労災の損害賠償算定と請求方法!労災と民事損害賠償は調整される | アトム法律事務所弁護士法人

労災の損害賠償算定と請求方法!労災と民事損害賠償は調整される

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労災の損害賠償請求

労災事故の被害者は、労災保険から補償を受けられますが、すべての損害が労災保険で補償されるとは限りません

会社に安全配慮義務違反や使用者責任が問われる事故や、業務中や通勤中に第三者からケガを負わされたような事故は、労災保険給付だけでは不足する補償について、会社や第三者に対して損害賠償請求できる可能性があります。

ただし、労災保険から給付を受けている部分については重複して賠償請求できません。

よって、先に労災保険から給付を受けている場合は、まず損害の総額を算定し、総額から労災保険受給分を差し引いて請求する算定方法になります。

算定方法

労災の損害賠償請求
=損害の総額-労災保険給付

本記事は、労災事故での損害賠償請求の内容を明らかにしていきます。

労災保険給付と損害賠償金の調整、損害賠償請求の具体的な流れについても説明するので、損害賠償請求を考えている方はぜひお読みください。

労災で損害賠償請求できるものと算定方法|労災保険との関係は?

労災が起こったとき、会社や第三者(加害者)への主な損害賠償請求内容としては、治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益、介護費用などがあげられます。

労災で損害賠償請求するもの

費目
労災保険支給の不足分治療費、休業損害、逸失利益、介護費用
労災保険から支給されない補償慰謝料

治療費、休業損害、逸失利益、介護費用は、労災保険からも一定の金額の給付を受けられます。そのため、労災給付を受けて足りない分について損害賠償請求する流れです。

一方の慰謝料は労災保険の給付外のため、損害賠償請求でしか得られない補償になります。

このように、労災事故で被災者が負った損害に応じて請求すべき費目や範囲は異なります。各補償の賠償額を確定するための計算方法についてもみていきましょう。

治療費(治療費用に関する賠償)

労災でケガを負ったり、病気になったら、治療が必要です。治療にかかる関連費用としては、治療費・薬代・手術費用・入院費・通院交通費などがあげられます。

労災が認定されると、治療費や入院費などの費用は「療養(補償)給付」として労災保険からもらえます。

交通費に関しては片道2Km以上の通院など一定の条件を満たすと労災保険から支払われます。

治療に関する補償

費目
労災保険療養(補償)給付
損害賠償治療関係費

休業損害(仕事を休んだ損害への賠償)

労災によるケガや病気の治療で仕事を休むことになったら、収入は減少してしまいます。労災認定されると、労災保険から「休業(補償)給付」の給付を受けることが可能です。

ただし、労災保険の休業(補償)給付の給付内容は、休業通算4日目からの給付であること事故前3ヶ月の平均賃金の8割程度にとどまることから十分とはいえません。

労災保険の休業(補償)給付だけでは休業1~3日の損害と事故前3ヶ月の平均賃金に相当する分をもらえませんので、不足分は「休業損害」として損害賠償請求していくことになります。

休業時の減収に対する補償

費目
労災保険休業(補償)給付
傷病(補償)年金
損害賠償休業損害

労災事故に関して労災保険から給付される「休業補償」と損害賠償請求における「休業損害」の違いや計算方法について知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

慰謝料(精神的な苦痛への賠償)

労災事故でケガや障害を負った被災者や、死亡事故により残された遺族は大きな精神的苦痛にさらされます。このような精神的苦痛は「慰謝料」として、損害賠償請求可能です。

慰謝料に関しては労災保険の補償対象外となっているので、労災保険から支払われることはありません。

重要ポイント

労災で慰謝料を得るには、安全配慮義務違反や使用者責任のある会社や、労災にかかわった第三者へ損害賠償請求する必要があります。

慰謝料の種類は、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3つです。下表はそれぞれの金額相場を示しています。

相場算定の要素
入通院慰謝料通院1ヶ月(重傷)28万円
通院3ヶ月(軽傷)53万円
ケガの程度や治療期間
後遺障害慰謝料110万円から2,800万円後遺障害等級
死亡慰謝料2,000万円から2,800万円被災者の家庭内の立場

慰謝料は労災保険から支払われないもので、損害賠償請求でしか獲得できません。損害賠償請求にくわしい弁護士へ相談して、適正な金額の獲得を目指しましょう。

なお、後遺障害慰謝料を請求するためには、労災事故による後遺症が後遺障害に該当するとして等級認定を受けておくことが大切です。それ以外の方法として、労災で認定を受けられていない場合は裁判所に判断を仰ぐ方法もあります。

後遺症認定や労災の慰謝料を計算する方法については関連記事でもくわしく解説しています。

逸失利益(将来の減収への賠償)

逸失利益とは、労災事故により後遺障害が残ってしまい、労働能力が下がったことで、本来得られるはずの収入が減ってしまったことへの損害賠償です。

逸失利益とは何か

労災保険からは「障害(補償)給付」が給付されます。障害は症状の重さに応じて14段階の障害等級で区別され、最も重い障害が1級、最も軽い障害が14級です。

労災保険の障害(補償)給付は1日あたりの金額である給付基礎日額を割り出し、障害等級に応じて決められた日数分が給付されます。

労災保険からは障害等級に応じた日数分しかもらえないので、足りない部分は「逸失利益」として損害賠償請求していくことになります。

将来の収入減に対する補償

費目
労災保険障害(補償)給付
損害賠償逸失利益

後遺障害逸失利益は被災者の事故前収入、年齢、後遺障害等級などの様々な要素をもとに算定します。

後遺障害逸失利益の計算方法

計算式は複雑ですが、逸失利益は損害賠償費目の中でも高額になりやすいです。よって、適正な金額を請求して受け取ることを目指しましょう。

損害賠償請求における逸失利益の適正な金額や労災保険から給付される障害(補償)給付額を知りたい方は、以下の関連記事をお役立てください。

労災保険からの障害(補償)給付は、労災認定さえ済めば金額を争うことなく給付を受けられます。

一方の逸失利益は高額になりやすいことから、損害賠償請求においてはシビアな交渉も予想されるので、豊富な交渉ノウハウを持つ弁護士に任せることも有効です。

死亡事故の逸失利益は計算方法が違う

後遺障害が残っただけでなく、労災で死亡してしまった場合も、本来働いて得られるはずの収入が途絶えてしまうことになります。

死亡事故についても死亡逸失利益として請求が可能です。

死亡逸失利益の場合は計算方法が異なるため、関連記事『死亡事故の逸失利益|計算方法と職業ごとの具体例、生活費控除とは?』の解説をお読みください。

介護費用(被災者の介護にかかる賠償)

労災によって介護が必要であると認定されると「介護(補償)給付」が労災保険からもらえます。介護(補償)給付は、常時介護を要する場合と随時介護を要する場合に区分して、支給額が異なります。

  • 常時介護を要する場合(1ヶ月あたり)
    現実に介護費用を支出:上限17万1650円
    親族などによる介護 :一律7万3090円
  • 随時介護を要する場合(1ヶ月あたり)
    現実に介護費用を支出:上限8万5780円
    親族などによる介護 :一律3万6500円

※ 参照:厚生労働省関係の主な制度変更(令和3年4月)について「労災保険の介護(補償)等給付額の改定」

親族などによる介護に関しては、常時・随時の介護にかかわらず現実に介護費用を支出していなくても支給されます。

労災保険からは上限や一律でしか給付がもらえないので、足りない部分は「介護費用」として損害賠償請求していくことになります。

介護に対する補償

費目
労災保険介護(補償)給付
損害賠償介護費用

労災保険と損害賠償は併用可能だが二重取りはできない

労災保険給付と損害賠償請求は併用できる

労災事故は労災保険給付を受けられるだけでなく、損害賠償金の請求も可能な場合があります。

もっとも、すべての労災事故で損害賠償請求できるわけではありません。

損害賠償請求できる労災事故を理解するときには、誰に対して損害賠償請求できるのかで整理するとわかりやすいです。

会社に損害賠償請求できる労災事故とは、会社に安全配慮義務違反のような落ち度があるときや、第三者の不法行為について会社に使用者責任を根拠として請求できる場合です。

第三者に損害賠償請求できる労災事故とは、その労災事故の原因が第三者による不法行為にある事故をさします。

損害賠償請求の相手労災事故の原因
会社会社の落ち度(安全配慮義務違反)
第三者の不法行為(使用者責任が問える場合)
第三者第三者の不法行為

本記事内「労災で損害賠償請求できるケースとは?」でも具体的に解説していますので、あわせてお読みください。

労災と損害賠償は二重取りできない

労災が第三者行為災害の場合、労災保険による給付と損害賠償請求による損害賠償金の間では支給調整というものがおこなわれます。

支給調整とは、同一の内容を労災保険からも損害賠償からも受け取って二重に補償されないように調整されることです。

同一の内容とは、具体的には以下のとおりです。

労災保険給付損害賠償金
療養(補償)給付治療関係費
休業(補償)給付
傷病(補償)年金
休業損害
障害(補償)給付逸失利益

具体的に言えば、労災保険からすでに給付を受けているときには、二重取りにならないように損害総額から労災保険の給付額を差し引く算定方法です。

こうして調整する算定方法について説明します。

調整方法1.先に労災保険の給付を受けた

労災保険の給付を先に受けているときには、損害賠償請求の際、労災給付額を差し引いて請求することになります。

たとえば損害の総額は1,000万円で、すでに労災給付として300万円を受け取っている場合では、1,000万円から300万円を差し引いた700万円について賠償請求をする流れです。

補足情報|求償について

第三者行為災害によって被災した労働者が労災保険から給付を受けた時、労災保険を給付した政府が第三者に対して労災保険の給付額に相当する金額を求める調整方法を求償といいます。

交通事故を例にすると考えやすいでしょう。業務中の交通事故は第三者行為災害でもあり、労災事故でもあります。

交通事故は、事故加害者の任意保険会社から保険金という形で損害賠償がおこなわれるものです。しかし、労災保険からの給付が先行した場合、本来は交通事故の保険会社が支払う損害賠償を国(労災保険)が支払っている状態になります。

このように第三者が支払うべき損害賠償を政府が一時的に肩代わりし、あとからその肩代わりした分を政府が第三者に請求することを求償といいます。

労災被害者が直接かかわることのない処理ではありますが、仕組みについてはこのようになっています。

調整方法2.先に損害賠償金を受け取った

労災事故について、先に損害賠償金を受け取っているときには、労災保険金は控除されます。

控除とは、労災保険の給付より前に第三者からの損害賠償がおこなわれていた場合、補償の目的が同じ項目については労災保険からの給付が受けられないことをいいます。

第三者から損害賠償を受けたのに労災保険からも給付を受けると、損害が二重に補償されることになります。

二重に補償されることは利益が生まれることになるので、損害賠償のうち労災保険の給付と補償の目的が同じ項目であれば、その分は控除して労災保険が給付されることになります。

損害賠償後に労災保険からはこのくらいもらえるはずなのにもらえなかった、などと思わないように控除のことを知っておきましょう。

労災で損害賠償請求できるケースとは?

損害賠償請求とは、なんらかの損害を与えてきた相手に対して、その損害への補償を求めることをいいます。

労災で損害賠償請求する場合、以下のようなケースを請求の根拠として主張します。

  • 安全配慮義務違反
  • 使用者責任
  • 工作物責任
  • 第三者行為災害

このような根拠が労災に認められるのであれば、労災保険の給付とは別に、会社や第三者に対する損害賠償請求が可能になります。

損害賠償請求の根拠がどのようなものなのか、それぞれ簡単にみていきましょう。

安全配慮義務違反による損害賠償請求

会社の安全配慮義務違反によって労災が起こった場合、会社に対して民法上の損害賠償請求が可能です。

安全配慮義務違反とは、労働者を雇う会社に課せられる「労働者の生命や身体等が危険にさらされないように保護する義務」が果たされなかった場合をいいます。

安全配慮義務違反による労災は以下のようなケースが例としてあげられます。

  • 施設や設備の整備不良による事故
    高所での作業にもかかわらず安全柵を設置しておらず落下した
    社用車の点検が不十分で事故を起こした
  • 劣悪な環境での作業
    高温になる室内で作業をつづけ熱中症になった
    有毒なガスを吸って病気になった
  • 長時間労働による健康被害
    残業時間が月平均で80~100時間以上あり、うつ病などの病気を発症した

この他にも、近年ではパワハラなどのハラスメント問題も安全配慮義務違反にあたると考えられるケースが出てきています。(ハラスメント問題は、安全配慮義務違反のほかに使用者責任も該当する場合もあります。使用者責任については後ほど解説しますので、引き続きご覧ください。)

労働者を保護する義務を会社が怠ったことで労災が起これば、会社に安全配慮義務違反があるとみなされ、労働者は会社に対して損害賠償請求することができるのです。

安全配慮義務違反による損害賠償請求は「民法709条の不法行為」と「民法415条の債務不履行」に基づきます。条文を確認しておきましょう。

(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第七百九条

(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

民法第四百十五条

【疑問】下請業者でも元請業者に損害賠償請求できる?

労災における損害賠償請求は、正規雇用や非正規雇用・有期雇用や無期雇用といった雇用関係のみならず、請負契約であっても行うことができる場合があります。

元請業者と下請業者のあいだに指揮監督関係があれば、元請業者は安全配慮義務や使用者責任を負うことになるのです。

使用者責任による損害賠償請求

使用者責任とは、業務中に従業員が起こした不法行為で生じた第三者の損害に対する損害賠償責任を会社も負うというものです。

そのため、使用者責任のある会社に対して損害賠償請求が可能な場合があります。

従業員の行為を会社が責任を負うことになる法的な根拠としてはさまざまなものが考えられるのですが、根本となる規定は「民法715条の使用者責任」に基づきます。条文を確認しておきましょう。

(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

民法第七百十五条

使用者責任による労災は以下のようなケースが例としてあげられます。

使用者責任による労災の例

  • セクハラやパワハラなどのハラスメント問題
    同僚から性的な嫌がらせを受けた
    上司から人格を否定されたり、叱責を長時間受けた
  • 不注意による事故
    同僚がクレーン操作を誤り、怪我を負わされた
  • 故意による事故
    同僚と喧嘩して殴られた

工作物責任による損害賠償請求

工作物責任とは、工作物の設置や保存において安全性の欠陥がないよう、損害発生防止に注意しなければならないことです。そのため、工作物責任のある会社に対して損害賠償請求が可能な場合があります。

工作物責任による損害賠償請求は「民法717条」に基づきます。条文を確認しておきましょう。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない

民法第七百十七条

工作物責任による労災は以下のようなケースが例としてあげられます。

工作物責任による労災の例

  • 工事現場の足場が倒壊した
  • 工事作業中に土砂崩れに巻き込まれた
  • 作業中のビル内で漏電が発生し、感電したり火災に見舞われた

第三者行為災害による損害賠償請求

第三者行為災害とは、労災が生じた原因が第三者の行為によって生じたものです。第三者とは、労災保険の当事者となる労働者・会社・政府以外のものをさします。

第三者行為災害が労災に該当し、労災保険の給付が受けられるとしても、第三者自身は損害賠償の義務を有しています。したがって、被災した労働者は第三者についても損害賠償請求することが可能です。

第三者行為災害による損害賠償請求は、安全配慮義務違反の場合と同様に「民法709条の不法行為」に基づきます。

労災事故の損害賠償請求でおさえておきたい要点

労災の損害賠償請求には3つの方法がある

損害賠償を請求する方法としては、示談交渉・民事調停・民事裁判の3つの方法があげられます。

損害賠償請求の方法

  1. 示談交渉
  2. 民事調停
  3. 民事裁判

示談交渉・民事調停・民事裁判について、ぞれぞれ簡単にまとめていきます。

1.示談交渉

示談交渉は、被災した労働者と損害賠償責任を問いたい相手とが解決に向けて話し合いを行うことをいいます。労災によってどのような損害を受けたのか、その損害を回復するためにはどのくらいの損害賠償金が必要なのか、といった内容を話し合いで決め、双方が合意すれば示談成立となります。

損害賠償請求というと裁判所で民事裁判を行うようなイメージが強いかもしれませんが、示談によってお互いの意見や状況を話し合い、合意に向けて話を詰めていきます。最終的に話し合いの内容で合意ができたら、示談書などを作成し、その示談書の内容に従って損害賠償金が支払われます。

労災事故における示談交渉についてさらに詳しくは、関連記事『労災事故の示談交渉を進める流れとコツ|示談交渉すべき労災とは?』もご確認ください。

2.民事調停

民事調停は、裁判所で被災した労働者と損害賠償責任を問いたい相手とが解決に向けて話し合いを行うことをいいます。話し合いというと示談交渉と共通していますが、民事調停では裁判所が中立の立場として間に入るという点が示談交渉とは異なります。

民事調停は裁判所を利用しますが、民事裁判よりもかかる費用が安く、手続きも簡易です。さらに、調停で決まった内容は裁判の判決と同等の効力を持つため、示談交渉で決裂した場合に次に進む手として選ばれることがあります。

3.民事裁判

民事裁判とは、裁判所がどのように解決を図るのか検討し、判決を出すことで問題の解決を図る手続きのことをいいます。

示談交渉や民事調停でも決着がつかなかった場合に民事裁判に進むケースが多いでしょう。関連記事『労災で裁判は起こせる?会社を訴えたいなら民事訴訟の対応方法を知ろう』では、労災をめぐって裁判を起こすべきケースを解説しています。

弁護士などの専門家を付けずに、自分だけで裁判を起こすこともできます。しかし、法廷では法的に根拠のある主張を展開が必要になりますし、そもそも手続き自体が煩雑で訴訟の知識がないと進められないのが現実と言わざるを得ません。

会社からの見舞金は損害賠償金の一部

労災について会社から見舞金が支払われた場合は、労災保険からの給付ではなく、会社からの賠償金の一部と考えられます。

労災保険から給付を受けるには申請が必要で、被災者は迅速な補償を受けられずに困ってしまうので、会社が一定の補償をしている状態です。

就業規則や慶弔金規程など会社の決まりによるため金額相場は各々で異なります。

もっとも、被災者が負った損害が深刻なものであるほど見舞金だけでは不十分な恐れがあるため、損害賠償にくわしい弁護士に相談して、金額の妥当性を聞いてみることも大切です。

損害賠償は過失相殺や素因減額の対象

労災保険の給付額は過失相殺や素因減額の影響を受けませんが、損害賠償請求によって受け取る金額は影響を受けます

過失相殺による賠償金の減額

過失相殺とは、労災が起きた原因に被災した労働者にも不注意が認められると、その不注意の程度に応じて損害賠償金が減額されることをいいます。

たとえば次のような事情があったとき、被災者側にも一定の過失があるとして、会社から受け取る損害賠償金が減額される可能性があるのです。

労働者の過失の例

  • 決められた手順通りに作業をしていなかった
  • 防護服や防護メガネなどの装着を怠った
  • 精神科の受診など具体的な行動をとらなかった

会社側との交渉においては、こうした過失についても話し合うことになります。裁判に発展すると争点になることもありえるでしょう。

しかし、不当に高い過失を受け入れる必要はありません。労災における過失の事例は、関連記事『労災で自分に過失があるときの損害賠償』でも解説していますので、併せてご確認ください。

素因減額による賠償金の減額

素因減額とは、労災で被った病気などの原因として、業務のみならず、もともと従業員がもっていた既往症・通院歴・生活習慣なども考慮され、その程度に応じて損害賠償金が減額されることをいいます。

労働者の素因減額の例

  • 高血圧の基礎疾患を持っていた
  • 日ごろから飲酒・喫煙などリスクのある生活態度だった

素因減額がどのくらいの割合で認められるかで、最終的に手にできる賠償金の額は大きく変わります。

過労死による損害賠償請求時は特に注意

とくに心臓や脳の疾患は過労死として認定されうるものですが、一定程度素因減額の影響を受ける可能性もありますので、慎重な判断・交渉が必要です。

過労死における慰謝料請求については、関連記事『過労死の慰謝料相場は?損害賠償請求の根拠と訴訟事例や請求方法も紹介』もあわせてお読みください。

労災の損害賠償請求タイミングと時効

労災の損害賠償請求が可能になるタイミングは大まかに「被災した労働者の損害賠償額が確定した時」で、消滅時効は5年です。

さらに具体的に言うと、損害賠償請求額は「被災した労働者の損害賠償額から労災保険からの給付額を差し引いた金額」となります。(労災保険の給付を先に受けている場合)

傷病のケース

ケガや病気になった労災では、治療を受けて、何らかの症状が残るようであれば労災で障害等級の認定を受け、障害(補償)年金や障害(補償)一時金の給付を受けてから損害賠償金を算定できるようになります。

損害賠償金が算定できたら、会社や第三者などに対して損害賠償請求を行います。

死亡のケース

死亡した労災では、労災が認定されて遺族(補償)年金、葬祭料などの労災保険の給付を受けてから損害賠償金を算定できるようになります。損害賠償金が算定できたら、会社や第三者などに対して損害賠償請求を行います。

家族が労災で亡くなった場合の対応については、関連記事でくわしく解説しているのであわせてお読みください。

労災の損害賠償請求は弁護士相談・依頼がおすすめ

弁護士に相談するメリットは多い

労災の損害賠償請求は会社側との示談交渉や訴訟といった対応が必要になります。

適切な証拠を集める難しさだけでなく、相手方とやり取りするというストレスは想像を超えるものとなるでしょう。

弁護士との相談により、弁護士に依頼して対応を任せる方がよい案件かどうかがわかります。もし弁護士に任せるメリットが大きいならば、依頼も検討していきましょう。

労災の損害賠償請求について弁護士に相談したい、弁護士費用の相場を知りたいという方は関連記事もあわせてお読みください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

労災の損害賠償請求の要点まとめ

この記事のまとめ

  • 労災が起きた原因として会社に安全配慮義務違反や使用者責任が認められる場合は、会社に対して損害賠償請求ができる
  • 労災が起きた原因として第三者に不法行為が認められる場合は、第三者に対して損害賠償請求ができる
  • 労災保険は法律で決まった範囲でしか補償が受けられないので、足りない部分の損害に対する補償は損害賠償で求めていくことになる
  • 労災保険から先に給付をもらった場合は、その給付分は損害賠償から控除される
岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了