過労死の労災認定基準|過労死ラインとは?脳・心臓疾患と精神障害の認定事例 | アトム法律事務所弁護士法人

過労死の労災認定基準|過労死ラインとは?脳・心臓疾患と精神障害の認定事例

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過労死が労災認定される基準

過労死の労災認定を受けるにはどうすればよいのか知りたいのではないでしょうか?

過労死には、長時間労働などの過重な負荷による脳・心臓疾患を原因とする死亡と、業務のストレスによる精神障害を原因とする死亡の2つがあります。

過労死と認定されるためには、それぞれに設けられている認定基準の要件を満たしていることが必要です。

この記事を読めば、過労死の認定を受けるための要件、労災認定された場合の補償がわかります。過労死が労災認定された事例も紹介しますので、過労死の労災認定を目指すご家族の方の参考にしてください。

過労死の定義と種類

過労死とはどのようなものなのかについてや、過労死として定義されている種類について解説します。

過労死とはなにか

過労死とは、過酷な長時間労働や残業によって脳疾患や心不全などの体調悪化が引き起こされ、死亡することです。

また、過酷な長時間労働や残業によって心理的負荷がかかったために精神障害を発症し、過労自殺してしまう場合も過労死に含まれます。

過労死は「脳・心臓疾患」と「精神障害」の2種類

過労死は、大きく「脳・心臓疾患」と「精神障害」の2種類に分けられます。

過労死等防止対策推進法第2条では、以下のように過労死が定義されています。

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

労働者が脳・心臓疾患あるいは精神障害により死亡した場合のすべてが過労死になるわけではありません。厚生労働省の定める認定基準に基づき、要件を満たしている場合に過労死と認定されます。

つづいては、脳・心臓疾患と精神疾患に分けて、それぞれの労災認定基準していきます。

脳・心臓疾患による過労死が労災認定される基準

脳・心臓疾患で労災認定の対象となる疾病は、脳血管疾患として脳内出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症があります。

虚血性心疾患としては心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈瘤・重篤な心不全が該当します。

労災認定の対象となる脳・心臓疾患

脳血管疾患脳内出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症
虚血性心疾患心筋梗塞・狭心症・心停止・解離性大動脈瘤・重篤な心不全※

※ 重篤な心不全は、令和3年9月14日付で虚血性心疾患に追加

以上のような脳・心臓疾患で業務起因性が認められた場合、過労死として労災認定されます。

さらに、脳・心臓疾患による過労死が労災と認定されるには、以下のいずれか3要件が認められる必要があります。

  1. 異常な出来事
  2. 短期間の過重業務
  3. 長期間の過重業務

それぞれの要件について解説します。

(1)異常な出来事

異常な出来事と考えられるのは、以下のような出来事です。

  • 業務に関連した人身事故や重大事故に直接関与するなどの精神的な負荷のかかる出来事
  • 重大な事故の事後処理や救助活動などの身体的な負荷のかかる出来事
  • 極端な温度差のある場所に出入りするなどの作業環境が変化する出来事

通常の業務では遭遇することがまれな事故や災害だったのか、程度が甚大なものであったのか、急激な作業環境の変化であったのかなどを総合的に判断します。

疾病の発症直前から前日までの間に上述した出来事が生じている場合は、要件に該当することになります。

(2)短期間の過重業務

日常の業務と比較して、身体的・精神的な負担が大きい業務が過重業務です。

加重業務に就いていたかどうかについては、業務の量や業務内容、作業環境など「具体的な負荷要素」と、「他の同僚にとっても身体的・精神的な負荷のかかるものであるか」という観点から、総合的に判断されます。

具体的な負荷要素とは、以下のようなものです。

  • 労働時間
  • 不規則な勤務
  • 拘束時間の長い勤務
  • 出張の多い業務
  • 交代制勤務
  • 深夜勤務
  • 作業環境
  • 精神的緊張を伴う業務

発症前おおむね1週間のうちに、過重業務に該当する業務が行われていたのであれば該当すると判断されます。

(3)長期間の過重業務(過労死ライン)

脳・心臓疾患を発症させる要因になると考えられているのは、恒常的な長時間労働などの身体的な負荷が長期間にわたって行われていることで生じる疲労の蓄積です。

短期間の加重業務の判断と同様の負荷要素から、長期間の過重な業務による疲労の蓄積の程度を総合的に判断します。判断期間は、発症前おおむね6ヶ月間です。

疲労の蓄積をもたらす労働時間の目安は、過労死ラインともいわれています。過労死ラインは、以下の通りです。

過労死ライン

  • 発症前の1か月間に100時間を超える時間外労働
  • 発症前の2か月から6か月にわたって平均で月80時間を超える時間外労働

このほか、時間外労働時間が45時間を超えるにつれて、業務と発症の関連が強くなると考えられています。
一方で、発症前6ヶ月の平均時間外労働時間が45時間に満たない場合には、業務と発症の関連性が低いと考えられます。

しかし、長時間の過重業務については労働時間以外の負荷要因も加味して総合的に評価する必要性が認められ、認定基準が改正されました。

新基準は過労死ライン以外も重視される

令和3年9月14日付の厚労省の通知によると、長時間の過重業務の場合には労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化されました。

つまり、新基準は過労死ライン以外も重視されることになったのです。

具体的には、心理的負荷・精神的負荷・作業環境をはじめ、次のような負荷要因があげられるときには、業務と脳・心臓疾患の発症の因果関係を慎重に検討しなくてはなりません。

労働時間以外の負荷要因例

  • 勤務時間の不規則性
    拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルの短い勤務、不足な勤務・交替制勤務・深夜勤務
  • 事業場外における移動を伴う業務
    出張の多い業務、時差のある海外への移動

精神障害による過労死が労災認定される基準

精神障害が業務によって引き起こされたと認められれば、労災保険から補償が受けられます。

精神障害による過労死が労災と認定されるには、以下の要件3つをすべて満たすことが重要です。

  1. 認定基準の対象としている精神障害であること
  2. 発病前の約6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の要因で発病したと認められないこと

それぞれの要件について解説します。

(1)労災認定基準の対象としている精神障害

認定基準の対象としている精神障害は、以下の通りです。

  • 症状性を含む器質性精神障害
  • 精神作用物質使用による精神および行動の障害
  • 統合失調症 統合失調症型障害および妄想性障害
  • 気分(感情)障害
  • 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
  • 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
  • 成人のパーソナリティおよび行動の障害
  • 精神遅滞(知的障害)
  • 心理的発達の障害
  • 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
  • 特定不能の精神障害

業務に関連して発病する可能性が高い精神障害として、うつ病急性ストレス反応適応障害などの診断名がついていることがひとつのポイントです。

(2)発病前の約6か月間に業務による強い心理的負荷が認められる

業務による心理的負荷評価表」を用いて、強い心理的負荷がかかる業務をおこなっていたかどうかが判断されます。心理的負荷の強度の判断の基準は、発病した労働者の主観ではなく、一般的な労働者がどのように受け止めるかです。

心理的負荷表を用いて、特別な出来事に該当する出来事が「ある」場合と、特別な出来事に該当する出来事が「ない」場合で認定基準が分かれています。

特別な出来事認定基準
ある 心理的負荷の総合評価は「強」とされる
ない心理的負荷評価表の「具体的出来事」に当てはまる出来事がないかを確認する
各出来事に心理的負荷の強中弱が設定されており、複数ある場合は総合評価する

特別な出来事や具体的出来事の一部には長時間労働も含まれています。特に、以下のような長時間労働は、業務と発病の関連が強いと判断されます。

  • 発病直前の1か月の時間外労働が160時間以上
  • 発病直前の3週間の時間外労働が120時間以上
  • 発病直前の1か月あたりの時間外労働が2か月連続して120時間以上
  • 発病直前の1か月あたりの時間外労働が3か月連続して100時間以上
  • 転勤後の時間外労働が月100時間程度

(3)業務以外の要因で発病したと認められない

精神障害の既往症やアルコール依存といった、個人の問題による精神障害で死亡した場合は、過労死と認定されません。

また、業務以外の原因で発病していないことを確認するために、「業務以外の心理的負荷評価表」で心理的負荷の強度を評価されます。

評価項目は、労働者自身に起きた出来事、労働者の家族や親族に起きた出来事、金銭関係、事件・事故・災害の体験、住環境の変化、他人との人間関係など多岐にわたります。

過労死の労災認定事例

過労死で実際に労災認定をうけた事例を紹介します。

脳・心臓疾患の過労死認定事例

脳・心臓疾患による過労死が労災認定されたいくつかの事例をみてみましょう。脳疾患としてはくも膜下出血、心臓疾患としては心筋梗塞の事例を取り上げます。

くも膜下出血と業務起因性を認めた事例

労働者はくも膜下出血を発症して死亡しました。遺族はくも膜下出血が業務上の事由によるものとして労災保険法に基づく遺族補償給付および葬祭料を求めましたが、不支給と認定されてしまったのです。

裁判所は、労働者に既往歴がないことやくも膜下出血を発症させるリスクファクターが認められないことを指摘しました。

また、発症前6か月目から4か月目までの時間外労働が極めて長いこと、チームリーダーとして業務も精神的緊張を伴うものだったことから総合的に判断し、くも膜下出血の発症と業務に因果関係があると認めたのです。(高松高等裁判所 令和元年(行コ)第20号 遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件 令和2年4月9日)

心筋梗塞と業務の起因性が認められた事例

養殖業者に対する営業販売に従事していた労働者が、急性心不全を発症しました。妻は仕事のストレスにさらされながらの長時間にわたる過重労働・業務によるものとして労災保険・遺族補償給付などを求めましたが、不支給と判断されてしまったのです。

裁判所は、労働者の時間外労働は70時間であると認定しました。「発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働」という長時間労働の認定基準には満たないものの、相当な長時間労働が継続していたこと、厳しい作業環境での業務があったことや取引先に対する精神的緊張の大きさを加味しました。

労働者には疾病発祥の要因となりえるリスクファクターがあったものの、業務と心不全の関連性を認めたのです。(福岡地方裁判所 平成28年(行ウ)第63号 労災保険遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 令和元年6月14日)

精神疾患の過労死認定事例

労災認定は、原則労働基準監督署が行うものです。
しかし、なかには労基署で「労災ではない(不支給)」と通知を受け、その処分を不服として取り消しを求める訴訟に発展するケースや、事業主へうつ病など精神疾患の慰謝料を請求するケースもあります。

一度は精神障害による過労死と認められなかったものの、裁判で精神障害による過労死が認定された事例をみていきましょう。

適応障害とうつ病エピソード、死亡に業務起因性を認めた事例

看護師として勤務していた労働者が適応障害とうつ病エピソードを発病、自殺してしまいました。ご家族が労災保険法にもとづいて遺族補償給付と葬祭料を請求したところ、労災不支給の通知を受けたことから訴訟に踏み切ったのです。

裁判所は、労働者におきた複数の具体的出来事は総合的に強い心理的負荷として認められること、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が阻害、あるいは自殺を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害された状態にあったと推定しました。

そして、労働者の自殺もまた、業務に起因性があるものと認定したのです。(札幌地方裁判所 平成29年(行ウ)第26号 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 令和2年10月14日)

うつ病エピソードの発症を認め、自殺に業務起因性を認めた事例

労働者が自殺に至った背景に過酷な長時間労働と度重なる上司の叱責・暴言によりうつ病を発症したことにあるものとして、家族は労災保険法に基づく遺族補償年金の支給を求めました。しかし不支給とする決定を受けたため、不支給決定の処分取り消しを求めて訴訟を起こしました。

裁判所は、まず長時間労働の心理的負荷は強いものと判断しました。また、上司の発言についてもひどい嫌がらせ・いじめはそれ自体の心理的負荷は「中」程度であっても、恒常的な長時間労働の問題と加味すれば心理的負荷は「強」にあたると修正判断したのです。

そして、うつ病エピソードの発病を認定し、自殺と業務に相当因果関係があることを認めました。(福岡地方裁判所 平成29年(行ウ)第12号 遺族補償年金等不支給決定処分取消請求事件 令和3年3月12日)

過労死の労災認定や労災保険の基礎知識

ここまで、過労死の労災認定基準や認定事例についてみてきましたが、そもそもなぜ過労死に認定基準が設けられているのでしょうか。過労死に関する基礎的な部分や、労災保険から給付される補償について整理しておきたいと思います。

過労死に認定基準が設けられている理由

過労死に認定基準が設けられているのは、脳・心臓疾患あるいは精神障害による死亡の原因が、業務によるものなのか個人的な問題なのかの判断が難しいからです。

たとえば、うつ病で自殺した原因は、仕事に関するストレスによる場合だけでなく、個人が抱える問題が起因している場合も考えられるでしょう。

また、過重な労働による肉体的な負荷による場合だけでなく、遺伝や食生活による場合なども考えられる脳・心臓疾患による死亡の原因も同様です。

このように、脳・心臓疾患あるいは精神障害の原因にはさまざまなものが考えられるため、厚生労働省により過労死の認定基準を定めています。

基礎疾患を持っている人の労災認定は難しい?

器質的心疾患(先天性心疾患・心筋症・心筋炎・弁膜症・高血圧性心疾患)を基礎疾患として有する場合でも、労災認定される可能性があります

ただし、基礎疾患が安定していること、直ちに重篤な状態にはならないと考えられていて、業務による過重負荷で自然経過を超えて対象疾患が発生したと認められる場合に限られます。

つまり、もともと先天性の心疾患があった方が対象疾患である心筋梗塞により亡くなってしまった場合でも、業務の過重負荷により心筋梗塞が起こったと考えられ、その負荷が発生するまでは持病の基礎疾患の状態が安定していたならば、労災認定される見込みがあるのです。

過労死に対する労災保険の補償金額

過労死と認定された場合には、労災保険から以下の補償が受け取れます。

  • 遺族(補償)年金
  • 遺族特別支給金
  • 遺族特別年金
  • 葬祭給付

遺族(補償)年金は亡くなった労働者の収入( ボーナスを除く )、遺族特別年金は労働者のボーナス額によって決まります。さらに、遺族特別支給金は一時金形式で300万円、葬祭給付は労働者の収入(ボーナスを除く)によって給付額が決まる仕組みです。

遺族(補償)年金などが受け取れるのは、過労死した労働者の賃金により生計を立てていた遺族です。遺族のなかでも受給権に順番がありますので、詳しくは関連記事『労災年金の種類別に受給額を解説!いつまでもらえる?申請期限はいつまで?』にてご確認ください。

労災の認定がなされなった場合には、審査請求などの不服申し立てができます。

過労死に対する労災補償を受けるための手続きについては『業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう』の記事をご覧ください。

過労死の労災認定を受けたいなら弁護士に相談しよう

過労死に関して労災認定と会社への損害賠償請求を検討している方は、弁護士相談がおすすめです。

労災認定に向けた証拠収集の心強い味方

過労死が労災として認定されるかどうかは、複雑な判断基準にもとづいておこなわれます。また、一度は労基署により「労災ではない」と判断されても、裁判所の判断では結果が覆る可能性はあるでしょう。

しかし、精神疾患や脳・心臓疾患と業務の因果関係を示すのは簡単ではなく、労災認定を受けるのは難しいといえるでしょう。そのため、専門家である弁護士に依頼して、労災申請手続きのサポートを受けるべきです。

労災が認定されるケースに該当するのか、認定を受けるために必要となる事実や証拠がどのようなものなのかについて、適切なアドバイスを受けることができます。

法的根拠にもとづく会社への損害賠償請求もサポート

また、労災の認定を受けるだけでなく、会社に対して責任を追及したい場合にも、弁護士に依頼すれば、適切な請求を行ってくれるでしょう。

過労死の場合は、労災保険による補償だけでなく、会社から慰謝料が受け取れる可能性があります。過労死が認められるということは、会社側が労働者の心身の健康に対する注意が不足していたと考えられるからです。

会社には、労働者が心身の安全を確保しつつ労働できるように配慮するという安全配慮義務があります。(労働契約法5条

労働者が過労死したということは心身の安全を確保できなかったことになるため、会社は労働者の健康に対して配慮する義務を怠ったと判断される可能性があります。

このため、安全配慮義務違反により損害が発生したことを根拠に、会社に対して損害賠償請求が可能です。この際、弁護士に依頼すれば、会社側との交渉も任せられます。

過労死で損害賠償請求を検討している方はアトムの無料相談へ

アトム法律事務所では、会社へ過労死の損害賠償請求をしたいと考えている方に向けた無料の法律相談を実施しています。過労死は労災と認定されても、慰謝料を受けとれません。慰謝料は労災の保険給付外なので、会社に請求する必要があります。

法律相談のご予約は年中無休で受付中です。専属スタッフがお話をお伺いして適切なご案内をします。法律相談したからといって契約を迫ることはありませんので、安心してご利用ください。

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詳しくは受付にご確認ください。

アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了