労働災害の認定基準|仕事や通勤でケガ、精神障害や脳・心臓疾患での過労死
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仕事中や職場への通勤途中に怪我をしてしまった方は、ご自身の怪我が労働災害に該当するのか気になるところではありませんか。
また、仕事が原因で精神疾患にかかってしまったり、ご家族の過労死は長時間労働が原因ではないか、と考える人もいるでしょう。
大まかに言えば、労働災害とは業務中や通勤中に発生したケガや病気、障害、死亡のことをいいますが、認定には一定の基準が設けられています。
労働災害に認定された場合には労災保険による補償が受けられますので、認定基準を満たしているのかどうかは非常に重要です。
この記事では、労働災害とは何か、業務災害・通勤災害の認定基準について解説します。また、精神障害や脳・心疾患といった独自の認定基準が設けられているものについても併せて解説します。
目次
労働災害とは|業務災害と通勤災害
労働災害は、主に勤務時間中に発生する業務災害と、主に通勤の途中に発生する通勤災害の2つに分かれます。それぞれの定義を確認していきましょう。
業務災害の定義
業務災害とは、勤務時間中に職場で発生したケガや病気、障害、死亡を指します。
ただし、勤務時間中あるいは職場で発生したものがすべて業務災害となるわけではありません。勤務時間中に職場で発生したケガや病気、障害、死亡が認定基準を満たしている場合のみ、業務災害として認定されます。
業務災害に該当するという認定がなされることで、労災保険からの補償が受け取れます。
通勤災害の定義
通勤災害とは、通勤中や移動中に発生したケガや病気、障害、死亡を指します。
ただし、通勤中や移動中に発生したものがすべて通勤災害となるわけではありません。通勤中や移動中のケガや病気、障害、死亡が認定基準を満たしている場合のみ、通勤災害として認定されます。
通勤災害に該当すると認定されれば、労災保険からの補償が受け取れます。
労災保険の加入対象者は誰か
ケガや病気、障害、死亡が労働災害と認定されるためには、当事者が労働者である必要があります。
労働者については、労災保険の加入対象となるため、労働災害が認定されることにより、労災保険給付を受けることが可能となるのです。
労働者とは、正社員だけでなく契約社員や日雇い、パートタイマー、アルバイトなどの、会社と正式な雇用関係を結んでいる人を指します。
一方、個人で仕事を請け負っているフリーランスや自宅で副業をしている主婦など、雇用契約を結んでいない人については基本的に労働災害の対象になりません。
労災保険の加入対象について詳しく知りたい方は『労災保険の加入条件|労働者を守る保険の概要を解説!雇用保険との違い』の記事をご覧ください。
労働災害の申請方法
労働災害に該当するかどうかは、労働基準監督署が判断します。会社の人に「労災に当たらないと思うよ」などといわれても、うのみにする必要はありません。
労災に認定されれば、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付などの各給付が受けられます。
労災申請の手続きについては、関連記事『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』を参考にしてください。
労働災害の認定基準|業務災害
労働災害のひとつである業務災害の認定基準には、業務遂行性と業務起因性があげられます。それぞれについて詳しくみていきましょう。
業務遂行性|会社の支配下にある状態で怪我をしたこと
業務遂行性とは、労働者が会社の支配下にある状態を指します。
具体的には、以下の3つの類型に分けることが可能です。
- 事業主の支配下にあり、かつ、その管理下にあって、業務に従事している
(事業場内で作業に従事中の場合) - 事業主の支配下にあり、かつ、その管理下にあるが、業務には従事していない
(事業場内での休憩中や、始業前・就業後に事業場内で行動していた場合) - 事業主の支配下にあるが、その管理を離れて、業務に従事している
(事業場外で労働しているときや出張中であった場合)
基本的に、会社からの指示の元で職場内で仕事を行っている場合は、業務遂行性があるとみなされます。
また、職場内だけではなく、指示を受けて職場から離れて仕事をしている場合も同様です。出張、運送や配達、営業のための外回り中にケガをした場合にも業務遂行性が認められます。
さらに、業務を行っていなくても業務に付随する行為中については業務遂行性が認められます。例えば、業務中にトイレへ行ったり、水分補給をとった場合なども業務遂行性が認定されるでしょう。
業務起因性|仕事が怪我や疾病の原因となったこと
業務起因性とは、仕事が原因となってケガ・病気・死亡が起こったことを指します。
例えば、工場の機械を操作している時に設備不良によってケガをした場合は業務起因性があると認められ、労災認定されます。同僚の機械操作ミスによってケガをさせられた場合にも同様です。
労災認定されない例|業務災害にあたらないケース
業務遂行性や業務起因性が認められない場合には業務災害とはいえず、労災認定は難しいでしょう。
労災認定されないものを例示します。
- 故意に職場でケガをした
- 個人的な恨みによってケガをさせられた
- 昼休みなどの休憩中に私的行為によってケガをした
労災認定されるかどうかは、個別具体的に審査されるものです。先に上げたケースはあくまで一例ですが、すべてのケガ・疾病が労災認定されるわけではありません。
業務災害の内容や具体例について詳しく知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事をご覧ください。
労働災害の認定基準|通勤災害
労働災害のひとつである通勤災害の認定基準と、通勤災害にあたらない例も紹介します。
通勤災害に該当する移動とは何か
通勤災害とは、労働者の通勤中に発生したケガや病気、障害、死亡を指します。この場合の通勤とは、以下のような移動をいいます。
- 住居と就業場所との往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 単身赴任先と家族の住む住居間の移動
さらに、通勤災害と認定されるためには合理的な経路を使用していることが求められており、経路から逸脱したり中断している間は通勤災害と認められません。
通勤災害ではなく業務災害に該当する場合もある
一見すると通勤災害と勘違いしてしまいそうですが、業務災害に該当するケースも存在します。
たとえば、会社の専用交通機関を利用して出退勤している場合、休日に呼び出されて緊急で出勤する場合など、業務の性質を有する移動による災害については、通勤災害ではなく業務災害とされます。
なお、直行直帰して仕事をする営業社員の方については一部が業務災害にあたる可能性もあるでしょう。
自宅から最初の営業先までの移動中のケガは通勤災害、営業先でケガをした場合や、ある営業先から異なる営業先への移動中のケガは業務災害、最後の営業先から自宅までの移動中のケガは通勤災害と、細かく分かれて判断されます。
合理的な経路で移動している必要がある
通勤中のケガや病気、障害、死亡などすべてが通勤災害となるわけではありません。通勤災害と認定されるためには、合理的な経路で移動している必要があります。
合理的な経路は、一つには限定されていません。通勤のために日常利用する経路が複数ある場合、いずれの経路も合理的な経路となります。また、交通事情などによりやむを得ず迂回する場合も合理的な経路とされるでしょう。
合理的な経路から外れてもよいとされる例外
経路からの逸脱や中断した後は原則として通勤となりませんが、例外が設けられています。
例外的に逸脱・中断が認められるのは、以下のようなケースになります。
- 日用品の購入
- 職業訓練などの職業の能力向上のための行為
- 選挙権の行使
- 病院での診察や治療
日常生活に必要な行為であり、やむを得ない理由によって最小限の範囲で行う場合については、逸脱や中断後に合理的な経路に戻った後に再び通勤とみなされるようになります。
また、合理的な経路の近くのトイレを利用したり、合理的な経路上にある店でタバコやジュースを買うといった、ささいな行為については逸脱や中断とはなりません。
通勤災害に認定されるかどうかは、労災保険の補償の有無を左右する重要な点です。もし普段とは違う行為をしても、例外的な逸脱・中断として通勤災害に認定される可能性もあるので、すぐに諦める必要はありません。
労災認定されない例|通勤災害にあたらないケース
原則として、通勤の経路から逸脱した場合や中断した場合は通勤災害となりません。
定義 | |
---|---|
逸脱 | 合理的な経路を逸れること |
中断 | 通勤中に通勤とは関係のない行為を行うこと |
合理的な理由がなく、著しく遠回りをする場合は合理的な経路とはなりません。基本的に、逸脱や中断が発生した後に合理的な経路に戻っても通勤とは認められないため、注意してください。
- 帰宅途中に趣味の習い事のため途中下車、普段は利用しない駅で階段を踏み外してしまったケース
- 帰宅途中に同僚と居酒屋へ立ち寄り、解散後に店外で転んだケース
通勤災害と認定されなかった場合には、ケガの治療に労災保険を利用できません。健康保険のほか、ご自身で加入されている医療保険等を活用して治療を続けましょう。
労働災害の認定基準|精神障害、脳・心臓の疾患による過労死
長時間労働や労働に関して生じるストレスなどにより精神障害や脳・心臓疾患になった場合でも、業務遂行性と業務起因性があれば、業務災害と認められます。
過労死の定義は、過労死等防止対策推進法第二条によると、以下のとおりです。
過労死
この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。
ただし、精神障害の原因が業務によるものなのか、個人的な問題によるものかの判断が難しく、脳・心臓疾患については、原因が業務によるものなのか、食生活や遺伝によるものなのかの判断が難しいです。
このため、精神障害や脳・心臓疾患が労働災害なのかを客観的に判断するために、厚生労働省によって認定基準が定められています。
労働災害の認定基準|精神障害
精神障害が発症する原因には、外部からのストレスの強さと個人のストレスに対する耐久力の強さのバランスが関わっていると考えられています。
外部からのストレスには、仕事によるものと個人的な問題によるものがあります。どちらが精神障害の原因なのかを判断するには、慎重な判断が必要です。
精神障害が業務災害と認定される要件は以下の3点です。
- 対象としている精神障害であること
- 発病前の約6か月間に業務による強い心理的負荷がかかっていること
- 業務以外の原因で発病したと認められないこと
対象疾病とされている精神障害は、統合失調症、うつ病、適応障害、気分(感情)障害などがあげられます。具体的には、厚労省がまとめている疾病及び関連保険問題の国際統計分類が対象疾病です。
心理的負荷の程度については、厚生労働省で定められている評価表を参考とし、精神障害と業務上の事情に因果関係があるのかについて判断されます。
このように、精神疾患に関する労災認定は業務との関連性を測るために、他の労災とは違う基準や指標が用いられます。より詳しい精神疾患の労災認定基準や、労災認定の結果に納得がいかない場合の手続き、慰謝料の相場を詳しく知りたい方は関連記事をお役立てください。
労働災害の認定基準|脳・心臓疾患、過労死
脳・心臓疾患も一定の認定基準を満たす場合には労災補償の給付対象となります。
対象となる具体的な疾病は、脳血管疾患と虚血性心疾患などにわけられ、次の通りです。
対象疾病 | |
---|---|
脳血管疾患 | 脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症 |
虚血性心疾患 | 心筋梗塞、狭心症、心停止※、重篤な心不全、大動脈解離 |
※心臓性突然死を含む
しかし、脳・心臓疾患の原因には、加齢や食生活、生活環境などによる場合や遺伝による可能性も考えられるため、過労死といえるのかについては慎重な判断が必要です。
脳・心臓疾患が過労死と認定される要件は以下の3点です。
- 異常な出来事
- 短期間の過重業務
- 長期間の過重業務
それぞれについて説明します。
異常な出来事
異常な出来事とは、発症直前から前日までの間に、精神的・身体的負荷の高い出来事にあった場合、作業環境の大きな変化があった場合をさします。
精神的負荷が高い状態としては、極度の緊張状態や、興奮・驚嘆・恐怖などがあげられます。通常の業務で発生するものや想定しうる範囲を超えた出来事が「異常」として判断されるでしょう。
短期間の過重業務
短期間の過重業務とは、脳・心疾患が発症するおおむね1週間前に、特に過重な身体的、精神的負荷を生じる業務があったかどうかという点から判断されます。
不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、作業環境(温度・騒音・時差)、精神的緊張の度合いなど多角的な視点が必要です。労働者が十分な休息が取れていたかどうかも、短時間の過重業務を判断する要素となります。
長期間の過重業務
長期間の過重業務とは、脳・心疾患が発症するおおむね6ヶ月間における時間外労働が何時間であったのかという点を判断のポイントとします。
いわゆる過労死ラインとして、病気の発症直前1ヶ月の労働時間が100時間であること、発症前の2ヶ月から6ヶ月は月平均で80時間をいずれも超えた場合には、脳・心臓疾患発症と業務の関連性が強いとされています。
また、労働時間だけで判断するのではなく、労働時間以外に労働者にかかった負荷要因を総合評価することも認定基準として明示されました(厚生労働省労働基準局長通知 令和3年9月14日付)。具体的には、勤務間インターバルが短い業務や、身体的負荷を伴う業務なども労働時間以外の負荷要因として評価されます。
長時間労働を立証するためには、タイムカードや出退勤簿、入退室記録、給与明細書や休日出勤の申請書などの証拠・資料も重要です。これらは勤め先に提供を求めましょう。
また、労働者自身のスマートフォンの記録や交通機関のカード履歴なども客観的資料として役立つ可能性があります。
労災による過労死の背景に、事業者の不法行為や安全配慮義務違反が認められた場合、損害賠償請求が可能です。損害賠償請求できる慰謝料の相場を知りたい方は、関連記事もあわせてお読みください。
過労死の関連記事
労働災害の認定基準を満たさず不支給とされた後の対応
労働災害の認定基準を満たさず、労災不支給と判断されてしまうこともあります。
労災認定されなかった場合の対応をいくつか紹介しますので、参考にしてください。
不服申し立てをしてもう一度審査してもらう
労働災害の認定基準を満たさない場合には、労災保険からの補償は受けられません。しかし不支給の決定通知を受けたからといって、すぐに諦める必要はなく、認定結果への不服申し立てが可能です。
不服申し立ての具体的な方法には、審査請求、再審査請求、行政訴訟の3段階があり、最初の審査請求は労災の認定などの決定を確認した日の翌日から3ヶ月以内に行うものと決められています。
そのため不服申し立てをするには時間に余裕をもって、十分な準備が必要です。
労災保険を使わずに健康保険で治療をする
労災であれば労災指定病院で治療費を支払わなくて済んだり、あとから窓口で支払った治療費を返還してもらえるなど多くのメリットがあります。しかし労災認定基準外とされた場合、ケガの治療に労災保険は使えず、健康保険を使って治療を進めることになります。
なお、あとから労災と認定された場合には健康保険を使って負担した分の返還請求ができることも覚えておきましょう。
まとめ
労災は一定の認定基準が設けられており、認定基準を満たしていれば労災保険から給付が支払われます。
もっとも、会社に安全配慮義務違反あるようなケースや交通事故に該当するようなケースでは、労災保険から支払われない慰謝料について、損害賠償請求しなければ手にすることができません。
労災で重い後遺障害が残ったりご家族を亡くされて、損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。無料相談の予約受付は24時間365日いつでも対応中です。気軽にご利用ください。
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詳しくは受付にご確認ください。
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
労災保険の仕組みや申請の流れは労働基準監督署をはじめとする公的相談窓口がありますので、関連記事『労災事故の相談窓口はどこ?お悩み別に無料相談や電話相談先を探そう』も参考に相談先を探してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了