労災申請に必要な診断書の費用は誰が負担する?自己負担の可能性は? | アトム法律事務所弁護士法人

労災申請に必要な診断書の費用は誰が負担する?自己負担の可能性は?

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労災申請の診断書|費用負担は誰?

労災申請で請求書を提出する際、診断書もあわせて提出しなければならないことがあります。この診断書をとりつけるときにかかった費用は、労災保険の給付対象となります。
もっとも、診断書の費用が労災保険の給付対象とならないケースもあるので注意が必要です。

本記事では、まずどんな労災給付に医師の診断書などが必要なのか整理してから、診断書の費用が給付対象となるのか、労災申請の手続きの流れなどに焦点をあてて解説していきます。

労災申請時に医師の診断書・証明が必要なものとは?

労災保険を請求する際、労災給付の内容によって医師による診断書あるいは証明が必要になるものがあります。診断書あるいは証明が必要な給付についてそれぞれみていきましょう。

医師の診断書が必要な労災給付

労災保険を請求する際、医師の診断書が必要な労災の保険給付は主に障害に関する給付(障害補償給付、障害給付)傷病に関する給付(傷病補償年金、傷病年金)です。

また、マッサージ、はり・きゅうなどの施術を受けた場合の療養に関する給付(療養補償給付、療養給付)も、医師の診断書を添付する必要があります。

医師の診断書が必要な労災給付

  • 障害に関する給付(障害補償給付、障害給付)
  • 傷病に関する給付(傷病補償年金、傷病年金)
  • マッサージなどの施術を受けた場合の療養に関する給付(療養補償給付、療養給付)

医師の証明が必要な労災給付

労災保険を請求する際、医師の証明が必要な労災の保険給付は主に療養に関する給付(療養補償給付、療養給付)休業に関する給付(休業補償給付、休業給付)です。

医師の証明が必要な労災給付

  • 療養に関する給付(療養補償給付、療養給付)
  • 休業に関する給付(休業補償給付、休業給付)

労災指定病院なら診断書を取得する必要はない

労災の傷病を治療するために労災指定病院を受診した場合、被災者が診断書を取得する必要はありません。受診した労災指定病院に療養の給付請求書を提出すると、病院経由で所轄の労働基準監督長に送られるためです。

労災指定病院以外を受診した場合、被災者がいったん療養にかかった治療費などを立て替えて病院に支払った後、労災保険に対してその費用を請求する形をとります。この際、療養を受けた証明として医師の診断書が必要になります。

一方、労災指定病院を受診した場合、労災保険の範囲内で治療を無料で受けることができます。治療という医療行為を現物給付として受けることが労災保険の給付ということになるのです。治療費などは労災保険から直接、医療機関に支払われることになるので、被災者が診断書を取得して請求書を提出する必要ありません。

診断書等の費用が原則、労災保険から給付されるものとは?

原則的に診断書等の費用が労災保険から給付されるものについて解説していきます。

障害に関する給付の請求時|上限4000円

障害に関する給付(障害補償給付、障害給付)を申請する際に添付する必要がある診断書の費用は、労災保険から給付されます。

診断書の費用はいったん被災者が立て替えて、後から請求して返金を受けます。労災指定病院を受診している場合も、労災指定病院以外の病院を受診している場合も、障害に関する給付を申請する際に添付する必要がある診断書に関しては、被災者がいったん立て替える必要があるので注意しましょう。

診断書の費用を労災保険に請求するには、療養に関する給付(療養補償給付、療養給付)として請求します。

診断書料の請求は、所定の請求書を用意し、所轄の労働基準監督に提出します。
具体的には、以下の請求書が必要です。

  • 療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)
    または
  • 療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)

障害に関する給付とは別に請求する必要があるのでご注意ください。

また、労災保険から給付される診断書の費用は、上限が4000円と決められています。診断書の作成でかかった費用が4000円を超えた場合、差額は自己負担となります。

傷害に関する給付の請求時

傷病に関する給付(傷病補償年金、傷病年金)を申請する際に添付する必要がある診断書の費用は、労災保険から給付されます。

こちらの診断書は、労働基準監督署からの指示で書類の提出を求められるものなので、診断書の費用は労災保険から支給される対象です。

労災指定病院以外の病院を受診した場合、被災者がいったん費用を立て替える必要がありますが、あとから費用を請求することができます。

休業に関する給付の請求時|上限2000円

休業に関する給付(休業補償給付、休業給付)を申請する際、請求書に医師の証明が必要になります。医師に証明を依頼すると費用がかかるのですが、その費用は労災保険から給付となるのです。

労災保険から給付される医師に証明を依頼するためにかかる費用は、上限が2000円と決められています。
また、労災指定病院以外の病院を受診した場合、被災者がいったん費用を立て替える必要がありますが、あとから費用を療養に関する給付として請求することが可能です。

診断書等の費用を自己負担する可能性がある時とは?

診断書等の費用が労災保険から給付されず、自己負担しなければいけない可能性があるものについて解説します。

療養に関する給付の請求時

療養に関する給付(療養補償給付、療養給付)を申請する際、請求書に医師の証明が必要になります。一般的に、医師になにか証明などを依頼すると費用がかかることがほとんどですが、労災指定病院を受診した場合、療養に関する給付の請求書に必要な医師の証明では労災指定病院が負担してくれることが多くなっています。

ただし、労災指定病院以外の病院を受診した場合、医師に証明を依頼すると自己負担しなければならない可能性があります。

というのも、労災保険では療養に関する給付の請求書に必要な医師の証明でかかった費用に関して規定が定められていないからです。規定がない以上、労災保険から給付されない可能性が高いと見た方がいいでしょう。

会社に診断書を提出する時

お勤めの会社から「労災で休むのであれば診断書を提出してほしい」と言われることがあります。

会社から診断書の提出を求められた場合、診断書の費用は労災保険から給付されることはありません。労災保険から診断書の費用が給付されるのは、労災保険が必要としている場合であるといえ、会社に提出するための診断書は労災保険の給付とは関係のないものです。
労災保険の法令上、会社に診断書を提出するような義務も定められていないので、労災保険に費用を請求することはできません。

また、会社から診断書の提出を求められた場合、誰が費用を負担するのか、ということについても法令で決まりがないのです。診断書の費用の負担については、会社と交渉して決めていくしかありません。

病院によって診断書の費用はさまざまで、2000円程度~1万円程度まで幅があります。会社負担となるか、自己負担となるか、会社と折半になるかはわかりませんが、なにもしないで自己負担になってしまうのであれば交渉してみるのもいいのではないでしょうか。

保険会社に診断書を提出する時

労働者が個人的に加入している生命保険や傷害保険などから診断書の提出を求められた場合、診断書の費用は労災保険から給付されることはありません。

ただし、保険会社によっては、労災保険に提出した診断書のコピーや治療費などを支払った際の領収書の提出でも認められることもあるようです。保険会社の担当者に確認してみてください。

労災申請の大まかな流れ

診断書などの費用について整理できたところで、労災申請の大まかな流れをおさえておきましょう。

労災申請の大まかな流れ

  1. 労働災害の発生
  2. 医療機関の受診
  3. 請求書の作成と必要に応じて診断書の取得
  4. 請求書や診断書等を労働基準監督署へ提出
  5. 労災認定と労災保険の給付

流れに沿って、それぞれのタイミングで注意しておきたいことなど解説していきます。

(1)労働災害の発生

業務中や通勤中に負傷したり、病気になったりする労働災害が発生したら、まずは病院を受診して治療を受けるのが大事ですが、会社に労働災害が発生したことを早めに報告することも忘れてはいけません。

正社員だけでなく、パートやアルバイト、非正規雇用、外国人労働者など、すべての労働者に労災保険は適用され、必要な保険給付が受けられます。

会社は労災が起きたら労働基準監督署に報告する義務があるので、すみやかに会社に連絡を入れましょう。

(2)医療機関の受診

労災による傷病で病院を受診する場合、労災指定病院でも労災指定病院以外でも、「労災保険を使用する」旨をあらかじめ伝えるようにしてください。労働災害では、健康保険が使えません。(関連記事:健康保険から労災保険に切り替える方法

労災指定病院以外を受診すると費用をいったん立て替えた後、労災保険に請求することになる一方、労災指定病院なら無料で治療が受けられます。
また、労災指定病院以外を受診して労災申請するよりも、労災指定病院を受診して労災申請するほうが手続きが多少、簡単になります。労災指定病院を受診しやすいという方は、労災指定病院を受診しましょう。

労災指定病院は、厚生労働省ホームページ「労災保険指定医療機関検索」で見つけることができます。

(3)請求書の作成と必要に応じて診断書の取得

労災申請は、給付を受けたい項目ごとに請求書を作成する必要があります。

また先述した通り、労災申請の請求書には、医師の診断書や証明が必要なものがあります。
医師の診断書や証明が必要な給付ごとに、請求書書式を以下の通りまとめました。

業務災害の請求書書式

請求書書式医師の診断書または証明
療養補償給付様式第7号
柔整用 様式第7号(3)
はり・きゅう用 様式第7号(4)
医師の証明
休業補償給付様式第8号医師の証明
障害補償給付様式第10号医師の診断書※
傷病補償年金様式第16号の2医師の診断書

※ 労災申請用の診断書(様式第10号・第16号の7用
※ 必要に応じてレントゲン写真などの資料も添付

通勤災害の請求書書式

請求書書式医師の診断書または証明
療養給付様式第16号の5
柔整用 様式第16号の5(3)
はり・きゅう用 様式第16号の5(4)
医師の証明
休業給付様式第16号の6医師の証明
障害給付様式第16号の7医師の診断書※
傷病年金様式第16号の2医師の診断書

※ 労災申請用の診断書(様式第10号・第16号の7用
※ 必要に応じてレントゲン写真などの資料も添付

各請求書には、医師の診断書や証明のほかに、会社の証明も必要になってきます。
もっとも、会社が労災申請に協力的でない場合もあるでしょう。このような場合、労働基準監督署に「会社が証明に協力してくれない」旨を伝えることで、会社の証明が空白でも提出することができます。

その他、労災給付の請求書は厚生労働省ホームページ「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」から取得することができます。

(4)請求書や診断書等を労働基準監督署などへ提出

請求書や診断書等、労災申請に必要な書類が準備できたら労働基準監督署など決められた窓口に提出します。

労災申請書類の提出窓口

窓口
療養補償給付
療養給付
労災保険指定医療機関
 :病院や薬局等を経て所轄の労働基準監督署長

労災保険指定医療機関以外
 :所轄の労働基準監督署長
休業補償給付
休業給付
所轄の労働基準監督署長
障害補償給付
障害給付
所轄の労働基準監督署長

労働基準監督署の所在地については、厚生労働省ホームページ「全国労働基準監督署の所在案内」で確認できます。

(5)労災認定と労災保険の給付

労災申請の書類を提出したら、労働基準監督署によって労災について必要な調査が行われます。この調査で、労災が認定されることで給付が受けられるようになります。

さらに詳しい手続きの流れについては、以下の関連記事をご確認ください。

後遺症に関する診断書は後遺障害認定に影響あり?

労災保険に後遺障害の申請をする時に必要になる診断書は、後遺障害の認定審査に大きな影響を与えます。

診断書の内容が後遺障害認定を左右する

療養を続けても何らかの症状が残ると、医師から症状固定の診断が出ます。労災保険上、症状固定のことは治癒ともいいます。

症状固定になったら、医師に後遺障害に関する診断書の作成を依頼します。労災保険に後遺障害申請をする場合の診断書は、労災保険用の書式を用いなければなりません。

労災の後遺障害認定について詳しくは、こちらの関連記事『労災による後遺症が後遺障害として認定される方法』で解説しています。

診断書は、残った症状が後遺障害に該当するかどうか審査されるときの重要な書類となります。
労災保険で後遺障害の申請をすると、労働基準監督署の面談がおこなわれるため、面談時に症状をきちんと伝えればよいとも思えますが、そもそも診断書に症状の状態が適切に記載されているかも重要です。

診断書は書式に決まりがあるものの、書き方自体に細かな決まりがありません。医師によって診断書の書き方はばらばらで、後遺障害の認定という側面からみると適切な書き方になっている診断書とはいえないことも多いです。というのも、医師は治療の専門家ではありますが、後遺障害が認定されるための診断書の書き方の専門家ではないのです。

労災保険の場合、審査に面談もあるので症状を伝える機会もありますが、診断書の記載が充実しているに越したことはありません。診断書に適切な情報が記載されるように、医師に対して症状を具体的に伝えるようにしましょう。

また、診断書の内容をさらに補完するレントゲンやMRIの検査画像、医師の意見書などといった医学的な資料を添付することも大切です。

後遺障害に関する損害賠償請求は弁護士相談がおすすめ

診断書を提出して労災から障害に関する給付(障害補償給付、障害給付)を受けられても、十分な補償とは言えないケースがあります。

それは会社に労災の原因がある場合です。会社に落ち度があって労災が起こったならば、会社に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。(関連記事:労災でも損害賠償請求できる?

労働者が被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料は、労災保険から給付されません。
そのため労災の賠償責任を持つ会社に請求していく必要があるのです。

そして、後遺障害慰謝料の相場は後遺障害等級ごとに相場があるため、何級で認定されるのかが重要になってきます。怪我が完治した場合よりも請求額が高額になるため、会社との交渉も難航する可能性があるでしょう。

会社に損害賠償請求を検討している方は、まず弁護士への相談をおすすめします。

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労災で重い後遺障害が残って会社に対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

まとめ

  • 労災申請には給付の内容に応じて医師の診断書または医師の証明が必要になるものがある
  • 労災申請に診断書などが必要な場合、取り付けにかかった費用は労災保険の給付対象になる
  • 会社に提出するためなど労災保険以外で診断書が必要な場合、取り付けにかかった費用は労災保険の給付対象外になる
岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了