労災で休業損害が請求できる場面とは?休業補償との違いがわかる
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労働災害(労災)により負傷し、治療のために休業する必要があるなら、休業によって発生した損害を取り戻す必要があります。
休業による損害に対しては、「休業損害」や「休業補償」というものが請求可能です。ただし、「休業損害」と「休業補償」は法律上、全く異なる請求であることに注意してください。
本記事では、労災により休業することになった場合、休業損害や休業補償を誰に、いくら請求できるのかについて解説しています。
労災によるケガで仕事ができなくなっている方は是非確認してみてください。
目次
労災にあったら休業損害や休業補償を請求しよう
労災によって休業せざるを得なくなったら、休業損害や休業補償を請求しましょう。まずは、休業損害と休業補償は法律上、どのような違いがあるのかをみていきます。
休業損害と休業補償の違い
休業損害と休業補償は法律上、異なるものです。
休業損害とは、怪我により仕事ができなくなった被害者が、怪我の原因となった加害者や加害者の加入する保険会社に対して行う、休業によって発生した損害に対する賠償請求になります。
休業補償とは、労災によって負傷したために仕事ができなくなった労働者が、労災保険により受けることができる休業による損害に対する給付です。
労災を原因とする負傷でなければならない休業補償より、休業損害の方が請求できるケースは多いでしょう。
その他にも、以下のような違いがあります。
休業損害 | 休業補償 | |
---|---|---|
請求相手 | 加害者 | 労災保険(政府) |
請求対象 | 実際に休業した期間 | 休業開始から4日目以降 |
請求範囲 | 休業による損害分 | 法律で定められた範囲 |
被害者の過失による減額 | あり | 原則無し |
労災が原因で休業となった場合には、政府に対して労災保険にもとづく休業補償の請求が可能であり、かつ、労災の原因が会社や第三者の行為による場合には休業損害の請求も可能となるのです。
労災により休業損害や休業補償が請求できるケースとは
では、そもそも労災に該当して休業損害や休業補償が請求できるケースとはどのようなものをいうのでしょうか。
労災に該当するケースを紹介
まず、労災には業務災害と通勤災害の2種類があります。
上述の条件に該当し、労働者が仕事ができない程度に負傷したのであれば、労災保険から休業補償給付を受けることが可能となります。
なお、労災保険からの給付を受けることができるのは、原則として労働契約にもとづいて仕事をしている正社員、アルバイト、パートタイマーなどです。
個人事業主や会社役員は労災保険給付の対象とはなりません。
もっとも、一定の条件を満たしていれば個人事業主や会社役員であっても労災保険給付を受けることが可能です。
労災保険給付を受けるための条件について詳しく知りたい方は『労災保険の加入条件|労働者を守る保険の概要を解説!雇用保険との違い』の記事を確認してください。
労災のうち休業損害を請求できるケースを紹介
労災のうち休業損害の請求が可能なのは、労災の原因が会社や第三者にある場合です。
具体的には「会社の安全配慮義務違反により労災が生じた場合」や「第三者の不法行為により労災が生じた場合」のようなケースです。
それぞれ、もう少し詳しくみていきましょう。
(1)会社の安全配慮義務違反により労災が生じた場合
会社は、労働者の生命や身体が侵害されないように職場環境を整えるという安全配慮義務を負っています。
そのため、作業現場の安全確保が不十分であった、過度の労働時間が発生しないよう人員を配置しなかったといったことが労災の原因である場合には、安全配慮義務違反を原因として会社に休業損害を請求することが可能です。
安全配慮義務違反にもとづく損害賠償請求については、関連記事『安全配慮義務違反は損害賠償の前提|慰謝料相場と会社を訴える方法』をご覧ください。安全配慮義務違反を判断する基準もわかります。
(2)第三者の不法行為により労災が生じた場合
第三者の故意や過失にもとづく行為によって労災が生じた場合には、第三者に対して不法行為にもとづく損害賠償請求が可能となるので、その中で休業損害の請求も行うことができます。
具体的には、労働者が通勤中に第三者の交通違反による交通事故により負傷した場合などです。
休業損害の計算と請求方法を紹介
労災発生の原因が会社の安全配慮義務違反や第三者の不法行為による場合には、休業損害の請求も行うことが可能です。
休業損害の請求金額や方法は、「交通事故の場合」と「交通事故でない場合」により異なってくるため、場合分けを行ったうえで説明します。
休業損害の計算方法
休業損害の計算方法は以下の通りです。
休業損害の計算方法
- 基礎収入日額×休業日数
基礎収入日額とは、労災発生前の3ヶ月間の平均給与額を日額化したものをいい、ボーナスは含まれません。
例えば、5月1日に怪我を負い、2月,3月,4月の給料がそれぞれ25万、28万、26万円である場合の基礎収入日額は以下の通りです。
(25万+28万+26万)÷89日(=28日+31日+30日)=8877円(8776.4円を切り上げ)
休業日数は、治療のために休業する必要があるといえる日数です。
そのため、自主的に休んでいると判断された日は対象とはならないので、医師の指示に従って休日を取りましょう。
また、休業によりボーナスが減少した、昇給が遅れたということを証明できれば、減少額を休業損害として請求することも可能です。
休業損害の請求方法|交通事故の場合
労災発生の原因が交通事故である場合には、加害者である第三者に対して休業損害の請求を行うことになります。
加害者は、自賠責保険や任意保険に加入しているため、実際には加害者の加入する保険会社に請求を行うことになるでしょう。
自賠責保険に請求する場合は、請求できる休業損害の金額が法律により決められており、具体的には以下のような計算式になります。
自賠責保険の休業損害
1日6100円×休業日数
交通事故発生日が2020年4月1日より前の場合は1日5700円となります。
また、自賠責保険により請求できる金額には上限が存在しているので注意が必要です。休業損害をはじめとし、以下の費用も含めて合計120万円までしか自賠責保険には請求できません。
- 治療関係費
診察料、投薬料、手術料、入通院交通費、入院料など - 文書料
交通事故証明書や被害者の印鑑証明書などの発行費用 - 傷害慰謝料
入通院日数×4300円
2020年4月1日以前に発生した事故の場合は1日4200円
休業日数が長期に渡る怪我の場合は、休業損害以外に請求できる費用も高額になりやすいので、上限の120万円に引っかかり、請求できる金額が制限される可能性が高くなります。
自賠責保険に対する請求で不十分な部分は、任意保険に対する請求により補填しましょう。
加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者本人への請求となります。
また、自賠責保険に対して先に請求しなければならないわけではないので、最初から任意保険や加害者に対して請求しても問題ありません。
その場合は、支払いを行った任意保険や加害者が、後から自賠責保険に対して自賠責保険で支払うべき部分について請求することになります。
休業損害の請求方法|交通事故でない場合
交通事故以外の原因で休業損害の請求が可能な場合は、加害者である会社や第三者に対して直接請求を行いましょう。
第三者に対して請求が可能な場合について、第三者が仕事中に行った行為が原因であることがあります。
具体的には、以下のような場合です。
- 看板の修理中に看板が倒れて通勤中の労働者が怪我をした
- 工事現場で作業中に、他の会社の作業員に怪我をさせられた
など
このような場合には、加害者を使用して利益を得ている会社に使用者責任があるとして休業損害を請求できる可能性があります。
加害者個人には休業損害を支払える資力があるとは限りません。基本的に個人よりも資力がある会社に対して請求するほうが、確実に支払いを受けることができるでしょう。
休業補償の計算と請求方法を紹介
労働者が労災により負傷し、治療のために仕事ができなくなったのであれば、休業補償の給付を受けることが可能です。
休業補償として受けられる具体的な金額や給付請求手段を紹介します。
休業補償の計算方法
休業補償の給付金額は、以下のような計算方法により算出されます。
休業補償の計算方法
- 給付基礎日額×0.6×休業日数(休業4日目以降)
給付基礎日額とは、労災発生日または労災による傷病が発生したと診断された日の直前3ヶ月間の賃金の総額を3ヶ月間の暦日数で割ったものとなります。
賃金にボーナスは含まれません。
基本的には、休業損害にいう基礎収入日額と変わらないでしょう。
ただし、賃金水準に変動があると、給付日額も変動が生じることがあります。
休業日数は、休業損害と同様に治療のために必要であるといえる日数のことです。
また、休業補償給付は3日間の待期期間があるため、休業日数が4日目になってから給付が行われることになります。
もっとも、業務災害の場合には、労働基準法により事業主である会社が待期期間中の部分について休業補償を行う必要があるため、実質として休業初日から給付を受けることが可能です。
さらに、休業補償が請求可能な場合には、休業補償とは別に休業特別支給金が給付されます。
休業特別支給金の計算方法は以下の通りです。
休業特別支給金の計算方法
- 給付基礎日額×0.2×休業日数
そのため、実際には給付基礎日額の80%を休業補償により受け取ることが可能となります。
休業補償の請求手続き
休業補償給付を受けるためには、必要な書類を管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
具体的には以下のような書類です。
休業補償給付に必要な書類
- 支給請求書(業務災害は様式第8号、通勤災害は様式第16号の6)
- 賃金台帳
- 出勤簿の写し
支給請求書には原則として会社の証明が必要となるので、会社に対して休業補償を受けたい旨を告げて、会社の証明がある支給請求書を用意してもらいましょう。
賃金台帳や出勤簿の写しも一緒に用意してもらうべきです。
もっとも、会社が労災の発生を認めず協力してくれない場合でも、休業補償給付の請求自体は可能です。
その場合は、会社の証明が受けられない旨を支給請求書に記載してください。
記載内容については、所管の労働基準監督署に確認するのがよいでしょう。
支給請求書については「厚生労働省のホームページ」でダウンロード可能です。
支給請求書には実際に休業した期間を記載する必要があります。
そのため、休業期間が長期に渡る場合には、1ヶ月ごとに支給請求書を提出し、1ヶ月ごとに休業補償給付を受けることになるでしょう。
休業期間が1年6ヶ月を超えた場合の手続き
労災による療養が開始してから1年6ヶ月を経過しても怪我が治癒せず、怪我の内容が傷病等級1級から3級に示されるものである場合には、休業補償に代わって傷病補償年金を受けることになります。
ここにいう治癒とは、治療の効果が期待できず症状が固定することです。
療養開始から1年6ヶ月を経過した日から1ヶ月以内に傷病病の状態等に関する届(様式第16号の2)を管轄の労働基準監督署に提出してください。
要件が整っていると労働基準監督署が判断した場合には、休業補償に代わり傷病補償年金が支払われることになります。
休業補償以外に労災保険にもとづいてどのような請求ができるか知りたい方は、『労災でもらえるお金|労災給付の一覧とその他にもらえる補償の可能性』の記事を確認してください。
休業補償の給付が制限される事情
休業補償給付を受けることができる労働者が、休業補償給付の原因となった怪我を理由に障害厚生年金や障害基礎年金を受け取ることができるときは、休業補償給付は減額となります。
休業損害と休業補償は両方請求しよう
労災の原因が会社や第三者にある場合は、休業損害と休業補償は両方請求することができます。どちらか一方の請求だけで十分な補償がもらえるだろうと思っている方は、両方請求すべき理由を解説していますので、ぜひご確認ください。
両方請求すべき理由とは
休業損害と休業補償のどちらも請求できる場合には、両方とも請求することをおすすめします。
なぜなら、両方請求することで最も得られる金額が大きくなるためです。
上記した計算方法からすると、休業損害によって請求できる金額の方が高額であり、休業損害を実際に得たのであれば、その範囲で休業補償の請求を行うことはできなくなるので、休業損害の請求だけで十分とも思えます。
しかし、休業補償で得ることのできる休業特別支給金の部分については、休業損害を得ていたとしても請求が可能なため、両方請求することで得られる金額が最も高額となるのです。
すなわち、休業損害と休業補償のどちらも請求することで、「給付基礎日額×1.2×休業日数」の金額を得ることが可能となります。
両方請求で得られる金額の内訳
- 休業損害:給付基礎日額×休業日数
- 休業補償:給付基礎日額×0.2×休業日数(休業特別支給金の範囲のみ)
- 通常の休業補償(給付基礎日額×0.6×休業日数の範囲)で得られる部分は休業損害によって得られているため請求できない
休業損害や休業補償はどちらも被害者に生じた金銭的損害を補填するという同じ目的を有しているため、一方の請求が認められれば、認められた範囲ではもう一方の請求は認められません。
しかし、特別支給金は労災被害者の福祉という異なる目的で支給されるため、休業損害の請求が行われていても請求が可能となります。
したがって、休業損害と休業補償の両方を請求し、休業による損害をしっかりと得るようにしましょう。
被害者に過失がある場合の注意点
もっとも、労災発生の原因に被害者の過失がある場合には、事情が異なります。
休業損害の請求を任意保険会社、加害者本人、または、会社に請求する場合、被害者の過失の程度に応じて請求できる金額が減額となるためです。
例えば、給付基礎日額が1万5千円、休業日数が50日であり、加害者と被害者の過失割合が50対50である場合には、請求できる金額が以下のようになります。
- 休業損害:任意保険会社、加害者、会社への請求
1万5千円×0.5:過失による減額×50日=37万5千円 - 休業損害:自賠責保険への請求
6100円×50日=30万5千円 - 休業補償:休業特別支給金を除く
1万5千円×0.6×50日=45万円
自賠責保険への請求や休業補償の請求については、被害者の故意や重度の過失により労働災害が発生していたといった場合でなければ過失による減額がありません。
そのため、被害者に過失があると休業損害の方が請求できる金額が少なくなる可能性があるのです。
任意保険会社、加害者、または、会社に請求を行う場合には、請求の相手方が少しでも休業損害の金額を下げるために、被害者の過失を過大に評価してくることが多いでしょう。
過失の評価に明確な基準はないため、正確な過失の程度や、どのように請求すると最も得られる金額が高額になるのかについては、専門家である弁護士に確認すべきです。
休業損害の請求は弁護士に依頼しよう
休業損害の請求は法律にもとづいて行う必要があるので、法律の専門知識がないとスムーズに請求できない可能性があります。
ここからは休業損害の請求に関して弁護士に依頼すべき理由をみていきましょう。
弁護士に依頼すれば相場の金額を請求できる
自賠責保険による休業損害の金額は法律により定められていますが、自賠責保険にもとづかない休業損害の金額については、法律による決まりはありません。
また、被害者に過失が存在する場合には、過失の程度により減額となります。そのため相手方は計算方法や被害者の過失割合が異なるという反論を行ってくる可能性があるのです。
特に、事故相手の任意保険会社は独自の計算基準にもとづいて休業損害の計算を行い、それ以上の金額は払えないと抵抗してくることが多いでしょう。
そのため、相場の金額を計算したうえで請求することになりますが、法律知識が不十分な人では計算自体が難しい場合があり、請求相手も簡単には相場額の支払いに応じないことが珍しくありません。
特に、任意保険会社に請求した場合は経験豊富な担当者が相手となるので、相場より低い金額で話をまとめるように誘導されてしまう恐れがあるでしょう。
弁護士に依頼すれば、正確に相場の金額を計算したうえで相手方に請求を行ってくれます。
また、専門家である弁護士からの請求であるため、相手方も請求に応じてくれる可能性が高くなるでしょう。
したがって、相場額の休業損害請求を行いたい場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に請求手続きを任せることができる
弁護士に依頼すれば、休業損害の請求を代理人として代わりに行ってくれます。
休業損害の請求を自力で行う場合、怪我の治療中に相手と交渉する必要があり、ストレスになるでしょう。
また、交渉がうまくいかないときは裁判で決着をつける必要がありますが、裁判手続きは複雑で弁護士への依頼が欠かせません。
そのため、弁護士に依頼して代わりに交渉してもらい、被害者は怪我の治療や職場への復帰に専念するべきでしょう。
弁護士費用が気になる方へ
弁護士に依頼する場合には、依頼による費用がどれくらいになるのかという点が気になると思います。
弁護士費用に関しては、まず、弁護士費用特約が利用できないかどうかを確認してください。
弁護士費用特約とは、弁護士に支払う費用の一部を保険会社が代わりに負担してくれるというものです。
特に、自動車保険の多くは弁護士費用特約が付いているため、労災が自動車事故により発生した場合には必ず確認してください。
弁護士費用特約が利用できれば弁護士費用が非常に安く済むことが多いため、弁護士に依頼すべきです。
もっとも、特約が付いていても特約が利用できる条件があることが多いので、そもそも利用可能がどうかについて保険会社や弁護士に確認を取りましょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了