労災と介護保険は併用できない?介護補償給付との給付調整も解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災と介護保険は併用できない?介護補償給付との給付調整も解説

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併用できる?労災保険と介護保険

労働災害で介護が必要な状態になった場合には、労災保険を受給することができます。

介護保険については、労災保険の介護補償給付が優先的に適用され、重複しない部分に関して介護保険の給付が受けられるようになります。

本記事では、まず労災保険と介護保険の基本的な知識を整理してから、二重どりにならない給付調整の仕組みについて解説していきます。

労災保険とは

労災保険の補償対象

仕事や通勤中に労働災害に遭った場合には、労災保険による給付を受けることができます。労働災害は、「業務災害」と「通勤災害」の2種類の災害に分けられます。

業務災害とは

業務災害とは、労働者が労災保険の適用される事業場に雇われて、事業主の支配下にあるときに、業務が原因となって発生した災害のことです。

業務が原因となって発生した災害には「業務上の負傷」と「業務上の疾病」があり、これら負傷や疾病によって障害や死亡が生じます。

業務上の負傷とは、被災した労働者の業務としての行為や職場の施設や設備の管理状況が不十分な場合に発生するものと考えられていますので、特段の事情がない限り、業務災害と認定されるでしょう。

通勤災害とは

通勤災害とは、労働者の通勤中に発生した災害のことです。

通勤災害は以下のような要件に当てはまる必要があります。

  • 住居と就業場所との往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先と家族の住む住居間の移動

さらに、上記の要件に加えて、就業による移動であること、合理的な経路および方法による移動であることが必要です。

労災保険から給付される介護補償給付の金額

労災にあい、怪我が完治することなく介護が必要な状態になってしまった場合には介護補償給付を受給できます。

被災した労働者が常時介護の状態か、随時介護の状態にあるかで介護補償給付内容は異なるので、それぞれについて解説します。

常時介護の介護補償給付

まずは、常時介護とはどんな障害の状態かを示します。

常時介護

  1. 精神神経・胸腹部臓器に障害を残すもの(障害等級第1級3号・4号、傷病等級第1級1号・2号)
  2. 両眼の失明とともに障害または傷病等級第1級・第2級の障害を有するもの、両上肢および両下肢が忘失または用廃の状態にあるなど、1と同等度の介護を要する状態

常時介護の場合には、介護費用として支出した額が給付されます。ただし、171,650円が給付上限です。(令和3年3月までの場合、給付上限は166,950円)

親族等により介護を受けている場合は、下表の通り、介護費用の支出有無やその金額でわかれます。介護費用を支出していない場合や、支出額が73,090円を下回る場合の給付金額は一律73,090円です。(令和3年3月までの場合は一律72,990円)

常時介護:介護補償給付(親族や知人の介護を受けていない場合)

介護費用金額
支出なし一律73,090円
支出あり:金額が73,090円を下回る一律73,090円
支出あり:金額が73,090円を上回る実費(上限171,650円)

※令和3年3月までの場合:一律72,990円、上限166,950円

随時介護の介護補償給付

随時介護とは、次のような障害の状態とされています。

随時介護

  1. 精神神経・胸腹部臓器に障害を残すもの(障害等級第2級2号の2・2号の3、傷病等級第2級1号・2号)
  2. 障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護を要する状態ではないもの

随時介護の場合には、介護費用として支出した額が支給されます。 ただし、85,780円が給付上限です。(令和3年3月までの場合、給付上限は83,480円)

親族等によって介護を受けており介護費用を支出していない場合や、支出額が36,500円を下回る場合には、一律で36,500円が給付されます。(令和3年3月までの上限も36,500円)

随時介護:介護補償給付(親族や知人の介護を受けていない場合)

介護費用金額
支出なし一律36,500円
支出あり:金額が36,500円を下回る一律36,500円
支出あり:金額が36,500円を上回る実費(上限 85,780円)

※令和3年3月までの場合:上限83,480円

介護補償給付以外の労災保険の補償内容

労働災害で受け取れる主な給付内容をみていきましょう。ここでは、業務災害で受け取れる給付名称で解説していきますが、通勤災害でも名称が異なるだけで同様の給付となります。

  • 療養補償給付
    労働者が怪我や病気の療養のために要する費用
  • 休業補償給付
    労働者が怪我や病気の療養で仕事ができず、賃金を得られないときの給付
  • 障害補償給付
    労働者の怪我や病気が完治せず障害が残ったときの給付で、障害の程度に応じて一時金や年金形式で支給される
  • 遺族補償給付
    労働者の死亡によって遺族が受け取ることができる一時金や年金
  • 葬祭料
    労働者の死亡で行った葬祭に要した費用
  • 傷病補償年金
    労働者の怪我や病気の療養が1年6ヶ月経過しても完治せず、怪我や病気の内容が傷病等級に該当するときの給付

労働災害保険とはどういった保険なのかを知りたい方、障害補償給付についても知りたい方は、関連記事をご覧ください。

介護保険とは

労災保険に対して、介護保険とはどのような場合に受給できるのでしょうか。また、介護保険の給付内容はどのようなものなのかみていきましょう。

介護保険制度の被保険者

介護保険制度の被保険者は、以下の通りです。

  • 65歳以上の者(第1号被保険者)
  • 40歳~64歳の医療保険の加入者(第2号被保険者)

介護保険サービスは、65歳以上の者は原因を問わず要介護状態・要支援状態となったときに受けることができます。要介護状態とは、「寝たきり・認知症等で介護が必要な状態」です。要支援状態とは、「日常生活に支援が必要な状態」をいいます。

また、40歳~64歳の者は老化が原因とされる病気(特定疾病)により介護が必要となった場合にも介護保険が受給できます。
特定疾病となっているのは、以下にあげるような疾病です。

  • 末期がん
  • 関節リウマチ
  • ALS(筋萎縮性側索硬化症)
  • 後縦靭帯骨化症
  • 骨粗鬆症(骨折を伴う)
  • 認知症(アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症)
  • パーキンソン病
  • 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症
  • 脳血管疾患(脳出血、脳梗塞など) 等

介護保険の被保険者まとめ

受給要件
65歳以上要介護状態、要支援状態であること
40歳~64歳老化に起因する疾病(特定疾病)による要介護状態、要支援状態であること

介護保険の利用には要介護認定が必要

介護保険を利用するには、要介護認定・要支援認定を受ける必要があります。

要介護認定や要支援認定は、介護の必要量を全国一律の基準に基づき客観的に判定する仕組みです。一次判定と二次判定の結果に基づき、市町村が申請者について要介護認定を行う仕組みになっています。

  • 一次判定:認定調査(市町村の認定調査員による心身の状況調査)や主治医の意見書等に基づきコンピューター判定を行う
  • 二次判定:保険や医療、福祉の学識経験者により構成される介護認定審査会により「一次判定」の結果や、主治医の意見書等に基づいて審査判定を行う

介護サービスを利用する流れ

原則として、市町村の窓口で申請してから30日以内に認定結果が通知されるでしょう。

介護支援事業者にケアプランを作成してもらい、サービスを利用することになります。「介護保険被保険者証」と「介護保険負担割合証」をサービス事業者に提示し、ケアプランに基づく居宅サービスや施設サービスを利用します。

介護サービス費用の9割分は保険給付です(一定以上所得者は8割又は7割です)。

要介護者は原則として残りの1割分のほか、施設サービスを利用した場合の食費や居住費を負担しなければなりません。

なお、一定の所得者は2割~3割が自己負担です。

労災保険と介護保険は併用できる?

労働災害に遭って労災認定を受けた被災労働者が、要介護状態になるというケースもあると思います。

そのような場合、労災保険と介護保険は併用することがきるのでしょうか。

結論だけ先にいうと、労災保険と介護保険は重複しない範囲で利用可能です。重複した給付とならないように、労災保険と介護保険の間で調整される仕組みになっています。

それでは、労災保険における介護補償給付の要件を確認してから、介護保険の調整規定についてみていきましょう。

労災保険の介護補償給付の要件

労災保険は労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づいて給付されます。労災保険法では要介護状態になったような場合について以下のような規定があります。

介護補償給付は、障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、その受ける権利を有する障害補償年金又は傷病補償年金の支給事由となる障害であつて厚生労働省令で定める程度のものにより、常時又は随時介護を要する状態にあり、かつ、常時又は随時介護を受けているときに、当該介護を受けている間(略)当該労働者に対し、その請求に基づいて行う。

労働者災害補償保険法 第十二条の八第四項

つまり労災保険法によると、要件を満たす場合に介護に要する費用として介護補償給付が支給されるということです。

介護保険法の調整規定

介護保険法には、他の法令による給付と重複しないように、調整に関する規定があります。

介護給付(略)は、当該要介護状態等につき、労働者災害補償保険法(略)の規定による療養補償給付、複数事業労働者療養給付若しくは療養給付その他(略)介護給付等に相当するものを受けることができるときは政令で定める限度において、又は当該政令で定める給付以外の給付であって国若しくは地方公共団体の負担において介護給付等に相当するものが行われたときはその限度において、行わない。

介護保険法第20条

同法には、「介護給付等に相当するものが行われたときはその限度において、行わない」と規定されています。

つまり、介護保険給付に相当するものが給付されている場合、その部分に関しては介護保険の給付は行われないということです。

【結論】二重どりにならない範囲で併用可能

介護補償給付をはじめとした労災保険による給付が行われる範囲では、介護保険の給付が行われません。

言い換えると、重複して補償されている部分については労災保険が優先的に適用され、労災保険でも補償されていない部分については介護保険を利用することができる、ということです。

二重どりは許されませんので、労災が適用されているにもかかわらず、介護保険も重ねて利用してしまうと発覚後に清算する必要が出てきてしまいます。

保険給付を超える損害があるなら弁護士に相談

労災保険や介護保険を利用すると、労働者に対してさまざまな給付を受けることができるようになります。他方で、今回解説したように択一的にしか利用できない補償もあります。

制度の複雑さに悩まれている場合は是非、法律のプロである弁護士に相談してみてください。

保険給付の他に損害賠償請求できないか検討

もし、会社の安全配慮義務違反や交通事故といった第三者行為災害などを原因として労働災害が起きたのであれば、損害を与えてきた者に対する損害賠償請求が可能です。

損害賠償請求は、労災保険とは別に行うことができます。

労災保険の給付は、労災で受けた損害のすべてが補償されるものではありません。具体的に言えば、労災事故による慰謝料は労災保険給付には含まれないため、損害賠償請求が必要です。

弁護士にご相談いただければ、お悩みのケースでは損害賠償請求できるのか検討したり、どんなお金がもらえるようになるのかなど詳しくお話しすることができるでしょう。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


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代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了