労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説
労災保険の一つに療養(補償)給付があります。療養(補償)給付では、主に傷病に対する治療費や関連費用の支払がなされます。そのため、労災事故で治療が必要な場合でも、安心して治療を行うことが出来るといえるでしょう。
ただし、療養(補償)給付には受給要件等があり、いつでも受給できるものではありません。
そこで、本記事では労災保険のうち、特に療養(補償)給付の給付内容や受給予見などを解説します。
目次
療養(補償)給付とは?
療養(補償)給付とは、勤務中や通勤中に傷病を負ってしまい、療養をする際に補償される労災保険給付の一つになります。業務災害の際に補償されるのが療養補償給付、通勤災害の際に補償されるのが療養給付です。
なお、この記事では、いずれの給付にも共通する内容は療養(補償)給付と記載をします。
労災の治療費に関して給付
療養(補償)給付では、治療に関連する費用について支払を受けることができます。
具体的には、以下のようなものです。
- 診察料などの治療費
- 薬代
- 手術費用
- 自宅療養における看護費用
- 入院中の看護費用
- 入院や通院のために必要な交通費
傷病等の性質や程度に応じて、一般的に治療して効果があるかどうかによって受給の有無が判断されます。
そのため、治療が必要でない場合に治療を行ったとしても、療養補償給付を受給できません。
通院交通費の支給要件
通院のための交通費については、被災労働者の居住地または勤務先から片道2km以上の距離があり、以下のいずれかの支給要件に該当する必要があります。
- 同一市町村内の治療に適した医療機関へ通院した
- 同一市町村内に治療に適した医療機関がないため、隣接する市町村内の医療機関へ通院した
- 同一市町村内にも隣接する市町村内にも治療に適した医療機関がなく、それらの市町村以外の最寄りの医療機関に通院した
※片道2km以内であっても支給対象となることがあります
指定医療機関かどうかによって受給の仕方が異なる
療養(補償)給付の内容は、指定医療機関で治療を受けるかどうかによって若干変わってきます。
労災指定医療機関で治療を受けた場合、当該医療機関に労災請求用紙を提出すれば無料で治療を受けることができます。治療行為自体が給付内容となるため、現物給付を受けることになるのです。
一方で、労災指定医療機関以外で治療を受ける場合は、一旦、被災労働者が治療費を立て替える必要があるでしょう。その後、領収書などを添付して労災請求をすることによって、治療費等の支払いを受けることができます。
受給できるのは傷病が治癒されるまで
療養(補償)給付は、傷病が「治癒」されまで支給されます。「治癒」とは、 症状が完全に回復した場合を想像されるかもしれませんが、ここでは、 医学上一般的な治療を行ったとしても、治療の効果が期待できない場合も含まれます。
治癒した場合に、痛みが未だ残存している場合は後遺障害等の話になるでしょう。
療養(補償)給付以外の給付内容
労災保険では、療養(補償)給付以外には、以下のような給付がなされます。
- 休業補償給付・休業給付
労災による傷病の療養をするために仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付
詳しく知りたい方は『労災における休業補償の計算方法は?給付条件・期間・申請手続きを解説』の記事をご覧ください。 - 障害補償給付・障害給付
労災による傷病が完治せずに後遺障害が残った場合に給付される一時金や年金
詳しく知りたい方は『労災の後遺障害とは?障害等級の認定基準と金額早見表、給付の流れ』の記事をご覧ください。 - 遺族補償給付・遺族給付
労災により労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることができる一時金や年金 - 葬祭料・葬祭給付
労災により死亡した労働者の葬祭を行うために支給される - 傷病補償年金・傷病年金
労災による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても完治しない場合に給付される - 介護補償給付・介護給付
障害(補償)年金や傷病(補償)年金の受給者であり、症状が重く現に介護を受けている人に対する給付
より詳しく知りたい方は『労災と介護保険は併用できない?介護補償給付との給付調整も解説』の記事をご覧ください。
傷病が治癒されるまでに長期間が必要な場合には、他の給付も必要となることが多いでしょう。どのような種類の給付を受けることができるのかについては、労働基準監督署に確認を取ってください。
これは療養(補償)給付の対象となるか|1問1答
療養(補償)給付の対象は、治療に関連する費用であり、治療のために必要といえるという抽象的な範囲が示されているに過ぎません。
では、以下のような費用については給付の対象になるといえるのでしょうか。
入院中の食事代
入院中に適切な食事をとることも治療のために必要な行為といえます。
そのため、入院中に病院から提供される食事代は療養(補償)給付の対象になるといえるでしょう。
しかし、病院から提供される食事ではなく、労働者自身が希望した食事の場合は治療のために必要といえない恐れがあるので、すべての食事代が給付の対象ということはできません。
入院中のパジャマ代
入院中に快適な生活を送ることも治療のために必要な行為といえるので、入院中に必要となる生活雑貨に関する費用は療養(補償)給付の対象になるといえるでしょう。
入院中のパジャマ代も必要な生活雑貨の費用といえるため、基本的には対象となります。
入院中の個室代
入院生活のために必要な費用は治療のために必要な費用といえます。
しかし、基本的に個室に入院することまでは治療のために必要とはいえないでしょう。
そのため、入院中の個室代は療養(補償)給付に該当しないといえます。
もっとも、症状の内容から大部屋ではなく個室で入院することが適切であると医師が判断している場合には、治療のために必要な費用として療養(補償)給付の対象になることがあるでしょう。
リハビリのための通院に関する費用
リハビリのために通院した際に生じる治療費や通院費に関しても、治療のために必要な費用といえるでしょう。
もっとも、医師がこれ以上は治療の効果が望めないとして症状固定の状態になったと判断した以降のリハビリは、治療のために必要ということはできません。
そのため、症状固定の状態になったと判断されるまでのリハビリに関する費用については、療養(補償)給付の対象といえるでしょう。
療養(補償)給付を受けるための要件
業務災害または通勤災害といえることが必要
労働者に生じた傷病であれば常に療養(補償)給付を受けることが出来るというわけではありません。
労災保険である療養(補償)給付を受給するためには、「業務災害」もしくは「通勤災害」による傷病であることが必要です。
労災保険給付を受けるために必要な受給要件について解説します。
業務災害とは
業務災害とは、労働者の業務上の事由による負傷、疾病、障害または死亡をいいます(労災法7条1項1号参照)。
業務災害というためには、労働者が使用者の管理下や支配下にあったという「業務遂行性」と、業務が原因で傷病等が生じたという「業務起因性」が必要です。
業務遂行性
業務遂行性が問題となる場合として、特に休憩中の事故などが挙げられるでしょう。基本的に休憩時間中であっても事業主の指揮監督の余地がある場合では、業務上のものといえます。
一方で、休憩時間中に事業施設を離れていた場合は、事業主の支配・管理下にあったとはいえないため、当該要件が否定されるでしょう。
休憩時間中の事故が労災に該当するかは状況によって異なります。関連記事『会社の休憩中における事故でも労災認定が下りる場合もある』では、さまざまな休憩時間中の事故事例を紹介しながら労災に該当するケースとしないケースを解説しています。
業務起因性
業務起因性については、業務が事業主の支配管理下においてなされている場合に当該災害が業務中に発生したのであれば、特別な原因がない限り認められるでしょう。
ただし、休憩中等は、労働者の自由行動であるため、業務中にあるとはいえません。事故の原因が事業施設またその管理に起因することが明らかで無い限りは、当該要件が否定されるでしょう。
業務災害の要件について詳しく知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事をご覧ください。
通勤災害とは
通勤災害とは、労働者の通勤によって被った負傷、疾病、障害または死亡のことをいいます(労災法7条1項2号参照)。
通勤に該当する移動とは、以下のような移動になります。
- 住居と就業場所との往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 単身赴任先と家族の住む住居間の移動
上記している移動に該当しているだけでなく、就業に関する移動であり、合理的な経路および方法による移動であることが必要です。
公共交通機関を利用したり、自家用車を本来の用法に従って使用する場合は、「合理的な方法」であるといえるでしょう。
また、労働者が通勤のために通常利用する経路であれば「合理的な経路」といえます。
「合理的な経路」という要件が否定されるのは、特段の理由もなく大きく遠回りをするような場合であり、多少迂回した程度であれば問題になりません。保育園等に子どもを預けるために利用する経路も合理的な経路であるといえます。
ただし、通勤途中に合理的な経路をそれたり(逸脱)、通勤とは関係のない行為を行う(中断)と通勤には該当しなくなります。
もっとも、日常生活に必要な最小限度の行為を行うためであるなら、行為終了後に合理的な経路に戻った時点から通勤に該当することになります。
通勤災害の詳細な具体例について知りたい方は『通勤災害とは何か|寄り道で怪我しても労災?誰にどんな請求ができる?』の記事をご覧ください。
療養(補償)給付の請求手続き
療養(補償)給付の請求方法についてみていきます。 労災保険を請求する際には、適切な請求書類への記載が必要といえるでしょう。
ここでは具体的にどの請求書類に必要事項を記載すればいいかを解説します。
請求書類は厚労省のHPを参考に
労災保険の請求書類は、労基署でもらえる他、厚労省のホームページ「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からもダウンロードができます。 参考にしてください。
指定医療機関での治療を受けている時は様式5号書式もしくは様式16号の3を提出することになるでしょう。 指定医療機関以外の医療機関を利用している場合は、様式7号、もしくは15号の5となります。
また、指定医療機関以外の医療機関を利用して以下のような処置を受けた場合には、上記とは異なる書式が必要です。
- 薬局で薬を出してもらった(様式第7号(2)、第16号の5(2))
- 柔道整復師に施術してもらった(様式第7号(3)、第16号の5(3))
- はり師、きゅう師、あん摩・マッサージ師に施術してもらった(様式第7号(4)、第16号の5(4))
- 訪問看護を利用した(様式第7号(5)、第16号の5(5))
労基署に報告した後にそれぞれの機関に提出
労災が発生した場合は速やかに会社に報告し、その後、前述した書類を提出することになります。
指定医療機関で治療を受けている場合、請求書類はその指定医療機関に提出しますが、指定医療機関以外の医療機関で治療を受けている場合は管轄の労働基準監督署に提出を行います。
請求書類の提出は原則として被災労働者本人ですが、会社が社労士と契約している場合もあるでしょう。その場合は、社労士が被災労働者に代行して手続きを行ってくれる場合も多いですが、その場合であっても、しっかりと自分で内容を確認することが大切です。
労災事故の原因次第では慰謝料請求も検討するべき
労災に認定されれば療養(補償)給付を受けられるので、ひとまず治療費に関して大きな心配はないでしょう。怪我で働けないときには休業(補償)給付も受けられるので申請を忘れないようにしてください。
労災事故の原因しだいでは慰謝料請求も検討しよう
労災保険の給付は手厚く、怪我をした労働者の方の安心につながる重要な社会保障です。
しかし、労災事故の原因次第では会社に対して損害賠償請求を検討すべきケースも存在します。
それは会社が安全配慮義務を怠ったことで労災が起こり、労働者が損害を負ったケースです。
会社は従業員が安心して仕事ができるように、安全面に配慮をしなくてはならないという義務を負っています。
会社が安全配慮義務違反をしたことで損害が発生したならば、会社は損害に対して賠償責任を負うのです。
安全配慮義務違反の有無を判断する基準を知りたい方は、関連記事を読むと理解が深まります。
慰謝料請求の相談は弁護士へ
労災認定を受けられても、労災保険から慰謝料は支払われません。
慰謝料を請求する先は損害を発生させたものになるため、会社に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
とはいえ、慰謝料はいくらぐらいを請求すればいいのかもわかりませんし、まず会社に安全配慮義務違反があったのかは判断がつきづらいものです。
弁護士に相談することで、ご自身のケースで損害賠償請求が可能かの見当がつくでしょう。また、正式に依頼した場合には会社への慰謝料交渉を任せることが可能です。
この他にも関連記事『労災に強い弁護士に相談するメリットと探し方|労災事故の無料相談はできる?』で紹介している通り、弁護士に相談・依頼するメリットは多数あります。
アトム法律事務所の無料相談
労災で大きな後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりして、会社への損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。入院が必要になったケース、後遺障害が残ったケースや死亡事故は特に、慰謝料が高額化する傾向にあります。
法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。
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詳しくは受付にご確認ください。
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了