安全配慮義務違反で会社を訴えられる具体的ケース・判例を紹介 | 事故慰謝料解決ナビ

安全配慮義務違反で会社を訴えられる具体的ケース・判例を紹介

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安全配慮義務違反|会社を訴えられる判例

企業は従業員に対して、快適に働ける環境を整え安全と健康を確保する安全配慮義務を負っています。(労働契約法5条)

良識とモラルを持った経営者であればこのことは当然のごとく把握していますが、労務関係の知識が疎い中小企業は上記規定を知らない可能性があります。もしくは把握しながらもルールを無視して、劣悪な労働環境を強いるブラック企業もあるでしょう。

安全配慮義務違反はれっきとした違法行為なので、労働者は安全配慮義務違反を犯した勤務先を訴えることも可能です。
本記事では、どのような場合に安全配慮義務違反で会社を訴えられるのか、具体的な状況を解説していきます。

安全配慮義務違反の判断基準

安全配慮義務違反が存在するかどうかについては、以下の2点が問題となります。

  1. 予見可能性
    被害が生じ得る危険が発生する可能性を予見できたのか
  2. 結果回避可能性
    予見できた被害を回避することが可能であったのか

予見可能性と結果回避可能性がありながら、予見できる被害という結果を回避するために必要な措置を講じることを怠っていた場合には、安全配慮義務違反が認められるのです。

そのため、上記の2点の存否が安全配慮義務違反を判断する際の重要なポイントとなります。

安全配慮義務違反による損害について会社を訴えられるケース

安全配慮義務違反で会社を訴えられるケースを5つ紹介します。労働契約法には安全配慮義務に関する規定はありますが、罰則には触れられていません。

つまり、労働契約法を引用して安全配慮義務違反を犯した企業の罪を問うことは難しいです。
ただし、安全配慮義務違反が原因で何らかの損害が発生したのであれば、民法上の不法行為や債務不履行を主張し、会社を訴えることは可能です。

安全配慮義務違反を原因とする損害賠償請求における請求内容を知りたい方は『労災でも損害賠償請求できる?労災保険との調整方法や賠償金の算定方法』の記事をご覧ください。

労災による損害の発生

業務上に生じた怪我や病気に対しては労災保険による給付がなされます。
しかし、労災保険による給付では損害の全額を補填できるわけではないので、より満足いく補償を受けたければ別途で損害賠償請求をする必要があります。

安全配慮義務違反による債務不履行を主張すれば、会社に対して治療費用や慰謝料などを請求することが可能です。どの程度の事由があれば、安全配慮義務違反と呼べるのが判例をもとに見ていきましょう。

サニックス事件では24キロの歩行を伴う新人研修で股関節を負傷した男性が裁判を起こし、途中で訓練を中断せず病院への受診も認めなかった会社に対し、安全配慮義務違反を認めています。

七十七銀行事件では震災の津波で従業員を無くした家族が企業側の安全配慮義務違反を主張しましたが、避難場所の選定に問題がなく災害の予見可能性も低かったことから、請求を棄却しています。

このように労災の安全配慮義務違反の主張が認められるかどうかは事例によるでしょう。

仕事中のどのような災害が労災に該当し、労災保険からどのような給付がなされるのかについては『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事をご覧ください。

パワーハラスメント

パワーハラスメント、いわゆるパワハラとは「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」と厚生労働省で定義されています。

上司から執拗な嫌がらせを受けたり、仕事を与えられなくなったことによるストレスが原因でうつ病になってしまった場合などで問題となります。

パワハラによる被害が企業側の安全配慮義務違反に該当するといえるには、パワハラが起きる可能性を認識できる状況であったか(予見可能性)、パワハラの事実を認識しており注意や指導等の改善策を行ったのかなどが問われます(結果回避可能性)。

もしパワハラが起きること、またはパワハラがあることを分かった上で何の対策も施していなければ、安全配慮義務違反を問える可能性が高いです。裁判では労働契約の債務不履行を主張し、損害賠償を請求することになるかと思われます。

ちなみにパワハラの場合、安全配慮義務違反の他にも、民法715条の使用者責任を追及できる場合もあります。雇い主は従業員の活動により利益を上げている以上、従業員の活動による損失の責任も負うべき(報償責任)だと言えるからです。

過労死

長時間労働による過労死を理由に、安全配慮義務違反を主張できる場合もあります。

働き方改革の導入等、何の対策も取らずに従業員に漫然と残業を強いていたのなら、安全配慮義務違反と取られても仕方ありません。

安全配慮義務違反が認められるかどうかの基準として、過労死が労災認定される判断基準が参考となります。
労災認定がなされる程度の労働時間であったのなら、過労死が生じる予見可能性があったといえるでしょう。

そして、過労死を防止するために作業環境を整備することが十分可能(結果回避可能性)にもかかわらず、それを怠ったのであれば、安全配慮義務違反があるといえるのです。

過労死に関する安全配慮義務違反が問題となった判例と言えば、2014年に起きた電通の新入社員自殺事件が有名です。この新入社員の方は月の残業時間が150時間近くに及んだこともありました。
裁判所は、著しい程度の時間外労働に従事していたこと及び健康状態が悪化していたことを把握していたにもかかわらず、業務改善措置を行わなかったとして会社の安全配慮義務違反を認定しています。

過労死が労災に該当するかどうかの判断基準や慰謝料の相場については関連記事をお読みください。

精神疾患の発生

長時間労働や会社内におけるいじめやセクハラなどが原因で、労働者がうつ病や統合失調症などの精神疾患を発症してしまうことがあります。
このようなケースも、会社の安全配慮義務違反が原因であるならば損害賠償請求が可能です。

安全配慮義務違反があったかどうかについての判断は、精神疾患が労災に該当するかどうかの認定基準が参考となるでしょう。
また、労働安全衛生法において、一定の規模の会社ではストレスチェックを行うことが義務化されています。法律に沿った適切なメンタルヘルス対策を行っているのかどうかも重要な判断基準となるでしょう。

ただし、会社側へ損害賠償請求を行うには、安全配慮義務違反が原因で、精神疾患が生じたことを証明する必要があります。業務ではなく私生活により生じた出来事が原因といえる場合には、因果関係が認められません。

参考となる精神疾患の労災認定基準について詳しく知りたい方は『精神疾患の労災認定基準|うつ病や適応障害も労災?認定されないときの対処法』の記事をご覧ください。

新型コロナ対策の不徹底

直近で大きな問題となっているのが、新型コロナ対策に関する安全配慮義務違反です。

社内という一定の空間内に、複数の人が長時間にわたり仕事を行っている以上、感染のリスクについて予見可能性があるといえます。

そして、従業員に対して、基本的な感染予防策を実施しなかった場合、対策を講じていれば感染を防げたとして(結果回避可能性)、安全配慮義務違反に問われる可能性も考えられます。

例えば、テレワークへの移行措置を何ら取らずに社員が感染してしまったら、損害賠償を請求できるかもしれません。
他にも感染者の発見後必要な対策を怠り感染を拡大させたり、陽性者に対して差別的な発言やパワハラがあったケースでも安全配慮義務違反と認定される可能性もあります。

新型コロナウイルス関連の安全配慮義務違反に関してはまだ裁判例がたまっていませんが、新型インフルエンザ等対策特別法には「事業者は新型インフルエンザ等の予防に努めるとともに、新型インフルエンザ等の対策に協力するよう努めなければならない」とあります。
この条文に則れば、新型コロナ対策の不徹底を理由に企業の安全配慮義務違反を問うことは可能だと考えられます。

健康診断の義務を怠った

労働安全衛生法では、会社は従業員に対して健康診断を実施する義務があると規定しています。健康診断を受けさせるだけでなく、医師が労働者の健康への配慮が必要と意見を述べたのであれば、業務の変更や残業の抑制といった措置を実施しなくてはいけません。

そのため、会社には健康診断を受けさせないことで従業員の健康を害する結果が生じる恐れがあることについて予見可能性があるといえるでしょう。

また、会社が法律にもとづいた健康管理体制を適切に提供していなかったのであれば、本来回避できる健康被害を回避できなかった(結果回避可能性)として、安全配慮義務が認められる可能性があります。

安全配慮義務違反の相談先は?

安全配慮義務違反で会社を訴えたいと感じたとしても、一人で行動を起こすのはおすすめできません。法律の問題は一般人だけで対処が難しいので必ず第三者の手を借りるべきです。そして相談先としては弁護士が適しています

安全配慮義務の相談は弁護士を頼ろう

なぜ弁護士が適しているかというと、理由は2つあります。

まず、労働基準監督署に話をしても、安全配慮義務違反かどうか判定してくれないためです。労働基準監督署はあくまでも労働法関連の違反があったかを管理監督する立場にとどまります。
このため、明らかに違法なケースでなければ動いてくれません。
また、その対処法も企業に対して勧告や指導などの行政処分を行うものです。つまり、裁判手続きにはノータッチなのです。

そのため、労働基準監督署を頼っても十分な対応を行ってはくれないでしょう。
しかし、損害賠償請求を行うには法的知識が欠かせないため、自力で行うことは非常に危険です。

弁護士を頼れば、グレーゾーンの事案でも違法だと主張できるよう、論理展開を構築してくれます。裁判でもそのまま訴訟代理人として活躍してくれるので安心です。安全配慮義務違反で会社を訴えたいと感じた時は、弁護士へ依頼をかけましょう。

アトム法律事務所では、無料の法律相談を行っています。
24時間体制で受付を行っているので、安全配慮義務違反に関するトラブルを解決したい方は、一度ご連絡ください。

岡野武志

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」「ネット削除依頼」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

英語:TOEIC925点