労災に健康保険は使えない!労災への切り替え方法は?切り替えないとどうなる? | 事故弁護士解決ナビ

労災に健康保険は使えない!労災への切り替え方法は?切り替えないとどうなる?

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労災にあうことはそうそうありません。治療を受ける際に、いつも通り健康保険を使っていいのかと悩んでしまう人もいるでしょう。

また、知らないうちに健康保険を使ってしまっていたり労災保険の適用メリットを知らずに健康保険をあえて使っている人もいるかもしれません。

結論から言いますと、労災では健康保険を利用してはいけません。

この記事では労災保険と健康保険の違い、健康保険から労災保険への切替方法に重点を置いて解説します。健康保険から労災保険へ切り替えても基本的にデメリットはありませんので、安心してお読みください。

労災保険と健康保険は併用できません

ふだん病院で治療を受けるときには、病院の窓口で保険証を提示しているでしょう。しかし労災の治療に健康保険は利用できません。

ここからは労災保険と健康保険が併用できない理由と、労災事故にあったときの治療費の流れを説明していきます。

労災保険と健康保険の違いは?

労災保険と健康保険は、補償の対象に明確な違いがあります。

労災保険は労働者災害補償保険法にもとづいて、労働者の業務災害や通勤災害での負傷・疾病・後遺障害・死亡に対して、保険給付を行っています。

一方の健康保険は、健康保険法にもとづいて、業務外での怪我や疾病・休業・出産・死亡時の補償をする公的保険です。

つまり、労災保険は労働災害のみを対象としており、健康保険は労働災害を対象としません。

また、このあと説明するとおり、労災保険を利用して治療を受ける場合と、健康保険を利用して治療を受ける場合にも違いがあります。

労災に対する治療費はどのように支払われる?

労災保険を利用して治療を受ける場合には、現物支給が受けられるので、病院窓口で治療費を支払う必要がありません。窓口では「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(様式5号)」に必要事項を記入して提出しましょう。

もっとも、現物給付が受けられるのは労災指定の医療機関のみです。指定医療機関以外を利用した場合には、いったん窓口で治療費を全額負担しなくてはなりません。そして、労働基準監督署に所定請求用紙(様式7号)と領収書を提出しましょう。

治療費支払いに関する医療機関ごとの違い

労災指定医療機関労災指定以外の医療機関
現物給付受けられる受けられない
請求用紙様式5号様式7号

各様式については、厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。

労災保険に切り替えないとどうなる?

健康保険から労災保険に切り替えないと、次のようなデメリットが生じる可能性があります。

  • 被災者が本来の補償を受け損ねる
  • 会社が労災隠しの罪に問われる可能性がある

労災保険の給付内容は、健康保険の給付内容よりも手厚い面が多くあります。たとえば労災保険であれば窓口での治療費負担はありませんが、健康保険では原則3割負担が生じるのです。本来の補償を十分に受けられなくなってしまいます。治療が長引くほどにその負担は大きくなるでしょう。

また、被災者本人に悪気はなくても、会社が労災隠しを疑われかねません。労災隠しにより被災者本人は罪に問われませんが、会社は労災の発生を報告する必要があり、報告を怠った会社には罰則があります。会社の評判も落ちる可能性があり、深刻な影響を及ぼしかねません。

労災の治療に健康保険を使ったらばれる?

労災の治療に健康保険の利用は認められていません。病院では受診の際に「なぜ怪我をしたのか」と質問されると思いますが、その時点で正直に話すと、労災の可能性が極めて高いとして、労災保険の申請を促される可能性があります。

あるいは、病院で虚偽の報告をしたなら、その時点ではばれず、健康保険を利用できる可能性があります。
しかし、後々になって会社から問いただされて労災として扱うことになった場合、本来禁止されている健康保険を利用したことで医療機関にも迷惑がかかるのです。

労働者のなかには「労災を使うと会社に迷惑がかかるのではないか」と心配する人もいるようですが、労災を黙っていることは「労災隠し」にあたり、かえって会社に深刻なダメージを与えかねません。

  • 今は大したことがないと思っていても、将来後遺症が残る可能性はある
  • 労災隠しをした会社は罰則が科せられてしまう
  • 労災の報告は会社の労働環境改善につながる可能性もある
  • 虚偽報告をすることで医療機関にも迷惑が掛かってしまう

ご自身だけでなく多方面に迷惑がかかる可能性があります。大事なことは、健康保険を使ってばれることを恐れるのではなく、労災保険をきちんと申請して、適切な補償を受けることです。

労災なのに健康保険を使ってしまった時の対応

労災の治療に健康保険の利用は禁止されていることを説明してきました。ここからは、労災なのに健康保険を使ってしまったときの対応について説明します。

健康保険から労災保険への切り替えの方法は?

健康保険から労災保険への切り替えが可能かどうかは、まず医療機関に確認を取りましょう。労災保険への切り替えが可能との返答をもらえた場合には、指示に従い切り替えの手続きを進めてもらってください。

医療機関側の対応だけでは健康保険から労災保険への切り替えができないといわれた場合には、別の手続きが必要です。

健康保険から労災保険への切り替え手続きは、健康保険・共済保険を利用していた場合と、国民健康保険を利用していた場合で異なります。

健康保険や共済保険から労災保険への切り替え

まずは健康保険や共済保険を利用していた場合の、労災保険への切り替え手続方法です。

健康保険・共済保険の場合

  1. 加入する健康保険組合などに労災認定を受けたことを報告する
  2. 健康保険組合側からこれまで保険組合が負担してきた治療費の返還請求を受ける
  3. 健康保険組合側から請求された治療費を返還する
  4. 健康保険組合側から支払いの証明書面が届く
  5. 証明書面とこれまでの治療費の領収書をそろえて所定用紙(様式7号)で労基署へ提出する

国民健康保険から労災保険への切り替え

健康保険や共済保険に加入していない自営業者や短時間勤務者などの場合は、国民年健康保険を利用しているケースもあるでしょう。国民健康保険を利用していた場合は、お住いの市区町村とのやり取りになります。

国民健康保険の場合

  1. 在住する市区町村の窓口に労災認定を受けたことを報告する
  2. 市区町村側からこれまで国民健康保険が負担してきた治療費の返還請求を受ける
  3. 市区町村側から請求された治療費を返還する
  4. 市区町村側から支払いの証明書面が届く
  5. 証明書面とこれまでの治療費の領収書をそろえて所定用紙(様式7号)で労基署へ提出する

健康保険や国民健康保険は管轄が違うことから、まず最初に労災認定の報告先が違います。しかし、切り替えにかかる手続き内容はほとんど同じです。

まとめ

労災認定の報告、健康保険側が負担してきた治療費の返還、労基署への申請によって労災保険への切り替えが完了します

健康保険などへ治療費を返還できないときは?

健康保険や共済、国民健康保険が負担してきた治療費の返還が困難な時には、労基署へ申告しましょう。返還すべき費用と、労災保険から被災者に支払われる給付の調整をしたうえで、保険組合などに直接返還してくれます。

健康保険の長期利用によって返還費用が高額になっているからと、労災保険への切り替えを諦めなくていいのです。

保険組合や市町村側から送付された治療費返還の通知書と被災者の委任状が必要です。詳しい手続きは労基署へ相談しましょう。(通知:労災認定された傷病等に対して労災保険以外から給付等を受けていた場合における保険者等との調整について

労災をあとから申請するときの期限は?

労災の申請はあとからでも間に合いますが、健康保険から労災保険への切り替えはできるだけ早めに行いましょう。最終期限は請求内容ごとに2年または5年です。

表:労災の申請期限(一部)

請求内容期限
治療費2年
休業補償2年
障害の補償5年
介護の補償2年
遺族への補償5年

期限をいつから起算するかは、請求内容ごとに異なります。たとえば、治療費の申請起算日は「療養にかかる費用の支出が具体的に確定した日の翌日」と定められています。要は、費用を支払った日の翌日から2年となります

長期間にわたって健康保険を使ってしまっている方は、とくにお早めにご確認ください。申請期限が過ぎてしまうと労災保険への切り替えはできず、さかのぼって費用を請求することもできません。

関連記事『労災申請の時効期限は2年と5年|期限切れ時の対処法と請求手続き』では、より詳しく労災申請の期限を解説しています。

労災なのに傷病手当金をもらっていた場合の対応

健康保険から休業を原因とする補償である傷病手当金を受けていた場合には、その受給分を健康保険側に返還しなくてはなりません。なぜならさかのぼって労災を請求する場合、休業補償も労災保険から受けることになるためです。

労災保険から受けられる休業補償については、給与のおよそ80%となっています。労災保険からの休業補償給付は手厚いので、健康保険への返還に充てることは十分可能でしょう。

労災保険の休業補償については、関連記事『労災保険の休業補償|給付条件や計算方法を解説』も参考にしてください。

労災認定されなかったときの対処

申請をしたすべてのものが、労災と認定されるわけではありません。労災の認定基準に当てはまらない場合には、申請は却下されて「不支給」の通知を受けてしまいます。
労災の認定基準について詳しく知りたい方は『労働災害の認定基準|仕事や通勤でケガ、精神障害や脳・心臓疾患での過労死』の記事をご覧ください。

ここからは労災認定されなかった場合に取りうる手段と、労災認定をやり直してもらうための不服申し立てについて説明します。

健康保険を利用して治療を続ける

労災と認められなかった場合には、労災保険の適用はなされません。治療や休業の補償については、健康保険を利用して被災者の負担を減らしていきましょう。

労災不支給には不服申し立てができる

労災が不支給となった場合、不支給の結果を知った日の翌日から3ヶ月以内であれば不服申し立てとして審査請求が可能です。具体的な審査請求の方法は2通りあり、審査官に対して口頭又は書面となっています。

審査にかかる標準期間は3ヶ月が目安とされていて、この期間を過ぎても審査結果がなされない場合には、再審査請求や行政訴訟へと移ることが可能です。再審査請求に関しては書面が必要とされています。

被災者への負担は増大する

労災不支給となると、期待していた結果が得られず、大きな精神ショックを受けるでしょう。労基署の審査官に不支給決定の理由を問い合わせたり、資料をもう一度集め直すなど、被災者の負担は増す一方です。

不服申し立てや行政訴訟を検討している方は、一度弁護士へ相談してみることをおすすめします。法律の専門家の立場からアドバイスを受けることで、労災認定への道筋がつかめる可能性があります。

労災被害でお困りの方、弁護士に相談してみませんか

健康保険から労災保険への切り替えが無事に完了すれば、治療に専念し、完治を目指すことになります。労災保険からの給付は手厚いので、健康保険から労災保険へ切り替えることで大きなデメリットを被ることはないでしょう。

しかし、そんな労災保険でも、意外と知られていない事実があります。それは慰謝料は労災保険からは給付されないことです。

治療で入院・通院をしたり、重い後遺障害が残ったことへの精神的苦痛は計り知れませんが、労災保険の給付内容に慰謝料は含まれません。

もし労災の発生に会社側の落ち度がある場合には、会社側への慰謝料請求が認められる可能性があります。とくに、死亡につながるような重大な労災事故・重い後遺障害が残ったような重傷事案であるほど、これからの生活のためにも適切な補償を求めていくべきでしょう。

弁護士であれば、労災による慰謝料や損害賠償請求について次のようなサポートが可能です。

  • 慰謝料の適正な見積もりと請求が可能である
  • 後遺障害の補償もきちんと見積もってもらえる
  • 会社側との交渉を任せられる

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岡野武志

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。現在は「刑事事件」「交通事故」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

英語:TOEIC925点