通勤災害とは？手続き・書類・認定要件と労災がおりない時の対応

更新日：2024/09/25

• 労災保険の請求手続き
• 通勤途中に怪我をした

監修者：アトム法律事務所 代表弁護士
岡野武志

第二東京弁護士会所属。事故に遭ってしまったらまず何をすれば良いのか、また今後どうなっていくのかご存じの方は少ないのが現状です。
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通勤災害とは、家から職場へ向かう途中、職場から家に帰る途中、仕事に関連する移動中などに起こる事故や怪我のことです。

通勤災害の具体例としては、交通事故、転倒事故などがあり、仕事中の事故と同じように治療費や休業中の補償を受けられる可能性があります。

通勤災害の手続きとしては、病院で治療を受け、労災指定の請求書を病院または労働基準監督署に提出する流れになります。

ただし、重傷事故や死亡事故など、通勤災害による損害に応じて手続きや必要書類が変わるので注意が必要です。

この記事では通勤災害の申請に必要な書式と手続きの流れをまとめています。最後まで読んで、通勤災害の手続きの流れをつかんでいきましょう。

通勤災害とは何か？

通勤災害は労働災害のひとつ

通勤災害とは、通勤途中の負傷、疾病、死亡のことで、労働災害のひとつです。

労働災害は業務災害と通勤災害に区別されており、労災認定を受けるための申請書式や一部の給付条件について違いがあります。

労働災害の区別

なお、通勤災害のように見えるけれど業務災害の場合もあります。

具体的には、同一の雇用先の別店舗に移動する場合や、会社が用意した通勤バスで移動する場合は、あくまで雇用契約関係において使用者の支配下にある状態と考えられ、通勤災害ではなく業務災害とみなされるのです。

ご自身のケガについて業務災害の可能性があるという方は、業務災害とは何かを分かりやすく説明した関連記事『業務災害にあってしまったら｜複雑な労災保険制度を弁護士が解説』をお役立てください。

通勤災害として認められる3要件

通勤災害として認定されるためには、通勤中に被災したことを示さなくてはいけません。通勤の定義は以下の3つで、いずれか1つに当てはまっている場合は通勤とみなされます。

3つの定義いずれかに該当するだけでなく、通勤経路が就業に関しており、合理的な経路・方法でなくてはいけません。

就業場所から他の就業場所への移動とは、複数の雇用関係をもち、別々の雇用先へ向かう場合が該当します。具体的には仕事の掛け持ちや副業している人などです。

A店舗で勤務しており、会社の命令でその日だけB店舗へ勤務をするべく移動していた場合に事故にあったときは、通勤災害ではなく業務災害とされるでしょう。

合理的な経路・方法とは？

合理的な経路・方法とは、労働者が通勤に通常利用すると考えられる経路や方法のことです。

通常のルートを迂回して事故にあった場合、通常のルートの利用が困難であったという合理的な事情・説明が必要となるでしょう。

また、経路については、寄り道が一定の範囲内であるとき、その行為が終わりしだい通勤経路に復帰したと見なされます。以下はその一例です。

通勤災害として認められない場合

ふだんの通勤経路で被災しても、就業と関連性のない行為をしてしまうことで、労災認定がおりない可能性があります。帰宅途中の寄り道には注意が必要です。

自宅と逆方向にある商店街へ向かっている途中は、あくまで通勤経路から逸脱していると見なされます。逸脱中のケガは通勤災害には当たらないと判断された事例があるのです。

一方で、買い物を終えて元々の経路に戻った後の負傷であれば、通勤災害と見なされた可能性もあります。

また、会社の慰労会・懇親会の帰り道の災害は個別の背景によって判断がわかれるところです。通勤災害に認められなかった事例の特徴としては、慰労会への参加が強制されておらず、会社が費用を出しているわけでもないことなどがあげられます。つまり、業務との関連性が薄いと見なされるのです。

一方で、社屋内で定期的に開催されていた懇親会があり、会社が費用を負担していたこと、被災者が会合を統括する役目を負っていたことなどから、懇親会帰りの通勤災害が認められたケースもあります。

関連記事『寄り道は通勤災害？コンビニや自転車通勤など経路外の具体例と請求内容』は、より細かく寄り道のケースごとに通勤災害認定の可能性を解説していますので、参考にしてみてください。

通勤災害で治療を受けた時の手続きと必要書類

通勤災害のケガについて病院で治療を受けたときには、労災申請の書式「様式第16号の3」もしくは「様式第16号の5（1）」を提出しましょう。

あるいは、治療以外にも薬局で処方を受ける、訪問看護を受けるなどの場合には別途書類の提出が必要です。

労災指定病院で治療を受けた場合

労災指定病院で治療を受けた場合は、労災指定病院に対して「療養給付たる療養の給付請求書【様式第16号の3】」を提出してください。

労災指定病院の窓口では治療費や医薬品代を支払う必要はありません。治療行為を受けること自体が労災の給付となります。

労災指定病院以外で治療を受けた場合

労災指定病院以外で治療を受けた場合は、労働基準監督署に対して、「療養給付たる療養の費用請求書【様式第16号の5（1）】」を提出してください。

なお、労災認定を受けている場合は治療に健康保険は使えません。

労災指定病院以外では、被災者が治療費を窓口で全額立て替える必要があります。医療機関で発行された領収書は必ず保管しておきましょう。

手続きの流れは次の通りです。

もし労災認定を受ける前にいったん健康保険を使って治療を受けたなら、労災認定後すみやかに健康保険から労災保険への切り替えを行ってください。

治療以外で費用がかかった場合

また、薬局で処方を受けたり、柔道整復師の施術を受けたりした場合は別途書類の提出が必要です。

• 薬局で薬を処方してもらった
• 柔道整復師の施術を受けた
• はり師、きゅう師、あん摩・マッサージ師から施術を受けた
• 訪問看護事業者による訪問看護を受けた

通勤災害の怪我で仕事を休んだ時の手続きと必要書類

通勤中の負傷により仕事を休まざるを得ないとき、給与が支払われないときにかぎって、労災保険からの給付が受けられます。給付を受けるための手続きは以下の通りです。

通勤災害のケガで給与を受けられない場合

通勤災害のケガで給与を受けられないときには、休業給付支給請求書【様式第16号の6】を労働基準監督署に提出します。

なお、休業給付に関しては給付開始時期と金額に注意点があります。

給付開始時期と金額の注意点

休業給付はそもそも満額支給ではありません。休業給付の金額は被災者の被災前3ヶ月の給与を元に日額を算定し、休業日数分だけ受け取ります。

労災保険から給付される休業給付の計算方法・給付の詳細については、関連記事でくわしく解説していますので、参考にしてみてください。

労災保険の休業給付は満額もらえない

労災保険から給付される休業給付は日額の80%支給となり、残りについては労災保険の給付外です。

通勤災害によって休業した分について、満額の補償を受けるなら、通勤災害の発生原因である第三者に民事上の責任を求めて損害賠償請求することになるでしょう。

ちなみに、労災保険から給付される80%のうち、20%は社会復帰促進事業の一環で支払われています。つまり労災保険から損害に対する補てんとしては、実質60％しか支払われていないのです。

以上のことより、民事上の責任を求めて損害賠償請求する場合、最大40％の請求が可能です。

通勤災害で重傷や死亡したときの手続きと必要書類

重傷を負って治療期間が長い場合

通勤災害で負った怪我が重く、1年6ヶ月以上休業している場合には休業給付から傷病給付へ移行する可能性があります。傷病給付の対象となる2つの条件は次の通りです。

1. 1年6ヶ月経っても治癒していない場合
2. 傷病等級第1級から第3級のいずれかに該当する場合

傷病給付を受け取る手続きは被災者からの申請ではなく、労基署長の判断によります。傷害給付が支給されると休業給付は受けられません。

後遺症が残った場合

通勤災害での負傷が治らず後遺症として残った場合には、障害給付を受けるための手続きが必要です。

労働基準監督署に「障害給付支給請求書【様式第16号の7】」、後遺障害診断書、そのほか検査結果や資料を提出しましょう。

主治医から「症状固定（治ゆ）」と判断されたときには、障害給付の申請手続きの開始時期です。

障害給付は「後遺症が残った」という状態だけでは支給されません。後遺症が「後遺障害」と認定されて初めて支給されます。

障害給付を受ける手続きの流れは以下の通りです。

労基署に「障害給付支給請求書」を提出する際には、後遺障害等級認定の審査をきちんとしてもらうために必要な書類を添付してください。

医師による後遺障害診断書、レントゲン写真やMRI画像検査結果など、後遺症の状況を客観的に証明する資料が必要です。

後遺障害が存在すると認定されるために、どのような手続きを行うべきかについては『労災の後遺症認定の書類審査・面談の要点！振り込みの時期はいつ？』の記事をご覧ください。

障害年金の前払いは受けられる？

前払い金の請求には「障害補償年金・障害年金前払一時金請求書【年金申請様式第10号】」を労基署に提出してください。

障害年金は1回に限って前払いで受け取れます。障害給付の請求と同時申請が原則ですが、次の条件をいずれも満たしているときは後からでも申請可能です。

1. 年金支給決定の通知があった日の翌日から1年以内
2. 傷病の治った日の翌日から2年以内

なお、障害年金の申請期限や受給期限、金額については関連記事『労災年金の金額・要件と申請期限・給付期間｜厚生年金と両方受け取れる？』の解説をお役立てください。

介護が必要な状態になったら？

「介護補償給付・介護給付支給請求書【様式第16号の2の2】」と添付書類を労働基準監督署に提出しましょう。

重度の後遺障害が残り、被災者への生命や生活の維持に介護が必要になった場合、一定以上の状態であれば障害給付が受けられます。

障害給付の申請手続きは次の通りです。

介護に要した費用がある場合は「介護に要した費用の額の証明書」、医師の診断書並びに介護費用の支払内容がわかる証明書（支払っている場合のみ）も添付しましょう。

なお介護給付の対象は常時介護または随時介護が必要な場合とされており、およそ後遺障害1級または2級のなかでも、非常に重いものに限られます。

また、常時介護・随時介護が必要な状態で、病院や診療所には入院せずに、民間の有料介護サービスや親族または友人・知人から実際に介護を受けている必要があります。

常時介護

1. 精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態（後遺障害等級第1級3号、第1級4号または傷病等級第1級1号、第1級2号）
2. 1と同程度の介護が必要な状態
   両目の失明とともに障害または傷病等級第1級・第2級の障害を有する
   両上肢および両下肢の亡失または用廃の状態にある

随時介護

1. 精神障害・胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態（後遺障害等級第2級の2号、第2級2号の3又は傷病等級第1級第1号、第1級2号）
2. 障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護にあたらないもの

死亡事故となった場合

通勤災害の被災者が死亡した場合、遺族年金、葬祭給付、特別支給金が支給されます。

遺族年金の申請には「遺族年金支給請求書【様式第16号の8】」、葬祭給付には「葬祭給付請求書【様式第16号の10】」、一時金の受け取りには「遺族一時金支給請求書【様式第16号の9】」を提出してください。

遺族年金を受けるための手続きは以下の通りです。

遺族年金支給請求書を提出する際には、死亡診断書、戸籍謄本などのほか死亡本人の収入で生計を維持していたことがわかる書類も併せて提出しましょう。

ほかにも労基署から書類の提出を求められる場合があります。書式については、厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」をご覧ください。

労災事故によって家族が死亡してしまった場合、遺族年金の受給資格には順番があります。また、突然の訃報で遺族が困窮しないよう、前払いで一定の保険金を受給できる点もポイントです。

関連記事で詳細に解説していますので参考にしてみてください。

通勤災害の認定がおりない時の手続きは？

通勤災害の認定がおりないときは、労基署に不服申し立てが可能です。

通勤災害の認定基準を満たしているのかを再度確認して、認められなかった理由を検討し、必要に応じて説明書類を添付するなどして改善を図りましょう。

不服申し立て手続き

通勤災害認定がおりないという処分があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内であれば、審査をやり直してもらう「審査請求」の手続きが可能です。

原則、審査請求の相手は労働保険審査官ですが、審査請求をした人の住所または居住地を所轄する労働基準監督署長を経由しても請求できます。なお、審査請求の方法は書面または口頭で可能です。

不服申し立ては次の通り、審査請求、再審査請求、不支給処分取消行政訴訟へと進みます。

審査請求の結果に納得がいかない場合には、再審査請求ができます。再審査請求は口頭は不可で、書面が必要です。また、審査請求の決定を受けた日の翌日から2ヶ月以内でなければ、再審査請求できません。

審査請求と再審査請求にも違いがあるので、不服申し立てをするときには、全体像を把握しておくとスムーズです。不服申し立ての詳細な解説は、関連記事をご覧ください。

通勤途中で交通事故にあった場合の手続き

交通事故は第三者行為災害として届け出る

通勤途中で交通事故にあった場合は、第三者行為災害として、労災保険から保険給付を受けられると同時に、加害者である事故相手（第三者）に対して損害賠償請求できます。

第三者とは労災保険の当事者（政府、事業主、受給権者）を除く人物のことです。第三者行為災害の場合は、その災害を引き起こした事故相手も、労働者に対して損害賠償義務を負います。

第三者行為災害の場合、次の書類を労基署に提出してください。

• 第三者行為災害届（届その1）
• 念書（兼同意書）
  *そのほかの書類の提出も必要な場合があります。詳しくは厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」をご覧ください。

第三者行為災害とは？

労災保険の給付の原因となる事故が、第三者（労働者・国・会社）など労災保険の当事者以外によって生じたもので、第三者に損害賠償義務があるものをいいます。

交通事故は第三者行為災害にあたるのです。

交通事故の相手方の保険会社から賠償を受ける

通勤災害が交通事故の場合は、労災保険だけでなく、相手方の自賠責保険や任意保険からも賠償金を受け取ることができます。

とくに慰謝料は労災保険からは支払われないため、相手方の保険会社に対して請求すべきです。

慰謝料の金額は、ケガの程度、治療期間といった要素で決まり、公平性の観点から一定の相場があります。

通勤災害における慰謝料請求の金額については、関連記事『通勤災害と慰謝料｜相場はいくら？慰謝料は労災保険からもらえない？』を参考にしてみてください。

事故相手の保険会社との交渉は弁護士に相談！

相手の加入する任意保険会社は、法的に認められうる金額よりも低い水準で慰謝料を提案してくることが大半です。

よって、慰謝料は交渉によって適正額まで引き上げることが必要です。しかし事故の被害者や遺族が交渉してもスムーズに増額に応じてくれるとは限りません。

そこで、交通事故の慰謝料請求については、法律の専門家である弁護士に交渉を任せることが最適です。

弁護士に任せることで増額交渉を任せられるだけでなく、ご自身は仕事に専念できたり、スムーズに家事に集中できます。こうした時間のゆとりを持てることも、弁護士依頼のメリットです。

相手方の保険会社に対する慰謝料請求については、アトム法律事務所で無料相談を受けられる場合がありますので、下記ページよりお気軽にお問い合わせください。

損害賠償請求額から労災保険は差し引く

通勤災害が交通事故であれば、第三者自身や自賠責保険などの自動車保険に請求が可能ですが、労災保険との二重取りは認められません。

二重取りとは、同一の損害に対して両方から給付や損害賠償を受けることをいいます。

たとえばケガの治療において労災保険から療養給付を受けつつ、事故の相手方に対しても治療費を請求することは、二重取りにあたるため認められません。

こうした労災保険と損害賠償の調整についての詳細を知りたい方は関連記事をお読みください。

まとめ｜通勤災害の損害賠償請求は弁護士に相談

通勤災害の給付を受けるための手続きには、請求内容に応じた書式だけでなく、さまざまな資料の添付が必要です。スムーズな給付を受けるためには、書類をきちんと揃えることが重要になります。

給付手続きは厚生労働省からのパンフレットなどを読むと同時に、不備がないかを事前に確認しておきましょう。

また、損害賠償請求を検討されている方は、労災問題を取り扱っている弁護士への相談をおすすめします。

通勤災害で重大な後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりして、損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。第三者に請求するべき慰謝料・逸失利益などがいくらなら妥当なのか弁護士に聞いてみましょう。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

監修者

アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験（旧61期）に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業：弁護士（第二東京弁護士会所属：登録番号37890）、税理士

学位：Master of Law（LL.M. Programs）修了