配偶者居住権の相続税評価額は?計算方法や評価明細書の書き方、節税効果

被相続人が亡くなった後も、残された配偶者が自宅に住み続けられるようにする「配偶者居住権」。2020年の民法改正で新たに設けられたこの制度は、相続税の面でも大きな影響を持ちます。
しかし、「配偶者居住権の相続税評価はどうやって計算するの?」「節税になると聞いたけど、本当に得なの?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、配偶者居住権の基本的な仕組みから、相続税評価額の計算式・評価明細書の書き方・節税効果と注意点まで、わかりやすく解説します。
※本記事の情報は2026年時点の税制をもとに作成しています。税法は改正される場合があるため、実際の申告にあたっては税理士などの専門家にご相談ください。
目次
配偶者居住権とは?制度の基本をわかりやすく解説
被相続人の家に配偶者が住み続ける権利
配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が、被相続人が所有していた建物に亡くなるまで、あるいは一定期間、原則として無償で住み続けることができる権利です。
2020年4月1日以降に開始した相続から適用されています。
この制度のポイントは、自宅の「所有権」を子どもなどに渡しながら、配偶者は「住む権利(居住権)」だけを取得できるという点です。
配偶者居住権を取得するための要件
配偶者居住権は、配偶者であれば誰でも自動的に取得というものではありません。次の要件を満たす必要があります。
配偶者居住権の要件
- 人的要件
被相続人の法律上の配偶者であること(内縁の配偶者は対象外) - 建物の要件
- 被相続人の単独所有建物、または被相続人と配偶者の共有建物であること
※被相続人が配偶者以外の者と共有していた建物には、原則として配偶者居住権を設定できない - 相続開始時点で配偶者が居住していた建物であること
- 被相続人の単独所有建物、または被相続人と配偶者の共有建物であること
- 取得方法の要件(以下のいずれかによって取得する)
- 家庭裁判所の審判
- 遺産分割協議による取得
- 遺言による遺贈
- 死因贈与契約
建物が被相続人の単独所有でない場合でも、被相続人が持分を有していれば対象となり得ます。
他方、共有関係等の内容によっては権利設定や登記・利用が困難になることがあるため、個別に確認が必要です。
【補足】配偶者短期居住権との違いは?
「配偶者短期居住権」は、配偶者居住権とは別の権利です。
配偶者短期居住権は、被相続人の死亡後、遺産分割が終わるまでなど一定期間において、配偶者が被相続人の家に住み続けられる権利のことです。
| 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 | |
|---|---|---|
| 成立の要件 | 遺産分割や遺言、審判等による取得 | 相続開始と同時に自動的に発生 |
| 存続期間 | 終身または合意で定めた期間 | 原則として一定の短期間 |
| 相続税評価 | 財産として評価・課税あり | 原則として課税なし |
| 第三者への対抗 | 登記すれば可能 | 対抗力なし |
| 目的 | 長期的な居住保障 | 短期的な居住保護 |
例えば夫が亡くなり妻と子が残されたケースで、遺言によって「自宅は子に譲る」とされていたとします。
この場合、夫の死後間もない段階で、妻は子から「家は自分のものになったので出ていってください」などと言われてしまう可能性があり、妻は準備期間もないままに居住場所を失ってしまいます。
こうしたことを防ぐため、相続開始から最低でも6か月間は配偶者が自宅に住めるようにするものが、配偶者短期居住権です。
配偶者居住権はより長期的に配偶者が被相続人の自宅に住めるようにするもの、配偶者短期居住権は配偶者が突然居住場所を失うことのないよう一時的に居住権を与えるものと考えるとわかりやすいでしょう。
配偶者居住権は相続税の対象!評価額はいくら?
配偶者居住権の評価額は、建物部分と土地部分で別々に計算します。
それぞれについて見ていきましょう。
※分譲マンションなどの「居住用区分所有財産」に該当する場合は、配偶者居住権の評価の基礎となる土地・建物の相続税評価額について、区分所有補正率による調整が必要になることがあります。
建物部分の配偶者居住権の評価計算式
建物部分の配偶者居住権は、建物全体の相続税評価額から、建物所有権の評価額を差し引いたものです。
配偶者居住権の評価額(建物部分)
建物の相続税評価額−建物所有権の評価額
建物所有権の評価額は以下のように計算する。
建物の相続税評価額×{(建物の残存耐用年数−配偶者居住権の存続年数)÷建物の残存耐用年数}×配偶者居住権の存続年数に応じた法定利率による複利現価率
計算式に用いられる用語の解説は以下の通りです。
- 建物の固定資産税評価額
市区町村が固定資産税のために評価した金額。固定資産税評価証明書などで確認。 - 建物の残存耐用年数
建物の法定耐用年数の1.5倍−経過年数
法定耐用年数は国税庁の「主な減価償却資産の耐用年数表」や、「配偶者居住権等の評価明細書」の裏面から確認。 - 配偶者居住権の存続年数
配偶者居住権を「配偶者が亡くなるまで」にしている場合は、評価時点での平均余命までの年数。厚生労働省の完全生命表や、「配偶者居住権等の評価明細書」の裏面から確認。
一定の期間を定めることもできる。 - 法定利率による複利現価率
将来の価値を現在価値に割り引くための係数。国税庁の複利表や、「配偶者居住権等の評価明細書」の裏面から確認。
なお、建物の残存耐用年数よりも配偶者居住権の存続年数のほうが長い場合、「建物の残存耐用年数−配偶者居住権の存続年数」は「0」として計算します。
その結果、建物の所有権の価値は0円となり、建物の相続税評価額の全額が配偶者居住権の評価額となります。
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土地部分の評価計算式
土地の配偶者居住権は、土地の評価額から土地所有権の評価額を差し引いたものとなります。
配偶者居住権の評価額(土地部分)
土地の相続税評価額−土地所有権の評価額
土地所有権の評価額は以下のように計算する。
土地の相続税評価額×配偶者居住権の存続年数に応じた法定利率による複利現価率
土地の評価額は、路線価方式または倍率方式で計算した通常の相続税評価額を使います。
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計算例で確認してみよう
以下の条件で計算してみます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物の固定資産税評価額 | 1,000万円 |
| 土地の相続税評価額 | 3,000万円 |
| 建物の構造 | 木造 法定耐用年数22年、耐用年数の1.5倍=33年 |
| 建築後経過年数 | 20年 |
| 配偶者居住権の存続年数 | 10年 |
建物部分の配偶者居住権
建物部分の配偶者居住権は、建物の相続税評価額から建物の所有権の相続税評価額を引いたものです。
建物の所有権の相続税評価額は、「建物の相続税評価額×{(建物の残存耐用年数−配偶者居住権の存続年数)÷建物の残存耐用年数}×配偶者居住権の存続年数に応じた法定利率による複利現価率」で計算されます。
- 建物の相続税評価額:1,000万円
- 建物の残存耐用年数:33年−20年=13年
- 配偶者居住権の存続年数:10年
- 複利現価率:0.744
この場合、建物の所有権の計算は以下の通りです。
建物の所有権=1,000万円×(13年−10年)÷13年×0.744=約171万7,000円
配偶者居住権は建物の相続税評価額から所有権の評価額を引いたものなので、「1,000万円−約171万7,000円=828万3,000円」となる。
土地部分の配偶者居住権(敷地利用権)
土地の配偶者居住権(敷地利用権)の相続税評価額は、土地の相続税評価額から土地の所有権の相続税評価額を引いたものです。
土地の所有権の相続税評価額は「土地の相続税評価額×配偶者居住権の存続年数に応じた法定利率による複利現価率」で計算されます。
- 土地の相続税評価額:3,000万円
- 法定利率:0.744
この場合、土地の所有権の相続税評価額は以下の通りです。
3,000万円×0.744=2,232万円
よって、土地の配偶者居住権の相続税評価額は、「3,000万円−2,232万円=768万円」となります。
※この計算例は制度の仕組みを理解するための概算例です。実際の申告では「配偶者居住権等の評価明細書」の算式・記載要領に完全に従って計算してください。
配偶者居住権が相続税の対象外になるケース
消滅した配偶者居住権は相続税の対象外
配偶者居住権が以下の理由で消滅した場合、所有者が完全な所有権を取得します。
- 配偶者が亡くなったとき
- 存続期間を定めており、その期間が満了したとき
つまり、居住権も所有者のものになるということです。しかし、これによって居住権に相続税がかかることはありません。
【注意】配偶者居住権を途中で解除・放棄すると税金がかかることがある
配偶者の死亡や存続期間の満了以外の理由で、配偶者居住権を途中で解除・放棄した場合は、贈与税や所得税がかかることがあります。
| ケース | 課税関係 |
|---|---|
| 合意解除・放棄(無償) | 所有者への贈与税が課される |
| 合意解除・放棄(有償) | 配偶者に所得税が発生する可能性がある |
無償で配偶者居住権を放棄した場合、配偶者居住権の価値が所有者に移転するとみなされ、贈与税が課されます。
一方、途中で配偶者居住権を放棄する代わりに、配偶者が所有者から一定の対価を受け取った場合、受け取った対価は配偶者の譲渡所得として、所得税の対象になることがあります。
配偶者居住権のメリット・節税効果
二次相続対策になりえる
配偶者居住権には、二次対策になりえるというメリットがあります。
二次相続とは、例えば夫が亡くなり相続(一次相続)が発生した後、妻が亡くなり再度相続(二次相続)が発生することです。
一次相続の際、妻が住み続けられるよう自宅を相続すると、自宅に対する相続税は妻にかかります。この際、妻は「配偶者の税額軽減」という節税効果の大きい特例が使えるため、実質的には相続税がかからず済むこともあるでしょう。
しかしその後、妻が亡くなると、自宅は再び相続財産として子などに渡り、相続税の対象になります。二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、さらに以下の理由からもともと相続税の負担が重くなりがちです。
- 一次相続よりも相続人が減るため基礎控除が少なくなる
- 妻の財産に加え、妻が一次相続で受け取った財産も相続されるため、相続税が膨らみやすい
自宅も二次相続の課税対象となると、より税負担が重くなるでしょう。
しかし、配偶者居住権を設定したうえで一次相続の時点で子が自宅を相続しておけば、妻は引き続き自宅に住み続けられ、なおかつ二次相続時の相続財産を減らすことにつながるのです。
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配偶者の生活基盤が安定する
配偶者居住権を設定しておけば、遺言や相続によって自宅が子に渡っても、家を追い出される心配がありません。
また、配偶者居住権を設定することで、配偶者が自宅以外の財産も受け取りやすくなる可能性があります。
例えば相続財産が5,000万円(うち自宅の評価額は2,000万円)で、相続人は配偶者と子だったとしましょう。
法定相続分通りに財産を分けるなら、配偶者の取り分は半分の2,500万円です。
自宅に住み続けるため自宅をそのまま相続すると、それだけで2,000万円分取得したことになるため、預貯金や株式などその他の財産は500万円分しか受け取れません。
「住む家はあるけれど、生活資金が足りない」という状況になる場合もあるでしょう。
しかし、配偶者居住権を設定し、その相続税評価額が1,500万円だったなら、配偶者は残りの1,000万円分を預貯金などで受け取れます。
住む家と生活資金の両方を確保し、生活基盤を安定させられるのです。
配偶者居住権のデメリット・注意点
自宅の売却や修繕がしにくい
配偶者居住権が設定された自宅は、配偶者と所有者(子など)の両方が合意しなければ売却できません。
「老後に施設に入居することになり自宅を売って費用に充てたい」という場合でも、所有者の同意が必要です。
さらに、配偶者居住権を持つ配偶者が増改築や大規模な改修をしたいと思っても、所有者の承諾が必要になり、自分が住む家なのに自由にできないという不満が生じることもあります。
配偶者居住権の期間が長いほど、相続税評価額が上がる
配偶者居住権の相続税評価額は、存続期間が長いほど上がる仕組みです。
特に建物における配偶者居住権の相続税評価額は、建物の残存耐用年数より配偶者居住権の存続年数のほうが長い場合、建物の相続税評価額と同じになります。
よって、先に挙げた「配偶者居住権を設定することで、預貯金などほかの財産を受け取りやすくなり、生活基盤が安定する」というメリットが少なくなるでしょう。
配偶者居住権を設定すべきか?判断のポイント
配偶者居住権が有効に機能するかどうかは、家族の状況・財産構成・相続税の金額によって大きく異なります。
例えば以下の場合は、配偶者居住権を設定するメリットが大きい可能性があります。
- 自宅が相続財産の大部分を占めており、配偶者が住み続けたい
- 配偶者の年齢が高く、存続年数が短い(居住権の評価額が下がりやすい)
- 子どもが複数おり、自宅と金融資産を公平に分けたい
- 二次相続の節税を意識している
一方で、以下の場合は配偶者居住権の設定について、より慎重に検討することがお勧めです。
- 将来的に自宅を売却する可能性が高い
- 配偶者が若く、存続年数が長い
- 自宅以外にも財産が十分にある
配偶者居住権等の評価明細書の書き方
相続税申告では、配偶者居住権の評価額を「配偶者居住権等の評価明細書」(国税庁様式)に記載して申告書に添付します。
評価明細書には、以下のような内容を記載します。
| 記載項目 | 備考 |
|---|---|
| 建物の耐用年数 | 裏面に構造別の耐用年数の記載がある |
| 建築後の経過年数 | 建築年月日から配偶者居住権が設定された日まで |
| 建物の利用状況 | 床面積 |
| 配偶者居住権の存続年数等 | 存続期間が終身の場合、裏面の平均余命を確認 |
| 建物・土地の相続税評価額 | 持分が設定されている場合は持分にあたる部分の評価額を記載 |
その下には配偶者居住権の評価額の穴埋め計算式などがあるため、上記の記載内容を参考に埋めていきます。
記入の際には、以下の点に注意しましょう。
- 固定資産税評価額は「評価額」を使用し、「課税標準額(減額後)」は使わない
- 法定耐用年数は税法上の耐用年数の1.5倍を使う(裏面記載のものは1.5倍したあとのもの)
- 建築後の経過年数や配偶者居住権の存続年数に端数がある場合、端数が6か月以上であれば1年とし、6か月未満であれば切り捨てる
- 相続税申告が必要な場合は評価明細書の添付が必要。評価明細書を添付するだけで相続税申告自体が不要になるわけではない点に注意
まとめ|配偶者居住権の設定は慎重に判断
配偶者居住権は、配偶者が自宅に住み続けながら、子どもなどに所有権を引き継げる制度です。一次相続で配偶者の生活基盤を守りつつ、二次相続の相続税対策につながる可能性もあります。特に、自宅の割合が大きい家庭や、二次相続の税負担を抑えたいケースでは有効に機能することがあるでしょう。
一方で、配偶者居住権が設定された不動産は売却や修繕に制約が生じやすく、所有者との関係性によってはトラブルの原因になることもあります。また、配偶者の年齢や財産構成によっては、期待したほどの節税効果が得られない場合もあります。
そのため、配偶者居住権は「節税になるから」と安易に利用するのではなく、家族関係や将来の住み替え予定、二次相続まで見据えたうえで慎重に判断することが重要です。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士
