製造業で労災が起きたら|労災保険の利用方法や注意点を紹介
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製造業では様々な機械を使用して作業を行うため、作業中に思わぬ事故に遭うことも珍しくありません。
作業中の事故であれば、労災保険による補償を受けることが考えられますが、作業中の事故であっても労災に該当しない恐れがあります。労災保険を利用するのであれば、労災認定要件や給付内容について知っておくべきでしょう。
本記事では、製造業において労災であると認められるために必要な要件や、労災保険給付を受けるための手続きの流れについて詳しく解説を行います。
目次
労災の対象や要件を紹介
製造業は労災の発生が多い
製造業は労災による死傷者が多い業種になります。
厚生労働省が毎年実施している労働災害発生状況の調査では、労災による死傷者数が最も多い業種という統計結果が出ているのです。
製造業における労災の内容については、機械に挟まれた・巻き込まれた、作業中に転倒・転落したというものとなっています。
もっとも、作業中に生じた事故のすべて労災であるわけでなく、作業中でなくても労災に該当するケースもあるのです。
そのため、労災に該当する要件を知る必要があります。
労災と認定される事故とは
労災と認定されるためには、「業務災害」または「通勤災害」の要件に該当する必要があります。
- 業務災害
労働者が業務上の災害によって負傷や疾病を負ったり死亡した - 通勤災害
労働者が通勤中に負傷や疾病を負ったり死亡した
業務災害や通勤災害の具体的な要件については、以下の通りです。
業務災害の要件
「業務遂行性」と「業務起因性」が認められる場合には、業務災害として労災認定を受けることができます。
- 業務遂行性
事業主の支配下や管理下にある状態で労災が発生した - 業務起因性
業務行為を原因として労災が発生した
業務災害の具体例について知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事で確認可能です。
通勤災害の要件
「通勤中」といえる最中であれば、通勤災害に該当すると判断されます。
「通勤中」といえる移動は以下の通りです。
- 住居と就業場所の往復
- 就業場所から他の就業の場所への移動
- 単身赴任先と家族の住む住居間の移動
上記に該当する移動であるだけでなく、就業に関する移動であり、合理的な経路及び方法による移動であることも必要です。
また、通勤中に合理的な経路をそれたり、通勤とは関係のない行為を行うと通勤中とはいえなくなります。
ただし、日常生活に必要な最小限度の行為を行うためであるなら、行為が終わってから合理的な経路に戻った後は、通勤中に該当します。
通勤災害の具体例について知りたい方は『通勤災害とは何か|寄り道で怪我しても労災?誰にどんな請求ができる?』の記事で確認可能です。
製造業の労災事例(1)
労働者が製造機械の点検中に、製造機械を支えていた機械が外れてしまい、製造機械が急に重くなったために腰を痛めてしまったという事例です。
作業中に生じた事故であるため、業務災害の認定を受け、労災保険からの給付がなされました。
また、製造機械を支えていた機械を速やかに修理しなかった点に会社の安全配慮義務違反があるとして、会社に対する損害賠償請求が認められています。
製造業の労災事例(2)
検査機械に製品が引っ掛かったために製品を取り除いたところ、停止していた検査機械が動き出したことで機械に左手指を挟んでしまい、負傷したという事例です。
作業中に生じた事故であるため、業務災害の認定を受けました。左手中指に感覚障害が残ったため、後遺障害が発生したと判断されています。
労災保険により給付される内容
労災保険給付の具体的な種類
労災認定がなされた場合には、以下のような損害に対する給付がなされます。
- 療養補償給付・療養給付
労災により生じた傷病を療養するために必要な費用の給付 - 休業補償給付・休業給付
労災による傷病の療養をするために仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付 - 障害補償給付・障害給付
労災による傷病が完治せずに後遺障害が残った場合に給付される一時金や年金 - 遺族補償給付・遺族給付
労災により労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることができる一時金や年金 - 葬祭料・葬祭給付
労災により死亡した労働者の葬祭を行うために支給される - 傷病補償年金・傷病年金
労災による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても完治しない場合に給付される - 介護補償給付・介護給付
障害(補償)年金や傷病(補償)年金の受給者であり、症状が重く現に介護を受けている人に対する給付
業務災害の場合は「補償給付」や「補償年金」が、通勤災害の場合は「給付」や「年金」の支給がなされます。
この他にも、社会復帰促進事業の一環として、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、傷病(補償)年金には、上乗せの特別給付がなされます。
労災保険給付を受けるための手続き
労災保険給付を受けるためには労働基準監督署による労災認定が必要です。
労災認定を受けるための手続きの流れは以下のようになります。
- 労働者が労働基準監督署へ請求書を提出する
- 労働基準監督署が労災に該当するのかについて調査する
- 労働基準監督署から支給・不支給の決定通知が届く
- 支給の決定があれば厚生労働省より指定口座へ振り込みがなされる
請求書の書式は給付内容に応じて異なるため、受けたい給付に沿った請求書を労働基準監督署に提出する必要があります。
ただし、労災指定病院で治療を受け、療養補償給付・療養給付を請求する場合には、受診した病院への提出が必要です。
給付内容ごとにどのような請求書が必要となるのかは、下記の表でまとめています。請求書については、会社に労災保険を利用したい旨を伝えると用意してくれるでしょう。
また、厚生労働省のホームページでダウンロードすることも可能です。
請求書書式 | |
---|---|
療養補償給付 | 労災指定病院で治療 様式第5号 労災指定病院以外で治療 様式第7号 柔整用 様式第7号(3) はり・きゅう用 様式第7号(4) |
休業補償給付 | 様式第8号 |
障害補償給付 | 様式第10号 |
傷病補償年金 | 様式第16号の2 |
介護補償給付 | 様式第16号2の2 |
遺族補償給付 | 様式第12号 |
葬祭料 | 様式第16号 |
請求書書式 | |
---|---|
療養給付 | 労災指定病院で治療 様式第16号の3 労災指定病院以外で治療 様式第16号の5 柔整用 様式第16号の5(3) はり・きゅう用 様式第16号の5(4) |
休業給付 | 様式第16号の6 |
障害給付 | 様式第16号の7 |
傷病年金 | 様式第16号の2 |
介護給付 | 様式第16号2の2 |
遺族給付 | 様式第16号の8 |
葬祭給付 | 様式第16号の10 |
請求書には「事業主の証明」が必要となるため、会社側の協力をお願いしましょう。
もっとも、会社側の協力がなくても申請を行うこと自体は可能です。会社の協力が得られない場合は、労働基準監督署に相談しながら書類の作成を行ってください。
労災申請手続きについて詳しく知りたい方は『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』の記事を参考にしてください。
労災保険以外の方法による損害の補てん
労災保険ですべての損害を補填できるとは限らない
労災保険によって給付を受けたとしても、労災により生じた損害全てを補てんすることができるとは限りません。
特に、労災によって労働者に生じた精神的苦痛に対する慰謝料は、労災保険では給付されないので、他の方法による請求が必要です。
そのため、労災保険では不足する部分については、損害賠償請求を行う必要があります。
事業主に対する損害賠償請求
労災により発生した損害について、事業主への損害賠償請求を行える可能性があります。
事業主への損害賠償請求が可能となる要件について解説を行います。
安全配慮義務違反を根拠とした請求
事業主は、雇用契約を締結している労働者について、その生命や身体等の安全を確保しつつ労働を行うことができるように職場の環境を整えるという安全配慮義務を負っています。
そのため、事業主は労働者に危険が生じないように、製造機械の安全な利用方法の指導や、製造機械の定期的なメンテナンスを行うといった安全対策を行うことが求められます。
事業主が労災発生の危険性を予見できるにもかかわらず、適切な対策を行っていなかったために労災が発生したのであれば、事業主に安全配慮義務違反が認めらるのです。
安全配慮義務違反が認められるのであれば、事業主に過失が認められるため、損害賠償請求が可能となります。
製造業の事業主は、労働安全衛生法にもとづいて労働者や請負人への労災防止のために何らかの義務が生じているケースがあります。
このような義務の存在は、労働安全配慮義務違反の根拠として利用できることがあるため、製造業の事業主が安全配慮義務以外に法律上どのような義務を負っているのかを知っておくと良いでしょう。
安全配慮義務違反の有無は損害賠償請求において重要な要素です。安全配慮義務違反の判断基準や具体例は、関連記事『安全配慮義務違反は損害賠償の前提|慰謝料相場と会社を訴える方法』をご覧ください。
第三者に対する損害賠償請求
労災の発生が、第三者の故意や過失を原因とする場合には、第三者に対する損害賠償請求が可能となります。
具体的には、通勤中に自動車に追突された場合や、同僚の機械操作のミスによりケガを負った場合などです。
また、加害者である第三者が業務行為中であった場合には、使用者責任として、加害者を雇用している事業主に対しても請求を行うことができます。
個人よりも資力を有している可能性が高い事業主に対して請求を行った方が、確実に支払いを受けることができるので、事業主に請求が可能な場合は事業主への請求を行いましょう。
損害賠償請求の内容とは
損害賠償請求にもとづいて請求できる損害は、以下のようなものとなります。
- 治療費
治療のために必要となった費用 - 入通院交通費
入院や通院するために発生した交通費 - 入通院付添費用
入院中の生活や通院する際に付添が必要な場合に発生する費用 - 入院雑費
入院中の生活用品や通信費用などをいう - 休業損害
ケガの治療のために働けないことで生じる損害 - 逸失利益
後遺障害が生じた、または、死亡したことで将来得られるはずの収入がられなくなったという損害 - 葬儀費用
被害者の葬儀を行うために必要な費用 - 慰謝料
被害者に生じた精神的苦痛を金銭化したもの - 物損に関する費用
具体的な請求金額について知りたい方は、下記の関連記事をご覧ください。
損害賠償請求を行う際の注意点
労災保険給付との二重取りはできない
労災保険給付により療養給付・療養補償給付を受けた後に、損害賠償請求により治療費について支払いを受けることはできません。二重取りとなってしまうため、すでに給付や支払いを受けている部分を減額する必要があります。
二重取りに該当する給付や請求は以下の通りとなります。
労災保険の給付内容 | 損害賠償請求内容 |
---|---|
療養(補償)給付 | 治療費 |
葬祭料・葬祭給付 | 葬儀費用 |
休業(補償)給付 傷病(補償)年金 | 休業損害 |
障害(補償)給付 遺族(補償)年金 | 逸失利益 |
ただし、労災保険における特別給付については、二重取りの対象とはなりません。特別給付は、被害者の社会復帰という異なる目的のために支給されるためです。
そのため、特別給付の部分については減額せずに請求することができます。
被害者に過失があると減額
労災の事故発生に関して、被害者の過失が認められるケースがあります。
被害者の過失が認められる場合は、損害賠償請求の金額が過失の程度に応じて減額となるのです。
このような減額を過失相殺といいますが、どの程度の減額を行うのかについてはよく問題となります。
なぜなら、減額の程度については明確な基準がなく、当事者間の主張が折り合わないことがあるためです。
そのため、減額の程度について決着がつかない場合には、専門家である弁護士に相談しましょう。
弁護士への相談で損害賠償請求の不安を解消しよう
労災保険の給付を受けられても、労災の原因次第では、事業主に対する損害賠償請求が必要なケースがあります。
労災に関する損害賠償請求を行うのであれば、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談を行うべき理由や、相談方法について紹介します。
なぜ弁護士が損害賠償請求において必要なのか
適切な請求を行うことができる
実際に労災保険給付の申請や損害賠償請求を行うとしても、一般的に法的知識が十分でない状態で正確に請求を行うことは難しいでしょう。
請求できる損害を見落としてしまったり、手続きを間違えると、本来得られたはずの給付や支払いを得られない恐れがあります。
弁護士に相談することで、労災の被害者が得られるべき金額を正確に算出しつつ、請求を行うことが可能となるのです。
弁護士に必要な手続きを手伝ってもらえる
労働者は治療・リハビリの継続や職場復帰に力を注ぎたいものです。実際に労災給付の申請手続きや損害賠償請求を並行して行うことは、身体的にも精神的にも非常に負担でしょう。
弁護士に相談すればスムーズに手続きを進めることができるので、労働者の負担を減らすことができるでしょう。
また、弁護士に依頼を行えば、弁護士が代理人として代わりに手続きを行ってくれるため、労働者の負担が非常に軽くなります。
特に、納得のいく給付や請求がすぐに得られない場合には、裁判による解決が必要な場合があります。裁判手続きは複雑であるため、裁判を行うならば弁護士への依頼が欠かせないでしょう。
まずは無料法律相談を受けよう
労災で重篤な後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりして、会社などに対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
弁護士への相談や依頼に様々なメリットがあることが分かりましたが、いざ相談や依頼を行うとなると、弁護士費用が気になる方が多いでしょう。
弁護士に相談するのであれば、まずは無料の法律相談を受けることをおすすめします。相談時の金銭的な負担がない点は魅力のひとつです。
相談の結果、弁護士への依頼を行いたいと思ったのであれば、依頼にかかる費用をしっかりと確認しましょう。
法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了