労災保険の加入条件|労働者を守る保険の概要を解説!雇用保険との違い | アトム法律事務所弁護士法人

労災保険の加入条件|労働者を守る保険の概要を解説!雇用保険との違い

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労働者を守る保険|労災保険|雇用保険との違い

労災保険は、業務中や通勤中に怪我や病気をした従業員が補償を受けられる保険制度です。
正社員に限らず、アルバイト・パートなど雇用形態を問わず、使用者から賃金の支払いを受ける労働者であれば労災保険の加入条件を満たします

また、個人事業主など使用者から賃金の支払いを受ける労働者ではない場合、本来は労災保険の保護対象とはなりませんが、特別加入制度を利用することで労災保険に加入することが可能です。

本記事では、労災保険の加入条件といった基本的な知識から、特別加入制度について解説しています。また、労災保険とセットであつかわれる雇用保険についても紹介しますので、最後までぜひご覧ください。

労災保険の加入条件は?

労災保険の加入条件はすべての労働者

労災保険は、原則として労働者であれば加入条件を満たします
つまり、すべての労働者が労災保険に加入できるということです。

労災保険は、業務中や通勤中に労働者が怪我・病気・死亡した場合に、被災した労働者や遺族を保護するために必要な保険給付を行います。
また、労働者が社会復帰できるようにする役割も労災保険は担っています。

労災保険の給付内容

労災保険の給付内容は、大まかに療養・休業・傷病・障害・介護・遺族・葬祭などに関するものがあげられます。

労災保険における主な給付一覧

  • 療養補償給付、療養給付
    労災による怪我や病気の治療でかかった費用
  • 休業補償給付、休業給付
    労災による怪我や病気の療養で休業した期間の収入補償
    休業4日目から、完治または症状固定までの期間が対象
  • 傷病補償年金、傷病年金
    治療開始から1年6ヶ月経っても治らず、傷病等級が1~3級に該当する場合の給付
  • 障害補償給付、障害給付
    労災による病気や怪我が治らず障害が残った場合の補償
  • 介護補償給付、介護給付
    労災による障害で随時介護が必要な場合にかかる介護費用
  • 遺族補償給付、遺族給付
    労災による死亡で遺族に支払われる補償
  • 葬祭料、葬祭給付
    労災による死亡でかかった葬儀費用

ちなみに、労災保険は通称であり、労働者災害補償保険が正式名称です。

労働者災害補償保険について詳しくは、こちらの関連記事『労働災害保険とは?給付の仕組み・内容とQ&A集』もあわせてご確認ください。

労災保険の加入対象はパート、アルバイトなど雇用形態を問わない

パートやアルバイトなどの方が業務中や通勤中にケガをすると、労災保険が使えないのではないかと不安になられることも多いようですが、安心してください。

事業主に雇われている労働者はすべて、労災保険の補償対象です。

労働者とは、労働の対価として賃金が支払われる者のことをいい、職業の種類や雇用形態は問われません。つまり、正社員でなくても、パート・アルバイト、派遣労働者など、賃金をもらって労働している方はすべて労働者にあたります。

賃金を支払う側となる事業主や役員幹部などは労働者とはいわないので、労災保険の特別加入制度に任意で加入することができます。特別加入制度については後ほど解説しています。

労災保険の加入条件は労働時間で決まらない

先述の通り、労災保険の加入条件は賃金の支払いを受ける労働者であることです。
したがって、労災保険の加入条件として労働時間は関係ありません。

加入条件に労働時間などが影響するのは雇用保険の場合です。雇用保険の加入条件については後ほど詳しく解説しますので、引き続きご覧ください。

労災保険の加入手続きは事業所がおこなう

労働者を1人でも雇い入れた事業所は、原則として労災保険に必ず加入しなければなりません。

労災保険の加入手続きは、事業所が行います。
具体的には、保険関係成立届などの書類を保険関係が成立してから10日以内に管轄の労働基準監督署へ提出することが必要です。

労災保険の加入義務は労働者を雇い入れる事業所にあるため、加入手続きを労働者本人が行うことはありません。

事業主が労災保険と雇用保険の両方に加入しているかどうかは、厚生労働省ホームページ「労働保険適用事業場検索」で確認可能です。

仮に事業主が労災保険に未加入でも、労働者は所定の手続きを踏めば労災保険の利用することができます。
事業主が労災保険に未加入の場合は、所轄の労働基準監督署に相談しましょう。

労災保険料は全額事業主負担

労災保険にかかる保険料は事業主が全額負担します。

労働者は労災保険料を支払う必要はありませんが、雇用保険料に関しては労働者も一部負担する必要があるので注意が必要です。

ちなみに、労働災害が発生しやすい業種かどうかによって労災保険の保険料が異なります。たとえば、林業や金属工業など労働災害が起きやすい業種なら保険料率は高く、内勤することが多い業種なら保険料率は低く設定されています。

保険料率については、厚生労働省ホームページ「労働保険年度更新に係るお知らせ」で確認が可能です。

労働者に該当しない場合に加入できる労災保険とは?

労災保険は労働者の保護を目的としているので、労働者に該当しない個人事業主などは労災保険の対象になりません。

もっとも、業務内容や業務中に見舞われる危険の程度によって労働者に準じて保護されるべきであるという考えのもと、「特別加入制度」を利用することで労災保険の対象とすることが可能な場合があります。

個人事業主や家族従事者などは特別加入制度を利用する

特別加入制度とは、労働者に該当しない人のうち、一定の要件のもとに労災保険に特別に任意加入することが認められています。

特別加入制度を利用できる人は、大きく分けて4種類です。

特別加入制度に加入できる人

  1. 中小事業主およびその家族従事者など
  2. 一人親方およびその他の自営業者など
  3. 海外派遣者など
  4. 特定作業従事者

特別加入制度に加入できる人について、もう少し具体的にそれぞれみていきます。

中小事業主およびその家族従事者などの特別加入

中小事業主とは、主に以下のような場合に当てはまる人のことをいいます。

中小事業主などに当てはまる人

  • 一定の労働者数を常時使用する事業主
  • 労働者以外で、一定の労働者数を常時使用する事業主の事業に従事する人(事業主の家族従事者など)

一定の労働者数とは、事業内容ごとに異なっており、具体的には以下の通りです。

中小事業主となる一定の労働者数

労働者数
金融業
保険業
不動産業
小売業
50人以下
卸売業サービス業100人以下
上記以外の業種300人以下

また、労働者を通年雇用しなくても、労働者を1年間のうち100日以上使用している場合、労働者を常時使用していることになります。

一人親方およびその他の自営業者などの特別加入

一人親方およびその他の自営業者とは、以下の事業を常態として労働者を使用しないで行う者が当てはまります。

一人親方およびその他の自営業者などに当てはまる人

  1. 自動車を使用して旅客や貨物を運送する事業(個人タクシー業者、個人貨物運送業者など)
  2. 建設の事業(大工、左官、とび職人など)
  3. 漁船で水産動植物を採捕する事業(船員は除く)
  4. 林業の事業
  5. 医薬品を配置販売する事業(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)
  6. 再生利用目的の廃棄物などを収集、運搬、選別、解体などする事業
  7. 船員法第1条に規定する船員の事業

以上のような親方およびその他の自営業者が行う事業に従事する家族従事者も加入できます。

また、労働者を使用する場合でも、労働者の使用が1年間のうち100日未満の場合、一人親方などとして特別加入制度が認められます。

海外派遣者などの特別加入

海外派遣者とは、以下のような場合に当てはまる人のことをいいます。

海外派遣者などに当てはまる人

  1. 日本国内の事業主から、海外の事業に労働者として派遣される人
  2. 日本国内の事業主から、海外の中小規模の事業に事業主などとして派遣される人(労働者ではない立場であること)
  3. 独立行政法人国際協力機構など開発途上地域で技術協力の実施事業を行う団体から派遣され、開発途上地域の事業に従事する人(有期事業は除く)

新たに海外に派遣される人だけでなく、すでに海外に派遣されている人でも特別加入が認められます。もっとも、現地採用は国内の事業からの派遣ではないので特別加入は認められません。

また、単なる留学を目的とした派遣も特別加入の対象とはなりませんので、注意が必要です。

特定作業従事者の特別加入

特定作業従事者とは、以下のような場合に当てはまる人のことをいいます。

特定作業従事者に当てはまる人

  1. 農業関係作業従事者(特定農作業従事者、指定農業機械作業従事者)
  2. 国または地方公共団体が実施する訓練従事者(職業適応訓練従事者、事業主団体等委託訓練事業者)
  3. 家内労働法の適用を受け特定の作業に従事する者(家内労働者やその補助者)
  4. 労働組合など常勤役員
  5. 介護作業従事者や家事支援従事者

特別加入制度の加入方法と手続き

通常の労災保険の場合、労働者を雇う事業主に加入義務が課されているため、労働者側で加入手続きなどを行う必要は特にありません。

一方、特別加入制度の場合、この制度を利用する者が主体的に加入手続きを行う必要があるので注意が必要です。
特別加入制度を利用するためには、従事する業務内容に応じて取扱窓口が以下の通り異なります。

特別加入制度の取扱窓口

取扱窓口
中小事業主およびその家族従事者など労働保険事務組合
一人親方およびその他の自営業者など特別加入団体
海外派遣者など派遣元の団体または事業主
特定作業従事者特別加入団体※

※ 特別加入団体:労働組合や業界団体などが設立したもので、加入費用など団体ごとに差はありますが、労災保険からの給付内容は変わりません。

それぞれの窓口を通して「特別加入申請書」を労働基準監督署長に提出し、各都道府県の労働局長の承認を受けると、特別加入制度に加入できます。

また、特別加入の申請者のうち以下の業務に一定期間従事していた者は、所定の健康診断を受ける必要があります。

業務の種類ごとに受けるべき健康診断

  • 粉じん作業3年:じん肺健康診断
  • 振動工具使用1年:振動障害健康診断
  • 鉛業務6ヶ月:鉛中毒健康診断
  • 有機溶剤業務6ヶ月:有機溶剤中毒健康診断

特別加入制度の給付内容

特別加入制度の給付内容は、通常の労災保険に準じた種類の給付が受けられます。

もっとも、特別加入制度の場合、労災保険からもらえる給付額を算定する基礎となる「給付基礎日額」の扱いが通常の労災保険と異なる点に注意しなければなりません。

通常の労災保険における給付基礎日額は「労災が起きた日から直前3ヶ月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額」を用います。

一方、特別加入制度を利用するような人は賃金という概念がありません。
そのため、特別加入を行う人の所得水準に見合った適正な額を申請し、労働局長が承認した額が給付基礎日額となります。給付基礎日額は決定しても、後から変更申請が可能です。

特別加入制度の利用者であったとしても、就労実態によっては労働者性が認められることもあります。このような場合、特別加入制度ではなく通常の労災保険に給付請求を行うこともできるでしょう。

労災保険と雇用保険の違いとは?

労災保険と雇用保険のセットが労働保険

雇用保険は労働者が失業したり、働き続けられなくなった場合に、生活や雇用の安定と就職の促進を図るために必要な保険給付を行います。また、労働者の再就職を支援したり促進したりする役割も雇用保険は担っています。

労災保険と雇用保険の両方を合わせた総称が「労働保険」です。

ほとんどの事業所は、労災保険と雇用保険のセットである労働保険で一括加入しています。ただし、建設業など事業所によっては労災保険と雇用保険をそれぞれ別個に加入していることもあるでしょう。

労災保険と雇用保険の給付そのものは、それぞれの保険から個別に行われますが、保険料の納付などは労働保険として一体で扱われます。

雇用保険の給付内容

雇用保険の給付内容は、大まかに4つの補償に分けられます。

雇用保険における主な給付一覧

  • 求職者給付
    失業してから新たな仕事に就くまでの間の生活を安定させるための給付金
  • 就業促進給付
    失業者の再就職を促進するための給付金
    再就職手当・就業手当・求職支援活動費・移転費などを総称したもの)
  • 雇用継続給付
    年齢や育児・介護などの問題で雇用継続がむずかしいと判断された場合の給付金
    高年齢雇用継続給付・介護休業給付・育児休業給付を総称したもの
  • 教育訓練給付
    労働者の主体的な能力開発を支援するための給付金

求職者給付というと馴染みがない言葉かもしれませんが、一般的には「失業保険」とも呼ばれます。

労災保険と違って雇用保険は労働時間など加入条件あり

労災保険はすべての労働者であれば加入することができますが、雇用保険には2つの加入条件を満たす必要があります。

雇用保険の加入条件

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
    かつ
  • 見込み雇用期間が31日以上

以上、2つの条件を満たしていれば、正社員だけでなくパート・アルバイト、派遣労働者など雇用形態を問わず、雇用保険に加入することが原則として可能です。

労災保険と雇用保険の加入条件比較

労災保険雇用保険
加入条件すべての労働者1週間の所定労働時間が20時間以上
かつ
見込み雇用期間が31日以上

雇用保険の加入手続きも、労災保険と同様に、事務所が行います。
具体的には、雇用保険被保険者資格取得届等の書類を公共職業安定所に提出することとなります。

労災保険と違って雇用保険は労働者負担分の保険料あり

労災保険の保険料は事業主が全額負担しますが、雇用保険の保険料は事業主と労働者の双方で負担します。

労働者は、自身の給与総額(年収)に雇用保険の保険料率をかけた金額を負担します。

雇用保険料の計算方法

= 給与総額(年収)× 雇用保険料率

雇用保険の保険料率は業種ごとに異なり、労働者が負担する保険料率は以下の通りです。

労働者が負担する保険料率

  • 一般の事業:0.3%
  • 農林水産事業・清酒製造事業・建設事業:0.4%

雇用保険料は毎月の給与から控除されるため、労働者側で手続きを行う必要はありません。

まとめ

  • 労災保険は原則としてすべての労働者が加入できる
  • 労災保険はパートやアルバイトなど雇用形態を問わずに加入できる
  • 労働者に該当しない人でも加入できる特別加入制度という労災保険がある
  • 労災保険と雇用保険はセットで労働保険といわれる
  • 雇用保険は労働時間など加入条件があるので注意が必要
岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了