【独身の子が亡くなったら】賃貸アパートの相続で親が知っておきたいこと
故人に配偶者や子、孫がいない場合は親が相続人となります。賃貸アパートの相続が発生したときは、遺産分割協議や相続登記、相続税の申告などを期限内に完了させる必要があります。円満な相続や手続きをスムーズに進めるためにも、あらかじめ知識を身につけておくと安心です。
この記事では、子供名義の賃貸アパートを親が相続するときの基礎知識をわかりやすく解説します。
『子供名義の賃貸アパートの相続』に関する基本事項
法定相続分による相続割合【親が相続する場合】
相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるのが法定相続分です。
故人に配偶者や子、孫がいない場合の相続人は親になります。このとき、父または母の場合は全額、父母の場合は2分の1ずつで分割します。
- 父または母:全額
- 父母:1人あたり1/2
子供が亡くなって8,000万円の遺産が発生し、両親で相続する場合は4,000万円ずつで分けます。
ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
賃貸アパートを相続するときの手続きの流れ
賃貸アパートを相続する場合は、以下のような流れで手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは、被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、賃貸アパートや不動産、預貯金など、どのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
4.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
5.賃貸アパートの債務状況を確認する
被相続人が賃貸アパートを所有する際に、借り入れていたローンなどの債務が残っている可能性があります。
相続登記を行う前に、債務の残高や返済状況などを必ず確認しましょう。債務が残っている場合は、債務の引継ぎや清算方法を検討する必要があります。
また、管理会社にアパートの管理を委託している場合は、相続が発生したことを伝え、必要に応じて手続きを進めます。
6.相続登記の申請手続きを行う
相続登記の申請手続きを行い、賃貸アパートの名義を相続人に変更します。
7.準確定申告を行う
相続する賃貸アパートで収益が発生している場合は、準確定申告が必要となります。準確定申告とは、被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得に関する確定申告のことです。準確定申告の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
準確定申告では賃貸収入や経費などを申告し、課税対象となる所得を算定します。
8.賃貸人の変更にともなう変更通知などを行う
必要に応じて、相続人がアパートの賃貸人になったことによる賃貸借契約書の書き換えや、賃料の新しい振込先を入居者(借主)に通知します。
9.火災保険の名義変更手続きを行う
火災保険に加入していた場合は保険会社に連絡し、名義変更の手続きを行います。
10.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、相続税額が発生した場合は納税も行います。
賃貸アパートの相続手続きはほかの不動産相続と比べて時間と手間がかかるため、専門家に相談をし、早めに準備を進めたほうがいいでしょう。
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賃貸アパートの相続税評価額を計算する方法
賃貸アパートの相続税評価額は、建物と敷地の評価額を合算して算定します。
建物部分の評価方法
建物の評価額は、市区町村が個々の不動産について毎年算定している固定資産税評価額をもとに算定します。
建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額に1から借家権割合(30%)と賃貸割合の積を引いたものを乗じて算定します。借家権割合とは、賃借人から賃料を受け取る権利の割合です。賃貸割合とは、全体の床面積に対して賃貸に供されている床面積の割合を指します。
評価額=固定資産税評価額×(1-0.3×賃貸割合)
敷地部分(貸家建付地)の評価方法
敷地部分の評価額は、敷地の評価額に1から借地権割合と借家権割合(30%)、賃貸割合の積を引いたものを乗じて算定します。借地権割合とは、土地の所有者が賃借人から地代を受け取る権利の割合のことを指します。
評価額=敷地の評価額×(1−借地権割合×0.3×賃貸割合)
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相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は遺産のすべてに対して課税されるわけではなく、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生します。また、場合によっては相続税額が発生することもあります。
相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
父or母(1人) | 3,600万円 |
父母(2人) | 4,200万円 |
たとえば、父または母が法定相続人の場合は3,600万円、父母の場合は4,200万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
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小規模宅地等の特例で敷地部分の相続税評価額を50%減額
小規模宅地等の特例とは、要件を満たす土地の評価額を最大で80%減額できる制度です。そのため、小規模宅地等の特例は、相続税額の大幅な負担減につながります。
賃貸アパートなどのような貸付事業用の土地は50%減額できます。小規模宅地等の特例を適用するための要件は、以下のとおりです。
- 被相続人などが所有する賃貸アパートの敷地であったこと
- 配偶者または要件を満たす親族が相続すること
- 適用できる土地の面積は200㎡に対応する部分まで
- 相続税の申告期限までは貸付事業を営むこと
敷地の評価額が5,000万円の場合、小規模宅地等の特例を適用することで200㎡に対応する部分までは2,500万円に減額されます。
賃貸アパートの相続は相続税額が高額になりやすいため、適用可能かどうかを確認しましょう。
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相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は、税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほかe-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
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賃貸アパートの相続登記手続きと費用の相場
賃貸アパートなどの不動産を相続した場合は相続登記の申請を行い、相続人に名義を変更する必要があります。相続登記の手続きは、民法上では被相続人の死亡日から10年以内が時効とされていましたが、2024年4月からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが義務付けられました。
相続登記の申請手続きに必要な書類
賃貸アパートの相続登記をするには、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまでのすべての謄本)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 賃貸アパートを相続する相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
- 相続関係説明図(戸籍謄本・除籍謄本の原本の還付を希望しない場合は不要)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合のみ)
相続登記の申請手続きは法務局で行いますが、申請方法は、法務局の窓口または郵送の2通りあります。
相続登記の申請手続きにかかる費用
相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費のほか、申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬などがあります。
必要書類の取得費は、それぞれ数百円程度です。相続登記の登録免許税は、賃貸アパートの固定資産税評価額に税率(0.4%)を乗じて計算します。たとえば、1億2,000万円の賃貸アパートにかかる登録免許税は48万円です。
司法書士の報酬はさまざまですが、相場は10万円~20万円程度と考えておくとよいでしょう。司法書士に依頼する場合は、複数の司法書士から見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。
相続登記は手続きが複雑で、費用もかかります。相続人が決まったら、早めに手続きを進めましょう。
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税務調査の対象になりやすいケース
税務調査とは、税務署が納税者の申告内容を調査し、正確な申告が行われているかどうかを調査するためのものです。税務調査は、納税者全員に行われる可能性がありますが、特に、以下の場合は税務調査の対象になりやすいと考えられます。
- 相続税の申告額が大きい場合
- 相続税の申告内容に不審な点がある場合
- 過去に悪質な申告漏れや申告内容に誤りがある場合
税務調査の対象となった場合、税務署から申告内容について説明を求められることがあります。また、申告内容に不備や誤りがあると、修正申告を促される場合もあります。
税務調査のリスクを避けるためにも、申告書の記載内容や添付書類を誤りなく作成することが重要です。税理士に相談して、申告書の作成や税務調査対策を依頼することも検討しましょう。
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『子供名義の賃貸アパートの相続』に関するよくある質問
賃貸アパートを相続したら何をすればいい?
賃貸アパートの相続手続きは、以下の流れで進めます。
1.遺言書の有無を確認する
2.相続人を確認する
3.相続財産の評価額を確認する
4.遺言書がない場合は相続人同士で遺産分割協議を行う
5.アパートの債務状況を確認する
6.相続登記の申請をする
7.収益が発生している場合は準確定申告を行う
8.賃貸人の変更通知などを行う
9.火災保険の名義変更手続きを行う
10.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続した賃貸アパートの家賃収入は誰のもの?
遺産分割完了後の家賃収入は、賃貸アパートの相続人のものとなります。なお、遺産分割協議前の家賃収入は、法定相続分に応じて相続人全員に分配します。
アパートを相続したらどのように管理すればいい?
アパートの管理には、以下のようなものがあります。
・入居者の募集や賃料の回収
・建物の修繕やメンテナンス
・税金や保険料の支払い
これらの管理業務を誰が担当するのか、どのように費用を負担するのかを決めておく必要があります。アパートの管理を不動産会社や管理会社に委託している場合は、相談してみるといいでしょう。
相続した賃貸アパートの固定資産税はいくら?
賃貸アパートの固定資産税は、自治体から毎年送付されてくる納税通知書に記載されているので確認しましょう。紛失などで手元にない場合は、市区町村の税務課の窓口などでも閲覧できます。
相続後に賃貸アパートを売却したら税金がかかる?
相続後に賃貸アパートを売却する際、売買契約の際に印紙税が必要になるほか、売却益が出た場合には譲渡所得税(所得税と住民税)がかかります。
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士