離婚で夫が脅してくる!離婚できる可能性と脅迫の対処法を解説
「夫に離婚を切り出すと、離婚するならどうなるかわからないぞと言われた。脅迫になるのか」
「離婚したくないのに、離婚を拒否するなら殺すと夫に脅された」
離婚を切り出しても夫に脅されて離婚できなかったり、離婚したくないにもかかわらず夫が脅迫してきて離婚を求められたりして、お悩みの方はいませんか。
離婚の話をしていて脅迫されてしまうと、不安になってどうすればよいかわからないという気持ちもわかります。
今回は、離婚のときの夫の脅しが脅迫罪と認められるケースや、脅迫されたときの対処法、離婚で脅されたときに知っておくべきことについて解説します。
目次
離婚のときの脅しが脅迫罪と認められるケース
脅迫罪とは、「被害者本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産を侵害するような害悪を告知する犯罪」です(刑法222条)。刑罰は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。
ここでは、脅迫罪と認められるような発言例や、脅迫で離婚できるかどうかについて解説します。
脅迫罪となるような脅し文句の例
脅迫罪が成立するには、「害悪の告知」があったかどうかが重要になります。害悪の告知とは、脅迫の対象者の「生命」、「身体」、「自由」、「名誉」、「財産」に対して侵害する旨を告げることを指します。
また、対象となるのは、相手本人だけでなく、相手の親族(夫婦間の子ども、実家の親や兄弟姉妹)も含みます。
たとえば、以下のような発言を離婚の話し合いのときにされたという場合は、脅迫罪が認められる可能性が高いです。
害悪の告知の種類 | 発言例 |
---|---|
生命 | 「離婚するなら殺すぞ」 |
身体 | 「離婚しなければただのケガじゃすまないぞ」 |
自由 | 「家から出られないようにしてやる」 |
名誉 | 「お前の親に秘密をばらす」 |
財産 | 「家を燃やすぞ」「車を壊してやる」 |
脅迫の手段には、直接言われることももちろんですが、手紙やメール、SNS、LINEなどの文面で示されることも含まれています。
警察に介入してもらえないおそれが大きい
夫婦間であっても脅迫罪は成立します。ただし、夫婦間での脅迫の場合は、警察に介入してもらえないおそれが大きいでしょう。
夫婦間の脅迫であれば、「法は家庭に入らず」という考えから、夫に脅迫されたとしても単なる夫婦喧嘩と思われて、夫を脅迫罪で逮捕してもらえないおそれがあります。
なお、「殴るぞという発言を無視していたら夫に実際に殴られた」「ナイフを持ちながら殺すぞと言って夫が暴れている」といった場合は、夫を逮捕してもらうことができます。
脅迫を理由に離婚できる可能性はある
配偶者から脅迫を受けたという場合は、精神的DVやモラハラに該当し、法定離婚事由(離婚が法的に認められるための理由)の一つである「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」とみなされる可能性があります。
法定離婚事由
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
そのため、離婚協議で話がまとまらない場合は、離婚調停や離婚裁判に進んで、離婚を目指すことをおすすめします。
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日常的に「離婚だ!」という場合は脅迫ではなくモラハラ
こちらとしては離婚を望んでいないにもかかわらず、「俺の言うことを聞けないなら離婚だ!」と、夫に言われたことがあるという方もいるかもしれません。なかには、日常的に何かにつけて「離婚だ!」と言われてしまうという方もいるでしょう。
単なる夫婦喧嘩や気に食わないことがあるなどの理由で「嫌なら離婚だ!」と配偶者を脅すのは、脅迫罪にはあたらないかもしれませんが、モラハラに該当する可能性はあります。
そのため、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」として、裁判で離婚が認められる場合もあります。
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「離婚するなら自殺する」は脅迫罪にはならない
離婚を切り出したときに、興奮した夫に「離婚するなら自殺してやる」と言われた方がいるかもしれません。
「離婚するなら自殺する」といった発言は、たしかに脅しのように聞こえます。しかし、こちら側に対して害悪の告知があるわけではないため、脅迫罪とは認められません。
ただし、「離婚するならお前を殺して俺も死ぬ」「遺書にお前から受けた仕打ちを書いてから自殺する」などと言われた場合は、生命や名誉などについて害悪の告知をされたと判断されるため、脅迫罪として認められる可能性が高いです。
また、本当に自殺してしまったとしても、基本的にこちら側が罪を負うことはありません。ただし、「首吊りなら自殺できる」「家のなかでは迷惑だから外で自殺しろ」とこちら側が発言し、実際に相手が自殺した場合は、自殺幇助や自殺教唆といった犯罪が成立するおそれがあります。売り言葉に買い言葉で発言してしまわないよう注意しましょう。
離婚で夫に脅迫されたときの対処法
第三者を入れて話す
離婚を申し出ても脅迫されてしまい、話が進まないという場合は、第三者を介して話してみるのも一つの手です。
間に別の人が入ることで、夫が黙って話を聞くということもあると思います。第三者を挟むと、感情的にならず冷静に話し合えるほか、中立的な意見を得られる可能性も高まるでしょう。
なお、第三者を選ぶときには、自分の親や相手の親など、どちらかに肩入れするような人を選ぶと、話が余計にこじれてしまうおそれがあります。できるだけ中立の立場である弁護士などに依頼するようにしましょう。
別居する
離婚の話し合いのときに脅迫されてしまうという場合は、別居を検討してみることをおすすめします。
一度距離を置いて冷静になることで、相手も考えを整理することができるかもしれません。
また、別居をすることで、自分が離婚について真剣に考えていると相手に伝えられる可能性が高くなります。
一般的に、別居期間が3~5年と長期に及べば、裁判で離婚請求が認められる可能性が高くなります。相手が別居中の婚姻費用(夫婦が婚姻している間の生活費)の支払いを減らすために、早期の離婚に応じる可能性もあるでしょう。
ただし、別居をする際に黙って出ていくことは避けましょう。正当な理由なく突然家出をして帰ってこないというのは「悪意の遺棄」にあたり、むしろ相手から離婚慰謝料を請求されてしまう原因になるほか、こちらからの離婚請求が認められづらくなるおそれがあります。
置き手紙やメールなどでも良いので、別居したい旨を伝えておきましょう。
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保護命令を申し立てる
別居した後は、必要に応じて保護命令を申し立てることをおすすめします。
保護命令とは、裁判所がDV被害者からの申立てにより、その生命または身体に危害が加えられることを防止するため、接近禁止や自宅からの退去を命令するものです。
たとえば、相手から「離婚したらケガでは済まない」などと脅迫されている場合は、身の安全のこともありますので保護命令を利用しましょう。
保護命令に違反すると、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます(DV防止法29条)。
離婚調停を起こす
離婚についての話し合いができないということであれば、離婚調停を申し立てることをおすすめします。
離婚調停とは、家庭裁判所の調停委員会が双方から話を聞き、中立的な立場から意見を調整して、夫婦の合意を目指す手続きです。
第1回の調停の冒頭と、調停が成立するときを除いて、基本的に夫婦が同席することはないため、脅迫などをおそれずに離婚の話を進めることができます。
夫と顔を合わせずに離婚の話を進める方法をほかに知りたいという方は、『顔を合わせずに離婚する方法はある?離婚を弁護士に依頼するメリット』をご覧ください。
弁護士に相談する
離婚の話を進めようと思っても脅迫されてしまうという場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
協議離婚をしようにも話ができない場合は、離婚調停や離婚裁判を検討することになるでしょう。弁護士に相談することで、交渉や主張を代理でおこなってもらうことができます。顔を合わせる必要もありません。
また現在の状況から、夫の行動がモラハラにあたるかどうか、離婚が認められそうかどうかといったことを法的な観点で判断してもらえるというメリットがあります。慰謝料請求や財産分与、養育費などの離婚条件についても的確に主張してもらえるでしょう。
離婚で脅されたときに知っておくべきこと
離婚届不受理申出を出しておく
夫から「離婚しなければどうなるかわからないぞ」などと脅迫されており、いつ勝手に離婚届けを出されるかわからないという場合は、離婚届不受理申出を出しておきましょう。
離婚届不受理申出とは、離婚届が勝手に提出されても受理されないように役所に申し出る手続きです。
一度離婚届が受理されてしまうと、離婚を覆すには調停や裁判をおこなわなければならず、手間も時間もかかってしまいます。そのため、忘れずに役所に申し出るようにしましょう。
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脅迫によって離婚させられた場合は離婚を取り消せる
もし「脅迫されて離婚届にサインして役所に提出してしまった」という場合であっても、離婚を取り消すことができます。
夫婦が話し合って合意したうえで離婚届を提出した場合は、離婚を取り消すことはできません。しかし、詐欺や脅迫によって離婚した場合は、離婚を取り消すことができます(民法764条、747条1項)。
また、一方が無断で離婚届を作成して提出したときなどは、離婚が無効(はじめからなかったこと)になります。
離婚の取り消しや無効について詳しく知りたい方は、『離婚を取り消し・無効にすることはできる?ポイントを弁護士が解説』をご覧ください。
脅迫している側の離婚請求は基本的に認められない
夫から「離婚しなければどうなるかわからないぞ」などと脅迫されており、離婚を求められている方もいるでしょう。脅迫している側からの離婚請求は、原則として認められることはありません。
夫から脅迫を受けて離婚を迫られている場合、夫は有責配偶者に該当する可能性があります。有責配偶者とは、離婚原因を生じさせた責任がある配偶者のことです。
原則として、有責配偶者からの離婚請求は認められていません。ただし、長期間別居していたり、未成熟子がいなかったりといった事情がある場合は、有責配偶者からの離婚請求も認められることがあります。
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・有責配偶者でも離婚できる?有責配偶者と離婚する場合どうする?
脅迫の証拠を残しておくとよい
離婚裁判での離婚や慰謝料請求を認めてもらったり、脅迫罪を立証したりする場合に備えて、「夫から脅迫された」ことを立証できるような証拠をそろえておきましょう。
有効な証拠として、以下のようなものが挙げられます。
脅迫を示すのに有効な証拠
- 録音、録画
- 日記、メモ
- うつ病などの診断書
- 市役所、警察、配偶者暴力相談支援センター等への相談記録
証拠がないという場合は、弁護士に相談すれば有効な証拠を集めるアドバイスをしてくれる可能性があります。
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離婚で夫が脅してくるときは弁護士に相談!
離婚を切り出しても夫が脅してくるという場合は、モラハラや精神的DVにあたるとして離婚が認められる可能性があります。
自分が離婚したくない状態で夫が「離婚しろ」と脅している場合は、基本的に夫からの離婚請求は認められない点を覚えておきましょう。
離婚問題で夫に脅迫されて困っているという場合は、一人で抱え込まず、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、現在の状況から離婚が認められるかどうかを判断してくれるほか、調停や裁判に移行した際もスムーズに対応してくれます。
脅迫についての慰謝料が請求できるかどうか、財産分与や養育費といった離婚条件はどうするかといった点についても的確にアドバイスをしてくれるでしょう。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了