労働者災害補償保険法を解説!対象となる災害と給付内容を詳しく紹介
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労災保険という言葉は知っていても、その内容を正しく理解しているでしょうか?
「どんな場合に労災保険が適用されるのだろう」「労災事故にあったらどんな給付が受けられるのだろう」など、疑問を感じる人もいるでしょう。
今回の記事では、労災保険の対象となる災害の種類や給付内容、申請方法などについて解説します。
目次
労働者災害補償保険法とは
労災保険とは、「労働者災害補償保険法」が定める国の制度です。主に労働災害にあった従業員を、会社に代わって守るための制度です。
まずは、労災保険の概要についてみていきましょう。
労災保険の目的
労災保険の目的は、労災保険法第1条で次の通り定義されています。
- 業務上の事由、又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行う。
- 被災労働者の社会復帰の促進、労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、労働者の福祉の増進に寄与する。
主なポイントは次の3つです。
- 労災の種類は「業務災害」と「通勤災害」の2つ
- 労働者の「負傷」「疾病」「障害」「死亡」などの被害を補償
- 主に「保険給付」によって労災被害を補償
参考:厚生労働省「労災補償」
労働基準法と労災保険の関係
労働基準法75条において、業務上の災害に対する会社の責任を次のように定めています。
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
労働基準法第75条
しかし、会社に災害補償をする意思がなかったり、大きな事故を起こして会社が倒産したりする場合には、従業員は十分な補償を受けられない可能性もあります。
このような事態を防ぐために労災保険が設けられました。労働基準法上で定める会社の災害補償義務を労災保険が肩代わりすることで、労働災害にあった従業員を守るのです。
労災保険の保険料は会社負担
本来、会社が負担すべき「労働災害による補償」を国が代わって行うことから、次の特徴があります。
- 保険料はすべて会社負担
- 補償を受けるのは「雇用されている従業員」
労働者災害補償保険法の対象を紹介
労災保険の対象となる適用事業と適用労働者は次の通りです。
労災保険は「労働者を使用するすべての事業」に適用
労災保険の適用事業は原則、「労働者を使用するすべての事業」です。次の事業を除くすべての事業が強制加入となります。
- 国の直営事業や官公署の事業など、適用除外の事業
(国家・地方公務員災害補償法で補償) - 個人経営で小規模な農林水産業など、暫定任意適用事業
(事業主や労働者過半数の意思で任意加入)
労災保険は「すべての従業員」に適用
労災保険の適用労働者は、適用事業に使用されるすべての従業員です。アルバイトやパートタイマーの人も対象になります。
個人事業主や法人の代表取締役は、労働者に該当しないため原則として対象外です。
従業員以外も対象とすることも可能
従業員以外であっても、労災保険の対象とすることが可能な制度として、特別加入制度というものがあります。
特別加入制度とは、次の「業務の実態などから労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人」に対して労災保険加入を認める制度です。
- 中小事業主等(第一種特別加入者)
- 一人親方等、特定作業従事者(第二種特別加入者)
- 海外派遣者(第三種特別加入者)
こちらの関連記事『労災保険の加入条件|労働者を守る保険の概要』では、労災保険の加入条件の基本や、特別加入制度の加入方法などについて解説しています。あわせてご確認ください。
労働者災害補償保険法が定める災害の種類
労災保険が定める災害の種類は次の2つです。
- 業務災害
- 通勤災害
業務災害と通勤災害について、それぞれ詳しくみていきましょう。
業務災害とは?
業務災害とは、従業員が業務中に被った負傷や疾病、死亡のことです。
ただし、業務遂行性と業務起因性があると判断されることが必要となります。
具体的には、以下のような業務上の負傷が該当するでしょう。
- 労働時間中や残業中に会社内で業務に従事しているときの負傷
- 昼休み中の会社の施設・設備などが原因の負傷
- トイレに行ったときの負傷
- 出張や出先で業務中の負傷 など
休憩時間や社外での負傷も業務中であれば業務災害になりますが、私的な行為によって発生した負傷は業務遂行性がないために対象外です。
業務上の疾病は、業務との間に相当因果関係が認められる疾病をいいます。
次の3条件を満たせば、業務上の疾病と認められます。
- 会社に有害因子(有害な化学物質・作業など)があること
- 健康障害を起こすほどの有害因子にさらされたこと
- 発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること
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通勤災害とは?
通勤災害とは、従業員が通勤中に被った負傷や疾病、死亡のことです。通勤とは、次の移動を「合理的な経路や方法で行ったこと」をいいます。
- 住居と会社との間の往復
- 会社から他の会社(2つ目の就業先)への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の往復
「合理的な経路や方法」とは、一般に従業員が用いると認められる経路や方法をいいます。遠回りするなど、合理的な経路や方法と認められない場合には、通勤災害に該当しません。
具体的には、通勤途中で交通事故にあった場合や、駅の階段で転倒した場合などになります。
労働者災害補償保険法の給付内容と申請方法
最後に、労災保険の給付内容と申請方法について説明します。
労災保険の給付内容は?
労災認定がなされた場合に給付される主な内容は次の通りです。
保険給付 | 給付内容 |
---|---|
療養(補償)給付※1 | 治療費が無料(労災病院など)になる。支払った治療費の還付金 |
休業(補償)給付 | 療養のため休業し賃金が支払われないときに、休業日数などに応じて支給される給付金 |
障害(補償)給付 | 所定の障害が残ったとき、程度に応じて支給される年金または一時金 |
遺族(補償)給付 | 労災で死亡した場合、遺族に支給される年金または一時金 |
葬祭料※2 | 労災で死亡した場合、葬儀を行う者などに支給される一時金 |
傷病(補償)年金 | 療養開始から1年6か月経過しても治癒(症状固定)しない場合などに支払われる年金 |
介護(補償)給付 | 障害年金や傷病年金の受給者のうち、所定の介護を受けている人に支給される給付金 |
※1 業務災害のときは給付名に(補償)がつき、通勤災害のときはつかない。
※2 通勤災害のときは「葬祭給付」という。
参考:厚生労働省「労災給付等一覧」
労災保険は、補償の対象は幅広く給付が手厚いことが特徴です。たとえば、病院での治療費については、健康保険の自己負担は3割ですが労災保険では負担なしです。
上記以外にも、労災保険には社会復帰促進等事業としてリハビリテーション施設を設置したり、二次健康診断等給付を行うなどの事業もあります。
労災保険の申請方法は?
労災事故による療養補償給付や休業補償給付などの申請者は、労災にあった従業員が行います。しかし、従業員の負担を軽減するために会社が手続きを代行してくれるのが一般的です。
申請書や記載例は労働基準監督署の窓口か、こちらの厚生労働省ホームページ「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」から入手可能です。また、会社で準備してくれるケースもあります。
申請先の多くは管轄の労働基準監督署ですが、労働保険指定医療機関で受診した場合の療養(補償)給付の申請は病院の窓口です。
さらに詳しい労災保険の申請方法については、関連記事『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』でご確認ください。
また、申請期限は定められていませんが、2年や5年などの時効が設けられているので注意しておきましょう。
給付内容によって時効は異なります。詳しくは関連記事『労災申請の時効期限は2年と5年』をご確認ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了