労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる | アトム法律事務所弁護士法人

労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる

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労災の支給内容に納得できない!不服申し立て

労災の申請をしたのに労働基準監督署が労災保険給付を認めなかった、労災保険給付の支給決定がなされたものの支給内容が納得できない、または、支給の打ち切りが決定されたといったケースがあります。
このように、労災申請に関する決定に不服がある場合には、不服申し立てを行うことが可能です。

この記事では、労災申請に関する決定に不服がある場合の審査請求、再審査請求、行政訴訟について解説します。

労災申請の決定に対する3つの不服申立て

労災申請に関する結果に不服がある場合の対処法は、以下の3つです。

  1. 審査請求
  2. 再審査請求
  3. 行政訴訟

それぞれの内容について解説します。

不服申立て(1)審査請求

審査請求における手続きの流れ

審査請求とは、労災申請に関する決定に不服がある場合に、もう一度審査をやり直してもらう手続きです。審査請求は、労災の認定などの決定を確認した日の翌日から3ヶ月以内に行う必要があります。

審査請求ができるのは、労災の当事者あるいは遺族です。労災の認定や支給内容の決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して行いましょう。

審査請求を受けると、審査官が請求人からの聴き取りや記録の検討を行い、判断がなされます。

審査官が労働基準監督署の決定が違法あるいは不当であると判断した場合は、労働基準監督署の決定の一部あるいは全部の取消を行います。
一方で、労働基準監督署の決定が違法でも不当でもないと判断した場合は、審査請求に対する棄却を行います。

審査官の審査請求に対する判断の基準は、労働基準監督署と同様に国が定めた基準です。労災の認定に関する新たな証拠が発見されるなどがない限り、労働基準監督署の判断が覆される可能性は低いといえるでしょう。

2012年における労災関連の審査官の決定では、832件中取消が65件、棄却が753件、却下が14件となっています。

審査請求を行うために準備すべきこと

労働基準監督署がどのように判断を行ったのかを知っておこう

審査請求を行うための準備として、労災認定の判断に関して労働基準監督署がどのような調査を行い、どのような証拠を根拠としたのかを知っておきましょう。

労災認定の審査結果については決定通知書として送付されますが、審査結果の根拠に関する記載は簡易なものとなっています。
そのため、何らかの方法により詳細な根拠を知っておくべきです。

労働基準監督署の判断や調査方法を知る方法は、以下のようなものとなります。

  1. 担当調査官に直接確認する
    面談や電話などで確認しましょう。ただし、常に教えてくれるとは限りません。
  2. 労働基準監督署からの意見書を確認する
    審査請求を行うと送付されてきます。しかし、根拠が不十分な場合があります。
  3. 保有個人情報開示請求を行う
    個人情報保護法にもとづいて、調査に利用した資料の開示を求めることが可能な場合があります。
    手続きが複雑なことに注意しましょう。

労災の認定基準や支給決定の要件を確認しておこう

審査請求において適切な主張を行うためには、労災が認定される基準や、労災保険給付が支給されるための要件について理解しておかなくてはなりません。

労災については、業務災害と通勤災害のどちらに該当し、該当するための基準がどのようなものであるのかを知っておきましょう。詳しく知りたい方は以下の関連記事を参考にしてください。

そして、労災であると認定されても、希望している労災保険給付が支給される要件を満たしてないと判断されては意味がありません。

特に、障害(補償)給付を受けるために必要な後遺障害等級認定については、希望する等級認定を受けるための要件や証拠の収集方法についてしっかりと理解しておくべきでしょう。後遺障害等級認定について詳しく知りたい方は『労災による後遺症が後遺障害として認定される方法と給付内容を解説』の記事をご覧ください。

また、労災支給の打ち切りに対して審査請求を行う際には、打ち切りがなされるケースについて理解しておくべきでしょう。
詳しく知りたい方は『労災保険が打ち切りになるケースとは?2つの対応策とともに解説!』の記事をご覧ください。

原処分の取り消しに対しては審査請求を

審査請求により審査請求人の主張が認められると、労働者災害補償審査官が原処分の取り消しの決定を行います。

しかし、この決定によって常に審査請求人の希望通りの結果が生じるとは限りません。
審査請求人の主張の一部しか認められていない場合には、生じる結果に納得がいかないこともあるでしょう。

このような場合に、不服申し立てを行うのであれば、原処分に対して審査請求を行う必要があります。以前の処分とは異なる処分であるため、審査請求を行うことになるのです。

不服申立て(2)再審査請求

再審請求とは、審査請求に対する審査官の決定に不服がある場合や、審査請求から3ヶ月経過しても審査官による決定がない場合に、再度審査を請求する手続きです。審査官による決定があったことを知った日から2か月以内に行う必要があります。

再審査請求は、労働保険審査会に対して文書によって行います。最初に労災の認定を行った労働基準監督署や審査官を経由して再審査請求を行うことも可能です。

審査官が判断を行った審査請求とは異なり、原則として3名で構成された委員による判断がなされます。
委員の前で口頭で意見を行うという手続きがあるため、自身の主張内容をしっかりと述べられるようにしておきましょう。

審査会の判断がなされるまでに、半年から1年程度かかることに注意してください。

再審査請求に対する労働保険審査会の審査や判断基準は、審査官が行う場合と同様です。再審査請求においても、労災の認定に関する新たな証拠が発見されるなどがない限り、労働基準監督署の判断が覆される可能性は低いといえるでしょう。

2012年における労災関連の審査会の決定では、363件中取消が5件、棄却が350件、却下が8件となっています。

不服申立て(3)取消訴訟

審査請求や再審査請求に不服がある場合には、労災の認定などに対する労働基準監督署の決定が違法あるいは不当とする取消訴訟を提起できます。
取消訴訟を起こす相手は国であり、労災の当事者や遺族の所在地を管轄する地方裁判所に対して提起します。

取消訴訟が審査請求や再審査請求と異なるのは、取消訴訟は裁判所の基準により判断が行われるという点です。労働基準監督署や審査官、審査会の判断基準は国ですが、裁判所は国の基準で判断するわけではないため、国の基準を満たしていない場合でも、労災の認定が認められる可能性があります。
ただし、国を相手とする行政訴訟は長期化する恐れがあるので注意しておきましょう。

取消訴訟ができるのは、審査官による審査請求に対する決定、あるいは審査会による再審査請求の採決から6ヶ月以内です。

行政庁による処分に対する取消訴訟は、審査請求をしなくてもできることが原則となっています。(行政事件訴訟法8条)
ただし、個別の法律で審査請求をした後でなければ取消訴訟を起こすことができないと定めている場合は、審査請求をせずに取消訴訟を起こすことはできません。(行政事件訴訟法8条1項但し書き)

労災の認定においては、労働基準監督署の決定に対する処分の取消訴訟は、審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定の後でなければ提起できないとされています。(労働者災害補償保険法40条)

以前は、審査請求だけでなく、再審査請求の裁決後でなければ取消訴訟を起こすことが出来ませんでした。
しかし、2016年の行政不服審査制度の見直しによる行政事件訴訟法の改正で、審査請求の決定があれば再審査請求をしなくても取消訴訟を提起できるように変更されています。

つまり、審査請求の決定の後は、再審査請求をするか取消訴訟を提起するかを選択できるということです。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了