会社で転んだ・階段から落ちた場合の労災保険の利用要件と給付内容 | アトム法律事務所弁護士法人

会社で転んだ・階段から落ちた場合の労災保険の利用要件と給付内容

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会社で転んだ

会社・職場で転んで怪我をしたのであれば、労災保険によって治療費や仕事を休んだことによる一定の補償を受けることが可能です。

しかし、休憩時間のスポーツや、仕事を放棄して会社を抜け出して転んだ場合には、労災保険が適用されないケースもあるので注意が必要になります。

また、転んだ原因によっては、労災保険からの給付とは別に会社側に損害賠償請求すべき労災事故があることも知っておきましょう。

本記事では、会社で転んで怪我をした場合にどのような方法で損害の補てんを受けることができるのかについて解説を行っています。

会社で転んだら業務災害を検討

労災認定されうる会社での転倒事故例

会社の階段から落ちて転倒したり、会社敷地内の駐車場で転んだりしたとき、通常は労災認定される可能性が高いです。

労災認定される可能性が高いものとは、転倒事故と業務に因果関係があるものをいいます。

たとえば次のような転倒事故は、労災認定される可能性が高いといえるでしょう。

  • 会議室に向かうため階段を上っている際にバランスを崩して転倒した
  • 業務中に書類を運びながら階段を降りていて転倒した
  • 仕事を終えてロッカールームへ移動するまでに階段で転倒した
  • 休憩時間中に社員食堂へ向かう途中に段差につまづいて転倒した
  • 階段に敷かれていたマットが滑り、それに伴って転倒した

このように、会社の施設内にある階段から落ちて転倒したり、会社の設備によって転倒したりする事故は、労災認定されやすい事故といえます。

関連記事『労災が起きたらどうする?治療・申請の流れなど今後の展開を解説』でもあるように、労災が起きたらまずは治療と会社への報告をおこない、労災保険の給付申請手続きに移りましょう。

休憩時間の転倒は注意が必要

休憩時間における階段からの転落であっても、社内設備が原因で生じた事故であれば労災認定を受けられる見通しです。

一方で、休憩中にキャッチボールをしていて転んだ場合や、会社の敷地から出てスーパーへ昼食を買いに行く途中に転んだ場合などは、労災認定が難しい可能性があります。

関連記事『会社の休憩中における事故でも労災認定が下りる場合もある!8つの事例研究』では休憩中の事故と労災認定の関連について解説しているので、あわせてお読みください。

労災保険給付が可能となる業務災害の要件

会社で転んで怪我をした場合には、業務災害による怪我であるという認定がなされることで労災保険による給付が可能となります。

業務災害といえるためには、労働者災害補償保険法7条1項1号の「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」に該当していることが必要です。

「業務上」といえるかどうかが主に問題となり、業務遂行性と業務起因性が認められなければなりません。

業務遂行性と業務起因性

概要
業務遂行性労働者が事業主の支配下ないし管理下にあること
事業所内で作業中、出張中である場合などが該当
業務起因性労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したこと
業務中に災害が生じた場合には特段の事情がない限り認められます

会社での転倒に業務遂行性と業務起因性があるとき、業務災害として労災認定されるのです。

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業務災害による労災保険給付を受けるための手続き

業務災害により会社で転んで怪我をしたのであれば、怪我によって生じた損害に対して労災保険給付を受けられます。

労災保険給付を受けるのであれば、給付内容ごとに必要となる書類を用意し、労働基準監督署へ提出を行い、労働基準監督署の審査を受けてください。

必要な書類である請求書は、会社に用意してもらうか、厚生労働省のホームページでダウンロードすることにより入手可能です。

ただし、労災指定病院で治療を受けた場合の治療費用に関しては、労働基準監督署ではなく、治療を受けた病院に書類を提出することになります。

業務災害が起きた際の手続きは、基本的に会社がおこなってくれますが、実際に治療を受けていくのは自分自身です。自分でも業務災害の手続きの全体像を把握しておくことをおすすめします。

業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう

会社で転んだ場合に弁護士に相談するメリット

会社に何らかの落ち度があって転んでしまったときや、転倒事故の責任の所在について会社側ともめているときなどは、弁護士に相談・依頼するメリットが高いといえます。

本来、労災事故の場合は労災保険から一定の補償を受けられる仕組みになっており、給付額は法律で決まっているため交渉の余地はありません。

しかし、労災事故で会社に損害賠償請求するときには示談交渉が必須です。適正な賠償金の相場を知り、不要な金額で終わらないように交渉するノウハウをもつ弁護士は心強い味方となります。

関連記事では、弁護士に依頼するメリットのある業務災害とは何かを分かりやすく解説しているので、あわせてお読みください。

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業務災害を弁護士に依頼するメリット!どんなときに弁護士が必要?

会社で転んだ場合の労災保険給付内容

治療費に関する給付|療養補償給付

業務災害により会社で転んで怪我を負ったのであれば、労災保険から給付を受けることができます。このような治療に関する給付を療養補償給付といいます。

療養補償給付により、治療のために必要といえる治療費・入院費・交通費などについて給付を受けることが可能です。

労災指定医療機関で治療を受けた場合、治療を受けた医療機関に労災請求用紙を提出すると医療機関に治療費用等が支払われることになり、実質的な給付を受けることになります。

一方で、労災指定医療機関以外で治療を受ける場合は、労働者が治療費を一旦立て替える必要があります。

労働基準監督署に必要な書類を提出することで、立て替えた治療費について給付を受けることができるのです。

労災事故によるケガの治療に関する給付の詳細は、関連記事『労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説』の解説を参考にしてみてください。

休業による損害に対する給付|休業補償給付

業務災害により会社で転んで怪我を負い、治療のために仕事ができない場合には、休業による損害が生じることになります。

休業に関する損害については、以下の要件が認められれば、労災保険から休業補償給付を受けることが可能です。

要件

  • 労災事故による負傷や疾病で療養していること
  • 労働することができないこと
  • 会社から賃金をうけていないこと

休業1日につき、およそ給料を日額化した分の8割の金額が支払われることになります。

ただし、休業補償給付は休業開始4日目からでないと給付を受けられません。
休業開始3日間は休業補償給付を受けることができませんが、労働基準法により、会社から休業補償を受けることが可能です。

労災による休業で収入が減少していると、生活に支障が出てくる方もおられます。関連記事で紹介している休業補償の仕組みをよく読んでおくことがおすすめです。

関連記事

労災における休業補償の計算方法は?給付条件・期間・申請手続きを解説

後遺障害が残った場合の給付|障害補償給付

業務災害により職場で転んで怪我を負い、治療を行ったものの怪我が完治しない場合には、後遺症が残ることになります。

障害補償給付を受けるためには、後遺障害の症状が生じていることについて労働基準監督署から認定を受けなければなりません。
医師の診断書や、検査画像などの資料を用意し、申請手続きを行ってください。

適切な等級認定がなされるのか不安な方は、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

関連記事

労災の後遺症認定の書類審査・面談の要点!振り込みの時期はいつ?

後遺障害への補償はどんなものがある?

後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けた場合には、労災保険から障害補償給付として、年金や一時金の給付を受けることとが可能です。

給付内容や金額は、後遺障害の程度に応じて認定される後遺障害等級によって異なります。

等級ごとの給付内容は関連記事『労災の後遺障害とは?障害等級の認定基準と金額早見表、給付の流れ』で解説しているので、参考にしてみてください。

会社で転んだ場合の損害賠償請求

転んだ原因しだいで会社側へ損害賠償請求できる可能性あり

業務災害によって転んで怪我をした原因が事業主や第三者あるなら、事業主や第三者に損害賠償請求を行えるケースがあります。

転んだ原因とは、会社側に事故発生の落ち度がある場合のことです。このように落ち度があることを安全配慮義務違反といいます。

もう少しくわしく

労働者が転んで怪我をしないように安全対策を行う必要があるにもかかわらず、対策を怠ったために労働者が転んで怪我をしたといった事情があれば、事業主に安全配慮義務違反があったことを根拠として損害賠償請求を行うことが可能です。

また、仕事中に第三者の故意や過失によって転んでしまい怪我をした場合には、第三者に対する損害賠償請求を行うことも可能でしょう。

事業主や第三者に損害賠償請求を行うことで、労災保険給付では得られない部分の損害に対する補てんが可能となるのです。安全配慮義務違反の有無は極めて重要なポイントです。

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会社で転んだ場合に慰謝料を請求する方法

労災保険では慰謝料が給付の対象となっていません。そのため、慰謝料を請求したい場合には、損害賠償請求にもとづいて行う必要があるのです。

慰謝料というのは精神的苦痛を緩和するための金銭をさし、主な慰謝料の種類は以下の3つとなります。

3つの慰謝料

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

3つの慰謝料についてみていきましょう。

入通院慰謝料

怪我の治療をするために入院や通院で負った精神的苦痛を緩和するための金銭です。

治療による苦しみ・辛さへの補償であるため、治療期間の長さ、入院の有無、ケガの程度などが考慮されて金額が決まります。

慰謝料算定の流れや相場を知りたい方は関連記事もあわせてお読みください。

労災事故の慰謝料相場と計算方法!仕事中の怪我で損害賠償請求する流れ

後遺障害慰謝料

後遺症が後遺障害に認定されるような場合、その症状や部位に応じて、後遺症を負ったことへの精神的苦痛に対する金銭が支払われます。

慰謝料額は認定される後遺障害等級に応じて金額が決まり、110万円から2,800万円と等級ごとに異なるのです。

関連記事ではこうした労災事故の後遺障害慰謝料相場について等級ごとに解説しています。

労災の後遺障害慰謝料の相場と請求方法|自賠責との併用や労災先行の意味

死亡慰謝料

労働者が労災事故により死亡した場合に生じる慰謝料です。

死亡慰謝料の金額は、労働者の家庭における立場に応じて金額が決まります。基本的には、一家の大黒柱として家計を支えていた人ほど高額になりやすいです。

以下の関連記事では、労災死亡事故の給付内容に加えて、会社への慰謝料請求の金額相場や流れについて解説しています。

会社で転倒した際に打ちどころが悪く亡くなられた場合には、ご家族が事故対応をせねばなりません。以下の関連記事も参考にしてください。

労災事故で死亡…労災の申請方法と遺族補償給付額|慰謝料は請求できる?

会社で転んだ場合に休業による損害を請求する方法

会社で転んだことにより怪我をして、治療のために会社を休んだ場合は、休業による損害について損害賠償請求を行うことが可能です。

休業による損害については、労災保険においても休業補償給付によって補てんすることができます。

しかし、休業補償給付では、休業1日についておよそ給料を日額化した分の8割しか給付がなされません。

一方、損害賠償請求にもとづいた休業損害の請求では全額の請求が可能です。

休業補償と休業損害の違い

休業補償休業損害
受け取り方労災給付損害賠償
請求金額日額の80%程損害の全額

そのため、休業による損害について十分な補てんを受けるためには、損害賠償請求を行うことが必要となります。

もっとも労災保険から給付を受けた分について、二重取りはできない点には留意してください。

関連記事では休業損害と休業補償の違いについて、さらに掘り下げて解説しています。労災のケガで仕事ができない場合の補償について知りたい方は、あわせてお読みください。

関連記事

労災で休業損害が請求できる場面とは?休業補償との違いがわかる

会社で転んだ場合に逸失利益を請求する方法

会社で転んだことによる怪我が完治せず後遺障害が生じた場合には、後遺障害の症状が原因で以前のように働くことができなくなってしまうことがあります。

後遺障害により労働能力が低下したことで、将来得られたはずの収入が得られなくなってしまうのです。

このような、怪我がなければ本来得られたはずの将来の利益を逸失利益といい、損害賠償請求にもとづいて請求ができます。

労災保険による障害補償給付は、逸失利益の支払いといえますが、逸失利益は後遺障害の程度や、労働者の年齢によっては非常に高額となるため、障害補償給付では損害の補てんとして不十分な可能性があります。

そのため、会社で転んで怪我をした場合に、後遺障害が生じた場合には、損害賠償請求による逸失利益の請求を検討すべきでしょう。

労災で請求できる逸失利益はいくら?計算方法や損益相殺を解説

損害賠償請求は示談によって解決が図られることが多い

損害賠償請求を行うには、いくつかの方法があります。その中でも、「示談」は多くのケースで用いられる損害賠償請求を行う手段のひとつです。

示談とは、事故の当事者同士が話し合いによって民事上の争いごとを解決することをさします。

示談では、労災事故で怪我したことで受けた損害に対して、どのくらいの賠償金を受けとれば被害の回復につながるかといった内容を話し合います。

話し合いの末、当事者同士が示談内容に納得できれば、示談成立となるのです。

労災保険については示談交渉せずとも一定の補償を受け取れます。しかし、会社に落ち度があるとして労災事故の賠償を請求する場合には、会社側との示談交渉により金額を決めていくことになるのです。

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労災事故の示談交渉を進める流れとコツ|示談交渉すべき労災とは?

まとめ

会社で転んで怪我をした場合には、業務災害によるものであるなら、怪我によって生じた治療費や休業による損害などについて労災保険の給付を受けることが可能です。

また、怪我の原因が事業主の安全配慮義務違反や、第三者の故意または過失による場合には、事業主や第三者に損害賠償請求を行うこともできます。

労災保険給付や損害賠償請求により、生じた損害を補てんすることが可能ですが、保険給付を受けるための手続きや、損害賠償請求を行うに際には、法的知識が必要な場面があります。

そのため、適切な損害の補てんを受けたいのであれば、専門家である弁護士に相談するべきでしょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了