交通事故で労災を使うメリット・デメリットは?労災保険の手続きは?
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業務中・通勤中の交通事故は、労働災害(労災)となり、労災保険が使える可能性があります。
交通事故による労災の手続きは、事故が業務中・通勤中に発生したことを確認し、その後、労災保険の給付申請を行います。この際、第三者行為災害届等を労準署に提出する必要があります。
労災保険は、加害者、被害者のどちらでも利用可能です。過失割合が大きい場合でも、減額されないのが労災保険のメリットです。
デメリットはほぼないですが、手続きが煩雑、会社との関係悪化などの懸念があります。
なお、労災保険は、自動車保険(自賠責保険、任意保険)と併用も可能です。労災でもらえない慰謝料などは、自動車保険に請求しましょう。ただし、二重取りはできず、項目が重なる部分は金額が調整されます(給付調整)。
本記事では、交通事故が労災の場合に、労災保険を使うメリット、デメリット、労災保険の申請手続きについて解説します。
目次
交通事故で労災保険を使える場合
交通事故が通勤災害、業務災害のいずれかに該当する場合、労災保険を使えます。
ここでは、通勤災害と業務災害の内容について、説明します。
通勤中の交通事故(通勤災害)
通勤中に起きた交通事故が「通勤災害」と認められる場合、労災保険を使えます。
通勤災害とは、労働者が「通勤」により被った負傷、疾病、障害又は死亡のことです。
労災保険上の「通勤」とは、就業に関し、以下のような移動を合理的な経路・方法によりおこなうこと(業務の性質を有するものを除く)です。
通勤災害で労災保険が使える「移動」
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
※東京労働局「通勤災害について」
寄り道した場合、労災保険は適用される?
通勤中に、通勤経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合(つまり「寄り道」した場合)、その間やその後の移動は「通勤」とは認められず、労災保険の対象外になるのが原則です。
ただし、通勤途中に近くの公衆トイレを使う、ジュースを買うなど、ささいな行為は寄り道になりません。
また、日用品の購入、通院、選挙など日常生活上必要な最小限の行為の場合、いつもの通勤経路に戻った後は、労災保険の対象になります(寄り道の間は、労災保険の対象外)。
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仕事中の交通事故(業務災害)
業務に関連しておきた交通事故は「業務災害」にあたり労災保険が使える可能性があります。
たとえば、タクシー運転中の事故、郵便配達中の交通事故、出張中の交通事故などです。
ただし、自然災害が原因の場合や、休憩中の場合は、業務災害にあたらず、労災保険の対象外です。
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交通事故と労災保険の手続き
交通事故が労災の場合に、労災保険を使う手続きとしては、保険者(労災保険)への届出と、各所医療機関への届出が必要です。
ここでは、労災保険への手続きについて、おおまかな流れを説明します。
労災保険の手続きの流れ
労災保険の手続きの流れについて簡単にまとめると、以下のようになります。
労災保険の手続きの流れ
- 労働者から会社に報告
- 労災保険の給付申請
- 第三者行為災害届などの提出
- 労働監督基準署の調査
- 労災保険金の給付
労災を会社に報告
労災が起きた場合、会社に報告するのが基本です。
労災の申請自体は原則、労働者自身がおこないますが、手続き書類には会社の証明をもらう欄があります。
協力を求めるためにも、会社に報告を求める必要があるでしょう。
労災保険の給付申請
労災保険の給付申請は申請する給付の種類によって異なりますが、たとえば、療養の給付請求書、休業給付請求書、障害給付請求書などがあります。
申請書は、労働基準監督署に提出します。
会社が手続きを代行するケースもあります。
第三者行為災害届などの提出
交通事故の場合、事故の相手がいるため、第三者行為災害届、及び一定の添付書類の提出が必要となります。
第三者行為災害届は、労災保険の給付と事故相手からの損害賠償請求を調整するために必要です。
労働基準監督署の調査
申請書類が受理されたら、労働基準監督署の調査が入ります。
なお、調査の結果、「労災」にあたると判断された場合でも、労災保険の給付と事故相手からの損害賠償金(自賠責保険など)が重複するときは、支給調整が行われます。
重複する項目としては、以下のようなものがあります。二重取りにならないよう支給金額が調整されます。
労災保険給付 | 対応する損害賠償の損害項目 |
---|---|
・療養補償給付 ・複数事業労働者療養給付 ・療養給付 | 治療費 |
・休業補償給付 ・複数事業労働者休業給付 ・休業給付 | 休業により喪失したため得ることができなくなった利益 |
・傷病補償年金 ・複数事業労働者傷病年金 ・傷病年金 | 同上 |
・障害補償年金 ・複数事業労働者障害給付 ・障害給付 | 身体障害により喪失または減少して得ることができなくなった利益 |
・介護補償給付 ・複数事業労働者介護給付 ・介護給付 | 介護費用 |
・遺族補償給付 ・複数事業労働者遺族給付 ・遺族給付 | 労働者の死亡により遺族が喪失して得ることができなくなった利益 |
・葬祭料 ・複数事業労働者葬祭給付 ・葬祭給付 | 葬祭費 |
東京労働局「第三者行為災害について」
労災保険金の給付
労災保険金の給付金額が決定したら、支給されます。
指定医療機関の治療は、窓口負担なく治療を受けられるようになります。指定医療機関以外の治療の場合、治療費が口座に振込入金されます。
休業給付等のその他の支給金についても、支給決定がされたら口座に振込入金されます。
労災保険の手続きに必要な書類
労災保険の手続きに必要な書類としては、労災給付の各種請求書のほか、第三者行為災害届があります。
交通事故で労災保険を利用するなら、労災保険給付の請求書を提出と同時またはすみやかに、労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。
また、第三者行為災害届に添付を要する書類もあるので、忘れずに準備しましょう。
労災保険の必要書類(交通事故)
- 第三者行為災害届
- 第三者行為災害届に添付する書類
- 念書
- 交通事故証明書
※入手できない場合は交通事故発生届 - 示談書の謄本
※示談がおこなわれた場合。写しでも可 - 自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書、または保険金支払い通知書
※仮渡金、または賠償金を受けている場合。写しでも可 - 死体検案書、または死亡診断書
※死亡の場合。写しでも可 - 戸籍謄本
※死亡の場合。写しでも可
労災保険は後遺障害や死亡も補償される
労災保険にも、後遺障害や死亡についての補償があります。
事故の結果 | 給付内容 |
---|---|
後遺障害 | 障害補償年金または一時金、特別支給金など |
死亡 | 遺族補償年金または一時金、葬祭料、労災就学等援護費など |
後遺障害に関する労災の給付
後遺障害については、主治医から「治ゆ(症状固定)」の診断が出た時点で、労災保険の申請が可能になります。申請書類は所定の様式に沿って作成し、労働基準監督署に提出します。
その後、書類審査や面談などが行われ、14段階の等級に応じた後遺障害補償給付が決定されます。
死亡に関する労災の給付
死亡事故が発生した場合は、事故発生時点で労災保険の請求が可能です。必要書類を労働基準監督署に提出し、審査を経て給付が決まります。
給付額は、被害者の生前の収入や遺族の人数に応じて変動し、また受給できる遺族の範囲(受給資格者)も法律で定められています。
交通事故で労災保険を使うメリット
労災保険は治療費を全額支払ってもらえる
労災保険のメリットは、治ゆするまで、治療費を全額支払ってもらえる点です。
自賠責の場合、補償額は上限120万円になるため、治療費が120万円を超えたときは、補償してもらえません。超えた部分は、任意保険会社に請求することも可能ですが、労災保険の認定よりも厳しいため、早期に打ち切りにあうリスクがあります。
なお、労災保険の治療費は、「療養補償給付(療養給付)」として支給されます。支給方法は、治療先により、現物給付または金銭給付になります。
受診先による主な違い
労災指定医療機関 | 労災指定医療機関ではない | |
---|---|---|
窓口負担 | なし | あり |
書類提出先 | 労災指定医療機関 | 労働基準監督署 |
給付の方法 | 医療行為 (現物給付) | 医療費 (金銭給付) |
労災保険も使うと休業補償が120%に?
労災保険のメリットは、加害者側の保険会社への請求と組み合わせることで、休業補償を120%受けられるようになる点です。
労災保険ではまず、平均賃金の60%に相当する休業(補償)給付を受けとることができます。
そして、休業補償を100%分受け取るためには、加害者側の保険会社(自賠責・任意保険)へ残りの40%分を請求します。
さらに、労災保険では、休業特別給付金(平均賃金の20%)が支給されます。
これらを合わせれば、合計で平均賃金の120%分を受けとることができます。
補償 | |
---|---|
労災保険の休業補償 | 減収額の60% |
加害者側の保険会社の休業損害 | 減収額の40% |
労災保険の休業特別支給金 | 減収額の20% |
合計 | 減収額の120% |
労災保険は特別支給金がある
労災保険では、「特別支給金」をもらえる点もメリットです。
特別支給金は、加害者側の保険会社の賠償項目との二重取りにならないため、損益相殺されず、手取りの金額を増やすことができます。
労災保険の特別支給金としては、以下のようなものがあります。
保険給付の種類 | 特別支給金 |
---|---|
休業補償給付 (休業給付) | 休業特別支給金 |
傷病補償年金 (傷病年金) | 傷病特別支給金 傷病特別年金 |
障害補償給付 (障害給付) | 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 |
遺族補償給付 (遺族給付) | 遺族特別支給金 遺族特別年金 遺族特別一時金 |
「〇〇特別支給金」は、労災の保険給付に付加して支給され、見舞金のようなものになります。
「〇〇特別年金」や「〇〇特別一時金」は、いわゆる賞与などの給与額を基礎にして支給されるものになります。
労災保険は過失相殺がない
労災保険は過失相殺がない点もメリットです。
過失相殺とは、交通事故をおこした責任の大きさに応じて、賠償額が減らされる制度です。
たとえば、交通事故の損害額が100万円でも、自分に50%過失がある場合、受け取れる賠償金は50万円になってしまいます。
しかし、労災保険にはこのような過失相殺の制度はありません。労働者を守る保険として、支払基準にそって100%補償されます。
過失割合でもめていて、事故相手(または保険会社)から十分な賠償が受けられないような場合は、労災保険を積極的に使うほうが安心です。
労災保険は前払い一時金がもらえる
障害補償年金や遺族補償年金など、まとまったお金を一時金として前払いで受け取れる制度があることも、労災保険のメリットです。
前払いで受け取れる上限は、障害補償年金が最大1200日分、遺族補償年金が最大1000日分です。
前払い一時金は、重い障害が残った方や家族を亡くされたご遺族にとって、当面の生活資金として役立つ仕組みです。
ただし、これは将来給付される金額を「先に受け取る」ものなので、その後しばらくの間は年金の支給が止まります。利用する際は、生活設計をふまえて計画的に使うようにしましょう。
交通事故で労災保険を使うデメリットはない?
交通事故で労災保険を使うデメリットは、ほぼありません。
強いてあげるとすれば、労災保険では慰謝料がもらえない点、雇用主が非協力的な場合がある点があげられます。
労災保険の手続きは煩雑
労災保険のデメリットとして、手続きが煩雑という点があげられます。
給付を受けたい項目ごとに請求書があり、自分で記入して提出しなければならず大変です。
ただ、ホームページ上で記入例が紹介されていますし、会社の労務担当の方にたずねたり、労働基準監督署に問い合わせるなどして、手続きは進めることができます。
労災保険には、自動車保険(自賠責・任意保険)ではもらえない給付金が沢山あるため、「手続きが煩雑だから」といって諦めるのはもったいないです。
労災保険には慰謝料がない?自賠責などに請求を
労災保険では治療費や休業補償は支給されますが、「慰謝料」は対象外です。
精神的苦痛に対する補償を受けたい場合は、事故の加害者に対して、自賠責保険や任意保険に慰謝料を請求する必要があります。
労災だけでなく、自賠責や民間保険も併せて活用することでより手厚い補償が受けられます。
労災保険は雇用主が非協力的?
労災保険のデメリット・注意点としては、労災保険は雇用主が非協力的なケースがある点が挙げられます。
交通事故で労災を使うと、保険料の増加や行政処分のリスクがあるため、雇用主が申請に消極的なケースもあります。
とはいえ、労働者にとっては治療費や休業補償を受けられる大きなメリットがあり、補償を受けるために労災申請は重要です。
労災保険の補償内容・手続き書類一覧
労災保険の補償内容には、次のようなものがあります。
労災保険の補償内容
- 療養補償給付(療養給付)
- 休業補償給付(休業給付)
- 傷病補償年金(傷病年金)
- 障害補償給付(障害給付)
- 介護補償給付(介護給付)
- 遺族補償給付(遺族給付)
- 葬祭料(葬祭給付)
※()内は通勤災害の給付の名称
以下、それぞれについて、詳しく説明します。
療養補償給付(療養給付)
労災保険の療養補償給付(療養給付)とは、業務または通勤が原因となった傷病の療養を受けるときの給付のことです。傷病が治ゆ(ちゆ)するまで、支給を受けることができます。
労災保険の治ゆとは
労災保険の「治ゆ」とは、症状固定を指す。
症状固定とは、医学上一般に認められた医療をおこなっても、その効果が期待できなくなった状態のこと。
労災保険の療養補償給付(療養給付)は、自賠責・任意保険でいうところの「治療関係費」にあたります。
療養補償給付(療養給付)は、以下のような費用について、療養の効果が現在の医学上一般的に認められる場合に、実費分が支給されます。
療養補償給付(療養給付)の内容
- 治療費
- 入院の費用
- 看護料
- 移送費
- 通院交通費 など
労災病院を利用する手続き
医療機関の治療費については、労災病院や指定医療機関で療養を受ける場合、本人が、その病院・医療機関に請求書を提出すれば、窓口での立替えは不要です(療養の給付)。
療養補償給付(療養給付)の手続書類(1)
厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」より抜粋して、紹介。
上記以外の手続き
労災病院・指定医療機関ではない病院の場合、いったん費用を立て替えて、後日、労基署に請求書を提出します(療養の費用の支給)。請求期限(時効)は、費用を支出した日ごとに、その翌日から2年です。
療養補償給付(療養給付)の手続書類(2)
業務災害 | 通勤災害 | |
---|---|---|
病院の治療費 | 様式第7号(1) | 様式第16号の5(1) |
薬局 | 様式第7号(2) | 様式第16号の5(2) |
柔整用 | 様式第7号(3) | 様式第16号の5(3) |
はり・きゅう用 | 様式第7号(4) | 様式第16号の5(4) |
厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」より抜粋して、紹介。
なお、療養(補償)給付の手続き、記入例などを詳しく知りたい方は、厚生労働省「療養(補償)等給付の請求手続」のページをご覧ください。
休業補償給付(休業給付)
労災保険の休業補償給付(休業給付)とは、業務または通勤が原因となった傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないときの給付のことです。
労災保険の休業補償給付(休業給付)は、自賠責・任意保険でいうところの「休業損害」にあたります。
休業補償給付(休業給付)でもらえる金額
労災保険の休業補償給付は、療養のために仕事を休み、賃金を受けていない場合、休業した4日目から、1日つき給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)を受けることができます。
給付基礎日額とは、事故直前3か月分の賃金を歴日数で割った平均賃金を指します。
たとえば、月収20万円、4月中に事故に遭った場合、給付基礎日額の80%は5,217円となり、休業1日つき5,217円が支給されます。
月収20万円・4月中に事故(労災)
- 20万円×3か月÷91日*
≒6,522円 - 6,522円×80%
≒5,217円
*1月(31日)+2月(30日)+3月(31日)=91日
休業補償給付(休業給付)の要件
休業補償給付(休業給付)は、以下のような要件を満たす場合に支給されます。
休業補償の3要件
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
- 労働することができないため
- 賃金を受けていない
休業補償給付の手続き
休業補償給付(休業給付)の書式は、以下のとおりです。
休業補償給付(休業給付)の手続書類
厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」のうち「休業(補償)等給付関係」より抜粋して、紹介。
詳しい手続き、記入例については厚生労働省「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」のページをご覧ください。
傷病補償年金(傷病年金)
労災保険の傷病補償年金(傷病年金)とは、業務または通勤が原因となった傷病の療養開始後、1年6か月たっても傷病が治ゆ(症状固定)しない場合に、傷病等級に該当するときに受けられる給付のことです。
傷害補償年金(傷害年金)は請求ではなく、労基署長の職権により支給の可否が決まります。
傷害補償年金(傷害年金)の対象
傷害補償年金(傷害年金)の対象になるのは、傷病等級第1級から第3級までに該当する場合です。
傷病等級表
傷病等級 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (3) 両眼が失明しているもの (4) そしゃく及び言語の機能を廃しているもの (5) 両上肢をひじ関節以上で失ったもの (6) 両上肢の用を全廃しているもの (7) 両下肢をひざ関節以上で失ったもの (8) 両下肢の用を全廃しているもの (9) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
2級 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (3) 両眼の視力が0.02以下になっているもの (4) 両上肢を腕関節以上で失ったもの (5) 両下肢を足関節以上で失ったもの (6) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
3級 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (3) 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの (4) そしゃく又は言語の機能を廃しているもの (5) 両手の手指の全部を失ったもの (6) 第1号及び第2号に定めるもののほか、常に労務に服することができないものその他前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
傷害補償年金(傷害年金)の等級に該当しなかった場合
1年6ヶ月経ってもケガが傷病等級に該当しない場合、傷病補償年金は支給されません。
引き続き、休業補償給付・休業給付を受けることになります。なお、この場合、「傷病の状態等に関する報告書」(様式第16号の2)の提出が必要です(業務災害・通勤災害共通)。
傷害補償年金(傷害年金)の支給額
傷病等級と支給額については、以下の表のとおりです。
傷病等級 | 障害状態 | 支給額 |
---|---|---|
1級 | 常時介護が必要 | 平均賃金の313日分 |
2級 | 随時介護が必要 | 同 277日分 |
3級 | 常態として労働不能 | 同 245日分 |
このほか等級に応じた一時的な支給金、傷病特別年金が支給されることがあります。これらは、請求によって支給されるのではなく、労基署長の裁量で決まります。
傷病等級 | 傷病特別支給金 (一時金) | 傷病特別年金 |
---|---|---|
1級 | 114万円 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 107万円 | 同 277日分 |
3級 | 100万円 | 同 245日分 |
障害補償給付(障害給付)
労災保険の障害補償給付(障害給付)とは、業務または通勤が原因となった傷病が治ゆ(症状固定)をむかえ、障害等級に該当する身体障害が残ったときの給付のことです。
障害補償給付(障害給付)の手続き
労災保険の障害補償給付(障害給付)に必要な手続書類は、以下のようなものです。
障害補償給付(障害給付)の手続書類
本人が直接、労基署へ請求書を提出して手続きをおこないます。
請求期限(時効)は、傷病が治ゆした日の翌日から5年です。
障害補償給付(障害給付)の支給金額
なお、支給の種類や金額は、障害の程度に応じて定められる等級によって異なります。
支給形式も「年金形式」と「一時金形式」に分かれます。
支払形式 | 概要 |
---|---|
年金形式 | 等級が1級から7級の場合は年金形式 毎年偶数月に、その前2ヶ月分の金額が支給される |
一時金形式 | 等級が8級から14級の場合は一時金形式 一度だけ支給される |
同一の事故により2つ以上の障害が残ってしまった場合は、重い方の等級を基準に支給が決定されます。
支給される金額は、以下のとおりです。
1級~7級の場合
等級 | 障害(補償)年金 | 障害特別年金 | 障害特別支給金 (一時金) |
---|---|---|---|
1級 | 給付基礎日額の313日分 | 算定基礎日額の313日分 | 342万円 |
2級 | 同277日分 | 同277日分 | 320万円 |
3級 | 同245日分 | 同245日分 | 300万円 |
4級 | 同213日分 | 同213日分 | 264万円 |
5級 | 同184日分 | 同184日分 | 225万円 |
6級 | 同156日分 | 同156日分 | 192万円 |
7級 | 同131日分 | 同131日分 | 159万円 |
8級~14級の場合
障害(補償)一時金 | 障害特別一時金 | 障害特別支給金 (一時金) | |
---|---|---|---|
8級 | 給付基礎日額の503日分 | 算定基礎日額の503日分 | 65万円 |
9級 | 同391日分 | 同391日分 | 50万円 |
10級 | 同302日分 | 同302日分 | 39万円 |
11級 | 同223日分 | 同223日分 | 29万円 |
12級 | 同156日分 | 同156日分 | 20万円 |
13級 | 同101日分 | 同101日分 | 14万円 |
14級 | 同56日分 | 同56日分 | 8万円 |
どのような後遺障害が何級になるか知りたい方は『労災の後遺障害とは?障害等級の認定基準と金額早見表、給付の流れ』の記事もご覧ください。
介護補償給付(介護給付)
労災保険の介護補償給付(介護給付)は、障害(補償)年金または傷病(補償)年金の一定の障害により、現に介護を受けているときの給付のことです。
介護補償給付(介護給付)の申請をする場合は、様式第16号2の2を使います。業務災害・通勤災害共通です。
介護補償給付(介護給付)は、常時介護か随時介護かで支給内容が変わります。
常時介護の場合
常時介護とは、以下のような状態を指します。
常時介護の障害の状態
① 精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態(障害等級第1級3号・4号、傷病等級第1級1号・2号)
② 上記①と同程度の介護を要する状態
- 両眼が失明するとともに、障害または傷病等級第1級・第2級の障害を有する
- 両上肢および両下肢が亡失又は用廃の状態にある など
常時介護の場合の介護補償給付(介護給付)は、以下のような金額になります。
常時介護の給付内容
介護 | 介護費の支出 | 支給 |
---|---|---|
なし | ー | 原則実費、上限177,950円 |
あり | なし | 一律85,490円 |
あり | あり | 最低85,490円、上限177,950円 |
親族・知人・友人の「介護なし」の場合、177,950円を上限とした介護費用の実費請求が可能です。
親族・知人・友人の「介護あり」で、介護費用の「支出なし」の場合は、一律81,290円が認められます。
親族・知人・友人の「介護あり」で、介護費用の「支出あり」の場合は、最低81,290円が一律で支払われ、81,290円以上になったときには177,950円が上限です。
随時介護の場合
随時介護とは、下記のような状態を指します。
随時介護の障害の状態
① 精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態に該当する
(障害等級第2級2号の2・2号の3、傷病等級第2級1・2号)
② 障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護を要する状態ではない
随時介護の場合の介護補償給付(介護給付)は、以下のような金額になります。
随時介護の給付内容
介護 | 介護費の支出 | 支給 |
---|---|---|
なし | ー | 原則実費、上限88,980円 |
あり | なし | 一律42,700円 |
あり | あり | 最低42,700円、上限88,980円 |
親族・友人・知人の「介護なし」の場合、原則、88,980円を上限とした介護費用の実費請求が可能です。
親族・知人・友人の「介護あり」で、介護費用の「支出なし」の場合、一律42,700円が認められます。
親族・知人・友人の「介護あり」で、介護費用の「支出あり」の場合、最低42,700円が一律で支払われ、42,700円以上になったときには88,980円を限としてかかった実費が支払われます。
請求手続き、支給金額の詳細について知りたい方は、厚生労働省「介護(補償)等給付の請求手続」のページをご覧ください。
遺族補償給付(遺族給付)
労災保険の遺族補償給付(遺族給付)は、労働者が死亡したときの給付のことです。
受給資格
- 被害者が死亡当時、被害者の収入によって生計を維持(※1)
かつ - 被害者の配偶者・子・父母・孫・祖父母または兄妹姉妹であり、一定の要件を満たす者(※2)
※1 生計を維持していたかどうかは、被害者との同居の状況で判断されます。共稼ぎの配偶者であっても、受給対象者となり得ます。
※2 受給権者となるには、以下の要件を満たす必要があります。
受給権者となる要件
要件(いずれか) | |
---|---|
妻 | ・無条件 |
夫 父母 祖父母 | ・55歳以上*¹ ・一定の障害の状態*² |
子 孫 | ・18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間 ・一定の障害の状態 |
兄弟姉妹 | ・55歳以上 ・18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間 ・一定の障害の状態 |
*¹ 55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹は、60歳になるまでは、遺族補償給付のうち「遺族補償年金(遺族年金)」の支給は停止される(若年停止)。ただし、遺族補償給付のうち「一時金」は受け取れる可能性はある。
*² 一定の障害とは、障害等級5級以上に該当する身体障害がある状態、心身障害で労働に一定の制限がある状態を指す。
遺族補償給付(遺族給付)の支給金額
遺族 | 金額 |
---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分※ |
2人 | 給付基礎日額の201日分 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 |
※遺族が55歳以上の妻または一定の障害のある妻の場合は、給付基礎日額の175日分。
なお、遺族補償年金を受ける遺族がいないときや受給資格のある者がすべて失権したときに金額が一定額に満たないときには、一時金が支払われます。
葬祭料・葬祭給付
労災保険の葬祭料・葬祭給付は、労働者が死亡し、葬祭を行ったときの給付のことです。
自賠責・任意保険でいうところの「葬儀費」にあたります。
葬祭料(葬祭給付)の支給対象は、葬祭を行うにふさわしい遺族です。
葬祭を執り行う遺族がなく、社葬として被災労働者の会社が葬祭を行った場合は、その会社に対して葬祭料(葬祭給付)が支給されます。
葬祭料(葬祭給付)の支給額は、以下の金額のうち、いずれか高い額になります。
葬祭料(葬祭給付)いずれか高い方
- 31万5000円+被害者の事故前における平均賃金の30日分
- 被害者の事故前における平均賃金の60日分
葬祭料(葬祭給付)の手続書類
葬祭料(葬祭給付)の手続き書類は、以下のとおりです。所轄の労基署長に提出します。
葬祭料(葬祭給付)の手続書類
厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」より抜粋の上、紹介。
その他の手続き書類として、死亡診断書、死体検案書、検視調書等の添付が必要です。ただし、遺族補償給付(遺族給付)の請求書とともに提出済みの場合は不要です。
埋葬料(埋葬給付)の請求手続きには、期限(時効)があります。死亡の翌日から2年です。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士


高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了