職場で転んだ場合の怪我に労災保険が利用できる要件や給付内容を紹介 | アトム法律事務所弁護士法人

職場で転んだ場合の怪我に労災保険が利用できる要件や給付内容を紹介

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職場で転倒|労災保険を利用できる要件は?

不安定な足場で作業を行っているような場合には、職場で転んで怪我をしてしまうことがあります。

職場で転んで怪我をしたのであれば、労災保険によって治療費や仕事を休んだことによる損害に対する給付を受けることができるのかが気になるところでしょう。

また、事業主や第三者に損害賠償請求を行うことが可能な場合もあり、どのような方法によって損害を補てんできるのかを知っておくべきです。

本記事では、職場で転んで怪我をした場合にどのような方法で損害の補てんを受けることができるのかについて解説を行っています。

職場で転んだのなら業務災害の検討を

業務災害の要件|労災保険給付が可能となる

職場で転んで怪我をした場合には、業務災害による怪我であるという認定がなされることで労災保険による給付が可能となります。

業務災害といえるためには、労働者災害補償保険法7条1項1号の「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」に該当していることが必要です。

「業務上」といえるかどうかが主に問題となり、業務遂行性と業務起因性が認められなければなりません。

  • 業務遂行性
    労働者が事業主の支配下ないし管理下にあることをいう
    事業所内で作業中、出張中である場合などが該当
  • 業務起因性
    労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したことをいう
    業務中に災害が生じた場合には特段の事情がない限り認められます

業務災害を原因としつつ、職場で転んで怪我をしたのであれば、労災保険による給付を受けることができます。

業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説

業務災害による労災保険給付を受けるための手続き

業務災害により職場で転んで怪我をしたのであれば、怪我によって生じた損害に対して労災保険給付を受けることが可能となります。

労災保険給付を受けるのであれば、給付内容ごとに必要となる書類を用意し、労働基準監督署へ提出を行い、労働基準監督署の審査を受けてください。
必要な書類である請求書については、会社に用意してもらうか、厚生労働省のホームページでダウンロードすることにより入手可能です。

ただし、労災指定病院で治療を受けた場合の治療費用に関しては、労働基準監督署ではなく、治療を受けた病院に書類を提出することになります。

業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう

職場で転んだ場合に弁護士に相談するメリット

業務災害によって職場で転んでしまい怪我を負ったとして、労災保険給付を受けようとしても給付のための手続きが難しく、簡単に給付が受けられない危険性があります。

また、重い怪我を負っている場合には、治療に時間を割かれるため、労災保険給付手続きがスムーズに行えないという恐れもあるのです。

弁護士に相談すれば、受けることができる給付の内容や、必要な書類などについてアドバイスをもらうことができます。
また、弁護士に依頼すると、労災保険級を受けるための手続きについて手伝ってもらえるため、手続きのための負担が減り、治療に専念することが可能です。

職場で転んだ場合に適切な給付を受けたい場合には、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

業務災害に遭ったら弁護士に依頼しよう|弁護士に依頼するメリットとは?

職場で転んだ場合の労災保険給付内容

治療費に関する給付|療養補償給付

業務災害により職場で転んで怪我を負ったのであれば、治療のために必要な費用について、労災保険から給付を受けることができます。
このような治療に関する給付を療養補償給付といいます。

療養補償給付により、治療のために必要といえる治療費・入院費・交通費などについて給付を受けることが可能です。

労災指定医療機関で治療を受けた場合、治療を受けた医療機関に労災請求用紙を提出すると医療機関に治療費用等が支払われることになり、実質的な給付を受けることになります。

一方で、労災指定医療機関以外で治療を受ける場合は、労働者が治療費を一旦立て替える必要があります。
労働基準監督署に必要な書類を提出することで、立て替えた治療費について給付を受けることができるのです。

労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説

休業による損害に対する給付|休業補償給付

業務災害により職場で転んで怪我を負い、治療のために仕事ができない場合には、休業による損害が生じることになります。

休業に関する損害については、以下の要件が認められれば、労災保険から休業補償給付を受けることが可能です。

  1. 労災事故による負傷や疾病で療養していること
  2. 労働することができないこと
  3. 会社から賃金をうけていないこと

休業1日につき、およそ給料を日額化した分の8割の金額が支払われることになります。

ただし、休業補償給付は休業開始4日目からでないと給付を受けられません。
休業開始3日間は休業補償給付を受けることができませんが、労働基準法により、会社から休業補償を受けることが可能です。

労災保険の休業補償|給付条件や計算方法を解説!休業損害とは別物?

後遺障害が残った場合の給付|障害補償給付

業務災害により職場で転んで怪我を負い、治療を行ったものの怪我が完治しない場合には、後遺症が残ることになります。

後遺症の症状が後遺障害に該当するという認定を受けた場合には、労災保険から障害補償給付として、年金や一時金の給付を受けることとが可能です。
給付内容や金額は、後遺障害の程度に応じて認定される後遺障害等級によって異なります。

障害補償給付を受けるためには、後遺障害の症状が生じていることについて労働基準監督署から認定を受けなければなりません。
医師の診断書や、検査画像などの資料を用意し、申請手続きを行ってください。

適切な等級認定がなされるのか不安な方は、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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職場で転んだ場合の損害賠償請求

転んだ原因が事業主や第三者にあるなら損害賠償請求できる可能性あり

業務災害によって職場で転んで怪我をした場合に、転んで怪我をした原因が事業主や第三者あるなら、事業主や第三者に損害賠償請求を行えるケースがあります。

具体的には、労働者が転んで怪我をしないように安全対策を行う必要があるにもかかわらず、対策を怠ったために労働者が転んで怪我をしたといった事情があれば、事業主に安全配慮義務違反があったことを根拠として損害賠償請求を行うことが可能です。

また、仕事中に第三者の故意や過失によって転んでしまい怪我をした場合には、第三者に対する損害賠償請求を行うことも可能でしょう。

事業主や第三者に損害賠償請求を行うことで、労災保険給付では得られない部分の損害に対する補てんが可能となるのです。安全配慮義務違反の有無は極めて重要なポイントです。

損害賠償請求は示談によって解決が図られることが多い

損害賠償請求を行うには、いくつかの方法があります。その中でも、「示談」は多くのケースで用いられる損害賠償請求を行う手段のひとつです。

示談とは、事故の当事者同士が話し合いによって民事上の争いごとを解決することをさします。

示談では、労災事故で怪我したことで受けた損害に対して、どのくらいの賠償金を受けとれば被害の回復につながるかといった内容を話し合います。話し合いの末、当事者同士が示談内容に納得できれば、示談成立となるのです。

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職場で転んだ場合に慰謝料を請求する方法

労災保険では、職場で転んで怪我をしたことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料が給付の対象となっていません。

そのため、慰謝料を請求したい場合には、損害賠償請求にもとづいて行う必要があるのです。

慰謝料の種類は、以下の3つとなります。

  1. 入通院慰謝料
    怪我の治療をするために入院や通院を行ったことで生じる慰謝料
    入院や通院の期間に応じて金額が決まる
  2. 後遺障害慰謝料
    労働者に後遺症が残り、後遺症の症状が後遺障害に該当する場合に生じる慰謝料
    認定される後遺障害等級に応じて金額が決まる
  3. 死亡慰謝料
    労働者が死亡した場合に生じる慰謝料
    労働者の家庭における立場に応じて金額が決まる

職場で転んだ場合に休業による損害を請求する方法

職場で転んだことにより怪我をして、治療のために会社を休んだ場合は、休業による損害について損害賠償請求を行うことが可能です。

休業による損害については、労災保険においても休業補償給付によって補てんすることができます。

しかし、休業補償給付では、休業1日についておよそ給料を日額化した分の8割しか給付がなされません。
一方、損害賠償請求にもとづいた休業損害の請求では、おそよ給料を日額がした分の全額について請求することが可能です。

そのため、休業による損害について十分な補てんを受けるためには、損害賠償請求を行うことが必要となります。

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職場で転んだ場合に逸失利益を請求する方法

職場で転んだことによる怪我が完治せず後遺障害が生じた場合には、後遺障害の症状が原因で以前のように働くことができなくなってしまうことがあります。

後遺障害により労働能力が低下したことで、将来得られたはずの収入が得られなくなってしまうのです。

このような、怪我がなければ本来得られたはずの将来の利益を逸失利益といい、損害賠償請求にもとづいて請求ができます。

労災保険による障害補償給付は、逸失利益の支払いといえますが、逸失利益は後遺障害の程度や、労働者の年齢によっては非常に高額となるため、障害補償給付では損害の補てんとして不十分な可能性があります。

そのため、職場で転んで怪我をした場合に、後遺障害が生じた場合には、損害賠償請求による逸失利益の請求を検討すべきでしょう。

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まとめ

職場で転んで怪我をした場合には、業務災害によるものであるなら、怪我によって生じた治療費や休業による損害などについて労災保険の給付を受けることが可能です。

また、怪我の原因が事業主の安全配慮義務違反や、第三者の故意または過失による場合には、事業主や第三者に損害賠償請求を行うこともできます。

労災保険給付や損害賠償請求により、生じた損害を補てんすることが可能ですが、保険給付を受けるための手続きや、損害賠償請求を行うに際には、法的知識が必要な場面があります。

そのため、適切な損害の補てんを受けたいのであれば、専門家である弁護士に相談するべきでしょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了