業務災害を弁護士に依頼するメリット!どんなときに弁護士が必要?
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業務災害とは、仕事をしている状態で、業務に関連する危険が原因となる労働災害のひとつです。業務災害であると認定されれば、労災保険から治療費や休業の補償などを受け取ることができます。
労災申請は原則会社がおこなってくれますので、業務災害にあったからといって必ずしも弁護士が必要なわけではありません。
ただし、会社に業務災害の原因があった場合は、労災保険から支払われる給付だけだと不十分なケースがあります。
次のような場合は弁護士を入れるメリットがより高いといえますので、この記事を読んで弁護士への相談・依頼を検討してください。
弁護士の必要性が高いとき
- 業務災害における会社の責任を疑っているとき
- 会社に慰謝料を請求したいとき
- 納得いく労災認定結果を得たいとき
目次
業務災害における会社の責任を疑っているとき
労災のひとつである業務災害は、労災保険から一定の保険金を受給できます。
しかし、業務災害の発生に会社の落ち度が起因するときには労災保険からの給付にとどまらず、会社から賠償を受けられるのです。
会社の責任を検討していきたい人は、弁護士の法的な知識・実績が必要になってきますので、弁護士への相談や依頼の必要性が高いといえます。
会社の責任として安全配慮義務(債務不履行責任、不法行為責任)と使用者責任についてみていきましょう。
安全配慮義務(従業員の安全のために会社が負う義務)
会社が業務災害発生に責任があるかどうかを判断するうえでは、安全配慮義務違反の検討が重要です。安全配慮義務は労働契約法第5条にあるとおり、会社が従業員の安全を守るために最大限の努力をする義務を指します。
安全配慮義務の具体例
- 安全な職場環境を作る
危険な箇所の改善や安全器具の備え付けなど、安全に働けるような環境を整えること - 安全教育の実施
危険な作業の仕方や事故を防ぐための知識を従業員に教えること - 健康管理
長時間労働の防止や定期健康診断の実施など従業員の健康を守る対策を行うこと
安全配慮義務違反を検討する際には、予見可能性と結果回避可能性の2つがポイントです。
概要 | |
---|---|
予見可能性 | 事故発生を予見できたのか |
結果回避可能性 | 被害を回避することが可能であったのか |
会社側が事故発生を予見でき、適切に対応していれば損害の発生を回避できたと考えられるとき、会社の安全配慮義務違反が疑われます。
一方で会社が事故の発生を予見できなかったり、適切に対応していても損害発生は避けられなかったりすると、会社側に責任はないと判断される見通しです。
安全配慮義務違反について理解を深めておくことは、会社の責任の有無を検討するうえで重要になります。
会社の安全配慮義務違反では債務不履行責任や不法行為責任を訴えるなど、よりくわしい解説をした関連記事もあわせてお読みください。
使用者責任(従業員の業務中の不法行為における賠償責任)
業務災害が他の従業員の不法行為によって生じた場合には、その従業員への損害賠償請求が可能です。もっとも個人も支払い能力には限度があるので、適正な支払いを受けられる可能性は低くなります。
こういう場合は、使用者責任を根拠として会社への賠償請求も検討しましょう。
使用者責任は、従業員が業務上行った不法行為によって第三者に損害を与えた場合、その損害を会社自身も賠償しなければならないという責任をいいます。(民法第715条)
会社に慰謝料を請求したいとき
労災保険給付は給付内容が充実しているとはいえ、労災が起こった原因が会社にある場合は十分とはいえません。
慰謝料は労災保険の給付内容には含まれていないので、会社に損害賠償請求しなければ手にすることができない補償です。
自分だけで交渉する場合に感じる精神的負担から解放されることや、不当に低い慰謝料での解決を避けられることは、会社に慰謝料を請求したい人が弁護士に依頼するメリットといえます。
弁護士依頼のメリット
- 精神的負担から解放される
- 不当に低い慰謝料での解決を避けられる
精神的負担から解放される
ご自身だけで会社とやり取りする場合、雇う側と雇われる側という立場の違いで交渉しにくかったり、そもそも話し合いすら始まらなかったりするケースもあるのです。
弁護士が代理人として交渉することで、会社側は話し合いの場に応じてくれるようになったり、法的な問題があるものとして真剣に対応を検討してくれる可能性が高まったりします。
自分だけで交渉する場合に感じる精神的負担から解放されることは、弁護士に依頼するメリットのひとつです。
法律の専門家である弁護士が話を進めていくことで、会社も強固な態度を取りづらくなり、話し合いが進む可能性が高まるでしょう。
慰謝料を請求する流れ
慰謝料の請求は、まず会社との話し合いによる示談交渉から始めることが多いです。
いきなり訴訟としないのは、示談交渉で解決できる方がより費用を抑えられること、早く解決できる可能性があること、双方が一定の納得ができることが理由とされています。
示談交渉での解決が難しい場合には訴訟も検討せねばなりませんが、まずは示談交渉で解決できるほうがよいでしょう。
関連記事では示談交渉の流れをよりくわしく解説しています。示談交渉前にお読みいただければ、流れの全体像をつかむことができますので、あわせてお読みください。
不当に低い慰謝料での解決を避けられる
慰謝料は精神的苦痛という目に見えない損害を緩和する金銭なので、人によってバラつきがでないよう、公平性の観点から相場額があります。
過去の判例や法的知識を駆使した交渉は弁護士が本領を発揮する部分ですので、相場より不当に金額を下げられないよう、粘り強い交渉ができることも弁護士依頼のメリットです。
労災事故の慰謝料相場
会社に請求できる慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つがあります。
慰謝料 | 相場 |
---|---|
入通院慰謝料 | 挫創で1ヶ月治療:19万円 骨折で6ヶ月治療(うち1ヶ月入院):141万円 |
後遺障害慰謝料 | 110万円~2,800万円 |
死亡慰謝料 | 2,000万円~2,800万円 |
各慰謝料には相場があるものの、会社側が満額の慰謝料を提示してくれるわけではありません。そのため、相場額を知ったうえで増額交渉することが大切です。
関連記事は労災事故の慰謝料の相場・計算方法について、先の表より踏み込んだ情報を記載していますので、あわせてお読みください。
慰謝料以外にも最大限の補償獲得を目指す
慰謝料の他にも会社に請求できるものがあります。たとえば、労災保険の休業補償給付で不十分な「休業損害」です。
というのも、労災保険からもらえる休業補償給付は、仕事を休業したことで減額することになった収入の60%程度の補償となっています。
残り40%の補償は、休業損害として会社に対して損害賠償請求しなければ受け取ることができません。
物損部分の補償も労災保険の対象外
さらに、被災した時に壊れた眼鏡などの「物損」に関しても労災保険給付の対象外なので、会社に対して請求することになるでしょう。
たとえば仕事中の怪我で身に着けていた腕時計が破損してしまったときの補償、壊れたスマートフォンの修理・買い替え費用などが該当します。
弁護士であれば、労災保険の給付で何が補償されて、何が補償されないのかを明確にできます。
さらに、補償に漏れのないよう丁寧に会社に対して損害賠償請求し、最大限の補償が得られるよう尽力してくれることを弁護士には期待できるでしょう。
納得いく労災認定結果を得たいとき
症状に見合った後遺障害認定をサポート
後遺症の症状が後遺障害であると認定されることで、後遺障害に関する労災保険給付(障害補償給付)を受けとることができます。
ただし、労災保険給付を申請したからといってかならず認定されるものではありません。後遺症の症状が後遺障害に該当することを適切に証明する必要があります。
申請に際しては、後遺障害に該当することを適切に証明できるよう、診断書や医学的な資料を戦略的に準備しておく必要があります。
自分一人で申請をする場合、このような資料集めも自分で行う必要があり、後遺症が残った体では負担が大きいことでしょう。
後遺障害等級が一つ違うだけで受けられる保障は大きく変わります。弁護士によるサポートやアドバイスしだいでは、後遺障害等級認定の結果が変わることも十分あり得るのです。
業務災害を弁護士に相談・依頼する人に向けた基礎知識
労災に関する弁護士費用
労災事故について弁護士に依頼する費用の相場は以下のとおりです。
名称 | 金額 |
---|---|
相談料 | 30分5,500円~ ※無料相談もあり |
着手金 | 11万~33万円程度 ※着手金ゼロの完全報酬型もあり |
成功報酬 | 取得した利益の11~22%程度 ※完全報酬型だと割合が大きい |
日当 | 出廷1回につき1.1万~3.3万円程度など |
実費 | 実際に発生した金額 |
もっとも労災事故について示談交渉での解決を望むのか、裁判まで任せるのかで費用は千差万別です。
事務所の方針により費用形態は変化することも多いので、より正確な費用を知りたい場合は、直接弁護士に問い合わせるようにしてください。
関連記事では労災に関する弁護士費用について解説しています。弁護士に確かめる前に概要を知りたい方はお役立てください。
多額の賠償が認められた事例がある
労災保険では、慰謝料が補償されていません。逸失利益については労災保険から障害(補償)給付・遺族(補償)給付といった内容で一部カバーされているものの、その額が大きくなることが見込まれるような場合には、弁護士に依頼することをお勧めします。
ここでは、過去の裁判例で実際に認められた高額な賠償金の支払いが認められた事例を簡単に紹介します。
電通事件(東京地裁判決平成8年3月28日)
- 約1億2,600万円(最高裁まで争われた後、東京高裁での差し戻し審にて1億6,800万円で和解)
大手広告代理店の社員が1か月あたり147時間もの長時間労働によって鬱病に罹患した後自殺したことについて、会社に安全配慮義務違反が認められた事例です。
オタフクソース事件(広島地裁判決平成12年5月18日)
- 約1億1,000万円
食品メーカーの製造工場で、夏場の異常な高温多湿な状態での勤務が続き、何度も人員や環境の整備を申し出たにもかかわらず会社から拒絶されその後自殺したことについて、会社に安全配慮義務違反が認められた事例です。
天辻鋼球製作所事件(大阪地裁判決平成20年4月28日)
- 約1億9,000万円
先天性の脳動静脈奇形(AVM)の基礎疾患を持っていた社員が、長時間労働が続き、就労中に小脳出血・水頭症を発症し、反昏睡・全介助の状態になり障害等級1級となったことについて、会社に使用者責任が認められた事例です。
このように、会社側に安全配慮義務違反が認められたケースで、労働者が亡くなってしまった場合には、高額な賠償金の支払いを命じる判決が出ています。
また、労働者に重い後遺症が残ってしまった場合にも、交通事故の障害等級に応じた慰謝料算定基準を参考にして数百万~数千万の慰謝料が認められるケースが多いです。
労災問題に力を入れている弁護士がいる
弁護士は法律の専門家ですが、各々で力を入れている領域や分野が異なります。
そのため労災問題を相談する際には、労災事故や損害賠償請求にくわしい弁護士を探すようにしましょう。
インターネット検索でホームページを確認してみると、弁護士のプロフィールや解決実績を確認できる場合が多いです。
あるいは法律相談を通して、自分と類似の労災賠償問題を扱ったことがあるかを聞いてみることも有効でしょう。
なお労災問題では会社側のサポートをする弁護士もいますので、労働者側の相談を受け付けている弁護士を探すことも忘れないようにしてください。
関連記事では労災問題の相談窓口や、労災に強い弁護士の特徴・探し方のヒントを解説していますので、あわせてお読みください。
業務災害で十分な賠償金を獲得するなら弁護士に相談しよう
労災が会社の落ち度に起因するものならば、労災保険制度を充分に活用することだけではなく、別途慰謝料等の損害賠償を請求できる可能性があります。
労災事故の補償問題では、正確さとスピードの両方が必要です。そして労災認定後に慰謝料などの損害倍賠償請求を行うならば、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
労災で重い後遺障害が残った方やご家族を亡くされた遺族の方など損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了