労災で裁判は起こせる?会社を訴えたいなら民事訴訟の対応方法を知ろう | アトム法律事務所弁護士法人

労災で裁判は起こせる?会社を訴えたいなら民事訴訟の対応方法を知ろう

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労災で裁判|民事訴訟の対応方法

業務中または通勤中の怪我や、業務に起因した疾病については労働災害として労災保険の給付対象になります。労災保険は申請方法や給付内容が決まっており、所定の手順に従えば給付を受けられます。そのため、基本的には裁判を起こす必要はありません。

しかし、なかには裁判による解決を目指すべきケースがあります。労災での裁判を考えるべきケースは次の通りです。

  • 会社に労災に関する損害賠償を請求したい場合の裁判(民事訴訟)
  • 労基署による労災認定の内容に納得がいかない場合の裁判(行政訴訟)

これら2つの裁判は、それぞれ独立した裁判です。労災について、どのような点を解決したいのかで選ぶべき裁判が変わってきます。

労災に関して裁判を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。

会社に労災に関する損害賠償を請求したい場合の裁判(民事訴訟)

労災が発生したのであれば、労災認定の申請手続きを行い、労災保険から給付を受けることになります。

しかし、労災保険からの給付は損害のすべてを補てんするものではありません。労災が起きた原因によっては、労災保険の給付対象でない慰謝料という損害も発生するので、労災給付だけでは不十分です。

労災保険の給付を超えた損害に関しては、労働者が裁判を起こすなどして損害賠償請求していかなければ補償を手にすることができません。

会社に対する民事訴訟の提起とは

労災によって被害を受けた労働者やその家族が、会社などに対して損害賠償請求する方法のひとつとして民事訴訟があります

民事訴訟は、個人同士の財産に関する争いについて裁判所が公正中立な立場から結論を出す手続きです。裁判官が当事者双方の言い分を聞き、証拠や資料を調べて判決を言い渡します。

民事訴訟の提起から和解・判決までのフロー

労災に関する裁判を起こすときには、民事訴訟の流れに則ります。

大まかな民事訴訟の流れ

  1. 原告が訴状などを裁判所に提出する
  2. 裁判所が審理期日を決める
  3. 裁判所は被告に訴状と期日呼出状を送付する
  4. 被告が裁判所に答弁書を提出する
  5. 裁判所から原告に答弁書が送付される
  6. 口頭弁論が行われる
  7. 和解が検討される
  8. 判決が言い渡される

労災で会社に損害賠償請求するためには法的根拠が必要

どのような労働災害でも会社に損害賠償請求できるわけではありません。会社の落ち度によって労働災害が発生した場合に限り、損害賠償請求できることになるのです。

会社に対して裁判を起こすときには、会社の落ち度によって労働者が労災という損害を負った、という因果関係を示す必要があります。その際に注目したいのが会社の安全配慮義務です。

会社は、労働者が安全に働くことができるよう労働環境に配慮しなければならないという安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。

会社に安全配慮義務違反があったかどうかは、「予見可能性」と「結果回避義務」という2つの観点から判断されることになります。

  1. 予見可能性
    会社が従業員の健康を害することを予見できたかどうか
  2. 結果回避義務
    予見できた結果を回避する義務を果たしたかどうか

会社の安全配慮義務違反によって労働者が労災にあった場合、労働者は会社の債務不履行を理由とした損害賠償請求が可能です。

また、労災につき、会社に故意や過失が認められる場合には、不法行為を理由として損害賠償を請求することも可能です。安全配慮義務違反の検討時には関連記事もお役立てください。

会社を訴える前に知っておきたい労災裁判の特徴

会社に対して労災の責任を問う裁判を起こすからには、裁判を有利に進めていきたいものです。
ここからは裁判を起こすうえで知っておきたいポイントをまとめました。

労働災害発生から民事訴訟による解決までの流れ

民事訴訟を提起した後の流れはすでにお伝えしていますが、民事訴訟に至るまでの流れも確認しておきましょう。

労働災害の発生から裁判に至るまでにはいくつかの段階があり、会社への損害賠償請求の方法も裁判だけではありません。

  1. 労災保険の申請・認定を受ける
  2. 会社側と話し合いを行う
  3. 会社側に対して民事訴訟を起こす

裁判に至るまでの流れを、特に重要な段階にわけて解説していきます。

(1)労災保険の申請・認定を受ける

労働災害が発生したら、会社に労災発生の報告をして、治療を受けましょう。

労災申請は本人または家族が行うことを基本としますが、会社には労働者の労災申請をサポートすることが求められています。したがって、会社の担当者が労災申請を手伝ってくれることもあります。

また、労災申請の用紙には会社の証明欄が設けられていますので、労災申請には会社の協力が欠かせません。

ただし、会社が労災申請を拒否するなど何らかの事情で証明が受けられない場合でも労災申請は可能です。労基署で事情を説明して、労災申請を進めることができます。

労災認定を受けるための手続きについて詳しく知りたい方は『労働災害の手続き・流れと適切な給付をもらうポイント』の記事をご覧ください。

(2)会社側と話し合いを行う

会社側に落ち度があって労災が起こった場合でも、すぐに裁判を起こすのではなく、話し合いによって解決を図ることが多いです。このように、民事上の争いについて裁判外で話し合って解決を目指す方法を示談交渉といいます。

裁判ではなく示談が選択される理由としては、裁判よりも早期解決が見込めること、双方の合意による解決なので一定の納得度が得られることがあげられるでしょう。

裁判前に示談交渉について詳しく知りたいという方は、関連記事『労災事故の示談交渉|示談の方法と解決までの流れ、示談書の重要性』を参考にしてください。

示談交渉には多くのメリットもありますが、どうしても会社側との話し合いがうまくいかない場合もあります。会社側が全く責任を負う気がない、むしろ労働者側に責任があったなどと言われれば、とうてい示談する気にはなれないでしょう。

示談交渉で一度決まった示談内容について、一方的に破棄したり、示談交渉を再度やり直すということは原則認められません。どうしても納得がいかないという状態で安易に示談に応じることはおすすめできません。

そこで、示談交渉以外の解決方法として裁判も視野に入れる必要があります。

(3)会社側に対して民事訴訟を起こす

示談交渉での解決がむずかしい場合には、会社に対して民事訴訟を起こす方法を検討しましょう。

裁判では法的根拠や客観的な証拠資料がより重視されるので、相応の準備をしなくてはなりません。裁判とは、当事者ではない裁判官が損害賠償金の支払いを決定するものなので、労働者が裁判で負けた場合には、会社側から一切の補償を受けられない可能性もあるのです。

裁判を有利に進めるためには、労働者の主張を裏付ける証拠を示すことが重要になります。

たとえば、過労死をめぐっては会社側が労働者の勤務状況や体調をきちんと管理していたのかが争点となる傾向にあります。これらはタイムカードの記録、PCのログ、通勤に使用していた定期やICカードの利用履歴などが有力な証拠になるでしょう。

また、会社側は裁判にあたって弁護士を立ててくることが予想されます。裁判は個人だけでも起こせますが、労働者側も弁護士を立てて対応することをおすすめします。関連記事『労働災害は弁護士に法律相談』を参考にして、弁護士への相談・依頼を検討してください。

裁判で認められるものは労災保険の給付外に限られる

裁判で会社を訴えて認められる損害賠償金は、労災保険の給付に含まれていないものに限られます。これは同一の損害事由に対して二重取りが認められていないからです。

会社に請求するべき労災に関する損害賠償の代表は「慰謝料」です。慰謝料は労働者が負った精神的苦痛に対して支払われるものですが、労災保険の補償には含まれていません。

裁判を起こすときには、訴える側(原告)が、訴えられる側(被告)に対して損害賠償金を請求します。つまり、労働者側が慰謝料額を見積もって、会社へ請求する流れになります。

慰謝料は目に見えない精神的苦痛を金銭補償として請求するものなので、どのくらいの金額が妥当なのかを知っておきたいところです。裁判で到底認められないような金額を請求しても、解決までに時間がかかるなどのデメリットが大きくなってしまいます。

慰謝料の適正額を知りたい方は関連記事を参考にするか、弁護士に見積もりを依頼するのがよいでしょう。

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詳しくは受付にご確認ください。

アトム法律事務所 岡野武志弁護士

労災でも裁判で会社に勝訴するとは限らない

「労災認定を受けているから裁判でも勝てる」と思っている方がいらっしゃいますが、そうではありません。

労災認定の局面では、あくまで労働者に係る怪我や病気が労働災害にあたるかどうかが判断されるだけにとどまります。そのため、労災認定において、会社に安全配慮義務違反があるか、会社に不法行為が認められるかということは問題になりません。

これに対し、会社を被告とする民事裁判では、会社に安全配慮義務違反があるかや会社に不法行為が認められるかということが判断の対象となります。そのため、労災認定を受けていることは、裁判で有利に働く可能性はあるものの、直接的な関係はないのです。

労災で裁判を起こすメリットとデメリット

労災の責任を求めて会社に裁判を起こすことで、責任の所在を明確にできます。
会社側がいくら責任を認めなかったとしても、裁判官という第三者が判決によって確定させてくれるのです。

その一方で、労働者側の主張が認められなかった場合には、損害賠償金を受けとることができません。
判決内容次第では一銭も受けとれない恐れがあります。

このように裁判にも一長一短があるので、裁判以外の解決方法も知ったうえで、裁判するかどうかを検討しましょう。

労災裁判は終結までに長い期間を要する

示談で解決せずに民事訴訟まで発展すると、終結まで長期間を要するのが一般的です。事案によって異なりますが、訴訟の提起から判決まで1年程度かかることになるでしょう。場合によっては、2年以上かかるケースもめずらしくありません。

民事訴訟がこれほどまで時間を要するのは、裁判所が慎重に判断しようとしているからです。裁判所は判断するにあたって、原告と被告双方の主張を聞き、証拠や資料を丁寧に精査します。

さらに、裁判は三審制が採用されています。1審の判決に不服がある場合、2審~3審の争いにまで発展することが予想されるので、その場合は終結までより長期化することになるのです。

労基署による労災認定の内容に納得がいかない場合の裁判(行政訴訟)

労災が発生したのであれば、労災認定の申請手続きを行い、労災保険から給付を受けることになります。
しかし、労災が認定されない、または、認定はなされたが希望する給付が認められないことがあります。

このような場合には、不服を申し立てる最終的な方法として、労働基準監督署長を相手に裁判を起こすことが可能です。これは行政訴訟のひとつで、処分取消訴訟といわれます。

労基署の決定に対する行政訴訟の提起とは

労災認定されずに労災保険からの補償が受けられなかったり、認定された内容に納得がいかない場合には、まず審査請求を行えます。

審査請求は労働者災害補償保険審査官に対して口頭又は書面で行うことができますが、最初の決定があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内という期限があります。

審査請求の結果にも納得ができない、または審査請求から3ヶ月経っても決定がなされない場合には再審査請求が可能です。再審査請求は労働保険審査官に対して書面のみ認められていて、審査請求の決定書謄本が送付された日の翌日から2ヶ月以内とされています。

審査請求・再審査請求を経ても納得がいかない場合には訴訟が可能です。具体的な流れについては、関連記事を参考にしてください。

労災認定基準も再度確認しておこう

審査や再審査、訴訟を検討している場合には、労災とは何か、労災の認定基準を確認しておきましょう。

まず労働災害には、「業務災害」「通勤災害」の2種類があります。

「業務災害」は、業務が原因となって労働者が怪我を負ったり病気になったりすることです。これに対し「通勤災害」は、通勤途中に労働者が怪我をしたような場合をいいます。

もっとも、通勤途中で本来の通勤ルートを離れたような場合、その後は原則として通勤とみなされません。ですが、日用品や食品の購入などのように生活上必要となる範囲であれば、本来のルートに戻った後は再び通勤とみなされます。

労災保険の加入

労働災害により補償を受けるためには、会社が労災保険に加入していることが必要です。

この点、労働者を一人でも雇用していれば、会社には労災保険に加入することが義務付けられているため、労災に遭った労働者が、労災保険の未加入によって補償を受けられないというような事態になることは通常ありません。

労災保険の給付内容やよくある疑問への回答は、関連記事で確認してください。

労災に関する裁判例

実際に行われた労災に関する民事訴訟と行政訴訟の裁判例について見ていきたいと思います。

労災によるうつ病の慰謝料などを会社に請求した事例

原告は平成17年2月から同18年1月にかけて、時間外労働が80時間を超えた月が6か月、100時間を超えた月が4か月ありました。

その後、原告はうつ病を発症したため、同年2月~10月まで休職し、11月以降は週3日勤務の条件で復職し、平成21年7月以降は週5日勤務となっています。

平成25年7月、原告は管轄労基署に対して労災認定を申請し、同26年1月、労基署は原告に対し労災認定を行いました。

原告は過重労働に起因してうつ病を発症したため、会社に対して安全配慮義務違反があると主張して、8271万8752円の損害賠償を請求するとともに、会社における労務管理の不備が不法行為にあたるとして、慰謝料も併せて請求したという事案です。

原告の請求を認めた一審に対し、控訴審は業務の質や量が過大とまではいえず裁量性もあったこと、業務を行うことが困難である旨の相談が上司に対してなされなかったことなどを理由に挙げて、長時間労働のみをもってうつ病の発症を予見することはできない(予見可能性がない)と判示しました。

うつ病については労災認定を受けることができた原告ですが、会社の安全配慮義務違反や不法行為責任を認めてもらうことはできませんでした。(札幌高等裁判所令和元年12月19日)

労災認定を求めて裁判を起こした事例

亡Aは忘年会の帰途、同僚と近くのラーメン店で打ち合わせや雑談をした後、自宅に帰る途中で駅のホームから転落して死亡しました。

亡Aの配偶者Cは労災保険法にもとづく遺族給付を請求しましたが、本件は通勤経路から逸脱・中断した後の災害であるとして、支給しない旨の処分を受けました。そこで、配偶者Cが国を相手に本件処分の取消しを求めて提訴したという事案です。

東京地方裁判所は、ラーメン店での飲食は会社の指揮命令の下で行われたものではないとしたうえで、通勤に伴う「日常生活上必要な行為」にも当たらないと判示しました。

本来の通勤ルートを離れた場合、それが日用品や食品などの日常生活上必要な行為でない限り、その後は通勤とみなされません。本件は通勤ルートを離れた後に発生したものであり、日常生活上必要な行為にもあたらないため、通勤災害にはあたらないと判断されました。(東京地方裁判所平成26年6月23日)

労災に関する損害賠償請求を検討するなら弁護士に依頼しよう

労災に関しては、労災申請の手続きであれば基本的に会社が協力してくれることもあり、自力で行うことも十分可能です。

しかし、裁判手続きは専門的知識が欠かせず、非常に複雑であるため、裁判を行うなら専門家である弁護士に依頼を行うべきでしょう。また、弁護士に相談することで、裁判以外の示談交渉といった方法による解決が望めるケースかアドバイスがもらえるでしょう。

労災によって、ご家族を亡くされたり重い後遺障害を負ったりして、会社などに対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

  • 裁判で解決するべきなのか
  • 後遺障害が残った時の損害賠償金はいくらになるのか
  • 裁判するなら弁護士費用はどれくらいかかるのか

以上のようなお悩みについて、弁護士がアドバイスできる可能性があります。
法律相談の受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了