熟年離婚はいくらあれば安心?50代貯金なしから始める生活設計と別居資金
長年連れ添った夫婦関係の解消を考えると、多くの女性がまず直面するのが経済的な不安です。
特に50代や60代で自身の貯蓄が少ない場合、離婚後の生活が成り立つのかという不安はとても現実的な悩みです。
総務省統計局の家計調査によると、一人暮らし女性の生活費は月およそ18万円です。
加えて、別居を始める際には、初期費用として50万~100万円ほどのまとまった金額を用意しなければならない場合もあります。
しかし、貯金がないから離婚できないと諦める必要はありません。法律には、経済的に立場の弱い配偶者を守るためのしくみが存在します。
本記事では、熟年離婚後の生活費の目安と、離婚成立までに活用すべき制度、貯金が無い状態から生活基盤を整えるための手順について解説します。
目次
離婚後の生活費は月いくら?統計データで見る水準
いくらあれば離婚しても大丈夫かという問いに、万人に共通する正解はありません。
しかし、公的な統計データを知ることで、ある程度の目安をつけることは可能です。
実際に一人で暮らすためにどれくらいのお金が必要なのか、総務省統計局の家計調査をもとにします。
一人暮らし女性の生活費は月額18万円が目安
総務省統計局の家計調査(2024年)によると、35~59歳の一人暮らし女性のひと月当たりの消費支出は平均180,007円となっています。
一方、60歳以上になると平均は約158,831円となり、年齢とともに生活費は縮小する傾向にあります。
生活スタイルや居住地域によって異なりますが、生活費の内訳目安は以下の通りです。
| 費目 | 35~59歳 | 60歳以上 |
|---|---|---|
| 食料費 | 41,502円 | 41,395円 |
| 住居費 | 26,543円 | 13,141円 |
| 水道光熱費 | 13,358円 | 14,602円 |
| 日用品費 | 5,576円 | 7,318円 |
| 被服費 | 6,200円 | 4,820円 |
| 保健医療費 | 8,026円 | 9,348円 |
| 交通・通信費 | 22,240円 | 15,708円 |
| 教養娯楽費 | 22,244円 | 15,996円 |
総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2024年」単身世帯より抜粋のうえ編集しました。
これはあくまで平均値であり、家賃は住む地域によって大きく変わりますし、健康状態によって医療費などの支出も増減します。
ご自身の状況に合わせて、生活費をコントロールすることは十分に可能です。
離婚後に増える「見えない出費」
生活費を計算する際、家賃や食費はすぐに思い浮かびますが、離婚して世帯主になることで新たに発生する支払いを見落としがちです。
これらを含めて計算しておかないと、手取りが思ったより少なくなり、生活が苦しくなってしまいます。
健康保険料・国民年金保険料
夫の扶養(第3号被保険者)に入っていた人は、離婚後、自分で国民健康保険と国民年金に加入し、保険料を払う必要があります。
国民健康保険は市区町村で手続きしますが、負担が重い場合は減額や免除の制度を利用できることもあります。
国民年金は第1号被保険者へ切り替わり、こちらも保険料の免除・猶予制度があります。ただし、未納のままにすると将来の年金額が減ってしまうので注意が必要です。
介護保険料
40歳以上になると介護保険料の支払い義務が発生します。
所得に応じて段階的に設定されており、低所得者には軽減措置もあります。
給与天引きでない場合、納付書での支払いが必要になります。
住民税
夫の扶養から外れ、かつ自分に一定の収入(パート代など)がある場合、自分で住民税を負担することになります。
住民税は前年の所得に基づき課税され、給与天引きでない場合は納付書による支払いが必要です。
家具家電の買い替え
別居・離婚に伴い、冷蔵庫、洗濯機、カーテンなど生活に必要な家具・家電を一から揃える初期費用が発生します。
これは毎月の出費ではありませんが、数十万円単位のまとまった資金が必要となる場合が多いです。
貯金の額より毎月の収支を重視する
離婚後の生活を考えるとき、多くの人がまず貯金額を気にします。
もちろん、まとまった資金は大切ですが、それ以上に重要なのは、毎月の収支を赤字にしないことです。
貯金を切り崩す生活は長続きしない
仮に財産分与で1,000万円を受け取ったとしても、毎月5万円の赤字が続けば、約16年でそのお金はなくなってしまいます。
一方、財産分与が少なくても、パート収入や年金で毎月の生活費をまかなえれば生活は成り立ちます。
「財産分与を切り崩せば大丈夫」という考え方は危険で、むしろ「日々の生活費は収入でまかない、財産分与は病気や介護に備えて残しておく」という発想が大切です。
50代であれば、まだ働くことは十分可能です。
まずは、毎月いくら収入があれば赤字にならないかを把握することが、安心して暮らすための第一歩になります。
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貯金なしでも諦めない!夫に請求すべき資産と権利
「自分名義の貯金はほとんどない」という場合でも、法的には夫婦の資産が存在するケースが大半です。
熟年離婚においては、これらを正しく把握し、請求することが経済的自立のカギとなります。
夫の資産も半分は妻のもの
法律では、結婚生活の間に夫婦が協力して築いた財産は、名義にかかわらず共有財産とみなされます。離婚時にはこれを原則2分の1ずつ分けることができます(財産分与)。
妻が専業主婦で収入がなかったとしても、内助の功として資産形成に貢献したと認められるため、夫名義の預貯金も半分を受け取る権利があります。
財産分与の対象となる主な資産
- 現金・預貯金(夫名義のものを含む)
- 不動産(自宅マンションや土地)
- 生命保険の解約返戻金
- 株式・投資信託
- 自動車・高価な家財道具
一方で、結婚前から持っていた貯金や、親から相続した遺産などは特有財産と呼ばれ、財産分与の対象外となるため区別が必要です。
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老後資金の柱となる退職金と年金分割
50代での離婚で特に注意したいのが、夫の退職金です。
すでに支払われて預貯金として残っている退職金は、財産分与の対象になります。
また、将来支払われる退職金も、支給される見込みが高い場合は、婚姻期間に対応する部分が分与の対象となる可能性があります。
さらに、厚生年金を分割する年金分割の手続きも重要です。
これにより、自身が将来受け取る年金額を増やすことができ、老後の毎月の収入の安定につながります。
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別居中の生活費を支える婚姻費用
法律には「婚姻費用分担義務」という決まりがあり、戸籍上の夫婦である限り、収入の多い側は少ない側に対して、自分と同程度の生活水準を維持できるよう生活費を支払う義務があります。
離婚を見据えて別居を始めると夫から生活費の振り込みが止まるケースが多いため、この制度を利用して毎月の生活費を確保します。
金額は裁判所の基準に基づいて決まり、一般的には離婚後の養育費よりも高めに算定される傾向があります。
婚姻費用をしっかり受け取ることで、別居中の生活を安定させつつ、急かされることなく有利な条件で離婚交渉を進めることができます。
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離婚後の生活に向けた仕事探しと公的支援
自身の収入を確保することや、公的支援をうまく活用することも、生活を安定させるための重要なポイントです。
現実的な収入の目安
職歴にブランクがある場合、正社員としての再就職は一般的に難しい傾向があります。
一方で、パートタイマーや契約社員であれば、比較的就労の機会を得やすいとされています。
厚生労働省の地域別最低賃金を参考にすると、フルタイムパート(週5日・1日7時間)の月収は15万~17万円程度、週3日程度の短時間勤務なら月収は約8万円程度が目安です。
フルタイムパートであれば、一人暮らしの生活費をほぼまかなえる計算になります。
短時間勤務でも、年金や多少の資産取り崩しと組み合わせれば生活を維持できる場合が多く、実際にこうした方法で生活を支えている事例も少なくありません。
知っておきたい公的支援制度
収入が不安定な場合や、就職活動中の生活を支えるための制度も存在します。
住居確保給付金は、離職などにより住居を失うおそれがある場合、一定期間、家賃相当額が自治体から家主に支給される制度です。
離婚に伴い家を出る際も、要件を満たせば利用できる場合があります。
ハロートレーニング(公的職業訓練)には、給付金を受け取りながら、パソコンスキルや介護などの職業訓練を無料で受けられる求職者支援制度があります。
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熟年離婚を有利に進めるための別居とタイミング
貯金なしの状態でいきなり離婚届を出してしまうと、その後の生活費に困り、不利な条件でも合意せざるを得なくなるリスクがあります。
経済的な不安をなくし、納得のいく財産分与を獲得するためにも、まずは別居をして生活基盤を確保しましょう。
「いきなり離婚」と「まずは別居」の家計比較
離婚届をすぐに出す場合と、まずは別居をする場合で、生活の収支がどう変わるのかを具体的な数字で比較してみましょう。
例として、夫が年収600万円の会社員、妻が年収100万円(月収8万円)のパート勤務で、妻の一人暮らしの生活費を月18万円としたケースを考えます。
離婚届を提出して離婚が成立すると、夫婦としての扶養義務がなくなるため、婚姻費用は請求できません。
その結果、収入は月8万円のパート代だけなのに対し、生活費が18万円かかるため、毎月10万円の赤字になります。
生活を維持するには、本来は老後の備えにすべき財産分与を毎月切り崩さなければなりません。
一方、籍を残したまま別居した場合は、夫に婚姻費用を請求できます。
このケースでは、裁判所の算定表に基づくと月額約10万円を受け取れる可能性があります。
パート代と合わせて月18万円となり、生活費をまかなえる計算になります。
別居を開始するタイミングを決める
いつ家を出るのが最も経済的に有利か、夫の勤務状況や退職時期から具体的な時期を決めます。
夫がまだ働いていて収入が高い場合、請求できる婚姻費用の金額も高くなる傾向にあります。
引っ越しなどの初期費用さえ貯まれば、早めに別居して婚姻費用をもらいながら、時間をかけて離婚条件を話し合う戦略が有効です。
一方、夫が定年間際の場合は注意が必要です。
退職して収入が年金のみになると、もらえる婚姻費用が大幅に減る可能性があります。
また、退職金が支払われる前に離婚すると、取り分で揉めることもあります。
退職金が支払われるまで同居を続けるのか、今のうちに別居して公的支援の相談に行くのか、ご自身の就労状況と合わせて慎重に判断しましょう。
別居にかかる初期費用を確保する
タイミングが決まったら、それに向けて、夫と物理的に距離を置くための現金を確保します。
賃貸物件を借りる場合、一般的に敷金や礼金、仲介手数料などで家賃の5ヶ月分近い初期費用がかかります。
さらに引っ越し代や最低限の家具家電の購入費を含めると、50万~100万円程度の手元資金があると安心です。
もし手元に貯金がない場合は、同居している間に少しずつ準備を進めましょう。パート収入を自分名義の口座へ貯める、使わなくなったブランド品や貴金属を売却して現金化する、一時的に親族から借り入れるなどして、新生活を始めるための資金を作ることが最優先です。
別居中の生活費を確保する
別居後は、すぐに安定した収入が得られるとは限りません。そこで生活を支えるうえで重要になるのが、夫から受け取る婚姻費用です。
これを生活費に見込む場合は、別居と同時に、あるいはその直前に請求できるよう準備しておきましょう。
もし夫が支払いに応じなければ、家庭裁判所へ調停を申し立てることになりますが、手続きには時間がかかることもあります。
そのため、1〜2か月分のつなぎ資金は確保しておくと安心です。
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熟年離婚のお金に関するよくある質問
Q.自分名義の貯金がないのに離婚できる?
たとえ手元の貯金が無い状態でも、婚姻期間中に築いた財産があれば、財産分与として半分を受け取る権利があります。
また、離婚に関する法的手続きや弁護士費用が心配な場合は法テラスの立替制度なども利用できます。
ただし、新生活の初期費用など当面の現金は必要になるため、計画的な準備は大切です。
Q.夫の退職金が出るまで離婚は待った方がいい?
ケースバイケースです。 退職まで数年なら、別居して婚姻費用をもらいながら待つ方が得策な場合もあります。
一方、退職金が支払われる前に離婚しても、将来支払われる見込額を計算して、財産分与の対象にできることが一般的です。
Q.へそくりも財産分与で夫に渡さないといけない?
結婚後に貯めたへそくりは共有財産となり、原則は分与対象です。
たとえ妻が節約して作ったお金でも、夫の給与から出たものであれば夫婦のものとみなされます。
ただし、独身時代の貯金や親からの相続財産は特有財産として分与対象外になります。
50代の離婚準備は生活費の把握と資金確保で不安解消
50代・貯金なしの熟年離婚は、決して簡単ではありません。しかし、正しい知識を持てば、生活への不安は大きく減らせます。
まずは、毎月どれくらいのお金が必要なのかを把握し、財産分与・年金分割・婚姻費用など請求できる権利を整理します。
さらに、仕事探しや公的支援の利用を視野に入れ、自立に向けた準備を進めていくことが大切です。
ただし、「いくら受け取れるか」は家庭ごとの事情で大きく変わります。
退職金の見込み額、不動産の評価、婚姻費用の適正額などは、専門的な計算が必要です。
「この先やっていけるのだろうか」と一人で悩み続ける前に、専門家に相談してみてください。必要な数字が明確になれば、漠然とした不安は「解決できる課題」に変わり、新しい人生への一歩を踏み出す勇気が湧いてくるはずです。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
