労災で請求できる逸失利益はいくら?後遺障害や死亡時の計算方法や損益相殺
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逸失利益とは、労災による病気や怪我が原因で働けなくなり、受け取れなくなってしまった将来の収入に対する補償のことをいいます。
労災の損害賠償では、逸失利益についても請求可能です。
今回は労災における逸失利益の計算方法を紹介します。こちらの記事を読めば、逸失利益がどれくらいもらえるか算定でき、損害賠償金額をより正確に把握できるようになるでしょう。
目次
労災の逸失利益とは?
逸失利益は損害賠償の損害項目の一つです。まず、労災における逸失利益とはどんなものか、具体的に解説していきたいと思います。
得られなくなった賃金に対して支払われる賠償金
逸失利益とは、労災によって後遺障害を負ったり死亡したことが原因で労働能力が低下または喪失し、得られなくなってしまった将来の賃金に対する補償のことです。
後遺障害を原因とした逸失利益を「後遺障害逸失利益」、死亡を原因とした逸失利益を「死亡逸失利益」といいます。
後遺障害逸失利益は、病気や怪我が完治せずに後遺症が残存し、後遺症の症状が労災保険において後遺障害等級の認定がなされた時に請求可能です。
後遺障害等級は、症状が最も重い1級から最も軽い14級まで分かれています。後遺障害逸失利益の金額は、後遺障害等級によって大きく変動することが特徴です。
後遺障害等級は審査制ですので、労働基準監督署に審査の申請を行い、認定を受ける必要があります。後遺障害等級の認定基準や認定を受けるための審査の流れは、関連記事を読むと理解が深まります。
後遺障害逸失利益の計算方法や注意点
労災で後遺症が残り、後遺障害が認定された場合、後遺障害逸失利益としていくら請求できるのでしょうか。
後遺障害逸失利益には計算式があるので、まずは計算式に当てはめて金額を算出します。
ただし、実際に請求できる金額を算出するためには、被害者の過失割合のぶんだけ減額する過失相殺や、労災保険や年金などとの二重取りを禁止する損益相殺について考慮しなければなりません。
こちらでは後遺障害逸失利益の計算式と、過失相殺や損益相殺について解説します。
後遺障害逸失利益の計算式
労災における後遺障害逸失利益の計算式は以下のとおりです。
後遺障害逸失利益の計算方法
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
それぞれの項目に関して詳しく説明をおこないます。
基礎収入
労災により労災保険給付を受けるのは原則として給与所得者であるため、事故前の現実収入(給料)の金額が基礎収入となります。
収入額の証明については、休業損害証明書や源泉徴収票などの書類により行うことになるでしょう。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは労働能力の喪失度合いを割合で示したものです。
労働能力喪失率は後遺障害等級によって異なり、具体的には以下のとおりとなります。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1 | 100% |
2 | 100% |
3 | 100% |
4 | 92% |
5 | 79% |
6 | 67% |
7 | 56% |
8 | 45% |
9 | 35% |
10 | 27% |
11 | 20% |
12 | 14% |
13 | 9% |
14 | 5% |
ただし、必ず等級に対応した労働能力喪失率で算定されるわけではなく、年齢や性別、事故の容態など個別具体的な事情を考慮して、事例に即して労働能力喪失率が修正されるケースもあります。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力が喪失してしまった期間のことです。
原則として症状固定日から起算して、67歳に到達するまでの期間です。症状固定日とは、治療を継続してもこれ以上の回復が見込めないと判断される日を指します。
例外的に高齢者の場合、簡易生命表の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間とするケースがあります。
中間利息控除(ライプニッツ係数による控除)
逸失利益では将来継続的に受け取るはずだった金銭を一時金の形で受け取ります。
一時金の形で受け取ると、受け取った時点から本来受け取るはずであった時点まで預金利息など(中間利息)が発生するため、公平の観点からこのような中間利息については、控除する必要があります。
中間利息は、民法で定められた法定利率である年利3%として計算し、具体的な後遺障害逸失利益の算定では労働能力喪失期間に対応する「ライプニッツ係数」を使用します。
労働能力喪失期間ごとのライプニッツ係数は以下のとおりです。
労働能力喪失期間 | 係数 |
---|---|
1 | 0.97 |
2 | 1.91 |
3 | 2.82 |
4 | 3.71 |
5 | 4.57 |
6 | 5.41 |
7 | 6.23 |
8 | 7.01 |
9 | 7.78 |
10 | 8.53 |
11 | 9.25 |
12 | 9.95 |
13 | 10.63 |
14 | 11.29 |
15 | 11.93 |
16 | 12.56 |
17 | 13.16 |
18 | 13.75 |
19 | 14.32 |
20 | 14.87 |
後遺障害逸失利益の具体的な計算例
先に説明した計算式を使って、下記の事例の後遺障害逸失利益を具体的に算定してみましょう。
事例
- 年収が400万円
- 47歳で治療してもこれ以上回復が見込めない(症状固定)と判断される
- 後遺障害等級が10級と認定される
後遺障害等級10級における労働能力喪失率は27%です。
また、労働能力喪失期間20年(67-47)の場合、対応するライプニッツ係数は14.87です。
上記の情報を計算式に当てはめると、400万円×0.27×14.87=16,059,600円となります。
なお、年収や症状固定時の年齢が同じでも、認定された後遺障害等級が4級の場合、後遺障害逸失利益の金額は、400万円×0.92×14.87=54,721,600円となり、3倍近くの差が出てきます。
上記の比較から、適切な後遺障害等級認定を受けることが、労災事故で適切な補償を受け取るためには必要であることがわかるかと思います。
注意点①過失相殺
労災による病気や負傷、死亡について従業員側の過失が認められる場合、その過失の割合に応じて損害賠償金の減額(過失相殺)が行われる(民法722条2項)点には注意が必要です。
逆にいえば、事業主に損害賠償を請求できる金額は、事業主側に過失がある割合にとどまるのです。
たとえば、会社の過失割合が30%:従業員の過失が70%と裁判所が判決により判断した場合、裁判所が損害賠償の支払いを命じるのは、上記の計算式で算定した後遺障害逸失利益の30%の金額になります。
注意点②損益相殺
損益相殺とは、損害賠償額の算定に関し、損害を被った原因と同一の原因により利益を受けた場合に、その利益が損害の填補であるときは、その利益分を損害賠償金から差し引く(控除する)ことです。
簡単に言うと、二重取りはできないということです。
労災事故では主に、労災申請により労災保険から給付金を受け取った場合に損益相殺が問題となります。
具体的には、労災保険から障害(補償)年金や障害(補償)一時金を受け取っていた場合は、後遺障害逸失利益の金額から受け取っていた金額が差し引かれます。
一方で、労災保険から障害特別支給金や障害特別年金、障害特別一時金を受け取っていても、後遺障害逸失利益の金額から受け取っていた金額は差し引かれません。
特別(支給)金が損益相殺されないのは、その目的が損害の填補でなく、被害者の社会復帰を促す福祉的な目的が強いからと考えられています。
なお、労災事故の加害者から被災労働者が後遺障害逸失利益を受け取った場合、受け取っていた障害(補償)年金の支給が一定期間停止される可能性がある点にも注意する必要があります。
労災保険によりどのような給付を受けられるのかについては『労災事故の対処法|仕事中・通勤中の労働災害なら労災保険が使える』の記事をご覧ください。
労災見舞金と損益相殺
労災事故直後に会社側や加害者側から見舞金を受け取るケースがあります。
上記の見舞金が損害賠償金から損益相殺されるかはケースバイケースであり、事案ごとに判断する必要があります。
ただ、見舞金が高額なケースや損害賠償金の前払いという事前の説明があったようなケースは損益相殺されやすい傾向にあるとはいえます。
死亡逸失利益の計算方法や注意点
続いては、死亡逸失利益の計算式と損益相殺について解説します。
死亡逸失利益の計算式
労災における死亡逸失利益の計算式は以下のとおりです。
死亡逸失利益の計算方法
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失期間と就労可能年数はほぼ同じなので、後遺障害逸失利益の計算方法との違いは、①労働能力喪失率の項目がない、②生活費控除率が差し引かれるという2点です。
上記の2点について詳しく説明をおこないます。
①労働能力喪失率の項目がない
死亡逸失利益の計算式に労働能力喪失率の項目がないのは、被害者が死亡した場合、労働能力喪失率は常に100%だからです。
つまり、後遺障害が残った場合は、症状(等級)によって労働能力喪失率に違いがあるため、逸失利益の計算に労働能力喪失率が必要となりますが、死亡の場合は労働能力喪失率に違いがないからです。
②生活費控除率が差し引かれる
死亡逸失利益の計算においては、労働者が生きていれば生活のために発生したであろう生活費の分を控除する必要があります。
これは、先ほど解説した損益相殺の考え方が反映されています。
控除の割合は以下の表を基準として行われます。
被害者の立場 | 生活費控除率 |
---|---|
一家の支柱 (扶養家族1人) | 40% |
一家の支柱 (扶養家族2人以上) | 30% |
女性 | 30% |
男性 | 50% |
死亡逸失利益の具体的な計算例
先に説明した計算式を使って、下記の事例の後遺障害逸失利益を具体的に算定してみましょう。
事例
- 年収が500万円
- 50歳で死亡
- 扶養家族が一人いる男性
生活費控除率は40%、就労可能年数は17年となるため、ライプニッツ係数は13.16となります。
上記の情報を計算式に当てはめると、500万円×(1-0.4)×13.16=39,480,000円となるのです。
このように、死亡逸失利益の金額は非常に高額となることから、正確な計算が求められます。請求金額を確認したい場合は、専門家である弁護士に相談すべきでしょう。
注意点
実際に請求できる死亡逸失利益の金額を算出するためには、後遺障害逸失利益の場合と同様、過失相殺や損益相殺について考慮しなければなりません。
過失相殺については大きな違いはないので、ここからは死亡逸失利益の具体的な損益相殺について解説します。
労災保険から遺族(補償)年金や遺族(補償)一時金を受け取っていた場合には、死亡逸失利益の金額から受け取っていた金額が差し引かれます。
一方で、労災保険から遺族特別支給金や遺族特別年金、障害特別一時金を受け取っていても、死亡逸失利益の金額から受け取っていた金額は差し引かれません。
なお、労災事故の加害者から被災労働者の遺族が死亡逸失利益を受け取った場合、受け取っていた遺族(補償)年金の支給が一定期間停止される可能性がある点にも注意する必要があります。
労災における逸失利益以外の請求内容
逸失利益以外に請求できるもの
請求の根拠
労災が発生した場合に逸失利益を請求するには、加害者である第三者や事業主に対する損害賠償請求が必要です。
労災発生の原因が第三者の行為や事業主の安全配慮義務違反にある場合には、損害賠償請求が可能であり、逸失利益を請求することができます。
具体的な請求内容
逸失利益は、労災の損害賠償で請求できる損害項目の一つになります。労災事故で被害者が請求できるその他の項目としては、治療関連費や休業損害、慰謝料などがあげられます。
治療関連費とは、労災が原因で通院した時に生じた治療費や交通費のことです。また、休業損害とは、労災によって働けなくなって失った賃金に対する補償です。休業損害は、労災保険からの休業補償給付は損害全額の支払いがなされないため、不足額については損害賠償請求による必要があります。
労災において損害賠償を請求できる具体的なケースや請求できる内容の計算方法などは『労災の損害賠償請求費目と相場!民事損害賠償と労災保険の調整方法』の記事をご覧ください。
労災における慰謝料相場
損害賠償の大きな項目は「慰謝料」と「逸失利益」の2つです。
逸失利益は後遺障害等級や労働者の年収、労働能力喪失期間などの影響を受けるため、一概に相場を述べることはむずかしいといえます。
一方で慰謝料に関しては、過去の判例等から一定の基準を示すことが可能です。
また、慰謝料は労災保険給付の対象外であるため、慰謝料を得るためには損害賠償請求が欠かせません。
本記事では労災における後遺障害慰謝料の内容や死亡慰謝料の相場額を紹介します。
労災事故でケガをした時の慰謝料相場や計算の仕方は、関連記事を参考にしてみてください。
慰謝料の関連記事
後遺障害が残った場合
逸失利益を得るには、前提として後遺障害等級の認定がなされている必要があります。
各後遺障害等級における慰謝料の相場は以下の通りです。
等級 | 慰謝料相場額 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
後遺障害等級は逸失利益においても、金額の大きな変動要因になります。労災の損害賠償金は後遺障害の何級が認定されるかによって、金額が大きく左右されるのです。
また、治療のために必要であった入院や通院の期間に応じて入通院慰謝料の請求を行うことできます。
死亡事故の場合
労災が原因で亡くなった場合、被害者の遺族は死亡慰謝料を請求できます。
死亡慰謝料の相場は従業員が一家の大黒柱であった時は2,800万円程度、それ以外では2,000~2,500万円程度になります。
家庭内での役割によって相場が変わることが、死亡慰謝料の特徴です。
労災による逸失利益の請求は弁護士に相談
弁護士に相談するメリット
逸失利益は労働者に後遺障害が生じている、または、死亡している場合に請求が可能です。
そのため、労働者が後遺障害の治療やリハビリ、または、労働者の遺族が葬儀などの準備を行いつつ逸失利益の請求を行うことになり、自力で逸失利益の請求を行うことは大変でしょう。
弁護士に相談すれば、適切な請求方法や証拠の収集方法についてアドバイスを受けることが可能です。
また、弁護士に依頼を行えば、代理人として請求のために必要な交渉や証拠の収集などを代わりに行ってくれるので、請求者の負担が大きく軽減します。
まずは、弁護士に相談を行い、今後とるべき対応、弁護士への依頼の必要性、依頼した際の弁護士費用などについて確認を行うべきでしょう。
関連記事『労災に強い弁護士に相談するメリットと探し方|労災事故の無料相談はできる?』でも解説している通り、逸失利益の請求を弁護士に任せるメリットは大いにあります。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了