労働基準監督署への労災申請のポイント|申請手続きの流れがわかる | アトム法律事務所弁護士法人

労働基準監督署への労災申請のポイント|申請手続きの流れがわかる

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労働基準監督署|労災申請のポイント

労災保険制度とは、労働者が勤務中や通勤中に傷病を負ってしまった際に、必要な保険給付や社会復帰を促進する等の事業を行う制度をいいます。

しかし、実際に労災申請を行う場合は、初めてという時が圧倒的に多いでしょう。
そこで、この記事では、労災申請や労災保険の基本的な知識、労災申請の方法、また労災保険と事業主がどのような関係にあるのか、法律の規定を見ながら解説します。

この記事がお役に立てたら幸いです。

労災申請によって受ける事が出来る給付内容

労災申請によってどのような給付を受けることが出来るかは最大の関心事だと思います。労災により給付される主要な給付内容は以下の通りです。

  1. 療養補償給付
  2. 休業補償給付
  3. 傷病補償年金
  4. 障害補償給付
  5. 介護補償給付
  6. 遺族補償給付
  7. 葬祭給付

についてそれぞれを簡単に解説をします。まずは、どのような給付内容があるのかを確認し、自分がどの給付を受けられそうか確認をして下さい。

労災申請を行う前提として、 業務中の災害である業務災害や 通勤中の災害である通勤災害の要件に該当することが必要になります。具体的な要件については、 以下の関連記事をご覧ください。

労災により治療が必要な場合の給付内容

療養補償給付

療養補償給付では、業務災害や通勤災害によって怪我や病気になった場合に、必要な治療費等の給付がされます。診察費などの治療費だけでは無く、薬代、手術費用、入院中の看護費、入通院のための交通費が挙げられます。

ただし、支給に関しては、どのような治療でも良いというものでは無く、一般的に治療効果があると考えられるものに限られる点に注意が必要です。

療養補償給付の対象について詳しく知りたい方は『労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説』の記事をご覧ください。

労災により仕事ができない場合の給付内容

休業補償給付

休業補償給付とは、業務災害や通勤災害により労働することが出来ず、賃金を得ることが出来ないときに給付されるものになります。

支給額は、労災が発生した日の直前3ヶ月間の賃金の総支給額を日割り計算したもの(以下「給付基礎日額」といいます。)の60パーセントです。
また、休業特別支給金として給付基礎日額の20パーセントも支給されることになり、合計で給付日額の80パーセントが支給される事になります。

休業補償級の計算方法や支給範囲などについて知りたい方は『労災保険の休業補償|給付条件や計算方法を解説!休業損害とは別物?』の記事をご覧ください。

労災により後遺症が残った場合の給付内容

傷病補償年金

傷病補償年金とは、療養開始1年6ヶ月を経過した重篤な傷病に対する給付になります。障害の程度に応じて給付金額が異なります。

  • 第1級 給付基礎日額の313日分
  • 第2級 給付基礎日額の277日分
  • 第3級 給付基礎日額の245日分

となります。

障害補償給付

障害補償給付とは、業務災害や通勤災害により治療を受け、症状固定した状態で、後遺障害が残存した場合に受けることが出来る給付となっております。

障害の程度に応じて、障害年金、障害一時金、障害特別年金、障害特別一時金、障害特別支給金などが支給されます。

障害補償給付が支給されるためには、後遺症の症状が後遺障害に該当する旨の認定を受けなければなりません。
後遺障害の認定を受けるために行うべきことについては『労災による後遺症が後遺障害として認定される方法と給付内容を解説』の記事をご覧ください。

介護補償給付

介護補償給付とは、介護が必要な怪我を負った被災労働者が、実際に介護受けることで生じる介護費用に対して受けることができる給付です。

障害の程度や、常時介護が必要なのかどうかという点から給付される金額が異なります。

介護補償給付の具体的な内容については『労災と介護保険は併用できない?介護補償給付との給付調整も解説』の記事をご覧ください。

労災により死亡した場合の給付内容

遺族補償給付

遺族給付とは、被災労働者が、業務災害や通勤災害によって死亡した場合に、被災労働者の遺族に対して支給されるものになります。

具体的には、遺族年金、遺族特別年金、遺族特別支給金が支払われます。

葬祭給付

葬祭給付とは、被災労働者が業務災害や通勤災害によって死亡した場合に、被災労働者の葬祭を行うものに対して支給される費用です。

労災申請の方法

労災申請の方法について解説をいたします。事業主(会社)と契約している社労士が代行してくれる場合もあるかとは思いますが、ご自身でもしっかりと方法や内容について理解をしておくべきものです。以下の内容は押さえるようにして下さい。

労災申請の流れ

労災事故が発生してから、労災申請を行うまでの流れは以下の通りとなります。

  1. 会社に労災が発生したことを報告する
  2. 労災請求書に会社の証明をもらう
  3. 労働者が労働基準監督署へ労災請求書を提出する
    ※労災指定医療機関において療養補償給付を受ける場合には医療機関に提出
  4. 労働基準監督署が調査する
  5. 労働基準監督署から支給・不支給の決定通知が届く
  6. 厚生労働省より指定口座へ振り込まれる
    ※労災指定医療機関において療養補償給付を受ける場合は病院への支払い

労働基準監督署とは、会社を管轄している労働基準監督署になります。
療養補償給付を受ける場合には、労災指定医療機関において治療を受けたかどうかで手続きの流れが異なることに注意してください。

労災請求用紙への記載

まず、前提として、労災保険給付の請求人は、被災労働者本人となります。
上述しましたが、会社によっては、代行をしてくれることもあるかと思いますが、あくまでも代行にとどまり、請求者自体は被災労働者であるということを理解しなければなりません。

労災請求用紙は、以下の厚生労働省のホームページに一覧があるので、労災請求書の印刷を行うようにしましょう。ご自身が対象となる書式のみ印刷して提出をすれば足ります。
また、用紙は、労働基準監督署でも入手できます。この時、書き方が分からない場合は、空欄にして、労働基準監督署の労災担当に相談を行きましょう。いきなり完璧なものを作成する必要はありません。

給付内容ごとの必要な書類を紹介

それぞれの請求について使用する必要がある書類について解説をします。

(1)療養補償給付

被災労働者が治療を受けた病院が労災指定医療機関に該当するかどうかによって、請求用紙は変わります。

指定医療機関の場合は
業務災害:「療養補償たる療養の給付請求書(様式第5号)」
通勤災害:「療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用(様式第16号の3)」を提出します。

指定医療機関以外の場合は
業務災害:「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」
通勤災害:「療養給付たる療養の費用請求書 通勤災害用(様式第16号の5)」
を提出します。

指定医療機関であれば指定医療機関に、指定医療機関以外の場合は労働基準監督署に提出を行ってください。

(2)休業補償給付

業務災害:「休業補償給付支給請求書 業務災害用(様式第8号)」
通勤災害:「休業給付支給請求書 通勤災害用(様式16号の6)」
を提出します。
この時、主治医に証明をしてもらう必要があります。

(3)傷病補償給付

傷病補償給付については、被災労働者側からの請求は必要ありません。支給要件に該当する場合に、労働基準監督署の署長が職権によって支給されます。

もっとも、労働基準監督署長が支給決定の判断を行うために、傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)の提出が必要です。

(4)障害補償給付

業務災害:障害補償給付支給請求書(様式第10号)
通勤災害:障害給付支給請求書(様式第16号の7)
を提出します。

請求する際は医師の診断が必要になります。
また、必要に応じてレントゲン写真等の資料も必要です。

(5)介護補償給付

介護補償給付支給請求書(様式第16号2の2)
を提出します。

介護費用の金額がわかる領収書を添付してください。

(6)遺族補償給付

遺族補償給付に関しましては、様々な給付内容があり、必要に応じて厚労省のホームページからダウンロードをすることになります。

仮に、遺族補償年金の給付を希望する場合には
業務災害:遺族補償年金請求書(様式第12号)
通勤災害:遺族年金支給請求書(様式第16号の8)
を提出してください。

(7)葬祭給付

業務災害:葬祭料請求書(様式第16号)
通勤災害:葬祭給付請求書(様式第16号の10)
を提出します。

また、被災労働者が死亡したことを明らかにするための除籍謄本や住民票なども必要となります。

より詳細な手続きの流れや方法について知りたい方は『労働災害の手続き・流れと適切な給付をもらうポイント』の記事をご覧ください。

労災申請の際に気を付けるべき点|時効や不服申立て

時効期間が経過しないよう気を付ける

労災保険給付については、給付内容に応じて2年または5年の時効期間が存在します。
そのため、労災が発生してから長期間が経過すると労災申請を行っても給付が認められなくなる恐れがあるので注意してください。

給付内容ごとの時効期間や時効のカウントを開始する時点について詳しく知りたい方は『労災申請の時効期限は2年と5年|期限切れ時の対処法と請求手続き』の記事をご覧ください。

申請の結果に納得がいかないなら不服申立てを行う

労災申請を行っても、希望する給付が認められなかったり、給付は認められるものの希望する内容とは異なったりすることがあります。

このような場合には、不服申立てを行うことが可能です。
具体的には、審査請求や労災申請に対する処分決定を取り消すための訴訟を行うことになります。

不服申立ての具体的な手続きの流れについて知りたい方は『労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる』の記事をご覧ください。

事業主の協力が得られない場合はどうするか

労災の請求用紙には、事業主の証明印が必要となります。この時、残念ながら、押印を拒否する事業主や先延ばしにし中々押印をしてくれない事業者がいます。しかし、このような場合でも労災申請をすることは出来ます。

以下そのような場合の対処法について解説をします。

事業主には協力義務がある

まず、このような事業主による労災隠しや労災手続きに協力しないということは法律上、許されません。

労災保険法施行規則23条では、

1 保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続きを行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことが出来るように協力しなければならない。

2 事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。

と定められています。このような法律の規定からも、事業主には強く協力を求めて良いといえます。

協力してくれない場合の労災申請方法

雇用主に協力を求めても何ら回答が無い、若しくは拒否するような場合でしたら、証明印欄を空欄にして労基署に提出するしかありません。

そもそも、請求用紙の事業主の証明欄は、事業主に労災請求を許可するかどうかの判断をするものではないので、押印がなくても労災申請は可能です。

実際には、被災労働者と事業主との間に雇用関係があることが証明できれば労災申請には何ら問題はありません。
労基署に提出する際には、「事業主の証明印をもらって欲しい」と言われるかもしれませんが、事情を説明してから提出をしましょう。事業主の協力が得られないことによって、労災を受けることが出来ないということはあってはなりません。

労災には会社への損害賠償請求を検討すべきものもある

労基署から労災認定を受けることで一定の補償を受けることができます。

しかし会社に安全配慮義務違反があり、その過失が原因となった労災ならば、会社に対して損害賠償請求ができます。
会社が負う安全配慮義務とは、従業員が危険な目にあわないように、安全面に配慮しなければならないという義務のことです。

損害賠償請求の主な内容は、労災保険の給付では不足する賠償額や慰謝料などが請求の対象になります。とくに、重い後遺障害が残ったケースや労災死亡事故などは損害賠償請求を検討すべきといえるでしょう。

労災認定をおこなうのは労基署ですが、会社への損害賠償請求と労災保険は別です。
つまり、会社への損害賠償請求は労基署が主導するものではなく、ご自身で請求・交渉したり、弁護士などの専門家に依頼をすることになるでしょう。

労災によって重大な後遺障害が残ったり、ご家族が亡くなられてしまい、会社への損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。費用の負担を気にせず弁護士に相談することが可能なため、一度気軽に法律相談の予約をお取りください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了