うつ病における慰謝料の相場は?労災認定の基準や会社を訴える際のポイントも解説
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会社でのパワーハラスメント(以下、「パワハラ」)やモラルハラスメント(以下、「モラハラ」)が原因で、うつ病を発症してしまう方は少なくありません。
会社を訴えて裁判に勝訴すれば、慰謝料を獲得できる場合もあります。また、労災の認定を受ければ労災保険から補償を受けることも可能です。
今回はうつ病における慰謝料の相場、労災認定の基準や事例、会社を訴える方法について解説します。うつ病で会社を訴えることを検討中の方はぜひ本記事をご覧ください。
目次
うつ病における慰謝料の相場は?金額の変動要因を紹介
パワハラやモラハラを原因とするうつ病の慰謝料相場は、具体的な金額をお伝えするのはむずかしい部分があります。
なぜなら、慰謝料とは被害者の精神的苦痛を金銭化するもののため、明確な基準が存在しません。
そのため、パワハラやモラハラの内容や実際に被った被害の程度によって、慰謝料の金額に大きな変動があるのです。
ここでは慰謝料の額を変動させる要素を紹介します。
慰謝料額はさまざまな要素に影響を受ける
うつ病における慰謝料の算定に当たっては、さまざまな要素に左右されます。代表的な点としては、以下のようなものとなります。
- 悪質な内容である、暴力の行使がある
- 加害者の立場がどれだけ上か
- 長期間にわたるものであるのか
- 加害者の人数
- 退職や自殺に追い込まれたのか
過去の事例と照らし合わせ、パワハラやモラハラの程度が著しいと認められれば、慰謝料額が上がる可能性が高いです。関係性では力関係の差が激しいほど、高額の慰謝料をもらいやすいと考えられます。加害者の立場が上になればなるほど、抵抗しづらくなる傾向があるためです。
他にもパワハラが長期間にわたったり、加害者の人数が多かったりする状況では、慰謝料も高額になりやすいです。
パワハラについて会社に相談した時の反応に関しても、焦点になる場合があります。会社に訴えても何のアクションも起こしてくれなかったとしたら、会社側の安全配慮義務違反を問える可能性もあります。会社は従業員の安全に配慮する義務も負っており、危険が生じている時は社員の身を守る必要があるからです。
うつ病で労災は認定されるのか?
業務災害に該当するなら労災といえる
業務上の事由によって、病気やケガになった場合、労災保険から治療費等の補償を受けることが可能です。
労災では業務中に起きた事件・事故を指す「業務災害」と、通勤中の事件・事故「通勤災害」に分けられます。この内、うつ病が問題になるのは業務災害です。業務災害の判断基準になるのは、業務遂行性と業務起因性の2つです。
業務遂行性とは、労働契約に基づき労働者が義務を果たしている最中に起きた出来事という意味になります。一方、業務起因性は業務と疾患の間に因果関係が認められることです。
通常の業務災害では業務遂行性と業務起因性をもとに、労災に該当するか判断します。
ただし、うつ病の場合、業務災害であっても通常の業務災害とは異なる認定基準が用いられるのです。ここではうつ病の労災認定基準を解説します。
うつ病の労災認定基準
基本的には、うつ病の場合も、業務遂行性や業務起因性をもとに労災に該当するか判断します。
ただし、工場等で発生する業務災害と異なり、うつ病をはじめとする精神疾患は病気の原因を特定することがむずかしいのが特徴です。プライベートの離婚や不倫問題が原因で、精神を病んでしまったのかもしれません。
このような事情に鑑み、厚生労働省は平成11年に業務災害の労災認定基準を策定しています。この基準によると、うつ病を労災に認定する場合、次に紹介する3つの基準を満たす必要があります。
- 精神障害を発病していること
- 該当の精神障害を発病するおおむね6ヵ月前に、業務上、強いストレスが認められること
- 業務以外の心理的ストレスや個人特有の要因による発病とは認められないこと
つまり、原則として過去6ヵ月以内の状況をみて労災に該当するか判断します。
強いストレスが認められるかどうかの判断
業務により強いストレスが認められるかについては、「業務による心理的負荷評価表」を用いて判断されます。
評価表を利用し、心理的負荷が「強」と評価されたのであれば要件を満たしたことになるのです。
心理的負荷の強度の判断の基準は、一般的な労働者がどのように受け止めるかです。発病した労働者の主観ではありません。
評価の方法は、以下のようになります。
- 評価表にいう「特別な出来事」に該当する出来事があるなら「強」と評価
- 「特別な出来事」に該当する出来事がない場合は、具体的に生じた出来事を評価表にもとづいて評価し、「強」と評価できるのかを判断する
評価表には出来事と内容ごとに心理的負荷の評価として「弱」、「中」、「強」の3段階の評価があります。
以下のようなパワハラ行為があった場合には、心理的負荷の「強」と評価されます。
- 上司等から治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた
- 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた
- 上司等から人格や人間性を否定するような業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃を受けた
原則として発症前のおおむね6ヶ月間の出来事から評価を行います。
ただし、パワハラやモラハラが発症前6か月前から始まっており、発症前まで継続しているのであれば、始まった時点から評価を行って下さい。
心理的負荷評価表については『厚生労働省のホームページ』で確認可能です。
評価表において「強」と評価できる事実の存在を、証拠によって証明できるようにしましょう。
うつ病などの精神疾患については、他の労災とは異なる認定基準が設けられています。精神疾患の労災認定基準をもっと詳しく知りたい方は、関連記事『精神疾患の労災認定基準|うつ病や適応障害も労災?認定されないときの対処法』も併せてお読みください。
うつ病の労災認定事例
うつ病の労災認定事例を1つ紹介します。(参考:厚生労働省「精神障害の労災認定」)
異動して係長に昇格したAさんは新部署の上司から連日の叱責を受けてしまいます。日々投げつけられる言葉には「死ね」「辞めてしまえ」など、人格否定に該当するものも多く含まれていました。
抑うつ状態に陥ったAさんは病院を受診したところ、うつ病と診断されます。上司が部下に対して業務範囲を逸脱する暴言を繰り返し、その中に人格否定に該当するものも含まれている場合、「業務による心理的負荷評価表」で「強」と評価されるため認定基準を満たします。
本件では業務以外の心理的ストレスや個体的要件がいずれも著しいものではなかったことから、Aさんは労災認定を受けることになりました。
うつ病で会社を訴える際のポイント
パワハラやモラハラが原因でうつ病を発症したら、会社を訴えることも可能です。民事上の責任を追及したければ、まず内容証明郵便を会社に送って示談交渉を行いましょう。
示談交渉による話し合いで解決できない場合に、裁判に移行して法廷で争います。労災認定と比べ、うつ病で損害賠償を獲得することはハードルが高いです。裁判で争うのであれば、勝つ確率を高めるために入念な準備が求められます。
ここでは、うつ病で会社を訴える際のポイントを紹介します。
会社に責任があるといえる場合とは
会社を訴えて慰謝料を得たければ、会社側の法的義務違反を立証する必要があります。
会社が労働契約上、従業員に対して負っているのは安全配慮義務です。安全配慮義務は安全に関する身体的な健康はもちろん、メンタルヘルス面についても含まれます。
安全配慮義務違反の判断は、予見可能性と結果回避性の有無に左右されます。
予見回避性とは労働者の健康に悪影響を与える可能性はあったのかという意味です。結果回避性では、労働者の健康を守るためにトラブルを回避する手段を取ったのか、問われます。
パワハラやモラハラが起きる可能性を認識していながら何の措置も取っていなければ、安全配慮義務違反を問える可能性が高いです。
逆に、会社側がパワハラやモラハラを行った上司に対して態度を改めるよう指導するといった対応があれば、安全配慮義務に違反はないと判断される可能性もあるでしょう。
ちなみに、パワハラやモラハラでは安全配慮義務以外にも民法上の「債務不履行」「不法行為責任」「使用者責任」等を問える場合もあります。会社は従業員の労働力によって利益をあげている以上、社員が起こした損害についても賠償する責任があると考えられているのです。
従業員がパワハラによって部下のうつ病を引き起こした場合、本人だけでなく使用者の会社も連帯して責任を負います。
会社を訴える際は証拠が重要
パワハラやモラハラの裁判で勝訴するには、何よりも証拠が重要です。会社でのパワハラは記録に残らない暴言の形で行われる場合が多いです。
パワハラ行為に当たる発言や言動を記録するには、ボイスレコーダーによる録音といった音声媒体を用いると効果を示します。現在はスマートフォンでも鮮明な音声を記録できるので、加害者に気付かれず、隠し撮りできる可能性も低くありません。
また、音声以外にも同僚の証言や、日々の被害をつづった記録などもパワハラの証拠になりえるでしょう。うつ病になった証明については、医師に診断書を作成してもらって下さい。
うつ病の慰謝料請求は弁護士に相談
会社に労災の慰謝料請求を行うならば、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
うつ病という精神疾患について労災認定を受けられても、労災保険の給付内容に慰謝料は含まれていません。慰謝料は会社など、損害を与えてきたものに対して請求する必要があります。
弁護士に依頼すれば、正確な請求額の算定や、依頼者の代わりに請求・交渉を行ってくれるメリットがあり、被害者の負担軽減につながるでしょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了