工場内での労災について解説|労災請求や会社への損害賠償はどうする?
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工場内では危険な作業も多く、労災が生じやすい環境といえるでしょう。特に、機械の操作・製造・設置、重いものを運ぶ作業は危険が隣り合わせですので、労働者は注意をしなければなりません。
本記事では、工場内における労災でどのような請求が可能であるのかを明らかにし、労働者がどのような行動すれば適切な補償の支払を受けることができるのかという点について解説します。
この記事がお役に立てれば幸いです。
目次
工場内での労災|業務災害といえる必要
工場勤務においては、機械を使った危険な作業を行うことが多いため、仕事中に怪我を負ってしまうということも珍しくありません。
しかし、仕事中に怪我を負っただけで常に労災が認められるわけではないため、労災が認められる要件について知っておく必要があるのです。
業務災害といえるなら労災と認められる
工場内での事故がすべて労災ではありません。工場内での事故が業務上において労働者に生じた負傷・障害・死亡等である場合には、業務災害が生じたとして労災の発生が認められるのです。
そのため、業務災害の要件を満たさなくてはなりません。
具体的には、労働者が使用者の支配下にあることが前提になり(業務遂行性)、また、業務と傷病との間に因果関係があること(業務起因性)が必要となります。
労働者が使用者の支配下外で怪我した場合や、業務と傷病との間に因果関係がない場合は労災とはいえず、労災保険による給付を受けることもできません。
工場勤務中に怪我を負ったのであれば、この業務遂行性および業務起因性があることから確認をしましょう。
業務災害の要件に関して詳しく知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事をご覧ください。
工場内での事故の特徴
工場内での事故は大事故につながりやすく、最悪の場合、死亡してしまうこともあります。厚労省が出している令和2年「労働災害発生状況」では、死亡者数として「機械による挟まれ、巻き込まれ事故」は、全体の16%に至るといった調査があります。
また、工場内における身体的な傷病等だけでなく、長期労働や上司からのパワハラなどによって、うつ病などの精神疾患になった場合も労災といえるでしょう。
労災に遭ったらどうしたらいいのか?
労災に遭ってしまった場合に、どのような手続きをすればいいかについて解説します。労災に遭ってしまった場合は、労災保険からの給付を受けるほか、使用者に損害賠償請求することが考えられます。
労災保険の申請を行う
労災に遭った場合は、労災保険制度に基づき、損害の一部を国が補償してくれます。主な補償内容としては、主に以下の通りです。
- 治療費などを補償する「療養補償給付」
- 休業損害を補償してくれる「休業補償給付」
- 後遺障害が発生した場合に補償を受けられる「障害補償給付」
- 労災により死亡事故が発生した場合に家族が補償を受けることができる「遺族補償給付」
これらの補償は、必要な書類を労基署に提出することで受給できます。会社に担当者がいて被災労働者の手続きをサポートしてくれることも多いです。
また、使用者が協力してくれない場合は、労基署などに相談しながら労災請求することをおすすめします。
労災保険の申請方法やその他の手続きについては、くわしい関連記事『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』もあわせてご覧ください。
派遣社員も労災保険が利用できる
工場における労災では、工場に派遣されている派遣社員が労災に遭うこともあるでしょう。正社員でなくても雇用形態を問わず労災保険は利用可能であり、派遣社員の場合は派遣先会社の労災保険を利用してください。
派遣社員が労災に遭った場合に知っておくべき情報や注意点については『派遣社員でも労災保険が利用できる|必要な手続きや給付内容を紹介』の記事をご覧ください。
使用者に対する損害賠償請求を行う
労災保険では、損害の一部しか補償されない恐れがあります。
また、物損や慰謝料についても労災保険による補償の対象外です。
そのため、更なる支払いを受けるためには、労災保険から給付を受けるとともに、別途、使用者に対して損害賠償請求する必要があります。
一方で、労災給付を受けている場合には、損害賠償金として二重には受け取れないという点には注意が必要です。
関連記事では、労災保険と損害賠償請求の調整の仕組みや、労災事故の慰謝料相場について解説していますので、あわせてお読みください。
工場の労災で使用者に損害賠償請求する方法
使用者に対して損害賠償請求をする方法について解説します。
また、実際に工場内で労災が生じて使用者の責任が認められた判例についてもあわせて紹介をします。
使用者の安全配慮義務違反を根拠として請求
使用者に対して損害賠償請求すると考えた場合、まず使用者がいかなる義務を負っていて、その義務にどのように違反したため今回の事故が起こったのかということを証明することが必要です。
使用者は、従業員が業務作業によって生命や身体に対する損害を生じないようにするため、適切な安全対策を行うという安全配慮義務を負っています。
そのため、安全配慮義務違反が原因で労災事故が発生した場合には、労災事故によって生じた損害について使用者に損害賠償請求を行うことが可能です。
使用者の安全配慮義務違反を検討する際には、法律上の規定、会社の規則、行政庁の定める関連通達などを参考にしましょう。法律や通達などの違反がある場合には、安全配慮義務違反の根拠とできるためです。
安全配慮義務違反の根拠となる法律について
機械を使用することが多い工場勤務中において生じる労災事故においては、労働安全衛生法の規定に違反していないかが問題となることが多いでしょう。
労働安全衛生法20条では、「事業主は次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」との規定があり、同条1号では「機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険」との規定があります。
また、同法43条では「動力により駆動される機械等で、作動部分上の突起物または動力伝導部分若しくは調速部分に厚生労働省で定める防護のための措置が施されていないものは、譲渡し、貸与し、または譲渡若しくは貸与の目的で展示してはならない」との規定があるのです。
このような法律上の規定は、使用者に対して、機械の種類等に応じた安全装置などを講じるように義務付けられているといえるでしょう。これらの法律に違反して労災が生じてしまった場合、安全配慮義務違反を理由に使用者等に対して損害賠償請求できます。
使用者の安全配慮義務を認めた判例
東京地判平成20年2月13日判例では、派遣労働者が派遣先の工場で作業台に立ってライン上を流れる缶の蓋を検査する作業をしていました。当該労働者は作業中に、作業台から転落して頭部を強打し死亡した事案です。
裁判所は、本件作業が約8時間にも渡るものであること、暑さ対策を求められるほど高温であったこと等から、作業者が転落する可能性が十分考えられると認定しました。
そして、裁判所は使用者に対して、転落の危険を避けるために転落防止の措置が施された適切な作業台を使用すべき義務を負っていたとしております。その結果、使用者はこのような義務を講じずに被災労働者を作業させていたとして、原告の損害賠償請求を認めました。
労災に関する損害賠償金の交渉は弁護士に相談を
会社側との交渉がうまくいかずにストレスにさらされたり、法的な知識が不足していることで不当な金額提示を受け入れてしまう可能性があります。
そこで会社への損害賠償請求をするなら、できるだけ早急に弁護士に相談することをおすすめします。弁護士ならば会社との交渉を代理できますし、裁判になったときの対応も一任可能です。
このほか関連記事『労災に強い弁護士に相談するメリットと探し方|労災事故の無料相談はできる?』でも紹介の通り、弁護士に依頼するメリットは多数あります。
アトム法律事務所の無料相談案内
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了