高収入の夫と離婚するポイント|格差婚で注意したい離婚条件
「俺が高収入だから築けた財産だ。離婚しても渡す気はない」
「子どもはうちの跡取りになるから親権は絶対に渡さない」
高収入の夫と離婚をする際、財産分与や婚姻費用などのお金の問題、養育費や親権などの子どもに関する離婚条件で揉めることは少なくありません。
離婚条件に不満で離婚に応じない場合でも、協議離婚ができないため、なかなかスムーズには離婚できません。
また、たとえ離婚できたとしても自分に有利な離婚条件で離婚ができず、離婚したことを後悔してしまうケースもあります。
今回は高収入の夫との離婚で後悔しないためにも、問題になりやすい離婚条件、有利な条件で離婚するための職業別の注意点について解説していきます。
夫婦の収入格差がある離婚の特徴
財産分与が高額になることから揉めがち
高収入の夫との離婚では、財産分与や婚姻費用など離婚に関するお金が高額になることから、なかなか相手が離婚に応じてくれないケースが少なくありません。
財産分与は結婚してから築いた夫婦の共有財産を公平に分配する制度なので、収入が高いほど共有財産も増えて、財産分与額自体も高額になります。
また、婚姻費用は夫婦それぞれの収入や収入格差を基準に算定されることから、夫が高収入であるほど別居中の生活費として請求できる金額も高額になります。
高収入の夫との離婚は、一般的な離婚と比べて離婚によって受け取れる金額が高いことが強みですが、それが逆に離婚の話し合いがうまく進められない原因にもなります。
離婚後の子どもの養育費が高額になる傾向
高収入の夫との離婚では、離婚後の子どもの養育費が高額になる傾向にあります。
高収入の世帯では子どもの学費にかけられる金額も多いことから、子どもの将来の選択肢を増やすためにもいい学校に入れたいがために教育費が高額になりやすいです。
大学進学はもちろん、人気大学の受験に強い学校や大学付属の私立学校、学校外での塾や予備校の通学によって学費が高額になる傾向にあります。
また、教養をつけさせたい、芸術やスポーツに特化した大学に入れたいために子どもに多くの習い事をさせる家庭もあります。
たとえ離婚しても経済的な事情から子どもの将来を狭めたくないと考え、養育費が高額になるケースも多いことから、なかなか離婚の話し合いが進まないことがあります。
高収入の旦那との離婚条件①財産分与
財産分与の割合が減らされることも
高収入の夫と離婚する場合、一般の離婚と比べて財産分与の額を減らされるおそれがあります。
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産(共有財産)を分けることです。
財産分与の割合は、「原則として」2分の1ずつです。
妻が専業主婦だとしても、妻が家事に専念することで夫は仕事に集中してその結果収入が得られたといえるので、財産を半分に分けるよう求めることができます。
ただし、どちらかが医師や弁護士など特別な資格をもっており、その努力や才能によって多大な財産を築いたような場合には、財産分与の割合の変更が認められます。
高収入の夫の中には、医師や弁護士などの専門職、スポーツ選手やアーティストなどの特殊な技能を要する職業をもつ人もいることから、財産分与の割合はトラブルになりやすいです。
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財産額や対象が把握しづらい
高収入の夫との離婚では、どのような形で財産をもっているのか、財産分与の対象や財産の総額を把握しづらいケースも少なくありません。
高収入であるために、その収入を預貯金や不動産などの財産だけでなく、株式や投資信託などの金融商品、美術品や骨とう品などの貴重品に変えている可能性があります。
財産分与は夫婦が協力して築いた全財産の半分を請求できますが、財産の総額を把握していなければ、本来受け取れるはずの金額を請求できません。
相手の預貯金や有価証券、給与や退職金については、金融機関や夫の勤務先に弁護士照会をすれば開示できるケースもあります。
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高収入の旦那との離婚条件②婚姻費用
算定表を利用する一般的な計算方法が使えない
高収入の夫と離婚する場合、一般的な離婚で用いられる算定表に基づいた婚姻費用や養育費の請求ができないおそれがあります。
婚姻費用とは、夫婦が通常の社会生活を維持するのに必要な生計費であり、具体的には衣食住の費用、交際費、医療費、子どもの養育費、教育費などです。
養育費や婚姻費用を決める調停では、家庭裁判所が作成した養育費・婚姻費用算定表が参考にされることが多いです。
しかし、算定表に載っているのは費用を払う義務者の年収が一定金額までのケースであり、年収が一定金額を超えてしまうと算定表を使って計算することはできません。
給与所得者の場合は年収2000万円、自営業の場合は1567万円を超えると算定表を使って計算することができません。
一定金額を超える場合でも費用を計算する方法は複数ありますが、客観的に金額が定まる算定表が使えないため、計算方法でトラブルになることも少なくありません。
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算定表が使えない場合の計算方法|上限頭打ち方式
上限頭打ち方式とは、算定表の上限金額を基準に費用を算定する方式です。
たとえ給与所得者の年収が2000万円以上でも、上限である2000万円で頭打ちにして計算する考え方で、他の算定方法よりも支払われる額が少なくなります。
たとえば、専業主婦が年収3000万円の会社勤めの夫と別居して0歳〜14歳の子ども1人と暮らす場合、上限頭打ち方式なら費用は24万円〜26万円となります。
算定表が使えない場合の計算方法|基礎収入割合修正方式
基礎収入割合修正方式は、事案に即した基礎収入割合を設定した上で、算定表のもとになっている計算式をそのまま使って計算する方法です。
公租公課や職業費、特別経費などの必要不可欠の出費と収入額の割合(基礎収入割合)を計算し直して、算定表のもとになった計算式を使って計算をします。
実際の夫の収入額が反映される基礎収入割合修正方式は、上限頭打ち方式よりも支払う額が高額になるため、どちらの算定方法を使うか争いが生じるおそれがあります。
このほかには、基礎収入の算定において貯蓄率を控除する方式、標準算定方式を使わずに以前の生活水準を維持できる生活費をフリーハンドで計算する方式があります。
婚姻費用・養育費がいくらもらえるか知りたかったら
アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機を使えば、算定表を用いた婚姻費用・養育費を簡単に計算できます。
一定金額を超える高収入の夫の婚姻費用・養育費を請求したいときは、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、どの計算方法を用いて算定すれば有利かアドバイスし、より高額の請求ができるよう相手との交渉をすることができます。
高収入の旦那との離婚条件③養育費・親権
学費のために養育費が高額になることも
高収入の夫との離婚では、学費の負担が大きくなることから養育費が高額になるケースが少なくありません。
養育費には子どもが成長するまでの衣食住にかかる費用や医療費の他、教育費も含まれ、取り決め内容によっては大学や高校などの学費を負担させることもできます。
弁護士や医師の父親の場合、子どもにも自分と同じ職業に就いてもらいたいと思って難関大学や高額な学費のかかる私立大学に進学させることも考えられます。
特に医師の場合、子どもが私立大学の医学部や歯学部に進学することも考えられ、非常に高額な学費がかかります。
進学のために塾や予備校、進学指導に力を入れた私立の中学や高校に通学することも十分考えられるため、養育費が高額になってしまい、離婚後のトラブルの原因になるケースもみられます。
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跡継ぎにするため親権で揉めるケース
開業医や家族経営の企業の経営者の場合、自分の子どもを跡継ぎにするために親権を譲らないケースがみられます。
親権はどちらと暮らすのが子どもの利益であるかという基準で決定されるものであり、父母それぞれの経済力だけで判断されるわけではありません。
子育てに積極的に関わってきたか、どれだけ長く世話をしてきたかといった事情も考慮して判断されるため、あらかじめ弁護士に相談して法的なアドバイスを受けるのもひとつの手段です。
なお、2024年5月に離婚後の「共同親権」を認める民法改正が成立しました。今後、交付から2年以内に施行されることになります。
改正後は、単独親権か共同親権か、単独親権にするならどちらを親権者とするか決めなければいけません。
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職業別|高収入の夫と離婚するときの注意点
医師の夫との離婚
医師の夫との離婚は、職業が特殊であるために、通常の基準や相場でなく具体的な状況をみて判断することが必要になります。
医師は専門職であり高収入なことから、医療法人や病院の財産は財産分与の対象になるのか、妻が知らない財産がないかといった財産分与に関するトラブルが起こりやすいです。
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会社経営者の夫との離婚
会社経営者の夫との離婚では、特殊な形の財産を保有していることもあり、財産の把握が難しいケースも少なくありません。
たとえば自社株をどのように評価するか、個人の財産を会社名義の財産にしているなど財産隠しがないかチェックする必要があります。
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公務員の夫との離婚
夫が官僚や特別職などの公務員で高収入を得ている場合、ほぼ確実に退職金を受け取れることから退職前でも退職金の財産分与を受けられる可能性が高いです。
公務員は勤続年数に応じて給与が大幅に増えることから、養育費を増額できる可能性もあります。
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会社員の夫との離婚
大手企業の社員として夫が高収入を得ている場合、貯金や不動産に加えて公務員や自営業にはない特有の財産をもっている可能性があります。
自社株やストックオプション、厚生年金以外の確定給付企業年金や企業型確定拠出年金など財産分与の対象になり得る財産も多く含まれることも見落とさないようにしましょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了