兄弟と配偶者で住宅を相続するときに知っておきたいこと
故人が子なしの既婚者で親も他界している場合は、故人の兄弟と配偶者で遺産を相続します。住宅の相続が発生したときは、遺産分割協議や相続登記、相続税の申告などを期限内に完了させる必要があります。円満な相続や手続きをスムーズに進めるためにも、あらかじめ知識を身につけておくと安心です。
この記事では、兄弟と配偶者で住宅を相続するときの基礎知識についてわかりやすく解説します。
『兄弟と配偶者による住宅の相続』に関する基本事項
法定相続分による相続割合【兄弟と配偶者で相続する場合】
相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるのが法定相続分です。
兄弟と配偶者の相続割合は、兄弟が4分の1で配偶者が4分の3です。兄弟が複数人いる場合は、4分の1を人数分で均等に分割します。
法定相続人 | 相続割合 |
---|---|
兄弟1人+配偶者 | 兄弟:1/4 配偶者:3/4 |
兄弟2人+配偶者 | 兄弟:1人あたり1/8 配偶者:3/4 |
兄弟3人+配偶者 | 兄弟:1人あたり1/12 配偶者:3/4 |
被相続人が亡くなって1億2,000万円の相続が発生し、兄弟2人と配偶者が相続人となった場合、兄弟の法定相続分は1,500万円ずつで配偶者の法定相続分は9,000万円となります。
ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。それぞれの相続割合によって相続税の総額が変わることがあるので、税負担も考慮した遺産分割を行う必要があります。
住宅を相続するときの手続きの流れ
住宅を相続する場合は、以下のような流れで手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、住宅やその他の不動産、預貯金など、どのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
4.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
5.相続登記の申請手続きを行う
遺産分割協議が成立したら相続登記の申請手続きを行い、住宅の名義を相続人に変更します。
6.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、相続税額が発生した場合は納税も行います。
相続手続きは時間と手間がかかるため、早めに準備を進めるようにしましょう。
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住宅の相続税評価額を計算する方法
住宅の相続税評価額は敷地と建物に分けて評価額を算出し、合算して算定します。
敷地部分の評価方法
住宅の敷地部分は、路線価方式または倍率方式を用いて算出します。
路線価方式
路線価方式とは、国税庁が毎年公表する道路に面する宅地の1㎡あたりの価額(路線価)に、敷地の面積を乗じて算出する方法です。
敷地の評価額=1㎡あたりの路線価×面積
1㎡あたりの路線価が50万円で土地の面積が100㎡の場合、評価額は5,000万円になります。
倍率方式
倍率方式は、路線価が設定されていない敷地を評価する際に使われる方法です。倍率方式は、敷地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出します。固定資産税評価額は、市区町村が土地ごとに毎年算定しているものです。倍率は、土地の所在地域によって異なります。
敷地の評価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額が2,500万円で倍率が1.1倍の場合、敷地の評価額は2,750万円となります。
建物部分の評価方法
居住用の自宅建物の相続税評価額は、固定資産税評価額に1.0を乗じて算定します。
建物の評価額=固定資産税評価額×1.0
相続税評価額を過大に算出してしまうと、相続税の負担が大きくなります。一方、過少評価した場合は税務調査を受ける可能性が高いので、いずれも注意が必要です。
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相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は遺産のすべてに対して課税されるわけではなく、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生します。また、場合によっては相続税額が発生することもあります。
相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
2人(兄弟1人+配偶者) | 4,200万円 |
3人(兄弟2人+配偶者) | 4,800万円 |
4人(兄弟3人+配偶者) | 5,400万円 |
たとえば、法定相続人が兄弟1人と配偶者の場合は4,200万円、兄弟2人と配偶者の場合は4,800万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
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小規模宅地等の特例で敷地部分の相続税評価額を最大80%減額
小規模宅地等の特例とは、要件を満たす土地の評価額を最大で80%減額できる制度です。そのため、小規模宅地等の特例は、相続税額の大幅な負担減につながります。
住宅を相続する場合は、敷地部分に対して小規模宅地等の特例を適用できます。小規模宅地等の特例の適用要件は、以下のとおりです。
- 被相続人などの居住用地や事業用地であったこと
- 配偶者または要件を満たす親族が相続すること
- 適用できる土地の面積は、居住用地の場合は330㎡(約100坪)に対応する部分まで、事業用地の場合は400㎡(約121坪)に対応する部分まで
- 居住用地の場合、配偶者以外の相続人は相続税の申告期限まで居住すること
被相続人が居住していた住宅の、約100坪の敷地の評価額が5,000万円の場合、小規模宅地等の特例を適用することで減額されて1,000万円になります。
住宅を相続する際には、適用可能かどうかを確認しましょう。
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配偶者控除で配偶者分の相続税負担を軽減
相続人に配偶者が含まれる場合は、配偶者控除(配偶者の税額軽減)が適用できます。
相続税における配偶者控除とは、被相続人の配偶者が取得した財産のうち1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されない制度です。
配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 遺産分割が完了している
- 相続税の申告期限までに相続税の申告書を提出する
たとえば、被相続人の兄弟と配偶者で1億2,000万円の遺産を相続する場合、配偶者の法定相続分は9,000万円ですが、配偶者控除を適用することで配偶者分の相続税は0円になります。
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配偶者の居住権を守る配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人(配偶者)が亡くなった後も、配偶者が自宅に住み続けることができる権利です。配偶者居住権を設定するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 被相続人の死亡当時に配偶者が居住していた家屋である
- 遺産分割や遺贈、死因贈与、家庭裁判所による審判のいずれかにより配偶者居住権を取得している
要件を満たせば配偶者居住権を設定することができますが、第三者に対して居住の権利を主張するためには、登記をしておく必要があります。
相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほかe-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
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住宅の相続登記手続きと費用の相場
住宅などの不動産を相続した場合は相続登記の申請を行い、相続人に名義を変更する必要があります。相続登記の手続きは、民法上では被相続人の死亡日から10年以内が時効とされていましたが、2024年4月からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが義務付けられました。
相続登記の申請手続きに必要な書類
住宅の相続登記をするには、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまでのすべての謄本)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 住宅を相続する相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
- 相続関係説明図(戸籍謄本・除籍謄本の原本の還付を希望しない場合は不要)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合のみ)
相続登記の申請手続きは法務局で行いますが、申請方法は、法務局の窓口または郵送の2通りあります。
相続登記の申請手続きにかかる費用
相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費のほか申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬などがあります。
必要書類の取得費はそれぞれ数百円程度です。相続登記の登録免許税は、住宅の固定資産税評価額に税率(0.4%)を乗じて計算します。たとえば、3,000万円の住宅にかかる登録免許税は12万円です。
司法書士の報酬はさまざまですが、相場は10万円~20万円程度と考えておくとよいでしょう。司法書士に依頼する場合は複数の司法書士から見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。
相続登記は手続きが複雑で費用もかかります。相続人が決まったら、早めに手続きを進めましょう。
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『兄弟と配偶者による住宅の相続』に関するよくある質問
土地・家屋の相続に必要な手続きは?
土地や家屋の相続手続きは、以下の流れで進めます。
1.遺言書の有無を確認する
2.相続人を確認する
3.相続財産の評価額を確認する
4.遺言書がない場合は相続人同士で遺産分割協議を行う
5.相続登記の申請をする
6.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
住宅の相続税評価額はいくら?
住宅の相続税評価額は、敷地と家屋に分けて評価額を算出し、合算して算定します。
・敷地部分:路線価方式または倍率方式で算出
路線価方式:1㎡あたりの路線価×面積
倍率方式:固定資産税評価額×倍率
・家屋部分:固定資産税評価額×1.0
相続後に家を売却したら税金がかかる?
相続後に家を売却する際、売買契約の際に印紙税が必要になるほか、売却益が出た場合には譲渡所得税(所得税と住民税)がかかります。
家はどのように遺産分割する?
家を遺産する分割方法は4通りあります。
・共有名義:相続割合に沿って相続人が共有名義で相続する
・現物分割:現物で分割する
・代償分割:1人が現物で相続し、ほかの相続人に代償金を支払う
・換価分割:不動産を売却し、現金化して分割する
ただし、共有名義で相続すると後々トラブルになりやすいため、注意が必要です。
家の名義変更はいくらかかる?
相続登記にかかる費用には、必要書類の取得費のほか、申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬があります。
・必要書類の取得費:各数百円程度
・登録免許税:固定資産税×0.4%
・司法書士への報酬:10万円~20万円程度
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士