退職後は労災保険を受給できない?労災保険と退職の関係を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

退職後は労災保険を受給できない?労災保険と退職の関係を解説

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労災保険と退職の関係|退職後は受給できない?

労災保険を受給中に退職した場合、労災保険の受給ができなくなるという不安をお持ちではありませんか?
また、退職してしまうと、労災保険の申請ができなくなるとお考えの方もいらっしゃるかと思います。

結論から申し上げますと、退職によって労災保険の給付が受けられなくなることはありません。

退職により労災保険受給との関係は法律にも明記されているため、本記事で詳しく解説を行います。この記事が参考になれば幸いです。

退職後も労災保険給付を受給できる

労災保険受給中に退職しても、引き続き労災保険の受給は可能です。
また、退職後に労災保険給付の受給も申請できます。

各労災保険受給の要件を満たしていれば会社に在職、退職の有無にかかわらず労災保険を受給することができます。

退職の理由に関係なく労災保険給付を受けられる

労災保険は、労災という会社に関係する事故によるものであるため、会社に在職していることが労災保険受給の条件と考えられる方も多くいらっしゃるかもしれません。

しかし、労働基準法83条1項には、「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。」と規定されております。また、労働者災害補償保険法12条の5第1項には、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。」との規定があります。

このような規定は、労災保険が労働者の生活に関わるものであり、会社との契約関係に縛られるものではないということが前提にあるものです。

そのため、退職したからといって労災保険は打ち切りにならず、退職後に労災保険給付の給付を受けるための申請を行うことも可能です

退職の内容に関しても、労災保険給付には影響を与えません。
そのため、退職の理由が自己都合であるのか会社都合であるのかや、定年退職によるものなのか、解雇や倒産よって強制的に退職となったのかなどということを問わず、労災保険給付を受けることが可能です。

もっとも、退職後に労災保険給付が打ち切られる要件を満たせば、支給を受けることができなくなります。
労災保険の打ち切りに関しては『労災保険が打ち切りになるケースとは?2つの対応策とともに解説』の記事をご覧ください。

退職により労災給付額が減額になることもない

また、退職により労災保険給付の受給額が減額になることはありません。

たとえば、休業(補償)給付等では、給付金額は給付基礎日額の80%(休業補償給付+休業特別支給金)が支給されます。給付基礎日額は、事故が発生した日の直前3ヶ月間に被災労働者に対して支払われた金額の総額をその期間の暦日数で割った、一日当たりの賃金額のことをいいます。

このように、給付基礎日額は事故発生前の給与額を対象にしていることから、事故後に退職するかどうかは受給額に影響を与えないことがわかるでしょう。

労災期間中には解雇制限がある

一方で、労災で休業している場合、会社が労働者を解雇することは制限されます。

労働基準法19条1項は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」と規定しています。

すなわち、業務災害によって休業となった場合には、休業期間中や休業終了後30日間は会社から退職させることができないのです。会社から解雇制限期間に解雇されたなどの場合は、別の法律違反があるといえますので、注意が必要となります。

なお、当然ながら、労働者の側から退職することは自由です。

もっとも、業務災害の場合に関する制度であり、通勤災害によって休業となった場合には適用されません。
ただし、通勤災害の場合であっても解雇を行うためには職場への復帰が困難であるといった合理的な理由が必要になるため、通勤災害によって休業となっただけでは解雇することはできないでしょう。

通勤災害に関する解雇制限について詳しく知りたい方は『通勤災害にあった労働者は解雇になる?解雇の条件や対処方法を紹介』の記事をご覧ください。

退職後に労災保険を申請する方法

つづいて、退職後に労災保険を申請する方法について解説をします。退職後であっても労災保険を受給できますが、いくつか注意点があります。

退職後であっても労災保険の申請はできる

退職後であっても、労災請求書に必要事項を記載し、所轄の労働基準監督署に提出をすることで労災申請することができます。

通常、労災請求書には、事業主の記載や証明が必要な欄があり、協力してもらう必要があります。退職後であると、事業主が協力を拒むことも考えられるでしょう。しかし、事業主に協力を拒まれた場合でも、労災の申請ができないということはありません。

事業主の協力がない場合は、事業主の証明欄を空白にしたまま、事業主の協力が得られない旨を労働基準監督署に説明をすることで受け付けてもらえます。
そのため、退職後であっても労災申請を諦める必要はまったくありません。

請求に必要となる書式は請求内容に応じて異なります。書式は厚生労働省のホームページでダウンロードすることが可能です。
また、労災申請手続きの流れに関して詳しく知りたい方は『労働災害の手続き・流れと適切な給付をもらうポイント』の記事をご覧ください。

もし、労災保険給付を受けられないと勘違いして健康保険を利用してしまっている場合は切り替え手続きが必要です。詳しく知りたい方は『労災に健康保険は使えない!労災への切り替え方法は?切り替えないとどうなる?』の記事をご覧ください。

退職後いつまでに申請?時効には注意しよう

労災保険の申請自体は退職後でも問題なくできますが、請求期間(時効)を徒過してしまうと権利が消滅するため、請求できなくなります。

以下、主な補償給付についての時効期間について記載をしています。

請求内容時効期間
療養(補償)給付療養費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
休業(補償)給付賃金を受けない日ごとに請求権が発し、その翌日から2年
障害(補償)給付傷害が治癒した日の翌日から5年
遺族(補償)給付被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料・葬祭給付被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
介護(補償)給付介護補償の対象となる月の翌月1日から2年

なお、傷病(補償)年金については、被災労働者の申請ではなく労働基準監督署の署長が職権によって支給を行うものであることから、時効の対象になりません。

会社との関係で労災申請できない場合

労災が発生したものの、会社が何ら対応をしてくれないといったことから会社に疑問を感じて退職したという場合、会社が労災に協力してくれないということだけでなく、労災隠しをしていることも考えられます。

労災隠しは違法行為

労災隠しとは、労災が発生したにもかかわらず、労働基準監督署に報告書を提出しないことや虚偽の内容を報告することをいいます。このような労災隠しは違法行為であり、罰金が課せられる可能性があります(労働基準法120条5号、100条1項)。

労災隠しが行われている状況下で労災申請する場合、労働者が積極的に労働基準監督署に説明をすることをおすすめします。

会社に責任がある場合はあわせて損害賠償請求も検討する

会社に労災事故について管理不足などがある場合は、労災保険の申請に加えて、会社に対して損害賠償請求をすることが考えられます。

会社には、労働者が安全に勤務をできるように配慮する安全配慮義務を負っていると解されております。このような安全配慮義務に違反したために労災が発生したのであれば、損害賠償請求ができるでしょう。

安全配慮義務に反しているかどうかは、具体的な勤務現場において検討をしなければなりません。また、裁判になる可能性もあるため、証拠を保存しておく必要もあります。

安全配慮義務違反などで会社に損害賠償請求したいなら

安全配慮義務違反などが認められるような労災事故で、重大な後遺障害が残ったりご家族を亡くされたりして、会社に対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

退職後に転職したら労災保険の給付はどうなるのか

労災を理由として、会社が労働者を解雇することは違法です。
ただし、労災給付を受けているからといって、労働者の自主退職や転職を法的に制限するものはありません。

「転職後は労災保険がストップするのでは?」と不安な方もいるでしょう。ここからは労災中に転職する場合に知っておきたいことを解説します。

労災中に転職しても労災保険を受給できる?

転職後も労災保険から療養補償給付や休業補償給付を受給できます。労災保険の給付は労働者災害補償法にもとづいて国が行うものであり、会社が給付しているわけではないため、転職を理由に労災給付が止まることはありません。

退職した会社に事業主証明欄への記入を頼みにくい場合

労災の療養補償給付や休業補償給付の申請用紙には事業主証明欄があります。事業主証明欄は、労災発生時に勤めていた会社が記入する欄です。

事業主証明欄への記入を依頼しにくい場合には、退職により事業主証明欄が得られないという旨を請求時に添付して労基署へ提出しましょう。

勘違いしやすいのですが、新しく転職した会社に記入してもらっても労災申請には意味を成しません。新しい転職先は、労災とは一切の関係がないためです。

有給休暇日は休業補償給付の対象外

労災保険による休業補償給付は、給与を得ていない場合に請求できるものです。次のような場合には休業補償給付を受けられませんので注意しましょう。

  • 退職前の有給休暇消化日
  • 新しい転職先で有給休暇を取得した日

労災中に退職して転職活動する場合に失業保険はもらえる?

労災保険から休業補償給付を受給している場合、失業保険の給付は受けられない点をおさえておきましょう。

失業保険は「働ける状態である」ことを給付要件の一つにしています。休業補償給付は、ケガの療養のために働けない状態が受給要件とされており、相反する給付となるのです。

労災のことが転職先にばれる?

労働者本人が話さない限り、通常、転職先が知ることはないと推測されます。

ただし、現在も治療を続けているならばその旨を素直に申告しておくほうが、転職先での働き方についても相談しやすいものです。面接でどのように説明するのか、あらかじめ労働者自身で考えておきましょう。

労災保険だけでは十分な補償が得られないケースもある

労災認定を受けることができれば、労災保険から治療費や休業中の補償を一定程度受けられるため、ひと安心できる方は多いでしょう。

しかし、労災給付だけで全ての損害が補てんされるわけではありません。

会社の安全配慮義務に注目しよう

もし会社の安全配慮義務違反が労災事故の原因となった場合は、会社が事故の賠償責任を負います。そのため、労災保険から支払われない慰謝料などは、会社が支払うことになるのです。

安全配慮義務とは、会社が負う義務のひとつで、労働者が安全に仕事に取り組めるように配慮するべきというものです。この安全配慮義務を怠ったときには会社に過失があるとされます。

安全配慮義務違反の有無を判断する基準は2つあります。関連記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

慰謝料などの損害賠償請求は弁護士に相談

労災認定は受けられても、本来請求できるはずの慰謝料などを請求し損ねることは不利益につながります。
会社に対して損害賠償請求を検討している方は、まず弁護士に相談すべきです。

弁護士であれば、損害賠償請求をするべきケースなのか、妥当な金額はいくらなのかといったアドバイスが可能です。正式に契約を結んだときには、弁護士があなたの代わりに交渉の最前線に立ちます。

このように、損害賠償請求に関して弁護士が担う役割は大きいものです。関連記事『労働災害は弁護士に法律相談|無料相談窓口と労災に強い弁護士の探し方』で解説しているとおり、弁護士に相談・依頼するメリットは多数あります。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了