労災年金の種類別に受給額を解説!いつまでもらえる?申請期限はいつまで?
労災事故により、重大な傷病を被ってしまった場合や後遺障害が残存した場合、死亡してしまった場合は、労災保険から年金が支給されます。この記事では、労災保険から支給される年金のことを「労災年金」として説明を進めます。
労災年金を受けとるには申請が必要です。申請には時効期間があり、この時効期間を過ぎると労災年金が受けとれなくなるため、注意が必要です。
この記事では、労災年金の請求方法、支給額、注意点などの知っておきたい基本事項を解説します。労災保険の制度はわかりにくいことに加え、被災労働者が主導で請求をする必要があります。この記事がスムーズな請求のためのお役に立てば幸いです。
労災年金の種類と受給額の計算
労災保険とは、労働者が業務中や通勤中に傷病などを負った場合、労働者本人または被災労働者の遺族に保険金を支給する制度になります。
まずは、労災年金の種類を知り、どんな保険金を受給できるのかを知ることが大切です。
労災年金の種類は3つある
労災年金には、「傷病(補償)年金」、「障害(補償)年金」、「遺族(補償)年金」の3種類の年金があります。
それぞれ、労災保険制度の中で年金受給額などが定められており、受給要件に該当した場合に、労災請求をすることで受給できます。また、労災保険では労災年金以外にも一時金なども用意されていることもありますので、請求の際には労基署に確認しましょう。
労災年金は給付基礎日額と算定基礎日額で計算する
労災年金の受給額を理解するためには、「給付基礎日額」と「算定基礎日額」という概念を押さえておく必要があります。
給付基礎日額は、原則として、労災事故発生によって傷病などが発生した日の直前3ヶ月間に労働者に対して支払われた賃金の総額をその期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額になります。
算定基礎日額は、原則として、労災事故発生によって疾病などの発生が確定した日以前1年間にその労働者が事業主から受けた特別給与(ボーナス)の総額を365で割った金額です。
意味 | |
---|---|
給付基礎日額 | 傷病発生日※の直前3ヶ月間の賃金総額を、暦日数で割った1日当たりの賃金額 |
算定基礎日額 | 傷病発生日※以前1年間にその労働者が事業主から受けた特別給与の総額を365で割った金額 |
※診断によって確定した日を起算日とすることもある
年金の種類によって、給付基礎日額で計算するものと、算定基礎日額で計算するものがあります。
ここまでのまとめ
- 労災年金には「傷病(補償)年金」、「障害(補償)年金」、「遺族(補償)年金」の3種類がある
- 労災年金の受給額は給付基礎日額や算定基礎日額によって計算する
傷病(補償)年金について
傷病(補償)年金の受給要件、申請期限(時効)、受給額、受給期限について説明していきます。
受給要件|傷病補償年金を受ける条件は?
傷病補償年金は、勤務または通勤が原因となった負傷や疾病の療養開始後1年6ヶ月を経過した日またはその日以後、次のアならびにイの要件に該当するときに支給をされます。
ア その負傷または疾病が治癒に至っていない
イ その負傷または疾病による障害の程度が傷病等級の1級~3級に該当するもの
申請期限|傷病補償年金はいつまでに申請?
傷病補償年金の申請に時効はありません。傷病補償年金は労働者から請求するものではなく、労基署長の判断によって支給されます。
なお、傷病補償年金が支給されたときには休業補償給付は打ち切られます。
受給額|傷病補償年金はいくらもらえる?
傷病補償年金は以下のように、傷病等級ごとの支給額が定められています。
等級 | 傷病補償年金 | 傷病特別年金 |
---|---|---|
1級 | 給付基礎日額の313日分 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 給付基礎日額の277日分 | 算定基礎日額の277日分 |
3級 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
傷病特別年金とは受給者の申請にもとづいて、社会復帰促進事業の一環で支給されるものです。このほかにも社会復帰促進事業として、傷病特別支給金が一時金形式で支給されます。傷病特別支給金の金額は傷病等級に応じて100万円から114万円です。
ただし、傷病特別年金の計算には算定基礎日額を用います。算定基礎日額は被災者の賞与を元に算定しますので、賞与をもらっていなかった場合には傷病特別年金は受給できません。
受給期限|傷病補償年金はいつまでもらえる?
傷病補償年金は、その傷病等級に相当する状態が続いており、治療が継続されている限り受給できます。ただし症状固定となった場合には、障害補償年金へと切り替わる可能性が高いです。
障害(補償)年金について
障害(補償)年金の受給要件、申請期限(時効)、受給額、受給期限について説明していきます。
受給要件|障害補償年金を受ける条件は?
障害(補償)年金は、障害補償給付のひとつで、障害等級が1級から7級に該当する際に受給できます。
※障害等級表については関連記事『労災の後遺障害等級』を参照ください。
障害(補償)年金を請求するには、所轄の労基署に「障害補償給付 複数事業労働者障害給付 支給請求書」(様式第10号)または、「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)を提出が必要です。
請求書は、厚労省のHP「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からダウンロードできます。
申請期限|障害補償年金はいつまでに申請?
障害補償年金の請求期間は傷病が治った日の翌日から5年です。この期間を超過してしまうと時効により請求権が消滅します。
受給額|障害補償年金はいくらもらえる?
障害年金は以下のように、障害等級に応じた支給があります。
等級 | 障害(補償)年金 | 障害(特別)年金 |
---|---|---|
1級 | 給付基礎日額の313日分 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 給付基礎日額の277日分 | 算定基礎日額の277日分 |
3級 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
4級 | 給付基礎日額の213日分 | 算定基礎日額の213日分 |
5級 | 給付基礎日額の184日分 | 算定基礎日額の184日分 |
6級 | 給付基礎日額の156日分 | 算定基礎日額の156日分 |
7級 | 給付基礎日額の131日分 | 算定基礎日額の131日分 |
障害補償年金は給与を基礎に計算をしており、障害特別年金は賞与を基礎に計算をして受給を受けることが出来るというイメージをもってください。いいかえれば、賞与を受けていない場合には障害特別年金を受給できません。
受給期限|障害補償年金はいつまでもらえる?
障害補償年金に受給の期限はありません。被災した労働者が存命している限り、受給できます。
遺族(補償)年金について
遺族補償年金は、亡くなった被災労働者の家族などが生活を維持するために支給されます。遺族補償年金の受給要件、申請期限(時効)、受給額、受給期限について説明していきます。
受給要件|遺族補償年金を受ける条件は?
遺族(補償)年金は、遺族補償給付の一内容で、以下の要件に該当する遺族が受給できます。
ア 被災労働者が死亡した当時「その収入によって生活を維持していた」こと
イ 被災労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹であること
ウ 年齢要件を満たしていること(妻ならこの要件は不要)
受給権者と受給資格の詳細は後述します。
また、この遺族(補償)年金の他に、遺族(補償)一時金があり、金額は一律300万円が受給できます。
遺族年金を受給するためには、所轄の労基署に「遺族補償年金 複数事業労働者遺族年金 支給請求書」(様式第12号)または「遺族年金支給請求書」(様式第16号の8)を提出する必要があります。
請求書は、厚労省のHP「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からダウンロードすることができます。
申請期限|遺族補償年金はいつまでに申請?
遺族補償年金は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅することになります。速やかな請求が必要です。
受給金額|遺族補償年金はいくらもらえる?
遺族年金は以下のように、遺族数によって年金額が異なってきます。年金は、毎年2月・4月・6月・8月・10月・12月にそれぞれ2ヶ月分が支給されます。
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別年金 |
---|---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分 | 算定基礎日額の153日分 |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 |
4人 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
受給期限|遺族補償年金はいつまでもらえる?
遺族補償年金は、受給権者がいずれかの状態になったとき、受給権を失います。そして、次の受給権者へ転給する仕組みです。
受給権を失うとき
- 死亡したとき
- 婚姻したとき(婚姻届けの有無は問わず事実婚も含む)
- 被災労働者との親族関係がなくなったとき(例:離縁)
- 受給権者がその受給資格を失ったとき
受給資格を詳しくみてみましょう。
受給権者は次の順位の通りで、最も先行して受給権者となるのは配偶者です。妻の場合には制限はありませんが、夫の場合には60歳以上となった時点あるいは一定の障害を持っているといった受給制限があります。
順位 | 被災者との関係 | 制限 |
---|---|---|
1 | 妻 | なし |
1 | 夫 | 60歳以上または一定障害あり |
2 | 子 | 18歳を迎えた最初の3月31日までまたは一定障害あり |
3 | 父母 | 60歳以上または一定障害あり |
4 | 孫 | 18歳を迎えた最初の3月31日までまたは一定障害あり |
5 | 祖父母 | 60歳以上または一定障害あり |
6 | 兄弟姉妹 | 18歳を迎えた最初の3月31日までまたは一定障害あり |
7 | 夫 | 55歳以上60歳未満 |
8 | 父母 | 55歳以上60歳未満 |
9 | 祖父母 | 55歳以上60歳未満 |
10 | 兄弟姉妹 | 55歳以上60歳未満 |
労災年金について知っておきたい補足事項
労災年金受給者は労基署への定期報告が原則
労災年金を受給している場合には、年に1回、労働基準監督署へ定期報告が必要です。(労働者災害補償保険法施行規則第21条)
ただし、次のように、所轄の労基署長やマイナンバーによる確認ができるなら報告は不要とされています。
所轄労働基準監督署長があらかじめその必要がないと認めて通知したとき又は厚生労働大臣が番号利用法第二十二条第一項の規定により当該報告書と同一の内容を含む特定個人情報の提供を受けることができるときは、この限りでない。
労働者災害補償保険法施行規則第21条
定期報告が必要なときには、定期報告の用紙が送られてくるので、指定された期日までに提出しましょう。
厚生年金との調整で労災年金は減額される
障害厚生年金も受け取っている場合には、労災年金側で金額調整がなされて、障害補償年金が減額となります。
同様に、遺族厚生年金を受けている場合、労災年金側で金額が調整され、遺族補償年金が減額される仕組みです。
これらは同一の傷病・事由に基づいて支払われる金銭補償のため、労災年金に一定の減額が生じます。
いいかえれば、同一の傷病・事由でなければ満額の併給は可能です。たとえば、障害厚生年金(本人の障害に伴う厚生年金)と、遺族補償年金(家族が労災で亡くなったことによる労災年金)は併給できます。これらは同一の事由に基づいていないためです。
重い後遺障害や死亡|労災事故は弁護士に相談
労災保険の補償内容に慰謝料は含まれません
労災から受け取る年金には様々な種類があり、障害等級1級から7級という、重い障害等級認定を受けた方を対象とします。労災保険から受けられる補償は多岐にわたるので、十分な補償額だと感じる方もいるでしょう。
しかし、労災保険の給付額はあくまで労働者がこれまで働いて得てきた収入を元に計算したもので、労災によって被った精神的苦痛については補償外なのです。
労災年金を受けとるほどの重い障害が残った場合、その精神的苦痛を「慰謝料」として請求することも視野に入れるべきでしょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了