労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ | アトム法律事務所弁護士法人

労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ

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労災の申請手続き

労働災害に遭遇した際、適切な手続きによって補償を受けることは被害者の権利を守る上で極めて重要です。

本記事では、実際に労災が起こったときの対応のほか、労働基準監督署への申請手続きについても流れに沿って説明します。

労災事故の手続きや申請方法に加えて、労災の基本情報や労災事故に関するよくある質問にもお答えしているので、労災に直面した際の不安を少しでも軽減し、適切な対応ができるよう、本記事をご活用ください。

労働災害とは?労災の基本的な理解と対応

労働災害の定義と範囲

労働災害とは、労働者が業務上の事由または通勤によって負傷し、疾病にかかり、または死亡することを指します。

労働災害は大きく「業務災害」と「通勤災害」の2つに分類されます。

業務災害の概要と具体例

業務災害は、 業務遂行中に被った災害を指します。具体的には、以下のような状況が含まれます。

  • 職場内での事故や怪我
  • 業務中の交通事故
  • 長時間労働による過労死
  • 職場環境に起因する疾病(例:アスベスト被害)
  • 出張中の事故

通勤災害の概要と具体例

通勤災害は 通勤途上で被った災害を指します。具体的には以下のような状況が含まれます。

  • 自宅から職場への往復中の事故
  • 複数の就業場所間の移動中の事故

業務災害と通勤災害の主な違い

業務災害と通勤災害の主な違いは以下の通りです。

業務災害通勤災害
発生場所主に職場や業務遂行中の場所通勤経路上
業務との関連性直接的に業務と関連直接関係なし※
認定基準業務起因性と業務遂行性通勤の定義に合致するか

※業務中ではないという意味において

労働災害の範囲は広く、必ずしも職場内での事故だけに限定されません。例えば、出張中の事故や、業務の延長線上で発生した事故なども労働災害として認定される可能性があります。

一方で、通勤災害は業務中ではないため直接的に業務と関連がなくても、寄り道したり、通勤経路ではなかったりすると労災認定は難しいでしょう。

業務災害と通勤災害の違いを理解することは、労災保険の申請や補償を受ける際に重要です。どちらの場合も、速やかに事業主に報告し、必要な手続きを進めることが大切です。

労働災害が発生した後にすべき対応

労働災害が発生した場合、迅速かつ適切な初動対応が非常に重要です。以下に、労働災害発生時の基本的な対応手順を示します。

労働災害発生時の初動対応

  • 応急処置と医療機関への搬送
  • 医療機関での適切な診断と治療
  • 事業主への報告
  • 事故状況の記録

応急処置と医療機関への搬送

労災が発生した時は自身の安全を最優先し、他に巻き込まれた人がいればば必要な応急処置を行いましょう。

重症の場合は周囲の人に救急車の要請を依頼することが大切です。軽症の場合でも、速やかに医療機関を受診してください。

なお、労災病院や労災指定病院を受診すると今後の手続きは簡便になることが多いです。

もし窓口での費用負担が発生する場合、健康保険は利用できません。病院を受診する際は労災であることを明確に伝えましょう。いったん費用を立て替えた場合は領収書を保管してください。

医療機関での適切な診断と治療

労災保険の適用を考慮し、業務上の事故である旨を医療機関に伝えるようにしましょう。

医師が発行する診断書のほか、窓口での治療費負担が発生した時には治療費の領収書は必ず保管してください。

事業主への報告

できるだけ早く事業主や上司に事故の発生を報告しましょう。事故の状況、負傷の程度、搬送先または受診した医療機関などを正確に伝えるようにしてください。

「なんとなく言いづらい」と黙っていることは、かえって勤め先に迷惑をかけることになりかねません。「労災隠し」をした事業主にはペナルティが与えられる可能性があります。

事故状況の記録

可能な限り事故発生時の状況を詳細に記録しておきましょう。写真や動画がある場合は保存し、目撃者がいる場合は話を聞いておくことも有効です。

これらの初動対応を適切に行うことで、労災保険の申請や後の賠償問題への対応がスムーズになります。特に、事故状況の記録は後々の証拠として非常に重要になるため、できる限り詳細に記録することをおすすめします。

労災保険制度の概要と適用範囲

労災保険制度は、労働者が業務上の事由または通勤によって負傷、疾病、障害、死亡した場合に、必要な保険給付を行う制度です。この制度は、被災労働者やその遺族を保護し、適切な補償を提供することを目的としています。

この制度の主な特徴は以下の通りです。

労災保険制度の特徴

  • 強制加入:原則労働者を一人でも雇用している事業は加入が義務付けられています。
  • 事業主負担:保険料は全額事業主が負担します。労働者の負担はありません。
  • 無過失責任:労働者の過失の有無にかかわらず、業務上の事由による災害は補償の対象です。

労災保険の適用範囲

労災保険の適用範囲は非常に広く、以下のような場合も含まれます。

  1. 正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも対象
  2. 派遣労働者や請負労働者も、一定の条件下で対象となる
  3. 事業主や一人親方なども、特別加入制度により任意で加入可能
  4. 海外派遣労働者も、特別加入により保護の対象となる

よって、正社員だけでなく、パート・アルバイト、派遣社員なども労災保険を利用できます。

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労災保険が補償する損害の範囲

労災保険の補償範囲は幅広く、比較的軽傷なものから後遺障害・死亡事故という重大な損害を受けた場合にも補償されます。

給付の種類給付の内容
療養補償給付治療に必要な費用を給付
休業補償給付休業中の生活保障として給付
障害補償給付障害が残った場合に給付
遺族補償給付死亡した場合に遺族へ給付
介護補償給付常時または随時介護を必要とする場合に給付

労災保険制度を正しく理解し活用することで、労働災害に遭った際の経済的・精神的負担を軽減することができます。

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労災認定の3つのポイント

労災認定は、労働基準監督署がおこないます。労災保険給付の可否がどのように決まるのか、認定のポイントを理解しておくことが重要です。

主な労災認定のポイントを示します。

労災認定のポイント

  1. 業務起因性:傷病が業務を原因として発生したものであるか
  2. 業務遂行性:傷病が事業主の支配下ある際に発生したものであるか
  3. 因果関係:業務と傷病との間に相当因果関係があるか

こうしたポイントについて、労働基準監督署は詳細な調査と審査を行います。

因果関係とは、その労災事故によって生じた損害であるかということです。

たとえば、工場の機械に腕を挟まれてしまった事故において、腕の骨折だけでなく、腰痛や足のしびれなどを労災申請しても因果関係がないとされ、労災とはいえません。

労災の認定基準をよりくわしく解説した関連記事も併せて読むとさらに理解が深まります。

労災保険の申請方法|スムーズな手続きのためのポイント

労災保険申請に必要な書類と準備

労災の報告は会社におこないますが、実際に労災保険の利用申請先は労働基準監督署です。

労災保険の申請を円滑に進めるためには、必要な書類を漏れなく準備することが重要になります。

基本的には労災保険の申請書類には決められた書式があります。

業務災害による場合の書式

請求書書式
療養補償給付様式第7号
柔整用 様式第7号(3)
はり・きゅう用 様式第7号(4)
休業補償給付様式第8号
障害補償給付様式第10号
傷病補償年金様式第16号の2
介護補償給付様式第16号2の2
遺族補償給付様式第12号
葬祭料様式第16号

通勤災害による場合の書式

請求書書式
療養給付様式第16号の5
柔整用 様式第16号の5(3)
はり・きゅう用 様式第16号の5(4)
休業給付様式第16号の6
障害給付様式第16号の7
傷病年金様式第16号の2
介護給付様式第16号2の2
遺族給付様式第16号の8
葬祭給付様式第16号の10

これらは厚生労働省のホームページにて書式も用意されています。

そのほか申請書式とは別に、その請求の根拠となる資料の提出が必要となる場合があります。

たとえば、労災事故の治療のために働けず、賃金を得られていないときには、休業補償給付を請求可能です。この場合は賃金台帳、出勤簿の写しなど、休業補償給付の金額算定に必要な資料を提出しましょう。

下表には申請書類のほかに必要とされる添付書類の一例をまとめます。

療養(補償)給付治療費や医薬品代の請求書など※
休業(補償)給付賃金台帳や出勤簿の写しなど
障害(補償)給付後遺障害診断書、検査結果など(レントゲン・MRIなど)
遺族(補償)給付死亡診断書、戸籍謄本など
介護(補償)給付介護費用の証明書など

※労災病院または労災指定医療機関以外を受診した場合

このほか障害年金を受けている場合にはその証明が必要になるなど、追加で書類が必要になる場合もあります。

必要書類の確認については労働基準監督署に問い合わせてみたり、勤め先の担当者に聞いてみたりして、スムーズな申請を心がけましょう。

なお、事業主が作成する書類もあるため、事業主の協力が不可欠です。しかし、事業主が非協力的な場合でも、労働者自身で申請することは可能です。

労災保険における請求書は、業主等の証明欄に氏名や住所の記載があれば押印が無いものであっても受付がなされます。

労災保険の申請から給付を受けるまでの流れ

労災保険の申請手続きは、以下の流れで進行します。

労災保険の申請手続き

  1. 事故発生後、速やかに事業主に報告
  2. 医療機関で受診し、労災である旨を伝える
  3. 必要書類の収集と作成
  4. 労働基準監督署への申請書類の提出
  5. 労働基準監督署による調査
  6. 労災認定の決定
  7. 保険給付の開始

この流れの中で、特に注意すべきポイントは以下の通りです。

後遺障害が残った場合の申請書類について

労災保険への障害補償給付の申請をすると、後遺症が後遺障害にあたるのかという審査がなされます。この審査は後遺障害診断書の内容が大きく影響します。

普段から医師とのコミュニケーションをしっかりおこない、指示を守って通院治療を受けること、業務との関連性を詳しく説明することが重要です。

また後遺障害診断書だけでなく、レントゲンやMRIなどの検査結果で症状の実情を伝えることが必要になります。

労災事故の後遺障害認定については、関連記事『労災の後遺障害とは?障害等級の認定基準と金額早見表、給付の流れ』でくわしく解説しています。障害等級しだいで労災保険からの受給額が変わるので、より適切な等級認定を目指しましょう。

労働基準監督署による労災審査の流れ

労災認定においては、個々の案件の特性に応じて柔軟に対応されます。労働基準監督署は、公平かつ適切な判断を下すために必要な全ての情報を収集し、慎重に審査されるのです。

以下には一般的な労災審査の流れを示しますが、事案によっておこなわれないものもあります。

労災の審査の流れ

  • 申請書類の受理と内容確認
  • 労働基準監督署による初期調査
  • 事実関係の調査(事業場への実地調査、被災労働者への聴取、関係者(目撃者等)への聴取)
  • 医学的見解の収集(主治医への意見聴取、追加資料の要求)
  • 専門家による医学的判断(複雑な案件の場合)
  • 認定の可否の判断
  • 決定通知の送付
  • 必要に応じて専門医の診断

事故発生時の状況や業務内容について、できるだけ詳細な記録を残しておくことが大切です。

また、事故当時にどんな様子だったのか目撃者がいれば証言してもらうように、協力を依頼しておくことも有効でしょう。

労災事故の申請に関してよくあるQ&A

労災の書類は誰が書く?

労災の申請書類は、原則として本人または家族が作成します。

しかし、怪我の程度が重にため本人が書類作成困難であったり、家族の手伝いが期待できないといったケースも考えられ、会社に担当者がいる場合は、代わりに書類を作成してくれることも多いです。

いずれにしても、申請書類には事業主が記載する箇所があるため、まずは会社に確認することをおすすめします。

労災はあとから申請できる?

労災保険はあとから申請できますが期限があります。療養補償給付、休業補償給付、介護保障給付の請求期限は2年間です。障害補償給付、遺族補償給付の申請期限は5年です。

期限を過ぎると請求権が時効により消滅するため、速やかな申請が重要です。なお、年単位で放置してしまうと証拠の紛失リスクが高まるので、早めに対応しましょう。

期限の起算日や期限を過ぎてしまったときの対処法については、関連記事『労災申請の時効期限は2年と5年|期限切れ時の対処法と請求手続き』でくわしく解説しています。

労災申請にはどれくらいかかりますか?

労災申請の給付内容次第ですが、1ヶ月から4ヶ月ほどかかる場合があります。

具体的に言えば、治療費や給与補償にあたる療養補償給付・休業補償給付は約1ヶ月ほど、障害補償給付は約3ヶ月ほど、遺族補償給付や約4ヶ月ほどが想定されるでしょう。

労災保険の給付内容期間の目安
療養補償給付
療養給付
約1ヶ月
休業補償給付
休業給付
約1ヶ月
障害補償給付
障害給付
約3ヶ月
遺族補償給付
遺族給付
約4ヶ月

一部には労災認定の期間が長引く場合もあります。関連記事『労災認定されるまでの日数はどのくらい?審査期間が長引くケース』ではより細かく解説していますので、認定期間に不安がある方は参考にしてみてください。

勤務時間が短いアルバイトも労災保険を使えますか?

雇用形態や勤務時間の長短に関わらず、労働者を一人でも雇用している事業所であれば、原則として全ての労働者が労災保険の対象となります。

うつ病などの精神疾患も労災認定されますか?

うつ病などの精神疾患も、一定の条件を満たせば労災として認定される可能性があります。労働災害は身体的な傷害だけでなく、精神疾患も対象です。

ただし、被害者が精神疾患をわずらったとして診断書を提出するだけでは難しいでしょう。

仕事の量や質の変化、長時間労働の有無、ハラスメントの有無、強いストレスのかかる事故や災害の体験などがあったかなど、個別のケースごとに慎重に判断されます。

精神疾患の労災認定基準を知り、ご自身の場合が基準を満たすものなのかを確認することで、労災認定の可否について見通しを立てることが可能です。

関連記事

労災が認定されなかった場合、どのような対応ができますか?

労災認定されなかったり、障害補償給付の認定を受けられなかった場合、不服申し立てにより審査請求を行うことができます。審査請求では、新たな証拠の提出や主張を行うことが有効です。

関連記事『労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる』では具体的な不服申し立ての流れ、いつまで不服申し立てできるかをわかりやすく説明しています。

労災保険から慰謝料は支払われないのですか?

労災保険の給付内容に慰謝料は含まれていません。労災事故後の賠償として慰謝料を請求したいなら、労災保険からの給付ではなく、民事損害賠償の請求が必要です。

労災保険民事賠償
目的迅速な保護と救済完全な損害回復
補償内容法定の保険給付実際の損害額に基づく
過失の有無関係なし関係あり

労災保険は迅速な救済を目的としているため、給付額をあらかじめ定めています。そのため、実際の損害額を下回ってしまい、労災保険の給付は不十分になるケースがあるのです。

多くの場合はまず労災保険の申請後、必要に応じて民事賠償請求を検討するという流れになります。

もっともすべての労災事故で損害賠償請求できるわけではありません。会社や第三者の過失に原因がある労災事故については、過失がある者に対して請求が可能です。

会社に労災の責任がある場合とは?

会社であれば、安全配慮義務違反が争点になりやすいです。

会社側は労働者が安全に働ける環境づくりをする義務があります。その義務を怠ったことで事故が起こったならば、会社に賠償責任が生じるのです。

第三者に労災の責任がある場合とは?

第三者に対しては、第三者の故意や過失により労災事故が起こった場合があげられます。もっとも第三者個人に請求しても、十分な賠償を受けられないことは多いでしょう。

もし使用者責任を問うことができるなら、第三者個人ではなく、会社への賠償請求を検討すべきです。

労災の手続きや申請のまとめ

労災が発生したら、治療を受けることと会社への報告を必ず行いましょう。労災の手続きは労働者自身で行うことが原則ですが、会社に担当者がいる場合はサポートを受けられる場合があります。

労災申請の手続きは労働基準監督署におこない、審査を経て労災認定されれば、労災保険を受給可能です。ただし労災事故の損害全てをカバーできない場合もあり、ときに労災事故は損害賠償請求の検討が必要になる場合があります。

関連記事では労災保険の申請や制度などの相談を受けてくれる公的機関をいくつか紹介しています。あわせて参考にお読みください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了