離婚の公正証書の作り方と費用・必要書類を弁護士が解説

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離婚の公正証書

公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公的な書類です。あらかじめ「強制執行認諾文言」を入れておくと、相手が支払いを怠った場合でも、裁判を経ずに給与や財産を差し押さえることが可能になります。

2025年10月の法改正により、公正証書は原則として電子データで作成・保存される仕組みに変わりました

希望すれば公証役場に出向かずにWeb会議を使ったリモートでの作成も可能で、手数料も見直されています。少額の契約にかかる手数料が引き下げられたほか、ひとり親家庭の養育費に関する公正証書作成の負担軽減も図られています。

この記事では、離婚時の公正証書について、改定後の手数料やリモートでの作成方法、具体的な手続きの流れや必要書類、記載すべき内容、そして強制執行の手続きまでを、弁護士がわかりやすく解説します。

目次

離婚の公正証書とは

離婚の際に作成する公正証書は「離婚給付等契約公正証書」と呼ばれ、慰謝料・養育費・財産分与などの金銭的な取り決めを公的に証明する役割を果たします。

公証人が当事者双方の意思と内容の適法性を確認したうえで作成されるため、強い証明力があります。後から「そんな約束はしていない」と争われた場合でも、合意の内容を公的に証明することが可能です。

最大の効力は、強制執行認諾文言を入れることで得られる執行力です。金銭の支払いが滞った場合、改めて裁判を起こすことなく、相手の給与や預貯金を差し押さえる強制執行を申し立てられます。

公証役場と公証人の役割

公正証書を作成するのは、法務省が管轄する公証役場公証人です。

公証役場は全国に約300か所あり、自宅や職場の近くなど、都合のよい場所を選んで申し込めます。所在地の詳細は、日本公証人連合会のホームページで確認できます。

公証人とは、元裁判官、検察官や弁護士など、法律の実務経験を持つ公証役場の職員で、公務員に準ずる立場にあります。

公証人の役割は、夫婦が話し合って決めた内容をもとに公正証書の案文を作成し、内容の適法性と当事者の合意を確認することです。夫婦間の交渉を取り持ったり、取り決めの内容を決めてくれるわけではありません。公正証書の作成前に、夫婦間で合意内容をまとめておく必要があります。

公正証書と離婚協議書の違い

協議離婚の際によく作成される書類に離婚協議書があります。夫婦間の合意内容を書面化したものですが、強制執行を行う法的効力はありません。

公正証書との主な違いは以下のとおりです。

離婚協議書公正証書
性質当事者の合意を証拠として残す私文書公証人が法律に基づいて作成する公文書
強制執行不可可(認諾文言があれば)
費用自分で作成する場合は無料数万円〜十数万円

離婚協議書は、公正証書を作成する前の条件整理や、公証役場への持参資料として活用できます。

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離婚で公正証書を作った方がいいケース

公正証書は、将来にわたって金銭を受け取る取り決めがある場合に、特に大きな効果を発揮します。

公正証書を作るのは協議離婚するとき

公正証書を作成した方がいいのは、協議離婚をするときです。なかでも、以下のケースでは特に作成をおすすめします。

公正証書を作った方がいいケース

  • 養育費を月額8万円を超える金額で受け取る場合
  • 養育費をより確実に回収したい場合
  • 慰謝料や財産分与を分割払いで受け取る場合
  • 年金の合意分割を行う場合

2026年4月の法改正により、養育費については子1人あたり月額8万円を上限に公正証書なしでも差し押えが可能になりました。ただし、上限を超える金額を回収したい場合や、より確実に支払いを受けたい場合には、引き続き公正証書の作成が有効です。

慰謝料や財産分与の分割払いには養育費のような法律上の優先権がないため、支払いが滞った際に裁判を経ずに差し押さえを行うには、強制執行認諾条項付きの公正証書が必要になります。

また、年金の合意分割を行う場合、公正証書があれば元配偶者と一緒に年金事務所へ出向く必要がなく手続きを進められるという大きなメリットがあります。

年金分割の手続きや必要書類については、『離婚時の年金分割手続きとは?必要書類は?共働き・拒否した場合も解説』で詳しく説明しています。

養育費を受け取るなら公正証書を作っておく

協議離婚をする場合、養育費の支払いを公正証書にしておくことを強くおすすめします

2026年4月の法改正により、子1人あたり月額8万円までは私的な合意文書でも差し押えが可能になりましたが、上限を超える金額を請求する場合や、より確実に回収したい場合には、引き続き公正証書が有効です。

養育費は離婚後も毎月支払われるものですが、途中で支払いが途絶えるケースが非常に多いのが実情です。

公正証書による強制執行は、養育費の回収において特に有利です。一度給与を差し押さえると、将来の養育費についても毎月の給与から継続的に回収できます

また、通常の債権では給与の4分の1までしか差し押えが認められないのに対し、養育費については給与の2分の1まで差し押えが可能です(民事執行法第151条の2・第152条3項)。

なお、養育費の公正証書作成に補助金を出している自治体もあるため、お住まいの自治体の制度を確認してみてください。

公正証書を作成するタイミング

離婚の公正証書に作成期限はなく、離婚前でも離婚後でも作成できますが、離婚前に作成するのが一般的です。主な理由は、離婚前の方が相手の協力を得やすいためです。

公正証書の作成には、原則として夫婦双方が公証役場に出向くか、Web会議で手続きに参加するなどの協力が必要になりますが、離婚届を提出した後では相手と連絡が取れなくなる可能性もあります。

また、財産分与・慰謝料・養育費の請求にはそれぞれ時効があります。公正証書の作成を先延ばしにしているうちに時効を迎えてしまうと、受け取れたはずの金銭を受け取れなくなるおそれがあります。

2026年4月1日施行の民法改正により、財産分与の請求期限は離婚後5年以内に延長されました。年金分割の請求期限も同様に離婚後5年以内に延長されています。なお、2026年3月31日以前に離婚した場合は、財産分与・年金分割ともに従来どおり離婚後2年以内となります。

請求期限が延長されたとはいえ、時間が経つほど相手方の資産状況の把握や証拠の確保が難しくなります。離婚後に公正証書を作成する場合も、できる限り早期に手続きを進めることをおすすめします。

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公正証書が不要なケース

以下のケースでは、公正証書を作成する必要はありません。

公正証書が不要なケース

  • 金銭の取り決めが一切ない場合
  • 調停離婚・裁判離婚の場合

公正証書は、養育費・慰謝料・財産分与など金銭の支払義務がある場合に、将来の不履行に備えて強制執行力を持たせる目的で作成するものです。

金銭の取り決めが一切ない場合は、強制執行を想定する必要がなく、原則として公正証書を作成する実益はありません。

ただし、金銭の支払いがなくても「年金の合意分割」を行う場合は、公正証書があれば当事者の一方のみで年金事務所の手続きを進められるメリットがあります。

調停離婚や裁判離婚の場合は、調停調書や判決書という公正証書と同様に債務名義となる書類が作成されます。これらに基づいても強制執行は可能なため、別途公正証書を作成する必要はありません。

離婚の公正証書の作り方

公正証書の作成は、公証役場への対面での手続きが基本です。2025年10月からは要件を満たす場合に限り、Web会議を利用したリモート方式での作成も可能になりました。

対面方式による基本的な流れは以下のとおりです。

  1. 夫婦で離婚条件を協議する
  2. 公証役場に予約・書類提出
  3. 公証人が原稿作成
  4. 夫婦で公証役場訪問・電子署名
  5. 手数料支払い・公正証書受領

具体的な手続きの進め方は公証役場ごとに異なる場合があるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

(1)夫婦で離婚条件を協議する

まずは夫婦で話し合って、公正証書に盛り込む内容を決めておきます。

大まかな案文を作成しておくと、その後の手続きがスムーズに進みます。すでに離婚協議書を作成してある場合はそれを公証役場に持参しましょう。

離婚協議書の案文については「離婚協議書のサンプル・ひな形」をご活用ください。

岡野タケシ弁護士
岡野タケシ
弁護士

公証人は、公正証書に記載したい内容が違法ではないか、無効にならないかの審査は行いますが、夫婦間の交渉や条件の調整は行いません。

公正証書の作成前に、夫婦間で合意内容をまとめておく必要があります。

(2)公証役場に予約・書類提出

公正証書の作成を開始するには、公証人に作成の依頼をし、内容のすり合わせを行う必要があります。対面で面談を行う場合は、多くの公証役場が予約制を採用しているため、事前に電話で予約を取っておきます。

面談では、公証人に公正証書に記載したい内容を伝えます。1で作成した案文やメモを持参し、必要書類もあわせて提出します。

この面談には夫婦の一方か代理人が出席していれば問題ありませんので、依頼を受けた弁護士が出向くこともあります。

なお、2025年10月からのデジタル化により、電子証明書等を利用してインターネット経由で必要書類や作成依頼のデータを送信し、来所せずに事前のやり取りを進めることも可能になりました。

(3)公証人が原稿作成

面談後、公証人は申込み内容をもとに公正証書の原稿を作成します。その場で完成することはほとんどなく、作成には1〜2週間程度かかるのが一般的です。

原稿が仕上がると、公証人からFAXやメール等で原稿案と手数料の金額が送付されます。当事者はその内容に誤りや問題がないかを確認します。

記載内容や提出書類に不備がある場合は、電話や郵送でのやり取り、または再度公証役場を訪れて修正を行うことになります。

(4)夫婦で公証役場訪問・電子署名

原稿が完成したら公証役場から連絡が来るので、夫婦が出向く日時を予約します。予約した日時に2人で公証役場へ出向き、原稿の最終確認を行います

どうしても公証役場に出向けない場合や、相手と直接顔を合わせたくない場合は、公証人に相談してください。要件を満たせばWeb会議(リモート方式)を利用して別の場所から手続きに参加できる場合があります。

なお、代理人による作成が認められることもありますが、離婚の公正証書は原則として本人の参加が求められます。

問題がなければ、公証人が夫婦に内容を読み聞かせ、双方がディスプレイ上で電子ペンを使って電子署名を行い、公正証書が完成します。

(5)手数料支払い・公正証書受領

最後に手数料を支払い、完成した公正証書を受け取ります

法改正により、公正証書は原則として電子データで保存されます。受け取り方法は以下のいずれかを選択できます。

  • 紙に出力した書面で受け取る
  • インターネット経由でダウンロードして受け取る
  • USBメモリ等でデータとして受け取る

公証人手数料の支払いには、現金またはクレジットカードを利用できます。

なお、公正証書の作成を途中で取りやめた場合も、手数料を支払う必要があります。

公正証書の原本・正本・謄本の違い

公正証書の原本は原則として20年間、公証役場で保管されます。当事者には原本と同一内容の正本および謄本が電子データまたは書面で交付されます。

正本・謄本はいずれも証拠力は同じですが、強制執行を申し立てる場合には正本の提出が必要となります。

リモート方式で公正証書を作成するには

法改正により、一定の要件を満たせば、公証役場に出向かずWeb会議で公正証書を作成できるようになりました。

ただし、利用できるのは夫婦双方がリモート方式に同意し、公証人が相当と認めた場合に限られます。

リモート方式の利用の希望がある場合、リモート方式の要件が整っているか、リモート方式での公正証書の作成が相当かについての公証人の判断が必要となりますので、早めに公証人に相談していただく必要があります。

日本公証人連合会

また、対応機器はパソコンのみで、スマートフォンやタブレットは使用できません。電子署名のため、タッチ入力可能なディスプレイやペンタブレットなどの機器も必要です。

リモート方式が利用可能かどうかについては、まず公証役場へ相談するようにしましょう。

離婚の公正証書の作成費用

公正証書の作成にかかる費用は、主に公証人手数料です。公証人への相談は無料で、手数料は公正証書に定める金銭の支払い額(目的金額)に応じて決まります。

公正証書はいくら?手数料の仕組み

公証人手数料は、公正証書に取り決める金銭の支払い額(目的金額)に応じて決められており、目的金額が大きくなるほど手数料も高くなっていきます。

目的金額に応じた公証人手数料は、以下の表をご確認ください。公証人手数料に消費税はかかりません。

目的金額公証人手数料
50万円以下3,000円
50万円を超え100万円以下5,000円
100万円を超え200万円以下7,000円
200万円を超え500万円以下1万3,000円
500万円を超え1000万円以下2万円
1000万円を超え3000万円以下2万6,000円
3000万円を超え5000万円以下3万3,000円
5000万円を超え1億円以下4万9,000円
1億円を超え3億円以下4万9,000円に超過額5,000万円までごとに
1万5,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下10万9,000円に超過額5,000万円までごとに
1万3,000円を加算した額
10億円を超える場合29万1,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額

日本公証人連合会ホームページより作成した2025年10月1日改定後の金額です。

そのほか、公正証書を書面や電子データで発行する手数料がかかります。

費目金額
正本・謄本の紙での交付1枚につき300円
正本・謄本の電磁的記録での交付1件につき2,500円

目的金額別の手数料計算ルール

離婚の際には、慰謝料・養育費・財産分与など複数の金銭の支払いを1つの公正証書で取り決めることがほとんどです。ただし、単純にその合計が目的金額になるわけではありません。

慰謝料・財産分与養育費は別々に手数料を計算し、その合計を支払います。養育費の目的金額は月々の支払いの総額ですが、支払期間が5年を超える場合は5年分が上限となります。

なお、年金分割を定める場合は追加で1万3,000円の手数料がかかります。ただし、公正証書ではなく「年金分割合意書」を作成して公証人の認証を受けることも可能です。

その場合は手数料が6,500円となります。プライバシーや費用面からすると、年金分割合意書を作成するほうが良いかもしれません。

公正証書作成費用のシミュレーション

以下のケースで、実際の公正証書作成費用を計算してみましょう。

目的金額

財産分与:1,000万円

慰謝料:50万円

養育費:子ども1人、月8万円を10年間

公証人手数料は、財産分与と慰謝料を合算した金額を目的金額として算定します。

養育費は、月々の支払いの合計額が目的金額となりますが、支払期間が5年を超える場合は5年分を上限とします。したがって、合計は480万円(月8万円×12か月×5年)となります。

項目金額公証人手数料
財産分与・慰謝料1,050万円26,000円
養育費480万円13,000円

また、公正証書の原本は公証役場で保管されるため、正本・謄本の交付には別途交付手数料がかかります。

受け取り方法によって交付手数料を含めた費用の総額は異なります。

離婚の公正証書は当事者双方に1通ずつ交付されるのが一般的なため、正本・謄本の2通を交付する場合、電子データで受け取る場合は総額44,000円(基本手数料39,000円+交付手数料5,000円)、紙の書面で各3枚受け取る場合は総額40,800円(基本手数料39,000円+交付手数料1,800円)となります。

費用の負担は誰がする?

公正証書の作成費用をどちらが負担するかについて、法律上の決まりはありません。実務上は、作成を希望する側が負担するケースが多いですが、折半とする場合もあります。

どちらが負担するかは、事前に夫婦で話し合っておくのがよいでしょう。

公正証書の作成に必要な書類

公正証書の作成に必要な書類は、取り決めの内容や作成のタイミングによって異なります。あらかじめ公証役場に確認しておくことをおすすめします。

主な必要書類は以下のとおりです。

  • 本人確認資料
  • 婚姻関係を確認するための戸籍謄本
  • 分与する財産を特定するための書類
  • 年金分割のための情報通知書・基礎年金番号がわかる書類

本人確認資料

公正証書を作成する際は、以下のうちいずれかの組み合わせで本人確認が必要です。

  • 印鑑登録証明書(発行3か月以内のもの)と実印
  • 顔写真のある身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)

2025年10月のデジタル化により、電子データで作成する場合は電子署名のみで足り、実印・認印などの押印は原則不要となりました。

ただし、紙の書面で作成する場合や、印鑑登録証明書で本人確認をする場合は実印が必要です。

また、パスポートを身分証明書とする場合は住所表記がないため、別途住民票の提出が求められることがあります。

戸籍謄本

当事者が夫婦であることを証明するために、戸籍謄本が必要になります。

離婚前に公正証書を作成する場合は、2人が同じ戸籍に入っているため戸籍謄本1通で足ります。離婚後に作成する場合は、すでに戸籍が分かれているため、夫婦それぞれの戸籍謄本が必要になります。

財産に関する書類

財産分与を公正証書に盛り込む場合は、分与の対象となる財産を特定できるよう、名義や評価額がわかる書類を準備します。

  • 不動産の登記簿謄本
  • 固定資産評価証明書、固定資産税の納税通知書
  • 車検証
  • 通帳
  • 保険証券
  • 解約返戻金証明書

なお、夫婦間の借金の清算など債務の弁済に関する取り決めがある場合は、借用書や契約書など事実関係を証明できる書類も必要になります。

年金分割のための書類

年金分割を公正証書で定める場合には、年金分割のための情報通知書と、基礎年金番号がわかる書類(年金手帳・ねんきん特別便など)が必要です。

情報通知書の取得には一定の時間がかかるため、公正証書の作成を予定している場合は早めに準備を始めておくことが重要です。

離婚の公正証書に書く内容

公正証書には、離婚の際に話し合って決める様々なことを記載することができます。

離婚の公正証書(離婚給付等契約)に書く内容は、主に以下のようなものです。

  • 離婚全般に関すること(離婚の合意・清算条項など)
  • お金や財産に関すること(慰謝料・財産分与・年金分割など)
  • 子どもに関すること(親権・養育費・親子交流)
  • 強制執行認諾文言

離婚全般に関すること

  • 離婚の意思表示(離婚の合意)
  • 離婚届の提出日・提出者
  • 守秘義務
  • 住所や勤務先が変わった際の通知義務
  • 裁判管轄
  • 清算条項

守秘義務とは、夫婦間しか知り得ないことを第三者に口外しない義務です。

裁判管轄とは、離婚後に調停や裁判を起こすことになったら、どの裁判所を使うかをあらかじめ決めておく条項です。

清算条項は、当事者間にこれ以上の債権債務がないことを確認する条項です。これがないと、後から別の請求をされる余地が残ってしまいます。

お金や財産に関すること

  • 離婚慰謝料
  • 財産分与
  • 婚姻費用
  • 年金分割(別途「年金分割合意書」にすることも可能)
  • 期限の利益喪失
  • 分割払いの金利
  • 遅延損害金

慰謝料については、金額、支払方法、支払期限などを明記します。

財産分与についても、それらの項目が必要になりますが、そもそも財産分与の対象について明記する必要がある場合もあります。

また、不動産の所有権移転登記を離婚後に行うという条項を含めることもあります。

期限の利益喪失とは、分割払いの支払い期限が守られなかったときに、残りの金額を一括で請求することができるという条項です。

期限の利益喪失条項は、財産分与や慰謝料を分割払いにする際によく盛り込まれます。これがあれば、延滞があったときに、残りの金額を一気に強制執行することができるからです。

遅延損害金は、金銭の支払いが期限を過ぎてしまったときに、定めた利率にもとづいて請求額を加算することを約束する条項です。

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子どもに関すること

  • 子どもの親権者・監護者
  • 子どもの養育費
  • 子どもとの親子交流(子どもと会う頻度)

養育費については、支払う時期(何歳から何歳まで)、毎月の支払金額、支払日、支払方法などを明記するのが、強制執行を行うためのポイントです。

以下の事項について具体的に書くことを忘れないでください。

養育費の条項に含める事項

  • 支払う人と受け取る人
  • 養育費として支払うこと
  • いつからいつまで支払うか
  • 毎月の支払い金額
  • 毎月の支払い期限
  • 支払い方法

公正証書で強制執行を行うためには、債権の内容が明確に定まっていることが求められます。そのため、あいまいな書き方をしてしまうと強制執行ができない可能性があります。

養育費の条項の例

第●条(養育費)

甲は乙に対し、丙丁の養育費として令和○年○月○日から丙丁が満20歳に達する月まで、1人につき1か月あたり金○万円を支払う義務があることを認め、これを毎月○日限り乙の指定する口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲が負担するものとする。

※この場合、丙と丁は子どもを指しています。

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強制執行認諾文言

強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんだくもんごん)とは、期限内に支払わなければ強制執行を受けてもいいという旨を約束する言葉です。

この文言がなければ、せっかく公正証書を作成しても強制執行を申し立てる権利が得られないため、忘れずに記載してください。

強制執行認諾文言の例

第●条(強制執行認諾)

甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。

なお、2026年4月の法改正により、養育費・婚姻費用については子1人あたり月額8万円を上限に、公正証書がなくても差し押さえが可能になりました。

ただし、上限を超える金額や慰謝料・財産分与などの全額を確実に回収するためには、引き続き強制執行認諾文言付きの公正証書が必要です。

公正証書に書けないこと・できないこと

公正証書は万能ではなく、以下の3つの制限があります。

  • 法令違反の内容は記載できない
  • 金銭の支払い以外は強制執行できない
  • 双方の同意がなければ作成できない

それぞれ具体的に見ていきましょう。

法令に違反する内容は公正証書に書けない

公序良俗に反する条項(民法90条)や、法令に違反する条項を公正証書に盛り込もうとしても、公証人は認めてくれません。

たとえば、以下のような条項は夫婦の合意があったとしても公正証書に書くことができません

公正証書に書けない条項の例

  • 養育費の支払い・受け取りを拒否する
  • 親子交流(面会交流)を拒否する
  • 将来的な親権者の変更を予定する
  • 将来的な親権者の変更を拒否する
  • 再婚を禁止する
  • 利息制限法の上限を超える金利を定める

金銭の支払い以外は強制執行ができない

公正証書によって強制執行ができるのは、一定の額の金銭の支払いのみと決まっています。

「一定の額の金銭」とは、支払う金額や期限などが明確に定まっているものをいいます。

金銭の支払い以外の取り決めは、公正証書で強制執行を行うことができません。

公正証書で強制執行ができない条項の例

  • 親子交流を月1回行う(金銭の支払いではない)
  • 学費の支払いについては別途協議する(支払う金額や支払い時期が明確でない)
  • 不動産の名義を変更する(金銭の支払いではない)

「子どもとの親子交流を約束したのに会わせてくれない」といった金銭の支払い以外の問題については、まず家庭裁判所に調停を申し立て、改めて取り決めを行うことになります。その調停・審判で決まった内容が守られない場合は履行勧告の制度を利用することができます。

履行勧告とは?

履行勧告とは、調停・審判などで決まった内容について、家庭裁判所が履行状況を調査し、義務者に対して任意の履行を促す手続きです。公正証書を作成しただけでは、履行勧告を行うことができません。

強制執行ができないとはいえ、公正証書で定めておけば相手方へのプレッシャーになりますし、将来的に訴訟を行うことになった場合には、取り決めの証拠として有利に働く可能性が高いです。

公正証書は双方の同意がないと作成できない

公正証書は、双方の同意がなければ作成できません。同意していない内容について、公正証書に記載することもできません。

夫婦が話し合って合意した上で、原則的には2人で公証役場に出向く必要があります。

ただし、2025年10月からのデジタル化により、要件を満たせばWeb会議(リモート方式)を利用してオンラインで作成することも可能です。

また、公正証書の内容を後から変更したくなった際も、夫婦の同意が必要になります。

離婚の公正証書の法的効果と強制執行

公正証書の証拠能力と執行力

公証人が当事者の嘱託により作成した公正証書は、「本人がこの内容で合意した」ということを公的に証明してくれます。

そのため、将来的に裁判が起こされ、相手方が「そんな約束はしていない」と主張してきた場合でも、公正証書があれば約束の内容を証明することができます。

公正証書の内容を後から覆すことは実務上、非常に困難です。過去には、慰謝料の支払いなどを定めた公正証書の取消しを求めた夫の請求を棄却した裁判例もあります(東京地判令5・6・27)。

さらに、公正証書の最大のメリットは、金銭の支払いが滞った場合に、改めて裁判を起こすことなく、直ちに財産の差し押えなどの強制執行ができる点にあります。

強制執行を申し立てるには債務名義が必要とされますが、強制執行認諾文言の付いた公正証書はこの債務名義にあたります。

強制執行を申し立てる流れ

公正証書に基づいて強制執行を行うには、執行文の付与送達という二つの手続きが必要です。

まず、強制執行を開始するためには、債務名義である公正証書に執行文を付与してもらう必要があり、この手続きは公証役場で行います。

また、強制執行の前提として、債務者に対して公正証書の謄本が送達されていることが求められます。送達とは、法令に基づき、関係者に書類を正式に送り届ける手続きのことです。送達がなされたことを証明するため、手続きでは送達証明書の提出が必要となります。

公証人に送達の申立てを行うと、公正証書の謄本を債務者へ発送してもらうことができ、その後、送達証明書が交付されます。

なお、電子データで作成された公正証書の場合は、URLとパスワードを債務者に送付し、クラウド上の謄本ファイルをダウンロードしてもらう方式での送達も可能になっています。

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強制執行が認められないケース

強制執行認諾文言を入れた場合でも、債権の内容が金額・支払期日・振込先などの点で明確に特定されていなければ、強制執行が認められないことがあります。

たとえば「学費は別途協議する」という記載は金額が特定されていないため、公正証書に記載されていても強制執行の対象にはなりません。

強制執行の実効性を確保するためには、金額・支払期日・振込先を漏れなく明記することが不可欠です。

なお、進学や病気などの特別な出費について「その都度協議する」という条項を公正証書に盛り込むこと自体は可能です。強制執行の対象にはなりませんが、相手方に協議や支払いを意識させる効果を期待して、あえて記載するケースも実務上よく見られます。

公正証書には法的効果以外のメリットもある

相手への心理的プレッシャーになる

公正証書を作成することで、相手には「支払わなければ財産を差し押さえられるかもしれない」「裁判で不利になるかもしれない」というプレッシャーが生まれます。

このように、強制執行の前の段階でも、相手の自発的な履行を促す効果が期待できます。

紛失のおそれがない

公正証書は、紛失するおそれがありません。

公正証書の原本は公証役場で保管されます。そのため、当事者が正本・謄本を紛失してしまったり、災害で失われた場合でも、再発行を受けることができます。

公正証書と離婚調停はどちらを選ぶべき?

判断の基本はシンプルで、夫婦がすでに離婚条件に合意している場合は公正証書、合意できていない場合は調停を選ぶことになります。

公正証書は、協議離婚をする際に、当事者の合意に基づいて任意で作成する証書です。これに対し、調停調書は、離婚調停が成立した場合に家庭裁判所が作成する公的な書類です。

手続きとしては全くの別物ですが、金銭の差し押えがしやすくなるという点では共通しています。

公正証書と離婚調停の特徴を比べてみましょう。

公正証書離婚調停
期間数週間程度1か月~1年程度
費用数万円〜十数万円3,000円程度
夫婦同席原則必要
(リモート方式あり)
ほぼ必要なし
強制力差し押さえのみ・差し押さえ
・間接強制
・履行勧告
・履行命令

期間の面では公正証書の方が迅速に作成できます。費用については離婚調停の方が安価です。

相手と顔を合わせたくない場合は、同席がほぼ不要な離婚調停の方が向いているといえます。ただし、2025年10月からのデジタル化により、公正証書もWeb会議(リモート方式)を利用すれば相手と直接顔を合わせずに作成できる場合があります。

効力については、離婚調停の方が多様です。公正証書で強制執行できるのは一定の額の金銭の支払いに限られますが、調停で定めた内容については、金銭の差し押さえに加えて間接強制や履行勧告・履行命令も利用できる場合があります。

親子交流(面会交流)を確実に実現したい場合は、離婚調停を利用するか、離婚後に親子交流調停を申し立てるのがよいでしょう。

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離婚の公正証書作成を専門家に依頼するメリット

有効な公正証書を作成するには専門的な知識が必要です。手続きに不安がある場合は、弁護士・行政書士・司法書士などの専門家への依頼を検討してみてください。

依頼できる専門家と、それぞれにできることの違いは以下のとおりです。

弁護士行政書士司法書士
公正証書の作成手続き
相手方との交渉××
取り決め内容へのアドバイス××

弁護士に依頼するとできること

弁護士に依頼すると、公正証書の作成に関する手続きなどを全て任せることができます。

そして、弁護士に依頼する最大のメリットは、相手との交渉を取り持ってくれる点です。相手との連絡を全て任せてしまうことも可能です。

行政書士に依頼するとできること

行政書士は、法律文書作成や手続きの専門家です。公証役場との連絡や手続き、必要な書類の準備を行えます。また、夫婦間の合意をもとに、公正証書の案文を作成することもできます。

ただし、相手との交渉の仲裁やアドバイスをすることはできません。その分、弁護士と比べて費用は安価になっています。

司法書士に依頼するとできること

司法書士も、公証役場との連絡や手続き、必要な書類の準備をすることができます。夫婦間の合意をもとに、公正証書の案文を作成することもできます。

また、司法書士は登記の専門家ですので、不動産に関する取り決めをする場合は、登記の手続きも任せることができます。

ただし、行政書士と同じく、交渉を取り持ったり、取り決めの内容に関与することはできません。

司法書士に依頼する場合も、弁護士と比べて費用を抑えることができるのがメリットです。

弁護士・行政書士・司法書士の選び方

取り決めの内容がすでに決まっている場合は、行政書士や司法書士に依頼して、費用を抑えつつ公正証書作成にかかる手間を省くのが良いでしょう。

相手との交渉が難航していたり、どんな取り決めをすればいいか分からない場合は、弁護士に依頼して総合的なサポートを受けることをおすすめします。

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離婚の公正証書についてよくある質問

Q. 離婚の公正証書は自分で作れる?

公正証書は夫婦の合意内容をもとに公証人が作成するため、弁護士への依頼は必須ではありません。ただし、強制執行認諾文言の記載漏れや債権の特定が不十分な場合、強制執行が認められない可能性があります。取り決めの内容が複雑な場合は専門家への相談が有効です。

Q. 公正証書があるのに養育費を払ってもらえない場合は?

強制執行認諾文言のある公正証書があれば、裁判を経ずに相手の給与や預貯金を差し押さえることができます。

養育費の場合は一般の債権よりも広く、給与(手取額)の2分の1まで差し押えが可能です(手取額が66万円を超える場合は33万円を除いた全額)。給与などの継続的な収入を差し押さえた場合は、将来分も継続的に回収することが可能です。なお、預貯金については未払分のみ差し押さえることができます。

また、2026年4月の法改正により、公正証書がなくても父母間の合意文書があれば、子1人あたり月額8万円を上限として差し押さえることができる制度も新設されています。

Q. 離婚後に公正証書を作ることはできる?

離婚後でも公正証書を作成することは可能です。ただし、時間が経つほど相手方の協力を得にくくなるため、できる限り早期に手続きを進めることをおすすめします。

Q. 公正証書は相手が拒否したら作れない?

公正証書は双方の合意が必要なため、相手が拒否した場合は作成できません。その場合は離婚調停を申し立て、調停調書として取り決めを残す方法が有効です。調停調書も公正証書と同様に債務名義となり、強制執行が可能です(家事事件手続法第268条)。

まとめ

離婚届が受理されれば協議離婚はできますが、養育費・慰謝料・財産分与などの金銭的な取り決めを確実に守ってもらうためには「離婚給付等契約公正証書」を作成しておくことをおすすめします。支払いが滞った際に迅速に対応できます。

年金の合意分割をおこなう場合には、公正証書か、合意書を作成して公証人の認証を受ければ、2人そろって窓口に行く必要がなくなるので便利です。

なお、離婚時に公正証書を作成する前提として、夫婦の話し合いや資料の準備などが必要となります。

離婚の公正証書の4つのポイント

  • 離婚の公正証書を作成するタイミングは、離婚届を出す前
  • 夫婦で話し合い、合意できなければ公正証書離婚できない
  • 資料をそろえて、公証役場で作成
  • 離婚の話し合いや手続きで困ったら、専門家に相談してみる

何から始めればよいのか分からない方、離婚の手続きについて専門家のサポートが欲しい方もおられるでしょう。そのような方は、離婚をあつかう弁護士の無料相談をご活用ください。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了