別居の準備と手続|離婚を考えたら知っておくべき別居の注意点

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離婚を考え始めたとき、多くの人が悩むのが「別居すべきかどうか」「別居するとしてどのような準備が必要か」ということです。

この記事では、別居のメリット・デメリット、別居の具体的な準備と注意点、さらに別居後の生活をスムーズにするための準備についてわかりやすく解説します。

DV事案では別居の際に特に慎重な配慮が必要となるため、その点についても具体的にご説明します。

本記事を読めば、別居に向けた準備がしっかりと整い、安心して次のステージに進むことができるでしょう。別居についてお悩みの方はぜひお役立てください。

別居前にメリットとデメリットを十分検討しよう

別居前にメリット・デメリットの検討が必須

離婚を考えている方の中には、「相手の顔を見るのもストレス」「一日も早く別居して離婚したい」と考えている方も多いでしょう。

しかし、感情に任せ何の準備もせずに別居をすると、たちまち生活が立ち行かなくなってしまうおそれがあります。

別居をする前には、別居のメリット・デメリットを十分検討し、本当に別居をすべきなのか慎重に考えましょう。

以下では、別居のメリット・デメリットを具体的にご説明します。

また、別居時の生活費や婚姻費用といった金銭的なメリット・デメリットについては『離婚前に別居するメリットは?別居したい時の注意点、離婚と別居どちらが得かも解説』もご覧ください。

別居のメリット

①冷静な話し合いが可能になる

相手と離れて暮らすことで感情的な対立を避けやすくなり、冷静な話し合いが可能になります。

実務では、離婚調停前に別居をするケースが多いです。物理的に距離をとった方が、離婚調停での話し合いもスムーズに行いやすいでしょう。

②離婚の決意が固いことが相手に伝わる

別居は離婚の決意が固いことを相手に伝える強力な手段です。別居をきっかけに相手が協議離婚に応じるケースも少なくありません。

また、別居後に相手に婚姻費用を請求すると、経済的な負担感も合わさって、相手が離婚に同意しやすくなる場合が多いです。

③別居期間が長くなると離婚しやすくなる

相手が協議離婚に応じない場合、別居をすることで調停離婚や裁判離婚がしやすくなるメリットがあります。

なぜなら、別居期間が長くなればなるほど婚姻関係が破綻したといいやすくなり、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)が認められやすくなるからです。

「婚姻を継続し難い重大な事由」は法定離婚事由の1つです。法定離婚事由が認められると、裁判で強制的に離婚が認められます。

また、離婚調停は、あくまで夫婦間の話し合いであるとはいえ、離婚裁判を見据えて進行されるため、法定離婚事由がある事案では、調停委員や裁判官が相手方に離婚に応じるよう説得してくれやすくなるのです。

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④DVやモラハラから解放される

相手からDVやモラハラの被害を受けている場合、別居により安全な環境を確保することで心身の回復が進みます。

そうすると、今まで冷静に考えられなかった離婚後の生活について、具体的に考えることができるようになります。

別居は、DVやモラハラ被害を受けている方が新たな人生を始める上で、特に重要な一歩と言えるでしょう。

⑤子どもへの悪影響が軽減される

特に未成年の子どもにとって、両親の争いによる心身の負担は相当大きなものです。

別居をすることで、争いを見せなくてすむようになり、子どもに穏やかな生活環境を提供できるようになります。

別居のデメリット

①生活費が増加する

別居すると、住居費などの経済的負担が増えます。

できれば別居前に、婚姻費用の支払について合意しておく、実家の協力を求めるなど生活費や住居の目途をつけておくことが大切です。

②法律的な問題が発生する

別居すると、相手方との離婚条件の交渉、または離婚調停の申し立てなど法律的な問題に対処する必要が生じます。

すべて自分で対応するのは精神的にも時間的にも非常に大きな負担となります。

できれば別居前から、遅くとも別居直後には弁護士に相談に行き、法律問題への対処を依頼するのがおすすめです。

③証拠集めが難しくなる

別居をすると自宅にある各種の証拠を集めることが困難になります。

離婚問題を解決するために必要な証拠の典型例は以下のものです。

離婚時に役立つ証拠

財産分与・・・預貯金通帳、生命保険証書、有価証券証書、固定資産税評価証明書など

婚姻費用や養育費・・・源泉徴収票、課税証明書、確定申告書など

慰謝料・・・不貞行為(浮気、不倫)の場合はメールやLINEのやりとり、写真など、DVやモラハラの場合は録音や録画、日記など

親権・・・母子手帳、保育園等の連絡帳、通知表など

別居前にこれらの証拠をできる限り多く収集しておきましょう。

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④子どもへの心理的影響が懸念される

別居による環境の変化は、子どもにとって精神的に大きな負担となります。

別居前も別居中も子どもの気持ちを十分聞いて、子どもの不安をそのまま受け止めるようにしましょう。

相手の批判は避けつつ、子どもの年齢に応じて離婚についてわかりやすく説明すると子どもの安心につながるでしょう。

⑤復縁の可能性が減少する可能性がある

離婚を前提とする別居もあれば、あくまで冷却期間として別居を選択する場合もあるでしょう。

しかし、別居を実行すれば復縁の可能性が減少するケースの方が多いのが実務の実感です。

冷却期間として別居したい場合は、その気持ちを相手にしっかりと伝えた上、別居期間を定めて書面化しておくと良いでしょう。

アトム法律事務所が作成した別居合意書のテンプレートを参考にしてください。

別居に向けた具体的な準備

別居のメリット・デメリットを十分検討した上で別居を決意した場合は、以下の準備を進めましょう。

別居前の準備リスト

  • 夫婦共有財産を整理する
  • 相手の収入状況を把握しておく
  • DVや浮気の証拠を集めておく
  • 住居を確保しておく
  • 持ち出す荷物を確認
  • 別居中や離婚後にかかる費用をシミュレーションする
  • 公的支援制度を調べておく
  • 就職活動を始める

(1)夫婦共有財産を整理する

離婚時には、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産を原則として2分の1ずつ分ける財産分与が行われます。

財産分与の対象となる財産は、別居時に存在した財産です。

そのため、別居する際は、夫婦共有財産をできる限り把握しておく必要があります。

共有財産は、名義のいかんを問いません。相手方名義の預貯金なども対象になるため、忘れずに通帳等のコピーをとっておきましょう。

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(2)相手の収入状況を把握しておく

一般的に、別居中の婚姻費用や養育費の金額は、相手と自分の収入をもとに計算されます。そのため、婚姻費用と養育費を請求するための準備として、相手の収入状況を把握しておくことも大切です。

具体的には、源泉徴収票、課税証明書、確定申告書などを入手しておきます。

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(3)DVや浮気の証拠を集めておく

相手の不貞行為が発覚した場合、つい感情的になってその場で不貞を認めさせようとしたり、すぐに別居をしようと考える方もおられるでしょう。

しかし、不貞行為の責任をしっかり取らせたいのであれば、十分な証拠が揃うまで何事もないように振る舞う方が賢明です。

日常生活を続けながら相手の行動をよく観察して証拠を集め、離婚原因や慰謝料請求の場面で有利になるよう準備を整えてから別居を実行しましょう。

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(4)住居を確保しておく

別居に向けて最も大切な準備の一つが住居の確保です。

実務で多いのは実家に協力を求めるケースです。

別居当初は実家で生活し、資金を貯めてから賃貸住宅等に転居する事例も多いです。

DVで早急に避難する必要があるケースでは、女性自立支援施設や母子生活支援施設等の利用を検討してください。各地自治体の福祉関連窓口に相談に行くと利用手続きの具体的な説明が受けられます。

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(5)持ち出す荷物を確認

別居すると、その後自宅に戻って荷物を持ち出すことは困難です。

別居に向けて持ち出す荷物を確認し、荷造りをするなど準備を整えておきましょう。

同居中の荷物をすべて別居先に持っていくことは難しいため、別居に向けて本当に必要な物を厳選して着実に準備を進めておくべきです。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

こっそり別居を進めたい場合は、荷物を「少しずつ」持ち出すのがポイントです。一気に荷物がなくなると、別居の計画が相手に勘づかれてしまうからです。

(6)別居中や離婚後にかかる費用をシミュレーションする

別居する際は、支出面と収入面のシミュレーションを行い、不足分を補う具体的な方法を早めに考えておく必要があります。

支出面としては、別居にかかる費用(引っ越し代、家具家電購入費など)、別居中や離婚後の生活費、離婚手続きにかかる費用などが考えられます。

収入面は、離婚時に配偶者から受け取れるお金(財産分与、離婚慰謝料、婚姻費用、養育費、年金分割)、自分が稼働することで得られるお金、公的支援が考えられます。

弁護士に相談に行けば、経済面での大まかな試算についてアドバイスを受けられ、離婚するかどうか決めるための判断材料になるでしょう。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

熟年離婚の場合、再就職が難しく、離婚すると年金分割を考慮しても生活費が足りないケースもあるため、離婚しない方が経済的に合理的という場合も考えられます。

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(7)公的支援制度を調べておく

離婚後は、児童手当、児童扶養手当、就学援助、ひとり親家庭の医療費助成など、様々な公的支援制度を受けられます。

離婚前から公的支援の内容を調べておくと、離婚後の生活を安定させるために大いに役立ちます。地方自治体の窓口や福祉事務所に相談に行き、早めに情報収集しておくと安心です。

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(8)就職活動を始める

専業主婦やパートとして稼働している方は、離婚後の経済的基盤をつくるために就職活動も欠かせません。

ハローワーク等を利用すれば、仕事を探すだけでなく、就職のための訓練を受けることもできます。

別居する際の注意点

DV事案は身の安全確保を最優先

DV被害を受けている場合は、別居前の早期の段階から弁護士に相談するのが望ましいです。

身体に危害が及ぶおそれがある場合は、保護命令を申し立てるなど身の安全確保を最優先にしてください。

DVはないものの、妻子が家を出て行ったことで動揺した相手方が別居先を突き止め、妻子を連れも戻しに押しかけてくるケースも少なくありません。

このようなおそれがある場合は、できる限り早く弁護士に相談に行き、受任通知を送るようにしましょう。

受任通知には、今後本人との直接連絡は控えること、連絡は代理人弁護士にするよう記載するのが通常です。この通知を受け取れば、相手方が無理に別居先に押しかけてくるおそれはある程度低くなります。

それでも相手からの直接連絡がおさまらない場合は、協議離婚での解決は諦めて、早々に調停離婚を申し立てた方が現実的です。裁判所が関与すれば、相手への抑止力にもなります。

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別居のための正当な理由を説明する

DVなど早急な避難が必要な場合を除き、別居について相手方と合意するのが理想的です。

正当な理由なく別居すると、夫婦の同居義務(民法752条)に反する悪意の遺棄(民法770条1項2号)として、相手から慰謝料請求をされるおそれがあるからです。

また、悪意の遺棄をした配偶者は、有責配偶者に当たり、自分の生活費に当たる婚姻費用の請求ができなくなります。

別居の経緯(別居の理由)ついて相互に確認し書面化しておけば、悪意の遺棄の主張は通らなくなるため将来のトラブル防止に効果的です。

別居前に婚姻費用の分担や、面会交流についても合意しておくと、別居期間中の生活や子どもの心身の安定につながります。

夫婦関係がかなり悪化しており、上記のような合意が難しければ、置き手紙やメールなどで別居の理由を説明しましょう。置き手紙の場合は後に証拠として利用できるようコピーをとっておきます。

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相手方名義の預貯金の持ち出しは原則しない

別居の際、当面の生活費として相手方名義の預貯金を持ち出すケースは少なくありません。

しかし、相手方の預貯金の持ち出しはトラブルにつながるおそれが高いため、原則として控えるべきです。

やむを得ず相手方の預貯金を引き出して別居後の生活費に使った場合、それが夫婦共有財産に当たるのであれば財産分与の中で清算されることになります。

ただし、財産分与の原則である2分の1を超えて使った分については損害賠償請求されて、あなたがお金を支払わなければならなくなる可能性がある点に注意してください。

別居後すぐにすべきこと

できる限り早期に婚姻費用を請求する

別居中の生活費は、収入が多い方の配偶者に対し婚姻費用として請求できます。

婚姻費用支払義務の始期は、請求時が原則とされています。

つまり、婚姻費用の支払請求が遅くなるほど、受け取ることのできる婚姻費用が少なくなってしまうのです。

相手が支払を拒む場合は、弁護士に相談してできる限り早期に婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。

住民票の異動

別居先に今後も住み続ける予定の場合は、住民票を異動しましょう。

ただし、DV事案の場合、加害者が住民票等を閲覧して被害者のもとにやってくるおそれがあります。

そのため、そもそも住民票を異動させない方が安全です。

住民票を異動する場合は、住民票等の閲覧・交付を制限する措置を求めるようにしてください。

郵便物の転送手続

郵便物の転送手続きは、最寄りの郵便局で行うことができます。申請から1年間転送先の住所へ転送が可能です。

別居に関するお悩みはお早めに弁護士へ!

「離婚のために別居した方が良いか」

「別居後に相手と離婚の交渉をするのが負担」

「自分に合った離婚の進め方が知りたい」

このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

離婚は法律的に難しい問題を多くはらんでいるケースも多く、お一人での解決は相当な負担です。

弁護士は、法律の専門家として法的な問題に対する解決案を示しつつ、ご相談者様のお気持ちに寄り添います。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了