配偶者と親で貸駐車場を相続するときに知っておきたいこと
亡くなった夫との間に子供がいない場合は、妻と親で遺産を相続します。相続が発生すると、遺産分割協議や相続登記、相続税の申告などを期限内に完了させなければなりません。このとき、事前に知識を身につけておくことで、スムーズな手続きや円満な相続につながるでしょう。
本記事では、配偶者と親で貸駐車場を相続するときの基礎知識をわかりやすく解説します。
『配偶者と親による貸駐車場の相続』に関する基本事項
法定相続分による相続割合【配偶者と親で相続する場合】
相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるのが法定相続分です。
配偶者と親の相続割合は、配偶者が3分の2で親が3分の1です。なお、父母ともに健在の場合は6分の1ずつで分割します。
法定相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者+父または母 | 配偶者:2/3 父または母:1/3 |
配偶者+父母 | 配偶者:2/3 父母:1人あたり1/6 |
被相続人が亡くなって1億5,000万円の相続が発生し、配偶者と父母が相続人となった場合、配偶者の法定相続分は1億円、父母の法定相続分は2,500万円ずつとなります。
ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。それぞれの相続割合によって相続税の総額が変わることがあるので、税負担も考慮した遺産分割を行う必要があります。
貸駐車場を相続するときの手続きの流れ
貸駐車場を相続する場合は、以下のような流れで手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは、被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき、相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、貸駐車場やその他の不動産、預貯金など、どのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
4.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
5.相続登記の申請手続きを行う
遺産分割協議が成立したら相続登記の申請手続きを行い、貸駐車場の名義を相続人に変更します。
6.準確定申告を行う
貸駐車場を運営していて収益が発生している場合は、準確定申告を行う必要があります。
準確定申告とは、被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得に関する確定申告のことです。準確定申告の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内となります。
準確定申告では、賃料収入や経費などを申告し、相続税の課税対象となる所得を算定します。
7.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、必要に応じて納税も行います。
相続手続きには時間と手間がかかるため、早めに準備を進めるようにしましょう。
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貸駐車場の相続税評価額を計算する方法
貸駐車場の相続税評価額は、自用地で運営している場合と駐車場運営会社に土地を貸付けている場合とで計算方法が異なります。
自用地の場合
自身が所有する土地で貸駐車場を運営している場合は、「自用地」の扱いとなり、路線価方式または倍率方式のいずれかで算出します。
路線価方式
路線価方式とは、国税庁が毎年公表する、道路に面する土地の1㎡あたりの価額(路線価)に、土地の面積を乗じて算出する方法です。
駐車場の評価額=1㎡あたりの路線価×面積
1㎡あたりの路線価が50万円で土地の面積が300㎡の場合、評価額は1億5,000万円となります。
倍率方式
倍率方式は、路線価が設定されていない土地を評価する際に使われる方法です。倍率方式では、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出します。固定資産税評価額とは、市区町村が土地ごとに毎年算定しているものです。
駐車場の評価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額が2,500万円で倍率が1.2倍の場合、評価額は3,000万円となります。
駐車場運営会社に土地を貸している場合
所有する土地を駐車場運営会社に貸している場合は、「土地の賃貸借」として扱います。この場合、自用地としての評価額から一定金額を差し引いて評価額を算出します。
駐車場の評価額 =自用地の相続税評価額-(自用地の相続税評価額×契約の残存期間に応じる割合×0.5)
なお、残存期間に応じる割合は、以下のように期間によって異なります。
5年以下:5%
5年以上10年以下:10%
10年以上15年以下:15%
15年以上:20%
貸駐車場の相続税の算定は非常に複雑なため、税理士に相談することをおすすめします。
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相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は遺産のすべてに対して課税されるわけではなく、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生します。また、場合によっては相続税額が発生することもあります。
相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
2人(配偶者+父または母) | 4,200万円 |
3人(配偶者+父母) | 4,800万円 |
たとえば、法定相続人が配偶者と母の場合は4,200万円、配偶者と父母の場合は4,800万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
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小規模宅地等の特例で貸駐車場の相続税評価額を50%減額
小規模宅地等の特例とは、要件を満たす土地の評価額を最大で80%減額できる制度です。そのため、小規模宅地等の特例は、相続税額の大幅な負担減につながります。
貸駐車場の場合は50%の減額が可能です。小規模宅地等の特例の適用要件は、以下のとおりです。
- 被相続人などが所有する事業用地であったこと
- 配偶者または要件を満たす親族が相続すること
- 適用できる土地の面積は200㎡に対応する部分まで
- 相続税の申告期限まで事業を営むこと
- 貸駐車場はアスファルト舗装など構築物の敷地となっていること(ただし、青空駐車場は適用の対象外)
貸駐車場の評価額が5,000万円の場合、小規模宅地等の特例を適用することで、200㎡までの部分は2,500万円に減額できます。
貸駐車場を相続する際には、適用可能かどうかを確認しましょう。
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配偶者控除で配偶者分の相続税負担を軽減
相続人に配偶者が含まれる場合は、配偶者控除(配偶者の税額軽減)が適用できます。
相続税における配偶者控除とは、被相続人の配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されない制度です。
配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 遺産分割が完了している
- 相続税の申告期限までに相続税の申告書を提出する
たとえば、被相続人の配偶者と父母で1億5,000万円の遺産を相続する場合、配偶者の法定相続分は1億円ですが、配偶者控除を適用することで、配偶者分の相続税は0円になります。
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相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は、税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほか、e-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は、自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
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貸駐車場の相続登記手続きと費用の相場
貸駐車場などの不動産を相続した場合は相続登記の申請を行い、相続人に名義を変更する必要があります。相続登記の手続きは、民法上では被相続人の死亡日から10年以内が時効とされていましたが、2024年4月からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが義務付けられました。
相続登記の申請手続きに必要な書類
貸駐車場の相続登記をするには、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまでのすべての謄本)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 駐車場を相続する相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
- 相続関係説明図(戸籍謄本・除籍謄本の原本の還付を希望しない場合は不要)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合のみ)
相続登記の申請手続きは法務局で行いますが、申請方法は、法務局の窓口または郵送の2通りあります。
相続登記の申請手続きにかかる費用
相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費のほか、申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬などがあります。
必要書類の取得費は、それぞれ数百円程度です。相続登記の登録免許税は、貸駐車場の固定資産税評価額に税率(0.4%)を乗じて計算します。たとえば、6,000万円の貸駐車場にかかる登録免許税は24万円です。
司法書士の報酬はさまざまですが、相場は10万円~20万円程度と考えておくとよいでしょう。司法書士に依頼する場合は、複数の司法書士から見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。
相続登記は手続きが複雑で、費用もかかります。相続人が決まったら、早めに手続きを進めましょう。
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税務調査の対象になりやすいケース
税務調査とは、税務署が納税者の申告内容を調査し、正確な申告が行われているかどうかを調査するためのものです。税務調査は、納税者全員に行われる可能性がありますが、特に、以下の場合は税務調査の対象になりやすいと考えられます。
- 相続税の申告額が大きい場合
- 相続税の申告内容に不審な点がある場合
- 過去に悪質な申告漏れや申告内容に誤りがある場合
税務調査の対象となった場合、税務署から申告内容について説明を求められることがあります。また、申告内容に不備や誤りがあると、修正申告を促される場合もあります。
税務調査のリスクを避けるためにも、申告書の記載内容や添付書類を誤りなく作成することが重要です。税理士に相談して、申告書の作成や税務調査対策を依頼することも検討しましょう。
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『配偶者と親による貸駐車場の相続』に関するよくある質問
貸駐車場の相続税評価額はいくら?
貸駐車場の相続税評価額は、自用地と土地を貸付けている場合と算定方法は異なります。
・自用地の場合:路線価方式または倍率方式で算定
路線価方式:1㎡あたりの路線価×面積
倍率方式:固定資産税評価額×倍率
・貸付地の場合:自用地の相続税評価額-(自用地の相続税評価額×契約の残存期間に応じる割合×0.5)
残存期間に応じる割合は、以下のように期間によって異なります。
5年以下:5%、5年以上10年以下:10%、10年以上15年以下:15%、15年以上:20%
貸駐車場の相続にも小規模宅地等の特例は使える?
適用できます。貸駐車場の場合、要件を満たすことで200㎡に対応する部分までは50%減額されます。
貸駐車場を相続したら固定資産税がかかる?
貸駐車場を相続した場合は、固定資産税の課税対象となります。固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に対して課される税金です。
貸駐車場を相続したら登記は必要?
貸駐車場を相続した場合は、相続登記が必要です。相続登記をしないと、駐車場の所有権が相続人に移転せず、売却することもできません。なお、相続登記の期限は2024年3月までは被相続人が亡くなってから10年以内が時効とされていますが、4月以降は義務化され、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行う必要があります。
相続後に貸駐車場を売却したら税金がかかる?
相続後に貸駐車場を売却する場合、売買契約の際に印紙税が必要になるほか、売却益が出た場合には譲渡所得税(所得税と住民税)がかかります。
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士