労災が起きたらどうする?治療や申請の流れなど今後の展開と賠償問題 | アトム法律事務所弁護士法人

労災が起きたらどうする?治療や申請の流れなど今後の展開と賠償問題

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労災が起きたらするべきことがある

労災が起きたら、まずは治療を受けて会社に労災の発生を報告してください。その後、労働基準監督署への労災申請、損害ごとに労災補償を請求、そして事故原因の検討も必要になります。

労災が起きたらすべき基本対応は以下の4点です。

労災が起きたらすべきこと

  1. 治療と会社への報告
  2. 労働基準監督署への労災申請
  3. 損害ごとに労災補償を請求
  4. 労災事故の原因を検討

こうした労災が起きたときの基本対応に加えて、場合によっては弁護士への相談も検討が必要なケースがあります。

労災が起きたらすべきことを労災の被害にあった方の目線でまとめていきますので、ご自身の段階に合わせてお役立てください。

労災が起きたらすべきこと

治療と会社への報告

ケガの治療に対する労災保険からの補償は、療養補償給付または療養給付とよばれるものです。

もし通院先を選択できるのならば、労災指定病院で治療を受けるとスムーズでしょう。労災指定病院ならば窓口で費用負担することなく、治療を受けることができます。

救急搬送先や通院先が労災指定病院以外であれば、いったん治療費を立て替えて支払うことが必要です。このとき、原則として労災事故に健康保険は使えないことに留意してください。

健康保険を使うと後から費用の返還などが生じて手間がかかることになります。

会社に労災発生の報告を怠ってはいけない

労災事故が発生したら会社に必ず報告をしましょう。

会社に迷惑がかかるから、もしくは手間だからと労災の報告を怠ってはいけません。労災の発生報告を怠ったことで、あたかも「労災隠し」をしている会社だと判断された場合、会社にペナルティが課されてしまうのです。

労災申請は会社の担当者がおこなってくれるケースが多くなっています。

もし会社の協力を得られないときには、ご自身で労災申請の手続きをとりましょう。

手続きについては関連記事『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』でも説明していますので、あわせてお読みください。

損害に応じた労災補償を請求

労災保険を利用するには、請求書類を労働基準監督署に提出することから始めます。

申請を受けた労働基準監督署は必要な調査を行い、労災だと認定されると労災給付がもらえる流れです。

労災申請から給付までの流れ

  1. 労災保険請求書を労働基準監督署に提出
  2. 労働基準監督署による調査
  3. 労災給付決定もしくは不支給決定
    給付決定の場合は請求書にて指定した銀行口座へ振り込み

関連記事『労災認定の流れは?請求の際のポイントも合わせて解説』では申請の詳細な流れや申請書式についてくわしく説明しています。関連記事もお役立てください。

労災給付はいつ受けられる?

労災申請から給付を受けられるまでにかかる期間は、負傷については1ヶ月~3ヶ月・死亡については4ヶ月程度が見込まれます。

一部審査期間が長引くケースもありますので、給付がいつになるのか気になる方は関連記事『労災認定されるまでの日数はどのくらい?審査期間が長引くケース』の解説を参考にしてください。

労災保険の給付内容

治療に関する補償(療養補償給付)以外も、労災保険からは損害に応じた補償が給付されます。

ただし、労災保険の給付を受けるためには労働者側からの申請が必要です。

申請書類は労災給付の種類ごとに必要になる点に注意しましょう。労災給付の種類は以下の通りです。

労災給付の種類

  • 療養補償給付
  • 休業補償給付
  • 障害補償給付
  • 介護補償給付
  • 遺族補償給付・葬祭料給付

ここからは労災保険給付の種類ごとの説明を時系列にそって簡単に説明していきますので、どういった給付を受けられるのか知りたい方は続けてお読みください。

労災保険の申請に関する全体像やよくある疑問を知りたい方は関連記事『労災保険の申請方法とは|手続きの流れと注意点』の解説が参考になります。

療養補償給付

労災が起きたら、まずは療養補償給付を受けることになるでしょう。療養補償給付とは、労災事故によるケガの治療関係費のことです。

療養補償給付の具体的な内容には、処置費用、手術費用、投薬料などがあげられます。

なお、療養補償給付は労災事故発生日から最長で1年半後まで受給可能です。

休業補償給付

労災が起きたら治療を受けることになりますが、医師の判断によって働けないと判断されることがあります。

働けないことで会社から賃金を受け取れないときには、休業による収入の補償として最長で事故日から1年半後まで休業補償給付の請求が可能です。

ただし休業補償給付を受け取るには、待機期間の条件があったり、失った給料の満額を受け取ることができなかったりと制限もあります。

労災の休業補償の受給条件や注意点は、関連記事『労災における休業補償の計算方法は?給付条件・期間・申請手続きを解説』でもくわしく解説しています。

障害補償給付

労災事故による後遺症が一定の症状であるとき、後遺症に対する障害補償給付を一時金もしくは年金形式で受給可能です。

障害補償給付の対象となる後遺症は「後遺障害」と言われ、症状・部位に応じて後遺障害等級という形式で認定されます。

障害等級が1級から7級の場合は年金形式で毎年偶数月に2ヶ月分まとめて、障害等級が8級から14級の場合は一時金形式での受給が可能です。

ただしこうした障害補償給付を受ける前提となる「後遺障害等級」の認定は簡単なことではなく、症状によっては十分な認定対策が必要になります。

後遺症の恐れがあるときの対応は、本記事内「後遺症の恐れがあるときは症状固定まで治療を続ける」でより詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

介護補償給付

介護補償給付は、労災事故後に介護が必要な状態になってしまった場合に請求できる給付です。

介護補償給付は月単位で支給され、介護に要する費用の有無や親族による介護の有無などで金額が決まり、月額上限の範囲で実費や固定の金額が支払われます。

もっとも病院や生活介助を受けられる障害者支援施設・特別養護老人ホームに入っている場合などは、介護保障給付の対象外です。

遺族補償給付・葬祭料給付

遺族補償給付は、労災によって死亡してしまった場合に、遺族の請求で給付されます。

亡くなられた方の配偶者・子・父母・孫・祖父母には請求権がありますが、受給資格者にも順番があるので、全員が受給できるものではありません。

年金形式のほか、一時金、前払いなど様々な受給方法があります。大切な家族が亡くなられた悲しみと同時に、遺族の生活が困窮しないよう、仕組みをしっかりと活用しましょう。

関連記事『労災事故で死亡…労災保険の申請方法と給付額|慰謝料は請求できる?』では労災死亡事故の給付内容について、よりくわしく解説しています。ご遺族の方は合わせてお読みいただき、参考にしてみてください。

葬祭料について

葬祭料給付については葬祭をおこなう者の請求で給付されます。

通常は遺族となりますが、遺族が葬祭をおこなわないときには、会社や友人など葬祭をおこなう者が請求可能です。

労災事故の原因を検討

労災事故のなかには、会社側に原因がある事故も存在します。これまでの労災事故で会社側にも責任があると判断されたものは数多く起こってるのです。

労災事故が起こったときの状況を整理して、事故の原因やその後の会社側の対応について考えてみてください。

そして、もし労災事故発生の原因について疑いを抱いている方は、本記事内「会社の安全配慮義務違反の有無を考える」も併せてお読みのうえ、責任の所在について検討してみましょう。

今後の展開にあわせて知っておきたい労災事故のポイント

後遺症の恐れがあるときは症状固定まで治療を続ける

労災によるケガで何らかの後遺症が残る可能性があるなら、医師から「症状固定」といわれるまで治療を続け、障害補償給付の申請も視野に入れておきましょう。

症状固定とは、これ以上の治療を受けても改善が期待されず何らかの症状が残っている状態をいいます。

障害補償給付は、症状固定になっただけで支給されるものではありません。労働基準監督署によって後遺障害に該当すると判断された場合、等級に応じた障害補償給付が支給されるようになるのです。

また、会社や第三者に労災発生の原因があったようなケースで後遺障害等級に認定されれば、等級に応じた後遺障害慰謝料を会社や第三者に対して請求することもできます。

関連記事では後遺症が残った後にすべき認定審査対策や後遺障害等級ごとの給付内容を解説していますので、参考にしてみてください。

労災の診断書費用も補助される

労災の診断書費用は、一定の条件下で補助される場合があります。

たとえば障害補償給付を申請する際に、労働基準監督署から診断書の提出を求められた場合、その診断書の作成費用は労災保険から支給される仕組みです。

療養費を請求する際に必要な医師の証明書についても、労災保険指定医療機関を受診した場合、証明費用は医療機関が負担するため、労働者が支払う必要はありません。

しかし、労働者が個人的に加入している生命保険や傷害保険などから診断書の提出を求められた場合、その費用は労災保険から支給されません。

また、労災保険指定医療機関以外の病院などで診断書を作成した場合、一旦労働者が費用を立て替える必要があります。

関連記事『労災申請に必要な診断書の費用は誰が負担する?自己負担の可能性は?』では費用の自己負担について状況別にくわしく解説しています。

労災給付の申請には十分な準備が必要

労災保険は労働者側からの給付申請を原則とします。しかし、申請したらすべて支払われるわけではありません。

たとえば、障害補償給付の申請をした場合に問題になりやすいのが、障害補償給付の不支給通知を受けたり、想定よりも少ない補償にとどまったりするケースです。

障害補償給付は障害等級に当てはまると判断されなければ不支給となり、後遺症に関する補償は全く受け取れません。

あるいは障害等級認定は受けられても、想定よりも低い等級であれば金額も減ってしまうのです。

労災給付の決定に不服があるときには不服申し立てが可能です。しかし、不服申し立てをしても必ず通るものではなく、むしろ一度決まって決定を覆すには、より説得的な資料の提出が必要でしょう。

そのため障害補償給付を申請する際には、労働基準監督署側にも後遺症の存在や症状がわかるような検査結果や医師の意見書を併せて提出するといった工夫が必要です。

また労災保険の仕組みや申請の流れなどは労働基準監督署をはじめとした公的機関への相談も有効になります。

関連記事

会社の安全配慮義務違反の有無を考える

労災事故のなかには、会社側の落ち度が原因で起こる事故があります。

会社は労働者が健康に、安全に働ける環境を整える「安全配慮義務」があるのですが、この義務を怠ったことで労災が起こったときには、会社への損害賠償請求が可能なのです。

安全配慮義務とは?

安全配慮義務違反とは、会社が従業員の健康や安全面を考慮せず、従業員の身を危険に晒すことをいいます。

安全配慮義務違反があると考えられる労災の具体例は以下の通りです。

  • 職場や設備の安全性に問題があった
  • 再発防止が徹底されておらず同じような労災が発生した
  • 長時間労働による過労死があった
    など

安全配慮義務違反があったかどうかは、予見可能性と結果回避可能性から判断されます。

労災事故における安全配慮義務については、関連記事の解説を参考にしてみてください。

損害賠償請求の進め方は?

損害賠償請求する方法は、示談・調停・裁判の3つがあげられます。この3つのなかで、一番はじめに損害賠償請求の方法として選ばれるのが示談です。

示談とは、裁判によらず当事者双方が話し合いによって争いごとを解決しようとする方法です。話し合いで進められるので、むずかしい手続きなどは必要ありません。

示談は当事者双方が納得すれば成立するものなので、お互いの主張に大きな違いがない場合は比較的スムーズに示談成立に至ります。

労災事故の示談交渉を進める流れとコツ|示談交渉すべき労災とは?

示談が不成立なら裁判もある

示談交渉による解決が難しいときには、裁判を起こすことも検討せねばなりません。

裁判に発展すると、労災に関する責任の所在を裁判所の判決という形で明確にできます。ただし、裁判をしたからといって被災した労働者の主張がすべて認められるとは限りませんし、裁判が終結するまで長い期間を要する可能性が高いです。

裁判を行うメリットとデメリットをよく理解し、どのような方法で争いごとを終結させるべきなのかじっくり検討しましょう。

労災で裁判は起こせる?会社を訴えたいなら民事訴訟の対応方法を知ろう

労災給付には慰謝料が含まれていない

労災給付の内容に慰謝料は含まれないので、労災申請だけしていても慰謝料を手にすることはできません

慰謝料に関しては、労災発生の原因となった者に対して損害賠償請求しなければ手にすることはできないのです。

慰謝料は、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3種類あり、それぞれ一定の相場が決められています。ただし、一定の相場はあくまで目安であり、個々の事情により増額する可能性もあります。

そもそも慰謝料が請求できる事案なのか、請求可能な慰謝料の金額はどのくらいなのか知りたい場合は、弁護士相談がおすすめです。

弁護士に相談すべき労災事故もある

労災事故は、労災保険から一定の補償を受けられることから、弁護士相談を検討する人ばかりではありません。

しかし、労災事故の中には弁護士への相談が有効になる事故があります。具体的には、以下のような労災事故です。

弁護士相談を検討すべき労災

  • 労災事故における会社の責任を疑っているとき
  • 労災事故の慰謝料を請求したいとき
  • より適切な労災認定結果を得たいとき

これらの労災事故については、会社側との交渉が必要だったり、十分な認定対策が必要だったりと、労働者側が主体的に動かねばなりません。

そして、やみくもに行動を開始するのではなく、法的知識や労災事故への知見を活用することでより良い結果を目指せることから、弁護士が大きな役割を果たすのです。

関連記事『労災事故は労災に強い弁護士に相談!労災の無料相談・電話相談先も紹介』では労災事故をどんな弁護士に相談すべきか、弁護士が果たす役割についてわかりやすく説明しています。

労災の弁護士費用は?

労災事故について弁護士に任せると、弁護士費用がかかります。

弁護士費用は法律事務所ごとに任意で設定でき、費用体系は様々ですので、一概に「労災事故の弁護士費用」を決めることは難しいです。

ただし弁護士費用にはおおよその傾向があります。無料相談を活用したり、着手金無料の法律事務所に依頼したりすると、初期費用を抑えることが可能です。

労災の弁護士費用の目安や内訳については関連記事で解説しているので、あわせてお読みください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了