離婚したら退職金の財産分与を受けられる?対象や計算方法を解説
夫婦が離婚をすると、慰謝料や財産分与、年金分割などの形でお金のやりとりが発生します。
特に40代以降になると、気になるのが退職金の財産分与です。
退職金も、給与と同じく2人で協力して築いた財産と考えられているため、離婚時には配偶者の退職金を分けてもらうことができます。
既に退職して退職金を受け取っているのであれば、それを分割すればよいでしょう。しかし、離婚時点でまだ退職していない場合は、まだ手元に退職金がありません。
こういったケースでも分与を受けることができるのでしょうか。
退職してから離婚すれば分与を受けられたはずの退職金が、タイミングが少し違うだけで受け取れないのは不公平です。そこで、退職前でも、退職金の財産分与を行うことがあります。
この記事では、退職金の財産分与の方法や計算式について、詳しく解説しています。
この記事で分かること
- 退職金が財産分与の対象になるケース・ならないケース
- 退職金の財産分与の計算方法
- 退職金の財産分与を行う際の注意点
目次
退職金は離婚時に財産分与の対象になる!
離婚時に退職金の分与を受けられる
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に公平に分配することで、対象となる財産は、現金・預貯金や不動産、自動車など多岐にわたります。
たとえ働いて給与を得ていたのがどちらか一方だけだったとしても、もう一方も家事や育児によってその収入に貢献していたといえる以上、婚姻中の財産は2人で築いたものといえます。
退職金は給与の後払いのような性格のものと考えられており、2人で協力して得た財産といえるため、退職金も財産分与の対象に含まれます。
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いつからいつまでの退職金が財産分与の対象?
退職金は、勤続期間が長くなるごとに積み立てられていくような性質を持っています。
退職時に受け取る退職金のうち、必ずしも全ての期間の退職金が財産分与の対象となるわけではなく、婚姻期間中に積み立てた分の退職金のみが財産分与の対象です。
したがって、結婚前や離婚後の期間に相当する退職金は対象外です。
なお、まだ離婚をしていない場合でも、別居を始めてからの分の退職金は夫婦で協力して築いたものとはいえないため、財産分与の対象外となることが多いようです。
退職金の分与割合は?
退職金を含め、財産分与の割合は、2分の1、つまり半分ずつ分けるのが原則です。調停や審判を起こしたときは、ほとんどの場合2分の1という結論が出されます。
ただし、双方が合意さえすれば割合は自由に変更できます。また、夫婦の収入、財産の内容、貢献度などを考慮して割合を変えることもあります。
退職金の分与を受けられるケース・受けられないケース
どのようなケースでも必ず退職金が財産分与の対象になるわけではありません。
退職金の分与を受けられるケースとは?
以下のような場合は、離婚時に退職金の分与を受けることができます。
退職金の分与を受けられるケース
- 既に退職金を受け取っており手元にある
- 将来確実に退職金が支給される見込みがある
すでに退職して退職金を受け取っている場合は、手元に残っている退職金を財産分与に含めることができます。
また、退職前であっても、退職金が支給されるのがほぼ確実であれば、退職金の分与を受けられる可能性があります。
退職金が支払われるのが確実かどうかを判断するためには、主に以下のような点が考慮されています。
- 勤務先の規模や性質
- 勤続年数や定年までの年数
- 退職金規定の有無や内容
例えば、公務員や大企業の社員は、退職金が支払われる可能性が高いため、将来の退職金の分与が認められやすい職業であるといえます。
退職金の分与が受けられないケースとは?
以下のような場合は、退職金の分与を受けられない可能性が高いといえます。
- 退職があまりに先である
- 退職金が支払われるか分からない
- 退職金を既に使い果たした
- 離婚から2年が経過した
定年退職があまりに先であったり、会社の規定や経営状況から退職金が支給されるか定かでないような場合には、退職金の分与を受けるのは難しいでしょう。
また、退職金を受け取ったが既に使い果たしてしまったという場合は、財産分与の対象とはならない可能性が高いです。
財産分与の請求には、離婚から2年の時効があるため、2年が経過した後での財産分与の請求は認められません。
退職金の計算方法|退職前に離婚する場合は3通り
退職前に離婚する場合、退職金の分与には複雑な問題があります。
主に問題となるのは、退職金の算定方法と退職金の分与の時期です。
退職前の退職金の分与方法は大きく分けて3通りありますが、必ずしもこれらにとらわれることなく、公平になるよう柔軟に分与することができます。
方法①別居時に退職した場合の見込み額を、離婚時に分与する
1つ目は、別居時に自己都合退職をしたら受け取れる退職金をもとに、対象期間に相当する退職金を算出し、離婚時に分与するという方法です。
そこから、婚姻前に相当する分を差し引きます。計算式は以下のようになります。
分与対象額=別居時に退職した場合の退職金額-婚姻時に退職した場合の退職金額
婚姻時・別居時の退職金額が分からない場合は、同居年数と勤続年数を使って、以下のような式で計算することもできます。
分与対象額=別居時の退職金額×同居年数÷勤続年数
なお、会社に入ったのが結婚後であれば、同居期間と勤続年数はイコールになるため、別居時点での退職金額がそのまま分割の対象となります。
これらの式を使って算出した財産分与の対象額に、寄与割合(原則として50%)を掛ければ、受け取る退職金の金額が求まります。
方法②定年退職時の額から婚姻前・別居後の分を差し引き、離婚時に分与する
2つ目は、定年退職時に受け取る退職金の金額をもとに対象期間に相当する退職金を算出し、離婚時に分与を行う方法です。
財産分与の対象となる期間とは、在職期間から、婚姻前と別居後を除いた期間です。
対象となる退職金の額を求める計算式は、以下の通りです。この式を使う場合は①と同じ金額になります。
分与対象額=別居時に退職した場合の退職金額-婚姻時に退職した場合の退職金額
なお、途中の退職金額が分からない場合は、こちらの式を使うことができます。
分与対象額=定年退職時の退職金額×同居年数÷勤続年数
これで求まった分与対象額を寄与割合に応じて分割し、さらに中間利息を控除します。
「中間利息を控除する」とは?
②の方法だと、分与を受ける側は、本来の定年よりも早く退職金を受け取ることになります。
早く受け取った退職金を運用すれば、相手が定年を迎える頃には利息がつき、本来もらえたであろう額よりも大きくなっているはずです。
この運用益を中間利息と呼びます。
これでは受け取る側の利益が大きくなり、分与する側にとって不公平ですから、中間利息をあらかじめ財産分与の額から差し引いておくのです。
方法③定年退職時の額から婚姻前・別居後の分を差し引き、退職時に分与する
3つ目は、定年退職時に受け取る退職金の金額をもとに対象期間に相当する退職金を算出し、退職時に分与する方法です。
②との違いは、支払い時期が離婚時ではなく退職時であることです。
この方法では、退職金を渡すのが退職時なので、利息を考慮に入れる必要がありません。したがって、中間利息の控除は行いません。
この方法であれば、離婚の時点で分与する側に財産がなくても、将来的に退職金の分与を受けることができます。
しかし、自主退職や懲戒解雇などによって、退職金の額が少なくなったり、支給されなくなったりするリスクもあります。
実際に退職金の分与額を計算してみよう!
以下のモデルケースをもとに、②の方法で退職金を計算してみましょう。
手順1:財産分与の対象となる退職金の金額を算出する
別居時点で退職した場合の退職金は1,200万円、婚姻時点での退職金は300万円です。したがって、同居期間中に積み立てた退職金は900万円ということになります。
1,200万円-300万円=900万円
手順2:寄与割合に応じて分割する
900万円に、寄与割合を掛けます。原則として財産分与の寄与割合は2分の1とされているため、今回は2分の1で計算します。
したがって、受け取る金額のベースとなるのは450万円です。
900万円×0.5=450万円
手順3:中間利息を控除する
450万円から中間利息を控除した額が、財産分与で受け取れる退職金の金額です。
実際に退職金が支給されるまではあと5年あるとします。
そして、2024年時点での法定利率は年3%ですので、利率は年3%として計算します。
すると、中間利息の控除は、以下のような計算式で計算できます。
450万円÷(1.03×1.03×1.03×1.03×1.03)≒388万円
したがって、離婚時にはおおよそ388万円分の退職金の分与を受けることができます。
退職金の3種類の分与方法まとめ
方法①別居時に退職した場合の見込み額を、離婚時に分与する
方法②定年退職時の額から婚姻前・別居後の分を差し引き、離婚時に分与する
方法③定年退職時の額から婚姻前・別居後の分を差し引き、退職時に分与する
メリット | デメリット | |
---|---|---|
方法① | ・離婚時に分与を受けられる | ・分与する側に資力が必要・②、③に比べ低額になる場合が多い |
方法② | ・離婚時に分与を受けられる | ・分与する側に資力が必要・利息が控除される分、③より受け取れる額が少ない |
方法③ | ・分与する側に資力が必要ない | ・退職時に回収できないおそれがある・退職金が支給されない可能性がある |
③は取りっぱぐれのリスクが高いことから、実務では①か②が選ばれることが多いようです。
とはいえ、離婚時点では退職金の財産分与ができるほどの財産が手元にない場合、③の方法を選ぶことも考えられます。
退職金の計算方法|退職後に離婚する場合
退職して退職金を受け取った後に退職金の財産分与を行う場合は、実際に受け取った退職金のうち、同居期間に相当する分を分け合うのが一般的です。
実際には、退職金を含めた預貯金を分割することになるでしょう。
退職金から対象外の期間を除外する計算式は以下の通りです。
分与対象額=退職金額×婚姻から退職までの年数÷勤続年数
ただし、離婚の時点でローンの返済などに退職金を使い果たしてしまっている場合は、退職金は財産分与の対象にはならない可能性が高いです。
例外として、配偶者が退職金を浪費したり、個人的な借金の返済に充ててしまったような場合には、配偶者に責任があるため、他の財産でその額を補ってもらうなどの対処が考えられます。
退職金の財産分与でよくある質問
Q1.共働きでも退職金の財産分与をする?
共働きの夫婦でも、退職金が財産分与の対象となることは変わりません。2人の退職金を合算して折半することになるでしょう。
Q2.退職金の財産分与について決める手続きは?
離婚時の財産分与については、夫婦で話し合って自由に決めることができます。
話し合いがつかなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、裁判所の調停委員会の仲裁を受けて合意を目指します。
離婚調停を行っても合意ができない場合は、離婚裁判を起こして裁判官の判断を仰ぐことができます。
離婚後も、2年以内であれば財産分与の請求が可能です。離婚後の場合は、家庭裁判所の財産分与請求調停が利用できます。
Q3.定年まで10年以上ありますが退職金の財産分与を受け取れますか?
退職前に退職金の財産分与を行うには、退職金が支給される可能性が高いということが求められます。
定年退職まで10年以上あると、それまでの間に自主退職してしまったり、会社が倒産してしまって退職金が支給されない可能性があるため、退職金の分与が認められるハードルが高くなっていきます。
仮に分与が認められても、金額が低くなってしまう可能性があります。
とはいえ、定年まで10年以上あっても退職金の分与を命じた裁判例もあります。
特に公務員の方や倒産の可能性の低い大企業に勤めている方は、退職まで期間があっても退職金の財産分与が認められやすい傾向にあるといえます。
また、退職金の分与自体は認められなくても、他の財産の分与において退職金を考慮することもあります。
Q4.退職金の見込み額はどう調べればよいですか?
将来の退職金の分与について決める際には、現時点での退職金の見込み額を調べる必要があります。
見込み額を調べるためには、会社の退職金規程を使って自分で試算するか、勤務先で教えてもらいましょう。
配偶者が退職金の開示に協力的でない場合は、弁護士に依頼して弁護士会照会を利用したり、裁判所の手続きを利用して、相手の勤務先に開示を求めることもできます。
弁護士会照会は、弁護士が事件の調査のために企業や公共機関に情報の開示を請求できる制度です。弁護士会照会を受けた企業には回答の義務がありますので、非常に強力な証拠収集の手段となります。
また、調停や裁判を行っている間であれば、調査嘱託という裁判所の手続きが利用できる可能性があります。調査嘱託とは、裁判所を通じて金融機関等に情報を開示させる手続きです。
退職金の財産分与の注意点
離婚協議書・公正証書を作成する
退職金の財産分与を行うことになったら、離婚協議書を作成しましょう。
離婚協議書とは、離婚時の取り決めを記した、私的な契約書のような文書です。離婚協議書という形で約束を残しておけば、離婚後に「言った言わない」の水掛け論になってしまうのを防ぐ効果が期待できます。
さらに、退職金を退職時に分与することになった場合や、財産分与を分割で行う場合は、離婚協議書を公正証書化しておくことをおすすめします。
公正証書とは、公証人に依頼して作成する公文書で、離婚協議書と同じく離婚時の取り決めの内容を書くことができます。
公正証書に強制執行認諾文言を付しておくと、金銭の支払いの約束が守られなかった時に強制執行(財産の差し押さえ)を行って支払いを実現させることができるようになります。
退職金を渡すと口約束で決めても、時間が経つほど約束が守られる可能性は下がっていきますので、離婚時には公正証書を作成しておくと安心です。
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退職金の使い込みは仮差押えで防ぐ!
配偶者が退職金を隠したり、勝手に使い込んだりしないか心配な場合は、裁判所へ仮差押えの申し立てを検討しましょう。
退職金の仮差押えが認められると、相手への退職金の振り込みが一時的にストップされます。つまり、仮差押えを行う相手は、配偶者の勤務先になります。
一方、既に退職金が振り込まれている場合は、配偶者の預貯金の仮差押えをすることになります。預金の仮差押えを行うと、預貯金を勝手に処分することができなくなります。
仮差押えは、認められたらその間に裁判を起こすのが前提の手続きです。しかし実際には、仮差押えが認められただけでも相手に強いプレッシャーがかかるため、それだけで問題が解決するケースも多いようです。
ただし、仮差押えが認められるには厳しい条件がある上、申立人が担保金を用意する必要もあります。
まとめ
退職金は、既に支払われている場合や、将来支給される確実性が高い場合であれば、離婚時の財産分与の対象となります。
専業主婦(主夫)の方も、家事や育児を通して相手の収入形成をサポートしてきたのですから、内助の功を財産分与という形で評価しなければ不公平です。
退職金の財産分与を請求できるのか、退職金をどのように計算すればよいかお悩みの方は、一度弁護士にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
仮差押えの申し立ては非常に複雑な手続きです。ご不安な場合は、弁護士にご相談されることをおすすめします。