自営業者との離婚で財産分与や養育費はどうなる?年金分割も解説!
- 自営業者との離婚で財産分与はどうなる?
- 自営業者から養育費はどのくらいもらえる?
- 自営業者との離婚でその他注意すべき点は?
自営業者と離婚する場合、財産分与や養育費はどうなるのか、他に何を請求できるかご存知ですか?
特に、夫婦で自営業を営んできた場合は、これまで貢献してきた分、相手にきちんと請求していくことが大切です。
この記事では、自営業者と離婚する場合の財産分与のルール、婚姻費用や養育費の決め方、年金分割、慰謝料、親権など、知っておくべき離婚の知識について解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
自営業者との離婚で財産分与はどうなる?
自営業者の財産分与とは?
財産分与とは、結婚中に、夫婦で協力して築いた財産(夫婦共有財産)を、離婚する時に分け合う制度のことです。
財産分与 | |
---|---|
夫婦で協力して築いた財産 | 〇 |
独身時代の財産 | ✕ |
相続で取得した財産* | ✕ |
* 原則として、一方配偶者が相続で取得した財産は、夫婦の協力なしに得た財産といえるため、夫婦の共有財産には当たらない。
ただし、相続した事業を夫婦で共同経営していたなどの事情がある場合、夫婦の共有財産として、財産分与の対象になる可能性がある。
財産分与の対象になる財産は、たとえば、預貯金、持ち家、自家用車、家財などの動産、株券、退職金、保険の解約返戻金、ゴルフ会員権などがあげられるでしょう。
財産分与のくわしい内容については『離婚時の財産分与がわかる!対象・手続き・割合を徹底解説』の記事をご覧ください。
ここでは、自営業者との離婚で問題になりやすい、事業用財産の財産分与について説明していきましょう。
法人名義の財産は財産分与できないのが原則!
配偶者や夫婦で営んでいる事業を法人化している場合、法人名義の財産は、原則として財産分与の対象にはなりません。
というのも、財産分与の対象財産は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた夫婦共有財産です。
法人と夫婦は別々の人格であり、法人名義の財産は、夫婦共有財産とはいえないため、財産分与の対象外となるのです。
会社の株式は共有財産!財産分与できる
会社の株式は、法人名義の財産ではなく、株券の持ち主名義の財産になります。
そのため、夫婦で会社の株式を取得している場合、それは夫婦の共有財産となり、財産分与の対象になります。
なお、株式の評価方法について、市場価格のある株式の場合は、口頭弁論終結時又は裁判時の時価が基準になります。
取引相場のない株式の場合は、相続税の計算に用いられる考え方が参考にされます。詳しくは、国税庁ホームページ「財産評価基本通達」179をご参照ください。
簡易な評価方法として、以下のような計算式で算出する場合もあります。
- (総資産-負債) ÷ 発行済み株式総数
=1株あたりの価額
法人名義の財産を財産分与できる例外は?
法人名義の財産であっても、例外的に財産分与の対象となる場合があります。
法人名義の財産が分与対象財産となる場合の主なポイントは2つです。
分与対象となる場合
- ①事業の規模や従業員数が、個人事業主と同視できるほど小規模であること
- ②事業用資産と夫婦の財産が明確に区別されていないこと
上記①②の両方を必ず満たす必要があるわけではありません。
いずれかしか満たさないとしても、例えば、夫婦が協力して築いた資産を用いて会社を設立した場合や、夫婦が共同で会社経営に従事していた場合などは、法人名義の財産が財産分与の対象となる可能性があります。
個人名義の事業用財産
たとえば、自営業者の場合、個人名義の預貯金口座を事業用として利用している場合も少なくありません。
事業用として利用されている自営業者の個人名義の口座も、上記と同様の判断基準に従い、財産分与の対象となる可能性があります。
すなわち、個人事業の規模が小さく、事業用の口座を家計用としても利用している場合は、自営業者が事業用として使っている個人口座が財産分与の対象となり得ます。
自営業者の借金は財産分与の対象になる?
自営業者と離婚する場合、事業のためにした借金も財産分与の対象となる場合があります。
自営業者の事業によってプラスの財産が築かれた場合、その事業のためにした借金は財産分与をするうえで、考慮され得るのです。
具体例を見てみましょう。
【具体例】
夫が不動産業を1人で営んでいたとします。
夫は、婚姻中、夫名義の2,000万円の預貯金、夫名義の6,000万円の不動産を取得し、現在、所有しています。
また、夫は不動産業を経営するために、夫名義で2,000万円の借金をしていました。
なお、夫名義の預貯金口座は、事業用と家計用に明確に区別されず利用されていました。
この具体例で、妻が、自営業の夫に離婚を求め、財産分与が問題になったとします。
本件では、事業規模が小さく、預貯金口座が事業用と家計用に明確に区別されていないことから、不動産業に関する財産も夫個人の財産として、財産分与の対象になる可能性が高いと考えられます。
そうすると、事業のためにした借金2,000万円も財産分与の際、考慮することになります。
分与割合を2分の1と考えると、妻への財産分与は、(2,000万円+6,000万円-2,000万円)÷2=3,000万円となります。
自営業者との離婚で財産分与の分与割合は1/2?
実務上、財産分与の分与割合は、原則として平等に折半するものとされています。
この考え方は、「2分の1ルール」と呼ばれることもあります。
自営業者と離婚する場合の財産分与にも、原則として2分の1ルールが適用されます。
すなわち、「相手が自営業者で一方が専業主婦(専業主夫)の場合」「夫婦で自営業を営んでいる場合」「相手が自営業者で一方が働きに出ている場合」のいずれの場合であっても、夫婦共有財産の形成に対する貢献度は、原則として平等と考えられています。
1/2ルールの例外もある?
ただし、夫婦の一方の特殊な技術や資格などによって多大な財産を築いた場合や、夫婦の協力の程度などを総合的に考慮して、2分の1ルールが修正される場合があります。
たとえば、個人クリニックを開業している医師の夫と離婚する場合などは、2分の1ルールが修正される可能性があるでしょう。
医師の夫6:妻4の割合で財産分与が決まった裁判もあります(大阪高判平成26・3・13)。
自営業者との離婚で婚姻費用・養育費はどうなる?
婚姻費用・養育費の計算方法
離婚する場合、事前に必ず計算しておきたいのが婚姻費用と養育費の金額です。
婚姻費用とは、婚姻関係中にかかる生活費のことです。別居した場合、相手方に対し請求できる可能性があります。
養育費は、離婚後に子どもを監護する親が、監護していない親に対し請求できるお金です。
内容 | |
---|---|
婚姻費用 | 婚姻している夫婦の生活費。子どもの生活費・教育費を含む |
養育費 | 離婚後の子どもの生活費・教育費 |
婚姻費用や養育費は、夫婦のそれぞれの年収、子どもの有無・人数・年齢によって、金額の相場があります。
婚姻費用や養育費の決め方は、夫婦の協議によるか、裁判所の手続きを利用する(調停・審判)といった方法が考えられます。
婚姻費用・養育費ともに、裁判所が作成した算定表をもとに計算される方法が実務上定着しています。
権利者(お金を請求する側)と義務者(お金を支払う側)の年収を算定表にあてはめると、婚姻費用・養育費のおおよその金額が分かります。
より簡単に婚姻費用・養育費の金額を知りたい方は、アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機をぜひご活用ください。
自営業者の収入算定方法
婚姻費用・養育費を計算するには、夫婦双方の年収を求める必要があります。年収の求め方は、自営業者か給与所得者かで異なります。
自営業者は、会社員よりも基礎収入が多いため、養育費の金額は自営業者の方が多くなると言われています。
自営業者でもあり給与所得でもある方もいるので、以下では、それぞれの年収の算定方法を解説していきます。
まず、自営業者の年収の算定方法からです。
自営業者の年収は、確定申告書の「課税される所得金額」に以下の3項目の金額を加算して求めます。
実際には支出していない費用
- 青色申告特別控除
- 雑損控除
- 寡婦、ひとり親控除
- 勤労学生、障害者控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
- 専従者給与(実際に支払われていない場合は加算する)
特別経費として既に考慮済みの所得控除
- 医療費控除
- 生命保険料控除
- 損害保険料控除
養育費等よりも優先順位が低い所得控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 寄附金控除
自営業者の年収は「課税される所得金額」をそのまま用いるのではなく、現実には支出されていない費用や、特別経費としてすでに考慮されているもの、婚姻費用・養育費よりも優先順位が低いものを加算して求めます。
給与所得がある場合の収入算定方法
給与所得者の年収は、直近の源泉徴収票の「支払金額」または、県民税等の課税証明書の「給与収入」に記載されている金額です。
自営業者の年収を認定する際の注意点
自営業者と離婚する場合、注意したいのが相手方の年収が正確かどうかです。
というのも、過度な節税対策をおこなうなどして、自営業者の場合、課税される所得金額を実際の年収よりも低く申告している可能性があるからです。
離婚調停などで、相手方が確定申告書を提出してきた場合、その金額に少しでも違和感を覚えた場合、事業経費に関わる他の資料の提出を求め、相手方が主張する年収が本当に正しいかどうか十分検討する必要があります。
相手方が算定表以上の収入を得ている場合
婚姻費用・養育費の計算に用いられる算定表では、義務者の年収に上限がもうけられています。
自営業者の場合、算定表で計算できる年収の上限は1,567万円です。
会社経営者などの場合、上限より高額の年収となるケースも少なくないでしょう。
その場合、婚姻費用・養育費をどのように求めればよいのでしょうか。
婚姻費用については、いくつかの考え方がありますが、義務者の年収が上限を500万円ほど超える程度であれば、年収は1,567万円であると考えて計算する方法が一般的です。
他方、養育費については、義務者の年収は上限である1,567万円であると考えて計算します。
これらの考え方は、あくまで一般論です。
個別の事情によっては、上限で頭打ちとせず、算定表以上の婚姻費用・養育費を請求できる可能性があります。
具体的な金額が気になる方は、ぜひ一度弁護士に相談することをおすすめします。
関連記事
・高額所得者の婚姻費用・養育費は?算定表を超える場合の考え方
自営業者との離婚で気になるその他の条件
自営業者は年金分割できない?
年金分割は、離婚した場合、婚姻期間中に納付した厚生年金の保険料の納付記録を分割する制度です。
分割の対象となるのは、厚生年金のみです。
そのため、相手が自営業で国民年金にしか加入していない場合、年金分割はできません。
夫婦ともに自営業の場合も年金分割はできません。
ただし、夫が会社員や公務員で、ご自分が自営業者の場合は、相手に対し、年金分割を請求できます。
夫 | 妻 | 年金分割 | |
---|---|---|---|
1 | 自営業 | 専業主婦 | ✕ |
2 | 自営業 | 自営業 | ✕ |
3 | 会社員 | 専業主婦 | 〇 |
4 | 会社員 | 自営業 | 〇 |
年金分割を行う場合、まずは年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取り寄せます。
さらに、50歳以上の方であれば「年金分割を行った場合の年金見込み額のお知らせ」も取り寄せることが可能です。
この書面を見れば、年金分割によってご自分の年金額がどのように影響を受けるか具体的に知ることができます。
iDeCo・国民年金基金も年金分割できない?
なお、iDeCo・国民年金基金なども年金分割の対象にはなりませんが、財産分与の対象にはなります。
ただし、離婚時点で、受給額が未確定の場合、実際にいくら財産分与で受け取れるかは不明確なことが多いものです。
そのため、「一切の事情」として考慮されるにとどまるか(768条3項)、扶養的財産分与として考慮されたり、まったく考慮されないといったこともあり得るでしょう。
離婚の慰謝料
離婚慰謝料とは、離婚の精神的苦痛に対する損害賠償金のことです。
相手方に離婚原因をつくった主な責任があれば、離婚慰謝料を請求できます。
離婚原因となる典型的な行為には、不貞行為(不倫、浮気)やDVなどがあります。
相手が自営業者の場合も、もちろん慰謝料請求できます。
離婚慰謝料の相場は100万円〜300万円とされています。
もっとも、不貞行為などをした有責配偶者から離婚を求められた場合、夫婦の話し合いで、早期の離婚に応じる条件として、相場以上の慰謝料請求を検討することも考えられます。
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親権
夫婦に子どもがいれば、離婚時に必ず親権者を決める必要があります。
親権者を決めるに当たっては、これまでの監護実績や子の意向が重視されます。
相手が自営業者でご自分が専業主婦の場合、「離婚によって経済的に不利になるため親権者になれないのでないか」と不安に感じる方もいらっしゃると思います。
しかし、離婚後は養育費の支払が見込まれるため、収入が減少という理由だけで親権者の判断で不利になることはありません。
離婚の親権問題については、『離婚したら親権はどう決まる?親権を獲得する方法は?』の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
自営業者との離婚の理由は?方法は?
自営業者の離婚理由と離婚の仕方
性格の不一致や、義両親とのあつれき、宗教などが理由で離婚したい場合、協議離婚や調停離婚といった離婚方法がメインになるでしょう。
一方、民法770条1項の「法定離婚事由」に該当する事情がある場合、協議離婚や調停離婚のほかに、裁判離婚という離婚方法も視野に入ります。
民法770条1項の法定離婚事由
- 配偶者の不貞(肉体関係のある浮気)
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- 家庭内暴力(DV)
- モラルハラスメント(モラハラ)
など
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夫婦で営む自営業は離婚後どうする?
夫が社長、妻が役員といったかたちで自営業を営む夫婦もいるでしょう。
離婚した後も、二人で同じ事業を営み続けるのは、気まずいケースも多いものです。
そのような場合には、しかるべき手続きを経て、職を辞するか、自営業をたたむという選択肢が考えられます。
当事者でよく話し合い、退職金や未払いの報酬などをどうするか決める必要があります。
自営業者との離婚のお悩みは弁護士へ
配偶者が自営業者の場合や、夫婦で自営業を営んでいる場合、事業用財産は財産分与できるか、節税をして所得が少ない相手に養育費をどのくらい請求できるかなど、お金の面でトラブルになりがちです。
財産分与や婚姻費用・養育費の面で有利な条件を勝ち取るには、離婚の法的な知識が欠かせません。
離婚にくわしい弁護士は、夫婦間の交渉、離婚調停、離婚裁判などあらゆる場面でご相談者を法的にサポートし、ご相談者様の利益ができる限り大きくなるよう尽力します。
特に財産分与の問題は、一度こじれてしまうと長期化しやすく、離婚問題全体の解決が遅れる可能性があります。
自営業者との離婚に少しでも不安がある方は、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了