掲示板の中傷書き込みを特定する開示請求|匿名から個人を特定する流れは?
「こんな中傷をされて黙っていられない!」
「匿名の相手も開示請求でなら特定できるって本当?」
インターネットの掲示板サイトでは日々様々な意見や情報交換が匿名でなされています。
多少の暴言は大目に見たとしても、どうしても許せない中傷に対しては「相手を懲らしめたい」と感じることも無理はありません。
ご自身のことだけでなく家族のことまで書かれて許せない、友人や職場の人に見られてはマズイといった内容もあるでしょう。
中傷の内容次第では開示請求が認められ、匿名の掲示板であっても氏名・住所などが特定可能です。
目次
掲示板の中傷書き込みを開示請求する流れ
掲示板に誹謗中傷を書き込まれた場合、相手を特定する方法に「発信者情報開示請求」があります。発信者情報開示請求の流れと要点をみていきましょう。
(1)掲示板の管理者にIPアドレス開示を求める
掲示板の管理者に対して、誹謗中傷の書き込みをした人物のIPアドレスなどの開示を求めます。方法としては、任意で開示を依頼する方法と、裁判所の仮処分手続きを利用する方法の2つです。
任意で開示を依頼する方法
匿名とはいえ、掲示板の管理者側は書き込みをした人物に関する情報を持っています。
しかし、掲示板管理者としては書き込みをした人物の表現の自由にあたる可能性があるため、無断で情報開示はできません。そのため、こうした任意の情報開示依頼は通らないものと思っておきましょう。
裁判所の仮処分手続きを利用する方法
裁判所の仮処分手続きにおいては、「サイト側にIPアドレスの開示を命令してほしい」と申し立てることも可能です。
裁判所が申立書を内容を審理し、審尋を経て仮処分命令を発令するかどうかを決めます。申立てが正当なものであると判断され、サイト側からIPアドレスなどの開示を受けたら、そのIPアドレスを元にして書き込みをした人物のプロバイダーを特定可能です。
『IPアドレスで特定できるものは?』の解説記事にもある通り、IPアドレスだけでは個人の特定はできず、つづく訴訟対応が必要になります。
(2)発信者情報開示請求の訴訟を起こす
IPアドレスから特定したプロバイダーに対して、契約者の住所・氏名・メールアドレスの提示を求める発信者情報開示請求の訴訟を提起します。
あわせて書き込みをした人物の特定につながる情報が消去されないように、ログ保存の仮処分申立てもおこないます。
発信者情報開示請求の訴訟に勝訴したら、ようやく書き込みをした人物の特定につながる情報を入手できるのです。
ここまでの発信者情報開示請求の一連の流れをイラストにすると、次のようになります。
発信者情報開示命令による対処も選べる
改正プロバイダ責任制限法にもとづいて、従来の発信者情報開示請求のほかに、「発信者情報開示命令」が選べるようになりました。
発信者情報開示請求と発信者情報開示命令のちがいは、開示までに要する法的手続きの回数や手続きの性質にあります。以下の表をご覧ください。
発信者情報開示請求 | 発信者情報開示命令 | |
---|---|---|
要する法的手続き | 3段階 | 1段階 |
法的手続きの性質 | 訴訟 | 非訟 |
新設された発信者情報開示命令では、サイト管理者へのIPアドレスを開示請求、プロバイダーへのログ保全請求、プロバイダーへの契約者情報開示請求という3段階を一度におこなえます。
また発信者情報開示命令は非訟手続なので、発信者情報開示請求の訴訟手続きよりも、簡便化されている部分があるのです。
しかし、発信者情報開示命令についてサイト管理者やプロバイダー側が異議申し立てをしたら、従来の方法を採ることになるので、余計に時間がかかる点はデメリットでしょう。
誹謗中傷の書き込み内容やサイトごとの特性に応じて、どういった方法を採るべきかを弁護士と一緒に検討することをおすすめします。
発信者情報開示請求の基本を押さえる
発信者情報開示請求の基本情報についておさえておくと、今後の進み方のイメージをもちやすいです。
ここからは発信者情報開示請求の要点を解説します。
発信者情報開示請求には要件がある
発信者情報開示請求が認められるには、次の要件を満たす必要があります。
発信者情報開示請求の要件
- 請求相手が開示関係役務提供者に該当する
- 自己の権利を侵害されたとする者である
- 特定電気通信による情報流通である
- 権利の侵害が明らかである
- 正当な理由がある
これらすべてを満たしていると裁判所が判断したときには、発信者情報開示請求が認められるのです。
いいかえれば要件を満たさないものは開示請求は通らず、中傷の書き込みをした人物の特定は難しいでしょう。
発信者情報開示請求が認められる事案かどうかを見極める必要があります。関連記事も参考にしていただき、弁護士への法律相談を検討してください。
掲示板によっては手続きの方法が定められている
掲示板によっては利用規約もしくはヘルプにて、開示請求手続きの流れが記載されているケースがあります。
そのため開示請求・特定については、その掲示板の特性を熟知した弁護士に相談し、対応を依頼することがベストです。
関連記事では主な掲示板サイトにおける開示請求・特定の流れや概要を解説しているので、併せてお読みください。
発信者情報開示請求には費用がかかる
発信者情報開示請求の費用としては「裁判所への仮処分申立てにかかる費用」と「発信者情報開示請求訴訟にかかる費用」があります。
また、こうした手続きを弁護士に任せると弁護士費用もかかるので、100万円以上の金額がかかる手続きと考えておくと良いでしょう。
なお、相手に対して損害賠償請求をする際には、本人特定にかかった費用については「調査費用」として請求可能なケースもあります。
発信者情報開示請求にかかる費用の内訳や相場は、関連記事『発信者情報開示請求の費用相場と内訳は?弁護士費用は相手に請求できる?』で解説しているので参考にしてください。
発信者情報開示請求には期限がある
発信者情報開示請求は中傷の書き込み後の3ヶ月を目安に、できるだけ早く取り掛かりましょう。なぜなら本人特定に必要なログが3ヶ月から半年を目安に消えてしまうからです。
なお特定後の損害賠償請求は、発信者情報開示請求によって相手の特定から3年が期限とされています。
また刑事事件として訴えたいとき、刑事告訴が必要な場合は、相手の特定から半年以内という告訴期限があるので注意が必要です。
期限 | |
---|---|
特定のための開示請求 | 3ヶ月以内が目安 |
損害賠償請求 | 特定から3年以内 |
刑事告訴 | 特定から半年以内 |
どんな書き込みなら開示請求が通る?
発信者情報開示請求の要件のひとつに、「権利侵害が認められるもの」があります。
ネットの誹謗中傷で問題になりやすい権利侵害には、侮辱罪や名誉毀損、個人情報の晒しによる肖像権侵害やプライバシー侵害があげられます。
誹謗中傷による侮辱や名誉毀損が成立するもの
誹謗中傷の書き込み内容によっては、侮辱や名誉毀損に該当するケースがあります。それぞれの定義について確認すると、以下の通りです。
定義 | |
---|---|
侮辱 | 事実の摘示をせず、公然と人を侮辱すること |
名誉毀損 | 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損すること |
両者の違いは事実の摘示の有無で、事実の摘示とは具体性のことをいいます。
具体的には「不倫している」「前科がある」といった、一般的に社会的評価が下がる内容は名誉毀損にあたる可能性があるでしょう。
一方で「ブス」「アホ」などは具体性があるとはいえず、侮辱罪の成立を検討することになります。
あなたのことだと分かるかも重要
ネット上の誹謗中傷で難しいことは、その誹謗中傷が現実に存在するあなたと結びつくかどうかです。これは「同定可能性」といい、同定可能性がない限り、罵詈雑言が誰に向けられているか分からず、よって権利侵害にあたらないという考え方になります。
ネット上では伏字やイニシャルなどで中傷する書き込みもありますが、同定可能性が認められにくいとされています。
一方で、掲示板のスレッドタイトル、一連の流れから十分誰かを特定しうるならば、伏字やイニシャルでの中傷も権利侵害といえるでしょう。
名誉毀損や侮辱罪の成立要件、同定可能性については関連記事も参考にしてください。事案によって判断すべきなので、弁護士への相談もおすすめです。
氏名や顔写真など個人情報が晒されているもの
晒され方にもよりますが、基本的には「私生活を平穏に暮らす権利」を脅かすと判断された場合は権利侵害に問えるでしょう。
氏名が晒されたときにはプライバシー侵害、顔写真が晒されたときには肖像権侵害にあたる可能性があります。
ただし肖像権侵害やプライバシー侵害は「犯罪行為」として処罰する刑罰はありません。晒し行為だけでは、相手を特定しても刑事罰を負わせることはできないでしょう。
【コラム】掲示板の荒らし犯は特定できる?
掲示板の荒らし行為が権利侵害を伴うものであれば、特定できる可能性は十分あります。具体的には次のような荒らし行為です。
- 顔写真や本名を晒される
- 誰のことかわかるような中傷
- 店舗の営業を妨害するようなデマや真実を確認できない口コミ
- 犯罪行為の予告
逆に、意味をなさない文言を羅列されたり、誰のことをいっているか分からない暴言だったりすると、荒らし犯による権利侵害があるとはいいづらく、開示請求は棄却されるでしょう。
荒らし行為で掲示板サイトの健全な利用に支障をきたす場合は、管理人にその旨を知らせる方が得策です。
個人を特定した後にできることとは?
中傷した人物を特定した後は、慰謝料の請求と刑事告訴の2つを検討していきます。
中傷に対する慰謝料の請求
中傷を受けたことで負った精神的苦痛に対する慰謝料の請求が可能です。まず内容証明を送って話し合うことから始めるケースが多いですが、うまくいかずに民事訴訟にもつれこむケースもあります。
慰謝料の相場は中傷によって侵害された権利によって異なりますが、数万円程度にとどまるものもあれば、数十万円から100万円を超える請求が認められるケースもあるでしょう。
一般的に、個人への名誉毀損であれば10万円から50万円が相場といわれています。
もっとも、開示請求しても慰謝料が必ず取れるとは限りません。以下の関連記事では、開示請求で慰謝料が取れるケースと取れないケースがあることを解説しているので、参考にしてみてください。
慰謝料の相場については、関連記事『誹謗中傷の慰謝料相場はいくら?損害賠償請求の流れと注意点をおさえよう』にてくわしく解説しているので併せてお読みください。
あるいは、匿名掲示板での悪口への対処として、損害賠償請求の訴訟を起こすこともあります。訴訟の判例を知りたい方は、関連記事『匿名掲示板での悪口への対処法は?誹謗中傷を名誉毀損で訴えることは可能?』も参考にしてください。
中傷の内容によっては刑事告訴も検討
中傷の内容によっては、法令で「犯罪」と定められている可能性があります。
たとえば名誉毀損に該当する中傷は、慰謝料請求という民事面の訴えとは別に、警察に告訴することで刑罰を負わせることが可能な場合があるのです。
ただし犯罪内容によっては被害者による「告訴」が必要になる点に注意してください。
告訴とは?
被害者が犯罪の事実と処罰を希望する旨を警察に訴えること。犯罪が親告罪であれば、刑事告訴がないと検察官は起訴できない。
ネット上の中傷で問題になりやすい犯罪については下表のとおりです。
罪名 | 親告罪 | 非親告罪 |
---|---|---|
侮辱罪 | 〇 | ー |
名誉毀損罪 | 〇 | ー |
脅迫罪 | ー | 〇 |
業務妨害罪 | ー | 〇 |
信用毀損罪 | ー | 〇 |
刑事告訴という手続き自体は、相手を特定せずとも可能です。しかしながら、ネット上の中傷においては相手が誰なのかを特定してから告訴に踏み切るケースが多いとされています。
起訴できないということは、相手に対して刑罰を下せないという意味です。侮辱罪や名誉毀損罪は親告罪なので、被害者からの告訴が必須になります。
掲示板での中傷について開示請求をしたいなら弁護士に相談!
匿名の掲示板であっても、中傷の内容次第では開示請求をかけて、書き込みした個人の特定が可能です。
しかし開示請求は必ず通るわけではなく、ときに棄却されることもあります。弁護士であれば、中傷内容を法的問題としてとらえ、開示請求が成功するかどうかの見通しを回答できるのです。
掲示板での開示請求においては、その掲示板ごとの特性を理解していることも重要になります。
相談先を選ぶ際には、開示請求の実績にくわえて、どういった掲示板の開示請求に対応してきたのかも聞いてみましょう。ホームページからわかることもあれば、法律相談時に聞いてみることもできます。
開示請求を弁護士に依頼するメリットは多数あります。開示請求を検討している方は、弁護士への相談から始めましょう。
弁護士依頼のメリット
- 法律知識を駆使して、開示請求成功に向けた活動ができる
(申立書や訴状の作成、裁判官への対応がスムーズ) - 開示請求に必要な手続きを任せることができる
(依頼者の日常生活が不必要に乱されない) - 慰謝料の相場を理解し、相手との交渉も代理できる
(不当に低い慰謝料での解決を避けることができる)
弁護士選びのポイントを知りたい方は、下記バナーの解説記事もあわせてお読みください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了