労災認定の流れは?請求の際のポイントも合わせて解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災認定の流れは?請求の際のポイントも合わせて解説

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労災認定請求の際のポイント

労災という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
仕事中に怪我をした、通勤中に交通事故に巻き込まれた場合など労働災害といえる際には、労働基準監督署の認定を受けることで、労災保険から一定の補償を受けることが出来ます。

本記事では、労災の発生から認定を受けるまでの流れと、労災認定を受けるために気を付けるべき点を中心に解説を行っています。

労災認定の流れと具体的な解説

具体的な流れについて紹介

労災が発生してから労災認定を受けるまでの流れは以下のようになります。

  1. 労災発生
  2. 会社への報告
  3. 怪我や疾病の治療
  4. 労災申請
  5. 労基署による調査
  6. 労災の認定

流れに沿って具体的にどのような手続きが必要となってくるのかについて、個別に解説を行います。

労災の発生|労災と認められる要件とは

労災と認定されるためには、労災に該当するために必要な要件を満たしていなければなりません。
労災には「業務災害」「通勤災害」の2種類があるため、それぞれの要件について紹介します。

業務災害の要件

業務中に、業務行為を原因として労働者に傷病が発生することをいいます。
業務災害に該当するといえるには、「業務遂行性」と「業務起因性」が必要です。

  • 業務遂行性
    事業主の支配下や管理下にある状態で労災が発生した
    事務所内、仕事現場、または、出張中などが該当します
     
  • 業務起因性
    業務が原因で労災が発生した
    業務中に発生した事故であれば、基本的に認められます

業務災害の具体例について知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事で確認可能です。

通勤災害の要件

通勤途中において労働者に傷病が発生することをいいます。
通勤途中といえるのは、以下のような移動を行っている場合です。

  • 住居と就業場所の往復
  • 就業場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先と家族の住む住居間の移動

上記に該当する移動であることに加えて、就業に関する移動であり、合理的な経路及び方法の移動であることも必要です。

通勤途中に合理的な経路をそれたり、通勤とは関係のない行為を行った場合も通勤途中とはいえなくなります。
ただし、日常生活に必要な最小限度の行為を行うためであるなら、行為が終わってから合理的な経路に戻った後は、通勤途中に該当します。

通勤災害の具体例について知りたい方は『通勤災害とは?手続き・書類・認定要件と労災がおりない時の対応』の記事で確認可能です。

会社への報告と治療|報告内容と治療先

労災によって怪我や疾病を負ったため、労災保険を利用したい旨を会社に報告してください。
基本的に、会社から労災申請手続きに必要な書類を用意してくれます。

怪我や疾病の治療を行う際には、医師に対して労災によって怪我や疾病が生じたことを伝えてください。
治療費に関して労災保険を利用するために必要な手続きを病院側が行ってくれます。

治療する際は、労災指定病院で治療を受けるべきでしょう。
労災指定病院であれば治療費を立て替える必要がないので、治療費を負担せずに治療を受けることができるためです。

労災申請|必要な書類とは

労災保険を請求するのは誰?

労災保険の請求人は、労災被害に遭った労働者本人またはその遺族となります。

これらの請求人が被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署あてに労災請求用紙を提出することで、労災請求が可能です。

勤務先に社労士がいる場合、請求手続きを社労士が代行することもあるでしょう。
しかし、社労士はあくまでも被災労働者の代理人として請求を行っているに過ぎないので、社労士が請求者ではないということをしっかりと認識しておく必要があります。

どの書類に記載をするか

労災保険には、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・介護補償給付・遺族補償給付等の給付が用意されており、労基署により労災認定を受けることで給付を受けることが出来ます。

受給できる給付内容につきましては、厚生労働省のホームページ「労働基準情報:労災補償」がとても良くまとまっていますので、参考にしてください。

労災認定を受けるために必要となる書類の書式は、給付内容ごとに異なっています。給付内容に応じた書式に記入を行い、書類を提出してください。
書式の一覧は以下の通りです。

業務災害による場合の書式

請求書書式
療養補償給付様式第7号
柔整用 様式第7号(3)
はり・きゅう用 様式第7号(4)
休業補償給付様式第8号
障害補償給付様式第10号
傷病補償年金様式第16号の2
介護補償給付様式第16号2の2
遺族補償給付様式第12号
葬祭料様式第16号

通勤災害による場合の書式

請求書書式
療養給付様式第16号の5
柔整用 様式第16号の5(3)
はり・きゅう用 様式第16号の5(4)
休業給付様式第16号の6
障害給付様式第16号の7
傷病年金様式第16号の2
介護給付様式第16号2の2
遺族給付様式第16号の8
葬祭給付様式第16号の10

書類の提出先について

原則として、必要書類をそろえたうえで、管轄の労働基準監督への提出を行うことになります。

ただし、労災指定病院で治療を受け、療養補償給付・療養給付を受ける場合は、指定医療機関に提出を行ってください。指定医療機関が労働基準監督署から費用を受け取り、被災者は負担なく治療を受けることになるためです。

労働基準監督署の調査と認定

労災請求を行うと、労基署の労災担当調査官が労災認定すべきかどうかの調査を行います。調査方法としては、事業者や関係機関に対して書類や資料を求めたり、事故状況について関係者に聞き取りを行ったりします。
また、主治医や専門家に対して意見照会を行うこともあるでしょう。

この時、厚労省が調査実施要領を定めているものがあり、基本的に同要領に沿って調査が行われます。

労災認定がおりなかったときの対応

労災認定がなされなかった場合には、審査請求や再審査請求などの不服申し立てが可能です。詳しく知りたい方は『労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる』の記事をご覧ください。

労災認定を受けるためのポイントについて解説

労災請求をする際に、ただ漠然と書式への記載を行うだけでは、労災認定を受けられない恐れがあるでしょう。
ここでは、労災認定を受けることが出来るポイントについて解説をします。

労災認定基準を確認する

労災によって発生した傷病について、独自の労災認定基準が存在するケースがあります。たとえば、腰痛の場合、厚労省のホームページで次のような労災認定基準が明示されているのです。(参考:厚生労働省「腰痛の労災認定」)

  1. 腰部の負傷または腰部の負傷を生じしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が、業務遂行中に突発的な出来事として生じたと明らかに認められるものであること
  2. 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、又は腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること

このような基準は労災認定がされるのかを判断する上でとても参考になります。
腰痛の労災認定基準について詳しく知りたい方は『ぎっくり腰で労災認定が受けられる?腰痛の認定基準を解説』の記事をご覧ください。

この他にも、過労死やうつ病・適応障害などの精神疾患に関しては独自の労災認定基準が存在しているので注意しましょう。詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

証拠や資料を収集する

前述した労災認定基準をみることで、労災認定で必要な事実や証拠がどのような点かがある程度わかってきます。

上記の腰痛の例だと、労災認定される腰痛とは、単なるぎっくり腰などではないということがわかります。この場合、腰痛が発生した業務時の異常性などをしっかりと説明することが必要であり、腰に過度な負担がかかっていたという客観的な証拠を集めることが求められているといえるでしょう。

このように、労災認定のために役立つ証拠は具体的な傷病によって異なってきますので、一概にはいえません。
しかし、どこがポイントなのかを理解することで、効果的な証拠を提出することができます。
適切な証拠を集めることが労災認定を受けるためには重要となります。

事実と異なる記載がされていた場合は速やかに訂正を

労災請求書を確認したところ、事実と異なる記載がある場合は、すぐに勤務先事業主に訂正を求めるようにしましょう。

事業主との関係を気にするあまり、訂正を求めることが出来ない場合もあるかもしれません。そのような場合、労基署に自ら行き、勤務先から提出をされた請求書に誤りがあることを説明した上で、その旨を詳細に記載した書面を提出するべきです。

書式作成の際は無理にすべてを記載する必要はない

労災請求をする際、請求用紙のすべてを詳細に記載をしなければならないと考えがちですが、わかる範囲で記入すれば提出はできます。「平均賃金算定内訳」欄などは事業者の協力を得なければむずかしいものですが、この欄を空欄にしていても問題はありません。

実際のところ、労基署は独自に調査して支給額を計算するので、請求書の内容は参考程度にみられるものに過ぎません。
よって、請求書の記載は出来るだけ記入をするという感覚でいいと思います。

事業主の協力が得られないときは?

労災保険法施行規則23条2項により、事業主は労災請求にあたって必要な証明を求められた時はすみやかに証明を行い、労災請求者に協力しなければなりません。

しかしながら、事業主の中には労災請求をすることによって杜撰な管理体制などを知られたくないと考え、いわゆる労災隠しをするために協力を拒否するケースがあります。

労災請求書には、事業主のサインが必要な欄があります。
しかし、事業主の協力が得られない場合は、事業主欄を空欄にして労基署に持参するようにしましょう。労基署に事情を話すことで、受け付けてくれる事案も多くあります。

労災認定と会社への損害賠償請求は別

会社への損害賠償請求が認められるときとは?

労災認定を受けられたとしても、じつはすべての損害が補償されるとは限りません。
たとえば労災保険の給付内容に精神的苦痛に対する補償(慰謝料)はないため、損害を与えてきたものに対して損害賠償請求すべきです。

ただし、すべての労災について、会社へ損害賠償請求できるわけではありません。
会社が賠償責任を負うのは、会社に落ち度があって労災を発生させてしまい、労働者の損害につながったといえるときです。

会社に落ち度があった労災とは、会社が従業員に対して負う「安全配慮義務」に違反していて、そのことで労災という損害を発生させたときは会社の責任を問えます。

重要

労災認定を受けることと、会社への損害賠償請求は別物になります。
会社が安全配慮義務違反に違反していて、労災発生の原因となった場合には、損害賠償請求も検討すべきです。

会社への損害賠償請求を検討している方は、関連記事『会社のミスによる労働災害は損害賠償請求できる!会社の責任とは?』もあわせてお読みいただくと、損害賠償請求の流れがよくわかります。

損害賠償請求を弁護士に任せるべき理由

会社への損害賠償請求は、話し合い(示談交渉)から始まることが多いです。(示談交渉について気になる方は、こちらの関連記事『労災事故の示談交渉を進める流れとコツ|示談交渉すべき労災とは?』をあわせてご覧ください。)

ただし、話し合いのなかで会社側から提示される金額が妥当なものか、一般的な労働者の方には判断が難しかったりします。

また、労働者にも一定の責任があるものとして損害賠償金を減額されることもあるでしょう。受け入れざるを得ない減額もありますが、その減額幅が大きすぎると労働者に不利益が生じてしまいます。

こういった不安に寄り添い、交渉をスムーズに進めて不当に低い賠償金で終わらせないことが弁護士の役割のひとつです。

このほかにも弁護士に依頼するメリットは多数あります。『労災に強い弁護士に相談するメリットと探し方|労災事故の無料相談はできる?』の記事を読んで、弁護士への依頼も検討してみてください。

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労災で大きな後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりして、会社などに対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

法律相談は無料ですが、まずご予約からお願いしております。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了