労災で自分に過失があるときの損害賠償や労災保険は?過失相殺の有無を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災で自分に過失があるときの損害賠償や労災保険は?過失相殺の有無を解説

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自分に過失のある労災|損害賠償や保険、過失相殺の有無は?

「労災事故で被害を受けたけど、原因は自分にもあるから労災保険を受け取ることは不可能だろう」と考えていませんか。

実は労災事故の原因が被災者側にあるケースでも、労災保険や損害賠償を受け取れる場合があります。ただし、損害賠償の場合、被災者側の過失分だけ賠償金が減額されます。

いずれにせよ、労災かどうか判断するのは労働基準監督署です。自己判断で労災は無理だと決めつけるのはやめましょう。

今回は、労災で被災者に過失があるときの損害賠償や労災保険の取扱いについて紹介します。労災の被害について適切な補償を受けることにつながるので、ぜひ本記事をお読みください。

労災で被災者に過失があるときの損害賠償について

労災事故では直接的な加害者や会社に対して、損害賠償を請求できる場合があります。損害賠償の法的根拠である民法709条では「故意または過失によって、他人の権利や法律上の利益を侵害した者はその損害を賠償する責任を負う」とあります。

つまり、加害者や会社によって被災者の権利や利益が侵害されたと立証できれば、損害賠償を得られる可能性が高いのです。

ただし、被災者の過失が原因で事故が引き起こされた場合、損害賠償が減額される可能性もあります。被災者の過失割合分だけ賠償金を差し引く仕組みが過失相殺です。ここでは、労災事故における損害賠償の過失相殺について解説します。

過失相殺によって賠償金は減額される

過失相殺とは、事故で発生した損害について被災者と加害者、それぞれの責任割合を明らかにして、被災者の過失割合に相当する額をトータルの賠償額から差し引く仕組みです。

事故で発生した損害については、被災者と加害者で分担して負担しなくてはいけません。たとえ被災者でも、事故の原因が自分にあるのならば、自らも金銭的な負担を負わなくてはならないのです。

たとえば、裁判所の判決によって「加害者が7割、被災者が3割」と責任割合が決められたとしましょう。この場合、被災者が受け取れる金額は裁判所が請求を認めた賠償額×70%です。自分に責任のある残りの30%については、減額されてしまいます。

過失割合は賠償額に大きな影響を与えるので、過失相殺に関して単独で争われるケースもあります。過失相殺による減額の可能性はあっても「過失がある=損害賠償を受け取れない」とはならないので、安心してください。

労災で被災者に過失があるときの労災保険について

会社に雇用されて働く労働者はほとんどの場合、労災保険に加入しています。労災保険では業務上の事由、もしくは通勤による負傷・疾病・障害・死亡に対して支給が行われます。

たとえば、労災事故の被災者は、災害が原因の負傷に対する治療費や休業中の生活補償などを受けることが可能です。

労災保険の場合、事故が労働者の過失が原因で引き起こされたとしても、支給額が減額されることはありません。損害賠償と扱いが異なるので、注意しましょう。ここでは労災保険と被災者の過失について詳しく解説します。

労災保険では過失の有無が問われない

労災保険では被災者の過失が原因で事故が引き起こされたとしても、給付金が満額支給されます。労働者の過失分だけ給付金が差し引かれない理由は、労災保険が労働者の保護を目的とした制度であるからです。

会社と労働者の関係では、どうしても労働者側が弱い立場に置かれます。会社は自分たちが強い立場であることを利用して、長時間労働や過酷な業務を命令してくるケースもあります。事故が発生しやすい環境で働いているにも関わらず、労働者に過失があることだけで支給を受けられないとしたら、とても理不尽です。

弱い労働者を守るために、労災保険は労働者の過失については気にしていません。ただし、労災保険は、すべの労災事故をカバーしているわけではありません。

例外的に、労働者の故意・重過失が原因の事故である場合、給付金が支給されないケースもあります。労働者の落ち度が著しく大きいケースまで、従業員を保護する必要はないと考えられるためです。

労災で自分のミスや不注意から起きた事故の事例を紹介

自己の過失が原因の労災事故での損害賠償や労災保険の取扱いは、ご理解いただけたでしょうか。

労働者の過失によって引き起こされる事故には、どのようなものがあるのでしょう。ここでは自分のミスや不注意から起こった労災事故の事例を紹介します。

紹介する事故は、どれも労災の認定を受けた事例ばかりです。ここを読めば、労働者側にミスや不注意などの過失があったとしても、労災に該当するケースは多いのだと認識してもらえるでしょう。

ケース(1)通勤中に駅の階段で転び負傷した場合

通勤中に駅の階段で転んでケガをした場合でも、労災事故だと判断されます。「走っていたのは自分の遅刻癖が原因なのだから、自分が悪い」と思う方もいるかもしれません。

しかし、通勤中に階段で転んだケースは、通勤災害の要件に該当します。通勤に伴う通常予測されるレベルの危険が具体化されたとして、通勤災害だと認められます。

通勤災害の認定要件や手続きについては、関連記事を参考にしてください。

ケース(2)加熱機械の電源を切っていなかったため、機械にはさまれてしまった場合

加熱機械の電源を切っていなかったので、機械にはさまれて負傷した場合、労働者側に過失があると感じるかもしれません。電源を切らなかったのは労働者のミスですが、事故が起きた原因は他にもあると考えられます。

そもそも、機械が運転中、可動域に簡単に立ち入ることができてしまう環境に問題があるでしょう。また、機械を使用する作業について、作業標準が作成されていなかった点も要因のひとつです。

業務中の業務行為が原因の事故なので、本事例では労災認定が下りています。

工場内で起こる労災の特徴や労災申請の方法、損害賠償請求については関連記事もお役立てください。

ケース(3)踏み台を使って高所に上ろうとしたところ、滑って転倒した場合

高所に置いてある物を取ろうとして、踏み台を使ってテーブルに乗ろうとした時に起きた事故です。不安定な足場の中、無理に作業する行為は労働者にも過失があるといえるでしょう。

しかし、テーブルに乗るという危険な行為が研修や教育で徹底されていなかったので、会社側にも落ち度があると考えられます。いずれにせよ、業務行為によって事故が発生しているため、労災に該当します。

労災事故に対する会社側の落ち度があるときには、安全配慮義務違反を問い、損害賠償請求ができる可能性もあります。関連記事では具体例を挙げて解説しているので、安全配慮義務違反の有無を判断するポイントがつかめるでしょう。

労災では過失があると思っていても自己判断は禁物

事例をチェックすると、労働者に過失がある事故でも労災だと認められるケースも多いことがわかります。

労災かどうか判断するのは認定機関である労働基準監督署です。自分の判断で「労災には該当しないだろう」と思わない方がいいです。ここでは、労災の判断を被災者がしない方がいい理由を詳細に解説します。

労災かどうか判断するのは労働基準監督署

労働基準監督署が労災だと認定しなければ、労災保険の給付金は支払われません。労災保険の請求手続きでは、まず労働者が会社に対して労働災害が発生した旨を報告します。

次に労働基準監督署に対して、請求書等の必要書類を提出します。そして、労働基準監督署によって請求内容の調査・確認が行われ、最終的に労災保険の給付決定がなされるのです。

このように労災を判断するのは、労働基準監督署です。企業でも労働者でもありません。労働者が自分で勝手に「こちらのミスだから、労災は下りないだろう」と判断してしまうと、損する可能性も考えられます。

また、企業は労災の事実をきちんと報告する義務があり、事故を隠ぺいすると責任を問われます。会社のためにも、労災の被害にあったことをしっかり報告しましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了