【2025年10月法改正】離婚の公正証書の作り方・費用・必要書類を徹底解説

夫婦が離婚をする際、最も重要なのがお金と子どもの取り決めです。
しかし、口約束だけで済ませてしまうと、将来「養育費が支払われない」「慰謝料が止まった」といったトラブルに遭い、泣き寝入りする可能性があります。
結論から言うと、離婚後の生活を守るためには公正証書の作成が不可欠です。
公正証書を作成し、強制執行認諾文言を入れておけば、万が一相手が支払いを怠った際、裁判を起こさずに、相手の給与や財産を差し押さえる(強制執行)ことができます。
公証人法の改正により、公正証書は原則として電子データで作成・保存されます。
要件を満たせば公証役場に行かずWeb会議(リモート方式)での作成が可能になり、手数料も見直されました。
この記事では、デジタル化された公正証書の作成手順から、2025年10月改定後の費用計算、書き方のポイントまでを弁護士がわかりやすく解説します。
目次
離婚の公正証書を作った方がいいのはどんなとき?
公正証書を作るのは協議離婚するとき
公正証書を作成した方がいいのは、協議離婚をするときです。
協議離婚の中でも特に以下のようなケースでは、公正証書を作成することをおすすめします。
公正証書を作った方がいいケース
- 養育費を受け取る場合
- 慰謝料や財産分与を分割払いで受け取る場合
- 年金の合意分割を行う場合
養育費や慰謝料、財産分与の分割払いなど、将来にわたって金銭を受け取る契約の場合、途中で支払いが途絶えるリスクが高いため、確実に受け取るために公正証書を作成しておくと安心です。
また、年金の合意分割を行う場合は、年金事務所で手続きを行う際に年金分割の割合を明らかにする書類を持っていく必要があり、公正証書が役立ちます。
年金分割の手続きや必要書類については、『離婚時の年金分割手続きとは?必要書類は?共働き・拒否した場合も解説』で詳しく説明しています。
養育費を請求するなら公正証書を作る!
協議離婚をする場合、養育費の支払いを公正証書にしておくことを強くおすすめします。
養育費は離婚後も毎月支払っていくものですが、途中で支払いが途絶えてしまうケースが非常に多く、確実に支払いを受けるために公正証書化することが重視されています。
養育費は、強制執行のメリットが特に大きく、一度給与の差し押さえをすれば、将来の養育費についても毎月の給料から天引きすることができます。
差押できる債権の範囲も、通常の場合は給料等の4分の1までしか認められないのと異なり、養育費の場合は給料等の2分の1まで認められており、強制執行がし易くなっています(民事執行法151条の2、152条3項)
日本公証人連合会
養育費の公正証書の作成に補助金を出している自治体もあるため、ぜひお住まいの自治体の制度を調べてみてください。
公正証書を作成するタイミングは?
離婚の公正証書の作成には期限がなく、離婚前でも離婚後でも作れますが、離婚前に作成する方が一般的です。
主な理由は、離婚前の方が相手の協力を得やすいからです。
公正証書作成のためには、原則として夫婦双方が公証役場に出向く必要があり、相手の協力が必要となります。
しかし、離婚届を出してしまってからでは、相手と連絡が取れなくなってしまう可能性もあります。
また、財産分与や慰謝料、養育費の請求には時効があります。
公正証書を作るのを待っているうちに時効を迎えてしまうと、受け取れたはずのお金を受け取れなくなってしまうかもしれません。
そのため、離婚後に公正証書を作る場合でも、なるべく早く作ることをおすすめします。
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公正証書を作らなくていいのはどんなとき?
以下のケースでは、公正証書を作成する必要はありません。
公正証書が不要なケース
- 金銭の取り決めが一切ない場合
- 調停離婚・裁判離婚の場合
公正証書は、養育費・慰謝料・財産分与などの金銭の支払義務がある場合に、将来の不履行に備えて強制執行力を持たせる目的で作成されるものです。
そのため、金銭の取り決めが一切ない場合には、強制執行を想定する必要がなく、公正証書を作成する実益はありません。
なお、離婚調停や裁判離婚など、裁判所の手続きによって取り決めを行った場合には、調停調書や判決書といった公正証書と同様に債務名義となる書類が作成されます。
これらの書類に基づいても強制執行は可能です。
したがって、調停離婚や裁判離婚の場合には、別途公正証書を作成する必要はありません。
離婚の公正証書とは?離婚協議書の違い
公正証書の定義と効力
公正証書とは、公証役場にて公証人に依頼して作成してもらう公文書です。
公正証書には、当事者の意思を証明し、争いが蒸し返されるのを防ぐという役割があります。
公正証書は、離婚のほか遺言や商取引の際にも利用されており、特に離婚で作成する公正証書のことを「離婚給付等契約公正証書」と呼びます。
公証人が、取り決めの内容の正当性や当事者の合意があるかを確認した上で作成しますので、公正証書には強い効果があります。
公正証書の最も重要な効果は、強制執行認諾文言という条項を入れておくと、お金の支払いの約束が守られなかった時に、強制執行(差し押さえ)を行えるようになるという点です。
なお、強制執行を行うための具体的な手続きや要件については、後ほど詳しく解説します。
公証役場・公証人の役割
公正証書を作成するのは、法務省が管轄する公証役場の公証人です。
公証役場は全国に約300か所あり、自宅や職場の近くなど、好きなところに申し込むことができます。
公証役場の具体的な所在地は、日本公証人連合会のHPで確認することができます。
公証人とは、元裁判官、検察官や弁護士など、法律の実務経験を持つ公証役場の職員で、公務員に準ずる立場にあります。
公証人は、夫婦の話し合いを取り持ったり、公正証書に書く内容を決めてくれるわけではありません。
夫婦が話し合って決めた内容をもとに公証人が公正証書の案文を作成し、夫婦がそれを確認して完成させるというのがおおまかな流れです。
公正証書と離婚協議書の違いは?
協議離婚の際にはよく離婚協議書が作成されます。
ただし、離婚協議書は、取り決めを強制的に実現させるほどの強い効力は持ちません。
しかし、公正証書の作成の前提として、離婚条件を整理しておきたい場合など、離婚協議書は役立ちます。
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離婚の公正証書の作り方
従来、公正証書は公証役場に出向いて対面で作成するのが一般的でした。
対面方式による公正証書作成の基本的な流れは、以下のとおりです
- 夫婦で離婚条件を協議する
- 公証役場に予約・書類提出
- 公証人が原稿作成
- 夫婦で公証役場訪問・署名
- 正本・謄本受領、手数料支払い

具体的な手続きの進め方は公証役場ごとに異なる場合があるため、事前に電話等で確認しておくことをおすすめします。
なお、2025年10月からは、一定の要件を満たす場合に限り、公証役場へ行かずにリモート方式(Web会議)で公正証書を作成することも可能となりました。
ここでは、従来の対面方式による公正証書作成の流れと、リモート方式を利用する際の注意点について解説します。
1.夫婦で離婚条件を協議する
まずは夫婦で話し合って、公正証書に盛り込む内容を決めておきます。
そして、大体の案文を作成してください。
すでに離婚協議書を作成してある場合は、それを公証役場に持っていけば足りるでしょう。
離婚協議書の案文については「離婚協議書のサンプル・ひな形」のページでご紹介していますので、公正証書の案文作成の際、ご活用ください。
2.公証役場に予約・書類提出
公正証書の作成を開始してもらうには、まず公証人との面談が必要です。
多くの公証役場では予約制を取っているため、事前に電話で面談の予約をしておく必要があります。
面談の際に、公証人に公正証書に記載したい内容を伝えます。
1で作成した案文やメモ書きを持って行きましょう。必要書類もこの時に提出します。
この時は、夫婦の一方か代理人が出席していれば問題ありませんので、依頼を受けた弁護士などが行くこともあります。
3.公証人が原稿作成
面談後、公証人は申し込み内容をもとに公正証書の原稿の作成を進めますが、その場で完成することはほとんどありません。
そのため、原稿が仕上がるまで一定期間待つ必要があります。
記載内容によりますが、作成には1〜2週間ほどかかることが多いようです。
公証人から原稿案と必要な手数料の金額がFAXやメールなどで送付された後、当事者はその内容に誤りや問題がないかを確認します。
記載内容や提出書類に不備がある場合は、電話や郵送でのやり取り、または再度公証役場を訪れて修正を行うことになります。
4.夫婦で公証役場訪問・署名
公正証書の原稿が完成したら公証役場から連絡が来るので、夫婦が公証役場へ出向く日時を決めて予約を取ります。
そして、予約した日時に2人で公証役場へ出向き、原稿の最終確認を行います。

弁護士
2人が揃って公証役場へ行くのが原則ですが、どうしても出席できない・したくない場合は、公証人に相談してみてください。
公証人の判断で、代理人による作成が可能になる場合もあります。
夫婦は公正証書の原稿を再度確認し、問題が見つかれば公証人がその場で訂正します。
公正証書が完成すると、公証人が夫婦に内容を読み聞かせ、問題がなければ双方がパソコン上でタッチペンを使って電子サインを行い、公正証書が完成します。
5.正本・謄本受領、手数料支払い
最後に手数料を支払い、完成した公正証書を受け取ります。
法改正により、公正証書は原則として電子データで保存されるため、データを出力した紙の書面で受け取るか、USBメモリ等でデータとして受け取るかを選択します。
公証人手数料の支払いには、現金またはクレジットカードを利用できます。
なお、公正証書の作成を途中で取りやめた場合も、手数料を支払う必要があります。
公正証書の原本・正本・謄本の違い
公正証書の原本は、原則として20年間、公証役場で保管されます。
公正証書の原本は当事者には交付されず、代わりに、原本と同一内容の正本および謄本が、電子データまたは書面で交付されます。
正本は、原本の正規の複製証書であり、公証人の証明(認証)が付され、原本と同じ効力を有します。
謄本も原本の正規の複製証書であり、公証人の証明が付されます。
正本と謄本はいずれも証拠力は同じですが、強制執行など一部の手続きでは正本の提出が必要となる場合があります。
リモート方式で公正証書を作成するには?
法改正により、一定の要件を満たせば、公証役場に出向かず、Web会議を利用して公正証書を作成できるようになりました。
ただし、誰でも利用できるわけではありません。
夫婦双方がリモート方式に同意し、利用を申し出たうえで、公証人が相当と認めることが条件となります。
リモート方式の利用の希望がある場合、リモート方式の要件が整っているか、リモート方式での公正証書の作成が相当かについての公証人の判断が必要となりますので、早めに公証人に相談していただく必要があります。
日本公証人連合会
また、対応機器はパソコンに限られており、スマートフォンやタブレットは使用できません。
電子サインを行うため、タッチ入力可能なディスプレイやペンタブレットなどの機器も必要です。
リモート方式が利用可能かどうかについては、まず公証役場へ相談するようにしましょう。
離婚の公正証書の作成費用
公正証書はいくら?手数料の仕組み
公正証書の作成には、公証人手数料が必要です。
公証人手数料は、公正証書に取り決める金銭の支払い額(目的金額)に応じて決められており、目的金額が大きくなるほど手数料も高くなっていきます。
なお、公証人の相談料は無料です。
目的金額に応じた公証人手数料は、以下の表をご確認ください。公証人手数料に消費税はかかりません。
| 目的金額 | 公証人手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 1万3,000円 |
| 500万円を超え1000万円以下 | 2万円 |
| 1000万円を超え3000万円以下 | 2万6,000円 |
| 3000万円を超え5000万円以下 | 3万3,000円 |
| 5000万円を超え1億円以下 | 4万9,000円 |
| 1億円を超え3億円以下 | 4万9,000円に超過額5,000万円までごとに 1万5,000円を加算した額 |
| 3億円を超え10億円以下 | 10万9,000円に超過額5,000万円までごとに 1万3,000円を加算した額 |
| 10億円を超える場合 | 29万1,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額 |
※日本公証人連合会ホームページより作成した2025年10月1日改定後の金額です。
そのほか、公正証書を書面や電子データで発行する手数料がかかります。
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 正本・謄本の紙での交付 | 1枚につき300円 |
| 正本・謄本の電磁的記録での交付 | 1件につき2,500円 |
目的金額別の手数料計算ルール
離婚の際には、慰謝料や養育費など、複数の金銭の支払いを1つの公正証書で取り決めることがほとんどです。
しかし、単にその合計が目的金額となるわけではありません。
慰謝料+財産分与と養育費とで別々に手数料を計算し、その合計を支払うことになります。
養育費は、必ずしも月々の支払いの総額ではない点に注意してください。
2025年10月の改定により、支払いが5年以上に及ぶ場合は5年分の金額を目的金額として手数料を計算します。
なお、年金分割を定める場合は追加で1万3,000円の手数料がかかります。
ただし、年金分割は、公正証書ではなく「年金分割合意書」という書面を作成して公証人の認証を受けることも可能です。
その場合は手数料が6,500円となります。プライバシーや費用面からすると、年金分割合意書を作成するほうが良いかもしれません。
公正証書作成費用のシミュレーション
以下のケースで、実際の公正証書作成費用を計算してみましょう。
目的金額
財産分与:1,000万円
慰謝料:50万円
養育費:子ども1人、月8万円を10年間
公証人手数料は、財産分与と慰謝料を合算した金額を目的金額として算定します。
養育費は、月々の支払いの合計額が目的金額となりますが、支払期間が5年を超える場合は5年分を上限とします。
したがって、合計は480万円(月8万円×12か月×5年)となります。
| 項目 | 金額 | 公証人手数料 |
|---|---|---|
| 財産分与・慰謝料 | 1,050万円 | 26,000円 |
| 養育費 | 480万円 | 13,000円 |
また、公正証書の原本は公証役場で保管されるため、正本・謄本の交付には別途交付手数料がかかります。
交付手数料は受け取り方法によって異なり、本ケースでは、電子データで交付を受ける場合は41,500円、紙の書面で3枚交付を受ける場合は39,900円となります。
費用負担は誰?一般的な負担割合
公正証書の作成費用をどちらが払うかという決まりはありません。
どちらが負担するかは、事前に夫婦で話し合っておくのがよいでしょう。
公正証書の作成に必要な書類
公正証書の作成に必要な書類は以下のようなものです。
- 本人確認資料
- 婚姻関係を確認するための戸籍謄本
- 分与する財産を特定するための書類
- 年金分割のための情報通知書・年金手帳、年金分割合意書など
- 委任状・代理人の本人確認資料(代理人が作成する場合)
留意点
公正証書に盛り込む内容や公正証書作成のタイミングによって、必要な書類が異なります。
自分たちのケースではどのような書類が必要なのかを、あらかじめ公証役場に確認しておくことをおすすめします。
公正証書を作成する際は、以下のうちいずれかの組み合わせで本人確認が必要です。
- 印鑑登録証明書(発行3か月以内のもの)と実印
- 顔写真のある身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)と認印
なお、代理人が作成に行く場合は、本人の印鑑登録証明書が必要になります。
代理人が作成する場合
代理人による公正証書の作成が認められた場合は、本人が作成した委任状が必要となります。
委任状には実印の押印が求められ、その実印であることを証明する印鑑登録証明書の提出が必要です。あわせて、代理人の本人確認資料も求められます。
また、当事者が夫婦であることを証明するために、戸籍謄本が必要になります。
離婚前に公正証書を作成する場合は、2人が戸籍上夫婦であることを示す必要があり、同じ戸籍に入っているため戸籍謄本は1通あれば足ります。

弁護士
離婚後の場合は、2人が既に離婚をしていることを示す必要があり、夫婦それぞれの戸籍謄本が必要になります。
財産分与を公正証書に盛り込む場合は、分与の対象となる財産を特定できるよう、その内容や価値を具体的に示す資料が必要になります。
たとえば、不動産や預貯金、保険などについて名義や評価額が分かる以下のような書類を準備します。
- 不動産の登記簿謄本
- 固定資産評価証明書
- 車検証
- 通帳
- 保険証券
- 解約返戻金証明書
さらに、年金分割を公正証書で定める場合には、年金分割のための情報通知書と、夫婦双方の年金手帳が必要です。
情報通知書の取得にはおおむね3週間前後かかるため、公正証書作成を予定している場合は、早めに準備を始めておくことが重要です。
離婚の公正証書に書く内容
公正証書には、離婚の際に話し合って決める様々なことを記載することができます。
離婚の公正証書(離婚給付等契約)に記載できる項目は、主に以下のようなものです。
離婚全般に関すること
- 離婚の意思表示(離婚の合意)
- 離婚届の提出日・提出者
- 守秘義務
- 住所や勤務先が変わった際の通知義務
- 裁判管轄
- 清算条項
守秘義務とは、夫婦間しか知り得ないことを第三者に口外しない義務です。
裁判管轄とは、離婚後に調停や裁判を起こすことになったら、どの裁判所を使うかをあらかじめ決めておく条項です。
清算条項は、当事者間にこれ以上の債権債務がないことを確認する条項です。これがないと、後から別の請求をされる余地が残ってしまいます。
お金や財産に関すること
- 離婚慰謝料
- 財産分与
- 婚姻費用
- 年金分割(別途「年金分割合意書」にすることも可能)
- 期限の利益喪失
- 分割払いの金利
- 遅延損害金
慰謝料については、金額、支払方法、支払期限などを明記します。
財産分与についても、それらの項目が必要になりますが、そもそも財産分与の対象について明記する必要がある場合もあります。
また、不動産の所有権移転登記を離婚後に行うという条項を含めることもあります。
期限の利益喪失とは、分割払いの支払い期限が守られなかったときに、残りの金額を一括で請求することができるという条項です。
期限の利益喪失条項は、財産分与や慰謝料を分割払いにする際によく盛り込まれます。これがあれば、延滞があったときに、残りの金額を一気に強制執行することができるからです。
遅延損害金は、金銭の支払いが期限を過ぎてしまったときに、定めた利率にもとづいて請求額を加算することを約束する条項です。
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子どもに関すること
- 子どもの親権者・監護者
- 子どもの養育費
- 子どもとの面会交流(子どもと会う頻度)
養育費については、支払う時期(何歳から何歳まで)、毎月の支払金額、支払日、支払方法などを明記するのが、強制執行を行うためのポイントです。
以下の事項について具体的に書くことを忘れないでください。
養育費の条項に含める事項
- 支払う人と受け取る人
- 養育費として支払うこと
- いつからいつまで支払うか
- 毎月の支払い金額
- 毎月の支払い期限
- 支払い方法
公正証書で強制執行を行うためには、債権の内容が明確に定まっていることが求められます。
そのため、あいまいな書き方をしてしまうと強制執行ができない可能性があります。
養育費の条項の例
第●条(養育費)
甲は乙に対し、丙丁の養育費として令和○年○月○日から丙丁が満20歳に達する月まで、1人につき1か月あたり金○万円を支払う義務があることを認め、これを毎月○日限り乙の指定する口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲が負担するものとする。
※この場合、丙と丁は子どもを指しています。
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強制執行認諾文言
強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんだくもんごん)とは、期限内に支払わなければ強制執行を受けてもいいという旨を約束する言葉です。
これがなければ、せっかく公正証書を作成したにも関わらず、強制執行を行う権利が得られませんので、忘れずに記載しましょう。
強制執行認諾文言の例
第●条(強制執行認諾)
甲は、第〇条の債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
公正証書に書けないこと・できないこと
公正証書は万能ではなく、以下の3つの制限があります。
- 法令違反の内容は記載できない
- 金銭の支払い以外は強制執行できない
- 双方の同意がなければ作成できない
それぞれ具体的に見ていきましょう。
法令に違反する内容は公正証書に書けない
公序良俗に反する条項(民法90条)や、法令に違反する条項を公正証書に盛り込もうとしても、公証人は認めてくれません。
たとえば、以下のような条項は夫婦の合意があったとしても公正証書に書くことができません。
公正証書に書けない条項の例
- 養育費の支払い・受け取りを拒否する
- 面会交流を拒否する
- 将来的な親権者の変更を予定する
- 将来的な親権者の変更を拒否する
- 再婚を禁止する
- 利息制限法の上限を超える金利を定める
金銭の支払い以外は強制執行ができない
公正証書によって強制執行ができるのは、一定の額の金銭の支払いのみと決まっています。
「一定の額の金銭」とは、支払う金額や期限などが明確に定まっているものをいいます。
また、金銭の支払い以外の取り決めは、公正証書で強制執行を行うことができません。
公正証書で強制執行ができない条項の例
- 面会交流を月1回行う(金銭の支払いではない)
- 学費の支払いについては別途協議する(支払う金額や支払い時期が明確でない)
- 不動産の名義を変更する(金銭の支払いではない)
「子どもとの面会交流を約束したのに会わせてくれない」などといった、金銭の支払い以外の問題については、裁判所の履行勧告などによって実現を目指すことになります。
強制執行ができないとはいえ、公正証書で定めておけば相手方へのプレッシャーになりますし、将来的に訴訟を行うことになった場合には、取り決めの証拠として有利に働く可能性が高いです。
履行勧告とは?
履行勧告とは、調停・審判などで決まった内容について、家庭裁判所が履行状況を調査し、義務者に対して任意の履行を促す手続きです。
履行勧告を行うには、裁判所の調停や審判で取り決めをしている必要があります。したがって、公正証書を作成しただけでは、履行勧告を行うことができません。
公正証書は双方の同意がないと作成できない
公正証書は、双方の同意がなければ作成できません。同意していない内容について、公正証書に記載することもできません。
夫婦が話し合って合意した上で、原則的には2人で公証役場に出向く必要があります。
また、公正証書の内容を後から変更したくなった際も、夫婦の同意が必要になります。
離婚の公正証書の法的効果と強制執行
なぜ公正証書は強いのか?証拠能力と執行力
公証人が当事者の嘱託により作成した公正証書は、「本人がこの内容で合意した」ということを公的に証明してくれます。
そのため、公正証書は、民事裁判を行う際に有効な証拠になります。
もし将来的に裁判が起こされ、相手方が「そんな約束はしていない」と主張してきたとしても、公正証書があれば、約束の内容が保証されるのです。
過去には、慰謝料の支払いなどを定めた公正証書の取消しを求めた夫の請求を棄却した裁判例もあります。
さらに、公正証書の最大のメリットは、金銭の支払いが滞った場合に、改めて裁判を起こすことなく、直ちに財産の差押えなどの強制執行ができる点にあります。
強制執行を申し立てるには、債務名義が必要とされます。
債務名義とは、金銭などの支払いを受ける権利があることを証明する書類です。
強制執行認諾文言の付いた公正証書は、債務名義にあたります。
そのため、ただちに強制執行を申し立てることができるのです。
強制執行を申し立てる流れ
公正証書に基づいて強制執行を行うには、執行文の付与と送達という二つの手続きが必要です。
まず、強制執行を開始するためには、債務名義である公正証書に執行文を付与してもらう必要があり、この手続きは公証役場で行います。
また、強制執行の前提として、債務者に対して公正証書の謄本が送達されていることが求められます。送達とは、法令に基づき、関係者に書類を正式に送り届ける手続きのことです。送達がなされたことを証明するため、手続きでは送達証明書の提出が必要となります。
公証人に送達の申立てを行うと、公正証書の謄本を債務者へ発送してもらうことができ、その後、送達証明書が交付されます。
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公正証書には法的効果以外のメリットもある
相手への心理的プレッシャーになる
公正証書に強い法的効果があるのは、ご説明した通りです。
公正証書を作成することで、相手には「支払わなければ財産を差し押さえられるかもしれない」「裁判で不利になるかもしれない」というプレッシャーが生まれます。
このように、強制執行の前の段階でも、相手の自発的な履行を促す効果が期待できます。
紛失のおそれがない
公正証書は、紛失するおそれがありません。
公正証書の原本は公証役場で保管されます。
そのため、当事者が正本・謄本を紛失してしまったり、災害で失われた場合でも、再発行を受けることができます。
公正証書と離婚調停どちらを選ぶべき?
公正証書の作成方法や費用を知ると、「調停の方がよいのではないか」と疑問に感じる方もいるでしょう。
判断の基本はシンプルで、夫婦がすでに離婚条件に合意している場合は公正証書、合意できていない場合は調停を選ぶことになります。
公正証書は、協議離婚をする際に、当事者の合意に基づいて任意で作成する証書です。
これに対し、調停調書は、離婚調停が成立した場合に家庭裁判所が作成する公的な書類です。
手続きとしては全くの別物ですが、公正証書と調停調書は共通した効果を持っています。
それは、金銭の差し押さえがしやすくなるという点です。
公正証書と離婚調停の特徴を比べてみましょう。
| 公正証書 | 離婚調停 | |
|---|---|---|
| 期間 | 数週間程度 | 1か月 ~1年程度 |
| 費用 | 数万円 ~十数万円 | 3,000円程度 |
| 夫婦同席 | 必要あり | ほぼ必要なし |
| 強制力 | 差し押さえのみ | ・差し押さえ ・間接強制 ・履行勧告 ・履行命令 |
期間でいうと、公正証書の方が迅速に作れることが分かります。
費用に関しては、公正証書よりも離婚調停の方が安価です。時間がかかってもいいから費用を抑えたいという方は、合意ができていてもあえて離婚調停を申し立てることもあります。
また、相手と顔を合わせずに手続きを行いたい方にとっては、夫婦が同席する必要がほとんどない離婚調停の方が向いています。
効力については、離婚調停の方が多様です。
公正証書で強制執行ができるのは一定の額の金銭の支払いのみです。
一方、離婚調停で定めたことに関しては、金銭の支払いの強制執行のほかにも、間接強制や履行勧告・履行命令が可能な場合があります。
間接強制や履行勧告・履行命令は、いずれも裁判所から当事者に対して取り決めの履行を促したり命令したりする手続きです。
間接強制や履行勧告は、面会交流などの実効性を確保するためにも役立ちます。
面会交流を確実に行いたい方は、離婚調停を行うか、離婚後に面会交流調停を申し立てるのがよいでしょう。
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離婚の公正証書は専門家に相談しよう
有効な公正証書を作成するには専門知識も必要です。
手続きに不安がある場合は、弁護士や行政書士・司法書士などの専門家への依頼も検討してみてはいかがでしょうか。
弁護士に依頼するとできること
弁護士に依頼すると、公正証書の作成に関する手続きなどを全て任せることができます。そして、弁護士に依頼する最大のメリットは、相手との交渉を取り持ってくれる点です。相手との連絡を全て任せてしまうことも可能です。
行政書士や司法書士は、公正証書作成の手続きを行うことはできますが、交渉を仲裁したり、取り決めの内容にアドバイスをすることが法律上できません。
行政書士に依頼するとできること
行政書士は、法律文書作成や手続きの専門家です。公証役場との連絡や手続き、必要な書類の準備を行えます。また、夫婦間の合意をもとに、公正証書の案文を作成することもできます。
ただし、相手との交渉の仲裁やアドバイスをすることはできません。その分、弁護士と比べて費用は安価になっています。
司法書士に依頼するとできること
司法書士も、公証役場との連絡や手続き、必要な書類の準備をすることができます。夫婦間の合意をもとに、公正証書の案文を作成することもできます。
また、司法書士は登記の専門家ですので、不動産に関する取り決めをする場合は、登記の手続きも任せることができます。ただし、行政書士と同じく、交渉を取り持ったり、取り決めの内容に関与することはできません。
司法書士に依頼する場合も、弁護士と比べて費用を抑えることができるのがメリットです。
弁護士・行政書士・司法書士、どれを選んだらいい?
取り決めの内容がすでに決まっている場合は、行政書士や司法書士に依頼して、費用を抑えつつ公正証書作成にかかる手間を省くのが良いでしょう。
相手との交渉が難航していたり、どんな取り決めをすればいいか分からない場合は、弁護士に依頼して総合的なサポートを受けることをおすすめします。
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まとめ
離婚届が受理されれば協議離婚はできますが、離婚にまつわる数々の不安をなくすには公正証書を作成しておくと安心です。
公正証書を作成しておけば、離婚にまつわる金銭の支払いがとどこおった時に、強制執行がしやすくなるメリットがあります。
養育費、財産分与、慰謝料などの支払いが問題になる夫婦間では、万が一に備えて離婚給付等契約(公正証書)を、離婚する前に作成しておくことが大切です。
また、年金の合意分割をおこなう場合には、離婚給付等契約の公正証書か、別途合意書を作成して公証人の認証を受ければ、2人そろって窓口に行く必要がなくなるので便利です。
なお、離婚時に公正証書を作成する前提として、夫婦の話し合いや資料の準備などが必要となります。
離婚の公正証書の4つのポイント
- 離婚の公正証書を作成するタイミングは、離婚届を出す前
- 夫婦で話し合い、合意できなければ公正証書離婚できない
- 資料をそろえて、公証役場で作成
- 離婚の話し合いや手続きで困ったら、専門家に相談してみる
何から始めればよいのか分からない方、離婚の手続きについて専門家のサポートが欲しい方もおられるでしょう。
そのような方は、離婚をあつかう弁護士の無料相談をご活用ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
公証人は、公正証書に記載したい内容が違法ではないか、無効になってしまわないかの審査は行いますが、当事者同士の交渉や調整を行ってくれるわけではありません。