通勤災害にあった労働者は解雇になる?解雇の条件や対処方法を紹介
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通勤災害にあって負傷し、長期の休業が必要になると、そのことを理由に解雇されてしまわないか不安になる人は多いのではないでしょうか。
労働者の解雇は簡単にはできませんが、解雇可能かどうかの判断基準は不明確なため、会社側もよく理解せず不当な解雇を行うことがあります。
そのため、不当な解雇に巻き込まれないためには、解雇の条件や、不当な解雇がなされた場合の対処方法を知っておく必要があるのです。
本記事では、通勤災害にあった労働者が正当に解雇されうるケースや、不当な解雇がなされた場合の対象方法などについて紹介しています。
目次
通勤災害にあった労働者が解雇されるケース
通勤災害により休業した場合の解雇には法律上の制限がない
労働災害には、業務中に発生した事故や事件により負傷したという業務災害と、通勤途中に発生した事故や事件により負傷したという通勤災害があります。
労働基準法19条において、業務災害が原因で休業する場合は、休業期間中や休業終了後30日間は解雇を禁止すると規定していますが、通勤災害の場合にはこのような規定はありません。
そのため、解雇制限が適用されない通勤災害によって休業することとなった労働者に対しては、休業中や休業終了後すぐに解雇することも法律上可能です。
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
労働基準法19条1項
もっとも、通勤災害により休業するようになっただけで常に解雇が可能というわけではありません。
解雇により労働者は職を失い、賃金が得られなくなるという多大な不利益を負う以上、簡単に解雇することはできないのです。
解雇が可能となる条件を解説
解雇が可能となる条件とは、以下のようなものとなります。
- 解雇が可能な合理的理由の存在
- 解雇の方法が社会的に正当なものである
- 事前の解雇予告がある
それぞれの条件について具体的に解説していきます。
解雇が可能な合理的理由の存在
基本的に、解雇が正当なものと判断されるには、解雇することについて客観的かつ合理的な理由が必要となります。
ただ通勤災害により負傷したことで休業することになり、仕事ができなくなったという理由だけでは、客観的かつ合理的な理由には該当しないでしょう。
通勤災害により休業することになった場合に解雇となる、客観的かつ合理的な理由は、主に以下のようなものとなります。
- 就業規則に定められた休業期間を経過しても復職できる状態にならなかった
- 休職期間経過後に、短期間の勤務や負担の軽い仕事を行ったものの復職できる可能性がないと判断された
就業規則には休業期間についての規定がなされており、規定されている休業期間が経過しても医師が復職することは困難と判断しているのであれば、客観的かつ合理的な理由があるといえるでしょう。
また、職場に復帰した場合はすぐに休業前と同様の業務を行うことは困難なため、会社側が勤務時間を短くしたり、負担の軽い仕事を行うよう配慮する必要があります。
このような配慮を適切に行ったにもかかわらず、労働者が仕事に対して結果を出せない場合には、復職の可能性がないために解雇とすることが可能といえるでしょう。
解雇の方法が社会的に正当なものでなければならない
解雇が正当といえるためには、解雇の方法が社会的に相当なものである必要もあります。
具体的には、休職中に復職が可能であるかどうか話し合いを行ったのか、休職以前の仕事が困難である場合には、他に適切な仕事がないのかを検討したのかといった解雇を避けるための手段を可能な限り実行したことが必要です。
事前の解雇予告が必要
仮に、解雇の理由が正当なものであるとしても、労働基準法20条により、労働者の解雇を行う場合には30日以上前に解雇の予告が必要となります。
30日以上前に解雇予告を行わない場合には、不足した日数に応じて労働者に対する賃金の支払いが発生するのです。
そもそも通勤災害に該当するケースとは
労災保険による給付の対象となる業務災害と通勤災害のどちらに該当するのかにより、解雇が可能な条件が異なってきます。
そのため、業務災害なのか通勤災害なのかという点が解雇との関係では重要となるでしょう。
通勤災害と業務災害の違い
通勤災害とは
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます。
具体的な要件は労災保険法7条2項に記載されており、具体的には以下の通りです。
- 住居と就業場所との往復
- 就業場所から他の就業場所への移動
- 単身赴任先と家族の住む住居間の移動
(労働者災害補償保険法施行規則で定められている場合に限る)
上記の移動に該当しつつ、就業に関する移動であり、合理的な経路や方法による移動であることが必要になります。
給付の認定を受けるために具体的な手続きについて知りたい方は、『通勤災害とは?手続き・書類・認定要件と労災がおりない時の対応』の記事をご覧ください。
業務災害とは
業務災害とは、業務上の事由により発生した災害をいいます。
業務災害といえるためには、業務遂行性と業務起因性が必要です。
業務遂行性とは、労働者が労働契約にもとづいた事業主の支配下にある状態をいいます。
会社施設内での休憩時間や、仕事のための外出時間も事業主の支配下内にあるため、業務遂行性が認められるでしょう。
業務起因性とは、業務と労働者に生じた負傷や疾病との間に因果関係が存在することです。
特に、うつ病といった精神的な疾病に関しては業務が原因といえるのかという点が問題になりやすいでしょう。
業務災害について詳しく知りたい方は『業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう』の記事を確認してください。
通勤災害か業務災害かが不明確なケースを説明
通勤災害と業務災害のどちらに該当するのかが不明確なケースについていくつか紹介します。
自宅から得意先に直行した
業務を行うために得意先に向かっていますが、自宅から直行しているため、通勤途中であったといえるので、通勤災害といえます。
途中でコンビニに立ち寄った
通常の通勤経路外を逸脱したとみなされるため、通勤災害とみなされるのかはケースバイケースです。
たとえば仕事帰りに晩御飯を購入するためにコンビニに立ち寄り、また元の通勤経路に戻ってからケガをしたような場合では、通勤災害と認められる可能性があります。
通勤経路での寄り道と通勤災害の関連については、関連記事『寄り道は通勤災害?コンビニや自転車通勤など経路外の具体例と請求内容』で具体例とともに解説していますので、参考にしてみてください。
得意先から会社に帰る途中であった
得意先から会社に帰る途中のため、通勤ではなく、業務を遂行するために移動していたということができます。
そのため、業務災害に該当するでしょう。
出張中であった
出張中の移動は業務を遂行するために必要な行為であるため、業務災害に該当します。
いつもより早く出勤しようとしていた
出勤途中であるものの、合理的な理由なく出勤時間よりも何時間も早く出勤している場合には、合理的な方法による通勤ではないため、通勤災害には該当しません。
ただし、会社からの業務命令によりいつもよりも早期に出勤する必要があった場合には業務上の移動であるとして業務災害に該当します。
解雇された後の労災給付について
通勤災害により負傷すれば、労災保険により様々な給付を受けることができます。
しかし、長期に渡って怪我が治らない場合は、復職できないことを理由に解雇されてしまう恐れがあるでしょう。
労災保険による給付は仕事ができないことに対する損失を補てんするためになされているものでもあるため、解雇されてしまうと給付の対象外になると考える人は多いのではないでしょうか。
本記事では、労災保険による給付を受けている途中に解雇となってしまった場合の、労災保険に関する法律関係を解説しています。
解雇されても労災給付を受けることができる
通勤災害により働くことができず、働けないことを理由として適法に解雇となった後も、労災保険による給付を受けることが可能です。
労災保険法12条の5第1項において、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されています。
また、労働基準法83条1項において、「補償を受ける権利は労働者の退職によって変更されることはない」とも規定されており、労災保険の給付は「補償」に該当するといえるでしょう。
したがって、解雇された後も労災保険の給付を受けることができます。
労災給付の請求書には事業主の証明欄がありますが、会社を退職しており、事業主による証明ができない旨の文章を添付すれば、請求自体に問題はありません。
記載内容については、提出先の労働基準監督署に確認しましょう。
通勤災害における労災保険の給付内容は以下の通りです。
- 療養給付
通勤災害による傷病を療養するために必要な費用の給付 - 休業給付
通勤災害による傷病の療養をするために仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付 - 障害給付
通勤災害による傷病が完治せずに後遺障害が残った場合に給付される一時金や年金 - 遺族給付
通勤災害により労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることができる一時金や年金 - 葬祭給付
通勤災害により死亡した労働者の葬祭を行うために支給される - 傷病給付
通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても完治せず、傷病の内容が傷病等級に該当する場合に給付される年金 - 介護給付
障害年金や傷病給付の受給者であり、症状が重く現に介護を受けている人に対する給付
給付内容ごとに提出すべき書類は、以下のようにまります。
給付の種類 | 必要な書類様式 |
---|---|
療養給付 | 16号の3、または、4 |
休業給付 | 16号の6 |
障害給付 | 16号の7 |
遺族給付 | 年金は16号の8、一時金は16号の9 |
葬祭給付 | 16号の10 |
傷病給付 | 16号の2 |
介護給付 | 16号の2の2 |
※請求書書類は厚生労働省のホームページでダウンロードできます。
時効に注意しよう
労災保険によりさまざまな種類の給付がなされるため、自力で請求手続きを行おうとすると、給付漏れが発生してしまう恐れがあります。
労災保険による給付については、それぞれ個別に時効期間が設けられているので、請求を忘れていることに気が付いた時点では時効期間が経過しており、請求が行えないという危険があるのです。
給付内容ごとの時効期間は以下の通りになります。
給付金の内容 | 時効期間 |
---|---|
療養給付 | 費用の支出ごとに請求権が発生 支出した日の翌日から2年 |
休業給付 | 賃金を受けない日ごとに請求権が発生 請求権が発生した日の翌日から2年 |
遺族年金 一時金 | 労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
葬祭給付 | 労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
傷病給付 | 時効期間無し |
障害給付 | 症状固定と判断された日の翌日から5年 |
介護給付 | 介護を受けた月ごとに請求権が発生 介護を受けた月の翌月の1日から2年 |
傷病給付の支給がなされるかどうかについては、労働基準監督署の署長が職権によって決めるため、傷病給付に関する請求権が労働者に存在するわけではないことから、時効の対象となっていません。
解雇が不当なら弁護士に依頼しよう
解雇が正当であるかどうかの判断は弁護士に依頼すべき
法律上、解雇の要件は不明確な部分があるため、解雇が正当かどうかについては、専門家でなければ正確に判断することが困難なことが多いでしょう。
そのため、解雇が不当であると会社に主張したいのであれば、専門家である弁護士に依頼すべきです。
弁護士に相談する際に、どのような理由で解雇となったのか、解雇までの具体的流れがどのようなものであったのかを説明し、不当な解雇であるかどうかについて判断してもらえます。
依頼することで高額な請求が可能?
解雇が不当であった場合には、不当解雇により解雇とされた日からの賃金が未払いになっていると考えられるので、未払賃金の請求を行うことができます。
解雇が不当である以上、雇用契約が継続し、賃金を請求できる権利が存在していると考えられるためです。
そのため、不当解雇がなされてから解決まで長期間が経過している場合には、高額な未払賃金の請求が認められる可能性があるでしょう。
また、不当解雇となったことで精神的苦痛を受けたとして、慰謝料の請求を行うことが可能な場合があります。
もっとも、認められる慰謝料の金額は多くても50万円から100万円程度であるため、基本的には未払賃金の請求をしっかりと行うことが重要でしょう。
弁護士に依頼していれば裁判になっても安心
不当解雇にもとづく請求については、未払賃金の請求を行うため高額になりやすいといえます。
また、解雇が正当かどうかの判断基準が不明確であることからも、不当解雇であるのかどうかや、請求金額がいくらになるのかという点で争いが起きやすいのです。
そのため、話し合いで決着がつかず、裁判になるということも珍しくないでしょう。
裁判となった場合には、弁護士に依頼していれば、代理人として代わりに手続きを行ってくれます。
裁判手続きを自力で行うことは不可能ではありませんが、制度が非常に複雑です。
そのため、裁判によって正当な請求を行うためには弁護士に依頼することが欠かせないでしょう。
弁護士に依頼する前に行っておくべきこと
会社から解雇の言い渡しを受けたのであれば、解雇通知書の交付を要求しましょう。
解雇通知書には解雇となった日が記載されているので、解雇が不当であるとして未払賃金の請求を行う際の請求額を計算する基準となるためです。
また、解雇理由証明書の交付も要求しましょう。
労働基準法上、労働者が希望した場合には、会社は解雇の理由を記載した証明書を交付する義務があるとされています。
解雇の理由が正当なものであるかどうかの判断のために重要な資料となるでしょう。
上記以外の証拠としては、以下のようなものをなるべく集めてください。
- 診断書
- 就業規則
- 解雇に関する会社とのやり取りのメールや会社から送られてきた書類
- 雇用契約書
上記のものをしっかりと集めたうえで弁護士に依頼すれば、手続きがスムーズに進む可能性が高くなります。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了