰謝料相場
後遺障害慰謝料の相場額
労災事故の後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて、110万円から2,800万円と相場があります。後遺障害14級であれば110万円、1級であれば2,800万円です。
後遺障害等級ごとの具体的な相場額を下表に示します。
等級 | 慰謝料相場額 |
---|---|
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
以上のように慰謝料の金額は後遺障害等級によって大きく異なることになります。後遺症の症状に見合った適切な等級で認定を受けることがポイントです。
入通院慰謝料の請求もできる
後遺障害慰謝料の請求だけでなく、入通院慰謝料についても法的に正当な金額の請求を目指しましょう。
後遺障害慰謝料が治療後にも残る後遺症への慰謝料である一方、治療中の精神的苦痛を緩和するための金銭には入通院慰謝料があります。
入通院慰謝料の計算方法は、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」の算定表が参考になります。たとえば骨折や入院を伴うようなケガでは、以下の「重傷の慰謝料算定表」を用いて算定するのです。
入通院慰謝料は入院期間・通院期間に応じておおよその相場がある一方で、相手方が相場額での支払いを提示してくるとは限りません。
適正な金額を知り、不当に低い内容で示談しないように注意しましょう。
労災事故の慰謝料相場や計算方法については関連記事をお読みください。
慰謝料の関連記事
後遺障害慰謝料を請求できる労災事故とは?
加害者や会社に対して常に慰謝料を請求できるわけではありません。
労災事故のなかでも、会社の安全配慮義務違反があるもの、第三者の故意や過失による行為が原因であるものであれば、慰謝料請求が認められる可能性があります。
労災事故の発生原因
- 会社の安全配慮義務違反がある
- 第三者の故意や過失による行為が原因である
会社の安全配慮義務違反とは、労働者が安全に働けるような環境をつくるという義務を怠ることです。
危険な仕事なのに命綱を用意しない、安全性を度外視したマニュアルを強制するなど、会社として当然守るべき義務が果たされていないときは義務違反に当たる可能性があります。
第三者の故意や過失による行為が原因であるときとは、業務中や通勤途中の交通事故、業務中に第三者の不法行為でケガをしてしまうことなどを想像してみてください。
ただし労災事故で損害賠償請求できるかどうかという判断は個人には難しい部分があります。法律の専門家である弁護士に見解を聞いてみることをおすすめします。
安全配慮義務違反に関しては、以下の関連記事でわかりやすく解説しているので、あわせてお読みください。
労災事故の後遺障害慰謝料は誰に請求する?
会社に請求できる場合
労災事故の発生が会社側の安全配慮義務違反を原因とする場合には、会社に慰謝料の請求をすることが可能です。
会社は、従業員が安全に仕事ができるよう職場の環境を整えるという安全配慮義務を負っています。
そのため、会社が安全配慮義務に違反したために労災事故が発生した場合には、被害者は会社に対して義務違反を原因とした損害賠償請求が可能となり、慰謝料の請求が可能となるのです。
ポイント
- 労災事故の原因が会社の安全配慮義務違反にあるときは、会社への請求が認められる
加害者に請求できる場合
労災事故の発生が加害者の故意や過失を原因とする場合には、加害者に慰謝料の請求をすることが可能です。例えば、通勤中の交通事故や、仕事中にお客からの暴行を受けた場合などになります。
このようなケースでは、加害者に対して民法に基づく損害賠償請求が可能であるため、請求内容の一つとして慰謝料の請求が可能となるのです。
また、加害者が業務中であったという事情があれば、加害者を雇っている会社が使用者責任を負うため、加害者の会社に対して請求することが可能な場合もあります。
加害者個人の資力には限界があるため、適正な賠償金の受け取りには使用者責任に基づく会社への請求も検討しましょう。
ポイント
- 加害者へ請求する際には、民法にもとづく加害者本人への請求が可能
- 使用者責任での請求が可能ならば、資力の観点から会社に請求することが有効
請求相手にかかわらず慰謝料請求は示談交渉からスタート
慰謝料の請求は、請求先に関わらず、基本的に示談交渉から始まります。
示談交渉とは、請求者と相手方が裁判外で直接交渉を行い、合意できる解決内容を決めていくことです。具体的には双方の意見や主張を調整し、最終的な慰謝料の額や支払い方法を決定します。
示談交渉の流れ
- 準備:自身の損害や後遺障害の証拠を整理し、請求総額を算定
- 請求書の提出:相手方に対して、慰謝料請求の内容を記載した請求書を送付
- 条件の調整:双方の主張を基に、慰謝料額や支払い方法についての条件を調整
- 示談書の作成: 合意が成立した場合、合意内容を文書化して最終確認
- 署名と確認:合意書の内容が正しいことを確認したら、双方で署名や押印して保管
比較的柔軟な解決や解決までの期間が短いこと、手続き費用の面から示談で解決するメリットは大きく、示談交渉での解決を目指すことになります。
示談不成立の時の対応
示談交渉の成立にはお互いの譲歩も必要なので、示談不成立なら裁判の検討も必要です。
なお、裁判では後遺障害等級に関して新たな判断を受ける可能性もあります。
たとえば、労働基準監督署からは後遺障害14級と認定されていても、裁判官より12級だと判断され、12級としての損害賠償金を受け取れることもあり得るのです。
一方、後遺障害にあたらないという判断がなされ、労働者にとって不利な判決になることもあります。
労災の後遺障害慰謝料請求の方法である示談や裁判については、関連記事でも解説しているので、参考にしてみてください。
労災の後遺障害等級はどのように決まる?
労災事故の後遺障害等級認定の流れ
労災事故の後遺障害等級認定の流れは、労災保険による補償を受けるために重要なステップです。以下の流れで進められます。
後遺障害認定の流れ
- 治療とリハビリの継続
- 症状固定の診断
- 後遺障害診断書の作成
- 労災保険請求の申請
- 認定審査
- 結果通知と障害補償給付の受給
1. 治療とリハビリの継続
まず、労災事故によるケガや病気の治療をしっかりと受けることが必要です。治療とリハビリは、後遺障害の認定において重要な要素となります。
2. 症状固定の診断
治療が一定期間進んだ後、医師が「症状固定」と判断することがあります。
症状固定とは、治療を続けても症状が改善しない状態で、今後の状態がこれ以上変わらないとされる時点です。症状固定の診断が下された段階で、後遺障害の認定手続きを進める準備が整います。
3. 後遺障害診断書の作成
症状固定の診断を受けたら、主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらいます。
この診断書には、後遺障害の内容、程度、日常生活への影響などが記載されます。後遺障害診断書は後遺障害認定の申請に必要かつ重要な書類です。
4. 労災保険請求の申請
後遺障害診断書を基に、労災保険の請求手続きを行います。
具体的には、労働基準監督署や労災保険の担当窓口に「後遺障害等級認定申請書」を提出します。申請書には、後遺障害診断書のほかにも、症状がわかる検査結果や医師の意見書などを添付しましょう。
労災保険級の申請については、関連記事『労働基準監督署への労災申請のポイント|申請手続きの流れがわかる』でもくわしく解説しています。所定の書式での提出が求められるので確認しておきましょう。
5. 認定審査
労働基準監督署などの関係機関が、提出された書類や診断内容と面談審査にて後遺障害の等級認定を行います。
認定審査では、障害の程度や生活への影響などが評価されて等級が決定されます。
後遺障害慰謝料を請求するには、まず労災の後遺障害認定を受けることが重要です。労災で後遺症が残った場合の流れについては、関連記事でもくわしく解説していますので、参考にしてみてください。
6. 結果通知
認定結果が出ると、労働基準監督署などから認定結果の通知が届きます。
この結果には後遺障害の等級や補償額が記載されており、申請時に指定した口座に振り込まれる流れです。
適切な後遺障害等級認定を受けるコツ
後遺障害等級認定を受けるためには、医師の指示に従ってしっかりと治療をすること、症状が伝わる後遺障害診断書を取得することが重要です。
とくに後遺障害診断書をはじめとした申請書類の内容をしっかり検討しましょう。
たとえば、目に見えない神経症状(しびれ・痛み)では、いかに症状の存在を客観的に証明できるかがポイントです。
そのほか腕の動かしづらさであれば、腕が具体的にどれくらいまでしか上がらないのかなど、検査結果と数値を添えて提出しましょう。
また、自身の症状が後遺障害に該当するのか、いったい何級が妥当なのか、認定の基準を知ることも必要です。
関連記事では労災の後遺障害認定基準をまとめていますので、あわせて参考にしてください。
認定結果に納得いかないときは不服申立も可能
労働基準監督署にによる後遺障害等級の認定結果に不服がある場合には、不服申立も可能です。
後遺障害等級にあたらないとして不支給にされたり、想定よりも低い等級認定となったりした場合には、不服申立も視野に入れましょう。
不服申立ての具体的な方法については『労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる』の記事をご覧ください。
労災が交通事故なら自賠責保険と併用できる?労災先行とは?
労災と自賠責保険は併用可能だが損益相殺される
労災保険と自賠責保険は基本的には併用可能ですが、二重に利益を受けることはできません。補償が重複する部分については、支給調整が行われます。これを「損益相殺」と呼びます。
具体的には
労災指定病院で治療を受け、労災保険の療養(補償)給付を受けている場合、相手の保険会社に対しては治療費の請求ができません。そのため、相手の保険会社へ治療費を請求する際には、労災保険で既に支給された分を差し引く必要があります。
しかし、労災保険と自賠責保険の補償が重複しない範囲で併用することは可能です。
たとえば、労災保険からの給付には慰謝料が含まれていないため、慰謝料については自賠責保険から受け取ることができます。この場合、慰謝料についての損益相殺は行われません。
労災保険と損害賠償請求の調整については、関連記事『労災の損害賠償算定と請求方法!労災と民事損害賠償は調整される』でもくわしく解説していますので、あわせてお読みください。
後遺障害の労災先行とは何か
交通事故による後遺障害の補償に関して、自賠責保険よりも労災保険が先に給付を行う手続きを「労災先行払い」といいます。
後遺障害の労災先行には、後遺障害認定と同時に一定の補償を受けられる、労災ならではの支給金も先に受け取れる、過失の影響が少ないというメリットがあります。
労災先行払いのメリット
- 迅速な支払い:先行払いにより、後遺障害認定と同時に一定の補償を受けられる
- 補償内容の充実:労災保険には障害特別支給金など、自賠責にはない給付がある
- 過失の影響が少ない:労災保険は被害者の過失に関わらず給付され、過失が大きい場合に有利
もっとも、先に説明したとおり、労災先行払いを受けた場合には損益相殺がなされ、相手保険から受け取る賠償金から、労災保険で支給された分が差し引かれる形になります。
後遺障害慰謝料を請求するなら自賠責への申請が必要
労働基準監督署から障害等級の認定を受けたことで労災先行払いされていても、後遺障害慰謝料を受け取るためには、別途自賠責保険の認定を受ける必要がある場合があります。
具体的には、自賠責保険の基準に基づいて後遺障害等級を認定する機関である「損害保険料率算出機構」の審査が必要です。
後遺障害等級認定の申請先の違いを下表にまとめています。
損害保険料率 算出機構 | 労基署 | |
---|---|---|
労災かつ交通事故 | 〇 | 〇 |
それ以外の労災 | × | 〇 |
もっとも労災先行して後遺障害等級認定を受けた事実は、自賠責保険への後遺障害申請時の根拠資料にも利用でき、効果的な申請をおこなえる可能性はあります。
後遺障害認定からその先の慰謝料請求までの流れに迷いがある方は、損害賠償請求にくわしい弁護士への相談がおすすめです。
無料法律相談ご希望される方はこちら
詳しくは受付にご確認ください。
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
労災保険と自賠責保険の違い
労災保険は厚生労働省の管轄であるのに対して、自賠責保険は国土交通省の管轄です。両者は法律の趣旨も給付内容も異なる制度ですので説明していきます。
(1)労災保険では、労災前の給与60%と20%分の特別給付金が支給される
労災保険では事故前の平均給与の8割が支給されます。
これに対して自賠責保険では休業損害は1日あたり6100円で休業した期間分支給されます。
(2)労災保険には支給上限がない
労災保険には支給上限がありませんが、自賠責保険には傷害部分で120万円が支給の上限として規定されています。
(3)労災保険には入院中の雑費は支給されない
労災保険では入院中の様々な雑費は支給されませんが、自賠責保険では、日額1100円が支給されます。
(4)自賠責保険には重過失減額制度がある
労災保険では被害者の過失に対して支給額が減額されるという制度はありません。
一方の自賠責保険には「重過失減額」制度があり被害者自身に過失割合が7割以上ある場合には過失相殺により支給額が減額されます。
複雑な労災交通事故は弁護士相談も有効
労災保険と自賠責保険はそれぞれ別の制度ですので、そのいずれを選択するのかは、補償を受ける方の希望に沿って適切に選択していくことが必要になります。
被害者の置かれた状況やお悩みに応じて選択肢を検討しましょう。
労災事故の後遺障害慰謝料に関するQ&A
後遺障害慰謝料はいつもらえる?
後遺障害慰謝料は相手方との示談成立後や裁判の判決確定後に支払われます。よって、後遺障害慰謝料の請求方法しだいです。
たとえば交通事故の後遺障害慰謝料であれば、相手方の保険会社との示談成立後2週間程度で支払われる見通しになります。
示談書を取り交わしたあと、保険会社の中でも事務処理手続きの時間が一定かかるため、即日支払われるということは難しいでしょう。
もし裁判となると、判決が確定するまでに時間がかかることも予想されますし、そもそも裁判手続き自体に時間がかかるので、請求後数か月から数年かかることもありえるのです。
後遺障害慰謝料は増額交渉できる?
後遺障害慰謝料は等級ごとの相場はあるものの、増額される可能性は十分あります。
増額交渉の際には障害の程度、日常生活への影響、仕事への影響などを根拠とすることが多いです。
とくに示談交渉では双方が納得さえすればどのような金額でも示談が成立しますので、個別具体的な事情をしっかりと主張していく価値はあります。
後遺障害への補償は慰謝料だけ?
後遺障害慰謝料のほかにも逸失利益や介護費用があげられます。
逸失利益について
逸失利益とは、労災事故による後遺障害で労働能力が下がってしまい、事故にあわなければ得られたはずの将来の収入に対する補償です。
障害補償給付として労災保険から支払われる部分もありますが、金額が不足している場合には、別途損害賠償できる可能性があります。
労災事故の逸失利益については関連記事『労災で請求できる逸失利益はいくら?計算方法や損益相殺を解説』で算定方法を説明しているので参考にしてみてください。
介護費用について
介護費用は、後遺障害1級や2級などきわめて重い後遺障害により、生命の維持などに介護が必要な場合を中心に認められるものです。
介護保障給付として労災保険から支払われるものの、金額が不足している場合には、別途損害賠償請求できる可能性があります。
介護サービスの利用料、介護ベッドや車いすなどの買い替え費、オムツや介護パッドなどの消耗品も、必要と認められる範囲で損害算定可能です。
労災による後遺障害慰謝料の相談先
労災事故の後遺障害慰謝料は弁護士に相談
労災により後遺障害が生じたため、加害者や会社に対する慰謝料を請求するのであれば、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害を原因とする慰謝料を請求するには、労働基準監督署から後遺障害が生じた旨の認定を受け、加害者や第三者に損害賠償請求をすることが必要です。
もっとも、損害賠償請求を行う際には、正確な請求金額を算出する必要があるため簡単ではありません。
弁護士に相談すれば、損害賠償請求により慰謝料を含めていくらの請求が可能なのかを教えてもらうことが可能です。また、弁護士に依頼を行えば、損害賠償手続きを代わりに行ってくれるので、労働者の負担が非常に軽くなります。
労災に遭った労働者が弁護士に相談や依頼を行うことで生じるメリットを詳しく知りたい方は『労災に強い弁護士に相談するメリットと探し方|労災事故の無料相談はできる?』の記事をご覧ください。
アトム法律事務所の無料法律相談
労災で重い後遺障害が残り、会社などに対する後遺障害慰謝料の請求をお考えの場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
慰謝料請求のために知っておきたいことや注意点について、金銭的な負担を気にせず弁護士に相談することが可能です。
法律相談をご希望される方は、まずご予約が必要になります。相談予約の受付窓口は24時間体制のため、ご都合の良いときにご連絡ください。
無料法律相談ご希望される方はこちら
詳しくは受付にご確認ください。
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了