機械に巻き込まれる・挟まれる事故で死亡・切断・骨折した場合の対応
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製造業など仕事上、機械を使用する業種は数多く存在します。
機械を使用する業種では、機械に巻き込まれる・挟まれる労災事故が多数発生しており、巻き込まれ・挟まれによる労働災害は、死亡事故や障害を残す重篤な負傷となる危険性もあります。
このような事故に巻き込まれた場合、労災保険から補償を受けとることができますが、労災保険だけでは補償が不十分な場合も多いです。会社側に責任を問える場合は、不足する補償や慰謝料を損害賠償請求することが可能です。
今回は、業務中に起きた巻き込まれ・挟まれ事故をテーマに、責任の所在や損害賠償請求をわかりやすく解説します。
機械に巻き込まれ・挟まれた労働災害事例
令和5年に、作業中の労働者が機械に巻き込まれ・挟まれて死傷した人数は、1万3928人にのぼります。
以下では実際に発生した機械に巻き込まれ・挟まれた労働災害事例を紹介します。
ローラーに巻き込まれて死亡した事故
労働者が、木材加工用丸のこ盤による合板の切断作業中にローラーに巻き込まれ、死亡した事例です。
作業中、切断された合板を送り出すローラーとフレームとの間に端材が詰まっていたため、労働者が、端材を取り除こうとして手を伸ばしたところ、ローラーに巻き込まれ被災したものです。
発生原因としては、端材の処理を機械を停止せずに行ったことや丸のこ盤に設置している非常停止装置が容易に操作できる位置に取り付けられていなかったこと、巻き込まれるおそれのあるローラーに覆いが設けられていなかったことなどがあげられています。
ミキサーに巻き込まれて死亡した事故
労働者が、ミキサーの攪拌を停止しないままミキサー内に手を入れ、ミキサーに全身を巻き込まれ死亡した事例です。
麺類の材料をこねるミキサー内にあるうどんのかすをミキサーの下にあるホッパーに落としてしまったため、ミキサーの攪拌を停止させないままミキサーの投入口を上向きに戻していたところ、ミキサーに全身を巻き込まれ被災したものです。
発生原因としては、攪拌軸の停止を確認しなかったことやミキサーの前面に脚立を設置していたため、投入口に転落する危険性が高い状態となっていたことなどがあげられています。
ドリルに巻き込まれて死亡した事故
労働者が、成型作業を行う際に使用する横中ぐり盤(NCによる自動機)の暖機運転中、ドリルに巻き込まれ死亡した事例です。
工場内より機械の暖機運転中に運転音とは異なる音が聞こえたため、労働者が近づいて確認した際に、中ぐり盤のドリルに被災者が巻き込まれ被災したものです。
発生原因としては、暖機運転中とはいえ運転中の機械に近づいたことやドリルを安全カバーで覆わない状態で使用していたことなどがあげられています。
麺帯機に巻き込まれて死亡した事故
製麺工場で麺帯機を使って作業にあたっていた労働者が、餃子の皮を製造する機械である麺帯機の攪拌羽根に巻き込まれて死亡したという事例です。
事故発生時、被災した労働者は麺帯機を使って餃子の皮を製造しており、誤って攪拌機内部で回転する攪拌羽根に接触して巻き込まれました。
その後、麺帯機の前に労働者がいないことに気づいた職長が駆け寄ったところ、すでに労働者は死亡していました。
麺帯機は工場で20年以上使用されているものでした。麺生地は原料の小麦粉や水、調味料などを攪拌し、練り具合を確認しながら、必要に応じて水を少量ずつ加えていく必要があったため、麺帯機の蓋にはインターロック機構がなく、蓋を開けたままで攪拌する必要があったようです。
発生原因としては、麺帯機の蓋にインターロック機構がなく、格子状のガードも設けられていなかったことや、作業ステップから容易に操作できる場所に非常停止スイッチが設けられていなかったことなどがあげられています。
プレス機械に挟まれて死亡した事故
労働者が、プレス機械を修理中に上型とダイクッションとの間に挟まれ、死亡した事例です。
プレス機械のダイクッションが動かなくなったので、原因を調べたところ、ダイクッションパットのスライド部分にボルトが引っ掛かっていたので、ダイクッションの給排気を行ったが動かず、スライドの隙間に長い鉄板を差し込んでボルトをはじき出そうと試みましたが失敗しました。
そこで、プレス本体のスライドの力を利用してダイクッションをつり上げることにして、ダイクッションにつりボルトを取り付け、ワイヤロ-プを掛けようとした際に、突然ダイクッションが飛び上がり、労働者は左半身を上型とダイクッションの間に挟まれ、左半身圧死、左足切断となり死亡しました。
発生原因としては、ダイクッションのシャフトが折損し、クッションパットが飛び上がったことや修理作業の手順を定めていなかったこと、故障原因の究明を行わないまま、作業を続行していたことなどがあげられています。
フォークリフトに挟まれて死亡した事故
労働者が、フォークリフトのマストとヘッドガードに挟まれ死亡した事例です。
労働者が、フォークリフトの荷崩れを直すため、エンジンを切らずにフォークリフトのマストとヘッドガードの間に身体を入れて立ち、荷の上部を両手で押して荷崩れを直しはじめた際、マストが後傾し、マストとヘッドガード前部フレームとの間にはさまれ、被災したものです。
発生原因としては、積荷の手直し作業の手順を完全に省略していたことや会社が無資格者の運転を容認しており、フォークリフトによる積卸し作業の教育も行っていなかったことなどがあげられています。
ボール盤に巻き込まれて指を切断した事故
労働者が、ボール盤でのステンレス板の穴あけ作業中、部品を保持していた左手の手袋がドリルの刃に巻き込まれ、左人差し指を切断した事例です。
ボール盤の台上にあったゴミを取り払おうとした際に、回転中のドリルに手袋が巻き込まれてしまい、被災したものです。
発生原因としては、ボール盤を使用する際、手袋は巻き込まれるおそれがあるため、素手で行うべきとされていたにもかかわらず、手袋の使用が黙認されていたことがあげられています。
ローラーに巻き込まれて骨折した事故
木材加工所でかんな盤のローラーの清掃中に衣服が巻き込まれ、胸部圧迫骨折等の重症を負ったという事例です。
事故発生当日、住宅用木材の加工所で、4軸モルダー(木工用4面かんな盤)を使い、三人で木材を加工中でした。
被災した労働者は、モルダーの下部ローラーに木くずが付着したため、下部ローラーを回転させながら木くずをヘラで取り除いていたところ、機械内部では被災者の背面にある上部ローラーも回転していたため、衣服の一部が巻き込まれて上半身が強く圧迫され、胸部圧迫骨折等の重症を負ったものです。
発生原因としては、下部ローラーの清掃作業を行う際に、上部ローラーを含めた機械全体の運転停止を行っていなかったことや清掃作業を行う際の安全な作業手順を書面化していなかったこと、機械清掃時の運転停止にかかる社内における体系的な教育を実施していなかったことなどがあげられています。
巻き込まれ事故の責任の所在
巻き込まれ事故による被害は甚大です。後遺障害が残ってしまったり、場合によっては命を落とすこともあります。
このような重大事故が発生した場合、責任の所在はどこにあるのでしょうか。
使用者が責任を負うケース
巻き込まれ事故は、本人の不注意によって発生することもありますが、使用者(自分が所属する会社)の安全対策が不十分であったために発生することもあります。
使用者は労働者に対して安全配慮義務を負っており、労働者が安全な環境で仕事ができるように配慮しなければなりません。
たとえば、故障している機械を労働者に使わせていたことや、安全装置を停止させて作業を行わせたりしていたことが原因となって発生した労災は、安全配慮義務違反となる可能性があります。
使用者に安全配慮義務違反が認められれば、被災した労働者は使用者に対して損害賠償を請求することが可能です。関連記事では安全配慮義務違反にあたるのかを判断する基準を解説しています。
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関連会社が責任を負うケース
工場のように、多くの機械類が設置されている場所では、工場の運営会社に雇用される労働者だけでなく、よそから派遣されてきた労働者も一緒になって働いていることが少なくありません。
このような労働者が被災した場合には、使用者である派遣元だけでなく、派遣先に対しても損害賠償を請求することが可能です。
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機械メーカーが責任を負うケース
機械の欠陥(設計上の欠陥や指示・警告上の欠陥)に起因して巻き込まれ事故が発生した場合、被災した労働者は機械メーカーに対して損害賠償を請求することが可能です(「製造物責任」といいます。)。
実際に、過去には製造物責任を根拠として機械メーカーに損害賠償を命じた裁判例があります。
労災事故の補償と損害賠償請求
労働者が就業中に機械に巻き込まれたり挟まれたりするなどして受傷した場合、まずは労災保険から補償を受けることが一般的です。
労災保険の種類と補償内容
労災保険にはさまざまな補償の種類が設けられており、被災した労働者本人をはじめ、労働者が亡くなった場合にはその遺族に対しても補償給付が行われるようになっています。
具体的には、病院での治療費を補償する療養給付や休業期間の収入を一定割合補償する休業給付、障害が残った場合に補償される障害給付、労働者が死亡した場合にその遺族に給付される遺族給付などがあります。
もっとも、労災保険による補償は、労働者が実際に負担した費用の全額をカバーしてくれるものではありません。
たとえば、休業給付は1日につき給付基礎日額の60%と特別支給金の20%を合わせた80%が給付されるに過ぎません。その他の補償についても、労災保険により決められた金額が給付されるだけなので、満足な補償が受けられない可能性が大いに考えられます。
補償の不足分や慰謝料は会社に請求することが必要
労災保険による補償だけでは、十分に補償を受けられないこともあります。
また、慰謝料にかぎっては、そもそも労災保険による補償の対象外です。
補償では足りない分や慰謝料を請求したいという場合には、自分が所属する勤務先に対して損害賠償請求を行うことで、これらを支払ってもらえる可能性があります。
もっとも、損害賠償請求を行うには会社側の安全配慮義務違反や使用者責任が認められることが条件となります。したがって、会社側に安全配慮義務に違反する事実があったことや、故意・過失があったことなどを労働者側において立証しなければなりません。
このように、労働者は労災保険による補償に加え、会社側に損害賠償を請求することも可能です。もっとも、損害賠償請求する場合は、法的知識も必要となるため、弁護士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
労災事故で死亡したケース
ここからは、具体的に労働者が作業中に会社側の安全配慮義務違反が原因で機械に巻き込まれて死亡(即死)したケースを例に解説していきます。
労災保険からの補償
上記のケースでは、被災者の遺族は労災保険から遺族給付と葬祭料を受給することができます。
具体的には遺族給付として、家族の人数や被災者の収入(給付基礎日額や算定基礎日額)に応じた遺族
(補償)等年金・遺族特別年金と300万円の遺族特別支給金が支給されます。
また、葬祭料として、葬祭を行った者に対し、315,000円+給付基礎日額の30日分、又は給付基礎日額の60日分のいずれか高い方が支給されます。
会社への損害賠償請求
被災労働者の遺族は、上記の労災保険からの給付とは別に下記損害賠償の項目を会社に請求することができます。
死亡慰謝料
労災事故における死亡慰謝料の相場額は2,000万円から2,800万円です。具体的には、労働者の家庭での立場により相場が異なります。
労働者の立場 | 相場額 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他の立場 | 2,000万円~2,500万円 |
労働者の収入で家庭の生計が成り立っていたといえる場合には、一家の支柱に該当します。
死亡逸失利益
労災事故における死亡逸失利益の計算式は以下のとおりです。
死亡逸失利益の計算方法
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
ただし、上記の計算式で算定された金額から遺族(補償)等年金は差し引かれるので注意が必要です。
一方で、遺族特別年金や遺族特別支給金は差し引かれません。
葬儀費用
労災事故における葬儀費用の相場は150万円です。
ただし、労災保険から受給している葬祭料は差し引かれることになります。
労災事故で骨折したケース
続いて、労働者が作業中に会社側の安全配慮義務違反が原因で機械に巻き込まれて骨折し、後遺障害の10級が認定されたケースを例に解説していきます。
労災保険からの補償
上記のケースでは、労働者は労災保険から療養給付や休業給付、障害給付を受給することができます。
具体的には休業給付として、休業4日目の分から、休業1日につき給付基礎日額の60%の休業(補償)等給付と給付基礎日額の20%の特別支給金が支給されます。
また、障害給付として、後遺障害10級が認定された労働者に対して、給付基礎日額の302日分の障害(補償)給付や算定基礎日額の302日分の障害特別一時金、39万円の障害特別支給金が支給されます。
会社への損害賠償請求
労働者は、上記の労災保険からの給付とは別に下記損害賠償の項目を会社に請求することができます。
後遺傷害慰謝料
労災事故における後遺障害慰謝料の10級の相場額は550万円です。
治療費
理論的には会社に治療費を請求できますが、労災保険からの療養給付が差し引かれ、療養給付ですべてカバーされるので、実際に請求することは基本的にありません。
休業損害
先ほど解説したとおり、労災保険からの休業給付は休業4日目の分からを対象にしているため、3日目の分までの休業損害は全額会社に請求できます。
また、休業損害から休業(補償)等給付は差し引かれますが、特別支給金は差し引かれないので、4日目以降の分についても、給付基礎日額の40%を別途会社に請求できます。
後遺障害逸失利益
労災事故における後遺障害逸失利益の計算式は以下のとおりです。
後遺障害逸失利益の計算方法
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
ただし、上記の計算式で算定された金額から障害(補償)給付は差し引かれるので注意が必要です。
一方で、障害特別一時金や障害特別支給金は差し引かれません。
労災で請求できる逸失利益についてより詳しく知りたい方は、下記の関連記事を参考にしてください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了