下請けの労災事故において元請け会社が負うべき責務や裁判例を紹介
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建設業では特に、元請けが下請けに業務を発注して工事を進めるケースが少なくありません。下請け会社と元請け会社をめぐる問題の一つに、労災事故が起きた時の責任問題があります。
今回は下請け会社の従業員に起きた労災事故について、元請け会社が負うべき責務や裁判事例を解説します。
本記事は下請け会社で働いていて労災に遭ってしまい、どこに対して責任を追及すればいいかお悩み中の方にとって参考になる内容です。
目次
下請け会社の労災事故に対する元請け会社の責務
直接雇ってはいない社員であっても、関係性によっては元請け会社に責任が認められるケースもあります。まずは、下請け会社の従業員が労働災害に遭った場合の元請け会社が負うべき責務を見ていきましょう。
安全配慮義務
安全配慮義務とは、従業員が健康的かつ安全に働けるように事業主側が配慮する義務のことです。原則的には、元請け会社が下請け会社の従業員に対して安全配慮義務を負うことはないとされています。
ただし、元請け会社と下請け会社の従業員の間に特別な社会的接触関係が存する場合、安全配慮義務が生じます。
この社会的接触関係の基準については、三菱重工神戸造船所事件という判例で基準が示されました。本事例では下請け会社は元請け会社が管理する設備や器具を利用し、事実上、元請け会社の指揮・監督下で稼動しているといえる状況でした。
加えて作業内容も本社社員と同一であったことから、実質的な使用関係あるいは間接的な指揮監督関係が存するとして、元請け会社の下請け企業に対する安全配慮義務の存在を認めています。
元請け会社の安全配慮義務違反を証明できれば、事故の被害者である下請け会社の従業員は元請け会社に対して損害賠償を請求することが可能です。
また、建設業や造船業の元請け会社のことを特定元方事業者といいます。特定元方事業者はその他の事業者と比べて規制が厳しいため、下請会社との実質的な使用関係、もしくは間接的な指揮監督関係が認められやすいといえます。
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使用者責任
元請け会社は使用者責任も負っています。使用者責任とは、従業員を雇って事業を行っている者が、当該従業員が第三者に対して与えた損害を賠償する責任のことです。
使用者は被用者の活動によって利益を挙げているため、雇用によるプラス面だけでなくマイナス面の責任も負う必要があります。
元請け会社と下請け会社は請負契約を締結しています。請負契約の場合、注文者と請負人はそれぞれ独立した地位を持ちます。上から指示を受けるのではなく、自己の裁量をもって活動するのが通常です。
このため、原則として注文者は請負人に対して使用者責任を持ちません。
しかし、元請け会社と下請け会社の関係では取扱いが異なります。下請け会社が元請け会社の指示に従って仕事を完成させているといえるなら、両者は指揮監督関係にあるため、使用者責任が認められるのです。
下請け業者が第三者に対して違法行為を行った時は、元請け業者も連帯して責任を負わなければなりません。
建設業の元請け会社が講ずべき措置
建設業に属する元請け会社である元方事業者は、土砂等が崩壊したり機械等が転倒したりする恐れのある場所において関係請負人の労働者が作業を実施する場合、当該作業員が安全な環境で働けるよう技術上の指導等といった処置を講じる必要があります。(労働安全衛生法第29条の2)
このような規定が存在するため、建設業の元請け会社は下請会社との関係で安全配慮義務や使用者責任が認められやすいでしょう。
下請けの労災事故で争点になりうる2つの問題
下請けの労災事故で争点になりうる「労災隠し」と「1人親方の労災事故」について解説します。
基本的に1人親方は労災保険が適用されません。通常の労働者と異なる扱いを受けるので、ぜひこの機会にチェックしましょう。
労災隠し
労働災害によって労働者が負傷等によって4日以上休業した場合、事業主は労働基準監督署に対して報告書を提出する義務があります。(労働安全衛生法第100条)
事業主が報告書を行政に提出しなかった場合、または虚偽の記載で提出する行為を労災隠しといいます。労災隠しは元請けと下請けの関係で生じる可能性が高いです。
なぜなら、被害に遭った下請け会社が自らの評価に影響を与えることを恐れたり、元請け会社に迷惑をかけないように配慮したりして事故の事実を隠す場合があるためです。
しかし、このような労災隠しはかえって逆効果だといえます。労災隠しは犯罪の一種なので、発覚したら50万円の罰金を受けます。
労災が発生したのであれば、会社に報告を行い、適切な労災保険給付を受けましょう。
労災保険給付を受けるための手続きについては『労災事故の申請方法と手続きは?すべき対応と労災保険受け取りの流れ』の記事で確認可能です。
労働基準法第87条では「事業が1次、2次、3次と数次の請負で行われる場合、災害補償に関しては元請け人を使用者とみなす」と記載があります。
つまり、元請け会社の労災保険から給付を受けることになるのです。
1人親方の労災事故
1人で事業を営んでいる1人親方が元請け会社から仕事を受けるケースもあるでしょう。下請けの1人親方が労災の被害に見舞われた場合、労災保険の給付を受けることはできません。
労災保険は従業員に対して支給されるものなので、事業主である1人親方は対象外です。
しかし、1人親方であっても特別加入の適用を受ければ、労災保険に加入することができます。
特別加入とは業務の実情や災害の発生状況に照らし合わせて、労働者と同等の扱いをしても問題ないと判断できるケースでは事業主等も労災保険の対象とする制度です。
事故のリスクが高い建設現場が主戦場の1人親方が、身一つで仕事をこなすのは危険です。下請けで働く1人親方は、ぜひ特別加入制度を利用しましょう。
下請け会社の労災について元請け会社の責任を認めた判例
下請け会社の労災事故について見ていきましょう。元請け会社にも損害賠償責任が認められる場合、両者の責任割合が裁判の争点になるケースもあります。何対何の割合で責任を負うことになるのか、裁判所が下す判断をチェックしましょう。
判例(1)
海上埋立工事の作業船が漂流し、連絡橋に衝突し、約2億5,000万円以上の損害が発生した事案です。作業船の船長には漂流対策を実施する義務があるため、船主の会社には当然のごとく責任が認められます。
本事例では元請けのJV(特定建設工事共同体)にも損害賠償命令が発出されました。裁判所は船主会社に70%の責任を、JVに30%の割合で支払いを命じています。
本事例では、負担割合の決定方法として「加害行為の容態と使用者の事業執行との関連性、加害者に対してどの程度使用者が指揮監督権を行使したか」等の事情が考慮されています。
判例(2)
孫請け会社の労働者が下請け会社の従業員の過失で、クレーンからの落下物によって死傷した事案です。
本案件では事故発生の状況や具体的な容態を考慮して、加害者となった従業員が10%、その使用者である下請け会社が30%、現実的に監督をしていた元請け会社が30%、直接の雇用主である孫請け会社が30%の割合で責任を負うこととなりました。
本事例以外では各関係各社に連帯責任を認め、各自平等の負担を強いるケースも見られます。
下請け会社での労災は弁護士に相談しよう
労災で損害賠償請求を検討している場合、まずは弁護士相談をおすすめします。
損害賠償請求は法律の専門家である弁護士に相談する
下請け会社で生じた労災に関しては元請け会社の労災保険を利用したり、元請け会社に対する損害賠償請求を検討する必要などがあります。
そのため、元請け会社との関係から下請け会社が労災保険の利用や損害賠償請求を行うことをためらう可能性もあり、協力を渋られる可能性もあるでしょう。
とくに損害賠償請求は法律の知識が必要なので、お一人で適切な請求を行うことは困難です。
そこで、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談することで今後の見通しを立てることができ、実際に依頼すれば代理人として手続きを手伝ってくれるため、強い味方といえる存在です。
これまで弁護士依頼を考えていなかったという方も、関連記事『労災に強い弁護士に相談するメリットと探し方|労災事故の無料相談はできる?』を読んだうえで、弁護士に損害賠償請求を任せることも選択肢に入れてみてください。
アトムの弁護士による無料法律相談の窓口
労災で大きな後遺障害が残ったり、ご家族が亡くなられたりして、損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了