配偶者と子供で空き家を相続する際に知っておきたいこと
被相続人が亡くなり、配偶者や子供が空き家を相続することもあるでしょう。空き家は管理や処分に手間と費用がかかるため、相続トラブルに発展するケースも少なくありません。そこで今回は、配偶者と子供で空き家を相続する場合に知っておきたいことを、わかりやすく解説します。
『配偶者と子供による空き家の相続』に関する基本事項
問題になりつつある空き家
空き家の放置は地域の景観や治安の悪化につながるだけでなく、防災や防犯などの面でも問題となっています。そのため、近年では空き家対策を推進する動きが全国的に広まっています。
空き家を相続するときの手続きの流れ
空き家を相続する場合は、以下のような流れで手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは、被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、住宅を含む不動産や預貯金など、どのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
4.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
5.相続登記の申請手続きを行う
遺産分割協議が成立したら住宅の相続登記の申請手続きを行い、名義を相続人に変更します。
6.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、必要に応じて納税も行います。
空き家の相続手続きは、売却する場合も必要です。手続きには時間と手間がかかるため、早めに準備を進めるようにしましょう。
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空き家の相続登記手続きと費用の相場
空き家などの不動産を相続した場合は相続登記の申請を行い、相続人に名義を変更する必要があります。相続登記の手続きは、民法上では被相続人の死亡日から10年以内が時効とされていましたが、2024年4月からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが義務付けられました。
相続登記の申請手続きに必要な書類
空き家の相続登記をするにあたっては、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまでのすべての謄本)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 空き家を相続する相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
- 相続関係説明図(戸籍謄本・除籍謄本の原本の還付を希望しない場合は不要)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合のみ)
相続登記の申請手続きは法務局で行いますが、申請方法は、法務局の窓口または郵送の2パターンがあります。
相続登記の申請手続きにかかる費用
相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費のほか、申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬などがあります。
必要書類の取得費は、それぞれ数百円程度です。相続登記の登録免許税は、空き家の固定資産税評価額に税率(0.4%)を乗じて計算します。たとえば、3,000万円の空き家にかかる登録免許税は12万円です。
司法書士の報酬はさまざまですが、相場は10万円~20万円程度と考えておくとよいでしょう。司法書士に依頼する場合は、複数の司法書士から見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。
相続登記は手続きが複雑で、費用もかかります。相続人が決まったら、早めに手続きを進めましょう。
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法定相続分による相続割合【配偶者と子供で相続する場合】
配偶者と子供の法定相続分は2分の1ずつです。子供が複数人いる場合は、遺産の2分の1を子供の人数で均等に分割します。
法定相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者+子1人 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者+子2人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/4 |
配偶者+子3人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/6 |
被相続人が亡くなって2億円の相続が発生し、配偶者と子供2人が相続人となった場合、配偶者の法定相続分は1億円、子供の法定相続分は5,000万円ずつになります。
法定相続分は、相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるものです。ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生し、場合によっては相続税額が発生することもあります。相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
たとえば、法定相続人が配偶者と子供1人の場合は4,200万円、配偶者と子供2人の場合は4,800万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
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相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は、税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほか、e-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は、自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
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空き家の相続税評価額を計算する方法
空き家の相続税評価額は、一軒家などと同様に敷地と家屋に分けて評価額を算出し、合算で算定します。
敷地部分の評価方法
敷地部分は、路線価方式または倍率方式のいずれかで評価します。
路線価方式
路線価方式とは、国税庁が毎年公表する、道路に面する宅地の1㎡あたりの価額(路線価)に、土地の面積を乗じて算出する方法です。
敷地の評価額=1㎡あたりの路線価×面積
1㎡あたりの路線価が50万円で土地の面積が100㎡の場合、評価額は5,000万円になります。
倍率方式
倍率方式は、路線価が設定されていない土地を評価する際に使われる方法です。倍率方式では、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出します。固定資産税評価額は、市区町村が土地ごとに毎年算定しています。倍率は、土地の所在地域によって異なります。
敷地の評価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額が2,500万円で倍率が1.1倍の宅地の場合、評価額は2,750万円となります。
家屋部分の評価方法
家屋は、固定資産税評価額×1.0で評価します。固定資産税評価額とは、自治体ごとに毎年個々の不動産に対して算定されるものです。
家屋の評価額=固定資産税評価額×1.0
相続税評価額を過大に出してしまうと、相続税の負担が大きくなります。反対に、過少評価した場合は税務調査を受ける可能性が高いので、いずれも注意が必要です。
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小規模宅地等の特例で敷地部分の相続税評価額を最大80%減額
小規模宅地等の特例とは、要件を満たす土地の評価額を最大で80%減額できる制度で、相続税額の負担を減らすことができます。原則として空き家の相続には小規模宅地等の特例を適用できませんが、一定の要件を満たす場合に限り、適用可能なケースもあります。
空き家の相続で小規模住宅地等の特例が適用できるケースとしては、被相続人が老人ホームなどに入居しており、一時的に空き家になっていた場合などが考えられます。相続する空き家が要件に当てはまるかどうか、確認してみましょう。
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空き家の売却で3,000万円が控除される空き家特例
相続後に誰も住まないために、売却を検討するというケースも多いでしょう。空き家を2027年12月31日までに売却した場合、譲渡所得から最大で3,000万円の控除が受けられる、空き家特例が適用できます。
対象となる空き家は、以下の要件を満たしているものに限ります。
- 空き家を相続または遺贈により取得していること
- 1981年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物ではないこと
- 相続開始の直前に被相続人のみが居住していたこと
かつ、空き家特例の控除を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 相続から売却譲渡まで貸家や居住していなかったこと
- 耐震基準を満たす空き家または空き家を取り壊して更地になっていること
- 被相続人が亡くなった日から3年後の12月31日までに売却すること
- 売却代金が1億円以下であること
- 空き家の売却先が親子や夫婦など特別な関係ではないこと
- 売却した空き家は特例や控除などを受けていないこと
なお、2024年1月1日以降は、相続人が3人以上の場合の控除額が2,000万円となります。空き家を売却する際には、適用可能かどうかを検討しましょう。
配偶者控除で配偶者分の相続税負担を軽減
相続税における配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは、被相続人の配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されない制度です。配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 遺産分割が完了している
- 相続税の申告期限までに相続税の申告書を提出する
たとえば、被相続人が配偶者と子供2人を残して亡くなり、相続財産の合計が2億円の場合、配偶者の法定相続分は1億円です。このとき配偶者控除を適用することで、配偶者分の相続税は0円になります。
ただし、のちに配偶者が亡くなって配偶者の財産を子供が相続するときに、相続税負担が増える可能性があるため注意が必要です。そのため、相続税を節税するための最善策を検討する場合は、税理士に相談することをおすすめします。
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空き家を相続する際の注意点
空き家を相続する際には、以下の点に注意が必要です。
空き家を放置したままにしない
空き家の相続において、状況把握はとても重要です。放置したままにすると、不動産の資産価値が下がり、近隣トラブルのもとにもつながりかねません。
空き家にかかる維持費をの目安を把握しておく
空き家を相続すると、維持費がかかります。具体的には、毎年納める固定資産税や都市計画税のほか、老朽化にともなう修繕費用などが考えられます。こうした維持費がかかることも考慮した上で、対処方法を検討しましょう。
『配偶者と子供による空き家の相続』に関するよくある質問
相続税はいくらかかりますか?
相続税がいくらかかるのかは、住宅を含む相続財産の評価額、相続人の人数、法定相続分などによって異なります。相続税の概算額を知りたい場合は、「相続税計算機」をご利用ください。
空き家は売却するべきですか?
空き家を売却するかどうかは、状況によって判断する必要があります。空き家を売却することで、空き家を管理する手間や費用を省くことができるのはメリットといえます。ただし、空き家の立地条件や老朽化などにより、売却が困難な場合もあるため、慎重に検討したほうがいいでしょう。
空き家を賃貸に出すことはできますか?
空き家を賃貸に出すこと自体は可能です。賃貸に出すことで、収益が出せる可能性もあります。ただし、空き家を賃貸に出しても、かならずしも借り手がつくとは限らないことや、修繕費用や経営コストがかかるといった注意点もあります。
相続した空き家は解体するべきですか?
空き家を解体するかどうかは、状況によって判断する必要があります。空き家を解体することで、維持費などを軽減できる可能性もあります。しかし、空き家を解体するにあたっては、解体費用や解体後の土地活用の検討など、気を付ける点もいくつかあります。
空き家を放置するのはダメですか?
空き家を放置すると、周辺の環境を悪化させたり、犯罪の温床になったりする可能性があるので避けましょう。空き家を相続した場合は、適切に管理することが大切です。
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士