労災保険が打ち切りになるケースとは?2つの対応策とともに解説! | アトム法律事務所弁護士法人

労災保険が打ち切りになるケースとは?2つの対応策とともに解説!

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2つの対応策を紹介!労災保険が打ち切りになるケース

労災保険は、労働者にとっては大変重要な制度です。

就業中や通勤途中の事故、業務に起因する疾病などに見舞われ、病院で治療を受ける必要が生じたり、仕事そのものができなくなったりするケースがあります。労災保険はこのような労働者を対象に、治療費や休業により得られなくなった収入等に関して補償してくれるものです。

このように、労災保険は労働者にとって欠かすことのできない制度ですが、途中で労災保険による給付が打ち切られてしまうケースがあることをご存知でしょうか。

労災保険の給付を打ち切られた人のなかには、どうしても納得できないという人もいらっしゃると思います。

そこで今回は、労災保険による給付はいつまでもらえるのか、また、労災保険の給付を打ち切られた場合にどう対応すべきかということについてわかりやすく解説します。

労災保険給付はいつまでもらえるのか|打ち切られるケースとは

労災保険の給付は、複数の種類に分かれており、給付期間もその種類によって異なります。
なお、名称については、業務中に生じた労災である業務災害の場合は「補償給付」または「補償年金」、通勤途中に生じた労災である通勤災害の場合は「給付」または「年金」となっています。

労災保険の給付を受けられる要件や給付を受けるための申請手続きについて知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

治療費に関する給付|療養(補償)給付

就業中や通勤途中に怪我をしたり病気にかかったりして療養が必要となった場合に支給される、療養のために必要な費用をいいます。

療養(補償)給付の対象となる費用について知りたい方は『労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説』の記事をご覧ください。

原則として、療養(補償)給付は怪我や病気が治るまで、または、症状固定と判断されるまで受け取ることが可能です。

「症状固定」とは、治療を継続したとしても医療効果が期待できず、それ以上症状が改善する見込みのない状態になることです。
たとえば、患部が客観的には治癒しているように見えても、痛みや痺れなどが残っており、治療を継続してもそれ以上に症状が改善する見込みがない場合には、症状が固定したといえます。

症状固定といえるかどうかは、怪我・病気の程度や治療の経過などにより、医師が判断することになるため、労働者が症状固定に関する事項を判断することはできません。症状固定になったと医師が判断すると給付が打ち切りとなるのです。

また、療養(補償)給付については時効があるため注意する必要があります。
具体的には、療養のために費用を支出した翌日から起算して2年が経過すると、時効によりその支払いを請求できなくなるため、しっかりと管理しておくことが必要です。

休業に関する給付|休業(補償)給付

就業中や通勤途中に怪我をしたり病気にかかったことが原因となって仕事ができなくなった場合に支給されるものをいいます。

原則として、休業(補償)給付は就業中の怪我や病気を治療するために労働者が休業している間であれば受け取ることができます。

休業(補償)給付は、症状固定と同時に支給を打ち切られる可能性があるため注意しなくてはなりません。治療の必要性がなくなるため、怪我や病気を治療するために労働ができず休業しているといえなくなるためです。

また、休業(補償)給付については、受給開始から1年6ヶ月が経過した場合において、怪我や病気が治っておらず、かつ、障害の程度が傷病等級にあてはまる場合にはその支給が打ち切られます。
ただし、この場合にはそれまでの休業(補償)給付に代わって傷病(補償)年金が支給されるようになるのです。

休業(補償)給付についても時効があるため注意が必要です。
具体的には、賃金の支払いを受けられない各給料日の翌日から起算して2年が経過すると、時効によりその支払いを請求できなくなります。

休業補償給付の給付額や計算方法を知りたい方は『労災保険の休業補償|給付条件や計算方法を解説!休業損害とは別物?』の記事をご覧ください。

治療期間が長期に渡る場合の給付|傷病(補償)年金

就業中や通勤途中に生じた怪我や病気が、治療後1年6ヶ月を経過しても、症状が固定せず、かつ、その怪我や病気の程度が傷病等級第3級以上に該当する場合に支給されるものをいいます。

傷病(補償)年金は、治療が継続しており、給付がなされる程度の症状が生じている間であれば受け取ることが可能です。
症状固定となり治療の必要性が無くなった場合は打ち切りとなり、障害(補償)給付に切り替わります。

傷病(補償)年金は、労働基準監督署長の職権により支給が決定されるため、労働者が請求権を有しているわけではないことから、時効により消滅することはありません。

後遺症が残った場合に関する給付|障害(補償)給付

就業中や通勤途中に生じた怪我や病気について治療したものの、完治しない場合は後遺症が残ることになります。

そして、後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けた場合には、障害の程度に応じた給付がなされるのです。

障害(補償)給付は、障害の程度に応じて認定される障害等級より支給される給付の内容が異なります。
等級が1~7級の場合は年金として毎年決められた一定の金額が支給され、8~14級の場合は一時金として一度だけ給付金の支給を受けることになります。

年金については、後遺障害の症状が軽減し、年金を受け取ることのできない等級の症状となった場合には打ち切りになることに注意してください。

また、障害(補償)給付は症状が固定した日の翌日から起算して5年が経過すると、時効によりその支払いを請求できなくなるため注意が必要です。

後遺障害の認定を受けるための方法について知りたい方は『労災による後遺症が後遺障害として認定される方法と給付内容を解説』の記事をご覧ください。

遺族に対する給付|遺族(補償)給付

就業中や通勤途中の災害が原因となって死亡した労働者の遺族に対して支給されるものをいいます。

遺族(補償)給付は遺族の数などに応じて、遺族補償年金・遺族補償一時金・遺族特別年金・遺族特別支給金の3種類の補償が支給されます。
年金については毎年決められた一定の金額が支給され、一時金や特別支給金は一度だけ給付金を受けることになります。

年金については、受給できる遺族がいなくなると打ち切りになります。

また、遺族(補償)給付については、被災した労働者が死亡した日の翌日から起算して5年が経過すると、時効によりその支払いを請求できなくなるため注意しましょう。

介護費用に関する給付|介護(補償)給付

傷病(補償)年金または障害(補償)給付の支給を受けられる人のうち、傷病等級・障害等級が第1級である場合、または、第2級で「神経系統や精神・胸腹部臓器の障害」を負っており現に介護を受けている場合に支給されるものをいいます。

介護(補償)給付については、介護の必要性がなくなることで打ち切りとなるでしょう。

介護(補償)給付は月ごとに支給額が算出され、原則として実費が支払われます。
しかし、上限額や最低保証額が定められており、介護の態様に応じて金額が異なるのです。

具体的には、常時介護の場合は最低保障額が7万2990円・上限額が16万6950円、随時介護の場合は最低保障額が3万6500円・上限額が8万3480円となります。

介護補償については、介護を受けた月の翌月の1日から起算して2年が経過すると、時効によりその支払いを請求できなることに注意してください。

退職によって打ち切りとなるのか

労災保険給付を受けている途中で退職しても、労災保険給付は打ち切られません。退職とは解雇になった場合も含みます。

労災保険法においては、労働者の退職によって労災保険給付を受ける権利は変更されないと規定しているためです。

労災保険給付が打ち切りになったら|審査請求や行政訴訟で対応

労災保険給付の打ち切りにあった場合、人によってはまだ治療が続いているなど、打ち切りの決定に不服がある場合もあります。

このような場合、以下のような対応をとることが可能です。

(1)審査請求による対応の方法

労災保険給付の打ち切りに不服がある場合、管轄の都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求を申立てることができます。

もっとも、審査請求は、労災保険給付の打ち切りに係る決定があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内に申し立てることが必要です。

審査請求に対する審査官の裁決に不服がある場合、または、審査請求後3ヶ月を経過しても何ら決定がなされない場合は、労働保険審査会に対し再審査請求を申し立てることができます。

再審査請求は、審査請求に係る裁決書の決定書謄本が本人に送達された日の翌日から起算して2ヶ月以内に申し立てることが必要です。

(2)行政訴訟による対応の方法

審査請求や再審査請求の判断に不服がある場合には、行政訴訟として不支給決定処分に対する取り消しを求めることが可能です。

審査請求における決定書の謄本が送達した翌日、または、再審査請求における裁決書の謄本が送達され日の翌日から6ヵ月以内に訴訟提起を行う必要があります。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了