会社経営者の夫との離婚で財産分与や養育費はどうなる?3つの注意点

会社経営者の夫と離婚する場合は、特に「財産分与」「養育費」「夫婦で経営している場合の雇用関係」の3点に注意が必要です。
中でも重要なのが財産分与です。経営者は自社株や退職金、会社名義の財産など、一般的な家庭にはない資産を持っていることが多く、どこまでが分与の対象になるのかは専門的な判断が必要になります。また、財産を会社名義に移して隠される可能性もあるため、離婚を切り出す前に資料や証拠を確保しておくことが重要です。
養育費についても、高収入である場合は算定表の上限を超える金額が認められる可能性があります。ただし、配当金や不動産収入など、役員報酬以外の収入が見えにくいこともあるため、収入の全体像を正確に把握することが欠かせません。
この記事では、経営者の夫との離婚で不利益を避けるために知っておくべき3つの注意点と、それぞれの具体的な対策を弁護士がわかりやすく解説します。
目次
経営者は離婚が多い?
経営者は離婚率が高いって本当?
「経営者は離婚が多い」と言われることがありますが、国内の経営者の離婚率に関する明確な統計はありません。
しかし、経営者という職業の特殊性や、経営者になる人物の特徴には、離婚が多いと言われる十分な理由があるように思われます。
法務省の「協議離婚に関する実態調査結果の概要」によると、協議離婚を経験した1,000名のうち、離婚相手が「会社などの役員」であったケースは20名(2.0%)でした。また、離婚した本人が役員であったケースも17名(1.7%)確認されています。
割合としては決して多くありませんが、経営者との離婚は一般的な離婚とは異なる複雑な問題を伴うため、専門的な対応が必要なケースとして一定数存在することが確認されています。
経営者の離婚が多い理由
経営者に離婚が多いと言われる理由を、その職業の特徴から考えてみます。
- 常に忙しく、家庭を顧みない
- アグレッシブな性格
- 事業が上手くいっていないと経済的に不安定
- モテるため浮気に走りやすい
- 夜の店に行く機会が多い
これらは一般的なイメージですし、全ての経営者がこうというわけではありませんが、経営者は離婚率が高いと言われるのも頷けます。
経営者との離婚の注意点①財産分与の問題
一般的に会社経営者は高収入であったり、特殊な財産を保有している場合が多いため、財産分与をめぐって特有の争いが生じるおそれがあります。
財産分与の割合が変わる可能性あり!
財産分与の割合は2分の1ずつというのが原則で、割合を争って調停や裁判を起こしても、多くの場合は2分の1とされます。
ただし、例外的に2分の1ずつ分けるのが公平ではないと考えられる場合には、財産分与の割合が修正されることがあります。
例えば、一方が医師や弁護士など特別な資格を持っており、その努力や能力によって多大な財産を築いた場合や、一方が経営者などとして多額の資産を築いているのに対し、もう一方の貢献度が低い場合などです。
経営者の夫と離婚する際には、こういった理由から夫が財産分与の割合を変更するように求めてくる可能性があります。
割合の変更に応じてしまうと、財産の形成に対するご自身の貢献が軽視されてしまう上に、受け取れる財産が減ってしまいます。
とはいえ、早期に離婚を成立させるためには、割合や金額の面で多少譲歩するという戦略もあり得ます。
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特殊な財産を財産分与の対象にできるか?
会社経営者は特殊な形の財産を保有していることが多く、それらを財産分与の対象にするかどうかは判断が難しいところです。
経営者特有の財産として、以下のようなものが挙げられます。
- 自社株
- 退職金(法人保険などを含む)
- 会社名義の財産
自社株
経営者が保有している自社株は、婚姻中に得たものであれば財産分与の対象になる可能性が高いでしょう。
ただし、婚姻中に得た株式であっても、妻の貢献によるものではないとして、夫の特有財産であることを主張してくる可能性があります。
また、株式の価値に相当する代償金や他の財産を渡すか、現物のまま分与するかの問題もあります。
現物で株式を渡した場合、妻が経営に口出しできる状態になってしまいます。これを避けるためにも代償金によって財産を分け与えるケースは多いですが、代償金を支払う場合に争いになりやすいのが株式の評価方法です。
会社が上場していない場合は、明確な時価が存在しないため、様々な評価方法の中から一つを選んで時価を決定することになりますが、どの評価方法を採用するかで争いが生じる可能性があります。
退職金
夫が退職金を既に受け取っている場合や、将来確実に受け取る見込みがある場合には、退職金の財産分与が可能です。
もし夫の会社に役員の退職金制度がなかったとしても、法人保険や中小企業共済に加入して退職金の積立を行っている可能性があります。夫がこのような保険に加入していないか、確認しておいた方がよいでしょう。
会社名義の財産
会社名義の財産は、法人格を持つ会社が保有する財産であり、夫婦の共同財産とは区別されます。したがって、原則として会社名義の財産は分与することはできません。
ただし、個人の財産と会社の財産が混ざっていて区別ができない場合は、それぞれの財産について個別に検討して、財産分与の対象にできる可能性があります。
また、夫が自己名義の財産を会社名義に変えるなどして財産隠しを行った場合も、その財産を財産分与の対象にできる可能性があります。
経営者との離婚の注意点②子どもに関する問題
養育費・婚姻費用の算定方法
経営者の夫に養育費や婚姻費用を請求する際は、収入が多いゆえの問題が起きます。
養育費・婚姻費用は、夫婦で話し合って自由に額を決定することができますが、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表(裁判所HP)もよく用いられています。
これは、夫婦それぞれの年収や子どもの人数などをもとに標準的な金額を算定する方法です。
しかし、この表の中では、給与所得者の場合は年収2,000万円、自営業者の場合は年収1,567万円が上限となっています。
したがって、これ以上の収入がある場合は、上限で計算した額をそのまま採用するか、この算定表のもととなっている計算式を用いて、自分で計算することになります。
夫にとっては、算定表上の上限値を採用した方が支払う額は少なくなりますので、どちらを採用するかで争いが生じるおそれがあります。
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養育費・婚姻費用の算定のための収入の確定
養育費・婚姻費用の算定には年収を用いるため、年収を確定させる必要があります。しかし、夫が会社経営者の場合、役員報酬以外にも様々なルートで収入を得ていることが多いため、収入の確定が難しいという問題があります。
役員報酬以外に考えられる収入としては、以下のようなものがあります。
- 副業収入
- 株式の配当金
- 利子所得
- 不動産の賃料
- 不動産の売却益
夫がこれらの収入を隠していると、養育費や婚姻費用の額が不当に低く算出されてしまいますので注意が必要です。
夫が収入資料の開示に応じない場合は、弁護士に依頼すると、弁護士会照会という制度を用いて関係機関に開示を求めることができます。
また、裁判になった場合、調査嘱託といって、裁判所を通じて関係機関に情報を開示させる手続きを利用できることもあります。
経営者が行う収入隠しの実態と見破り方
経営者の夫と離婚する際、最も警戒すべきなのが収入の過少申告です。
法務省の「養育費の支払義務者が自営業者等である場合における養育費額の算定の在り方に関する調査研究報告書」では、経営者特有の収入認定の難しさと対策について指摘しています。
経営者が行う典型的な収入操作
- 会計操作と公私混同
- 離婚を見越した役員報酬の減額
- 会社への利益留保による見かけ上の低収入
ひとつずつ見ていきましょう。
会計操作と公私混同(経費の私的流用)
経営者の収入を判断する際に、よく問題になるのが本来は個人的な支出を会社の経費として処理しているケースです。
たとえば、自宅の家賃や水道光熱費、携帯電話代、自家用車の維持費、家族旅行の費用、飲食代などを会社の経費として計上することがあります。さらに、法人名義のクレジットカードを配偶者や家族に持たせ、私的な支払いに使っている場合もあります。
このような処理をすると、個人の申告上の年収は低く見えます。しかし実際には、生活費の一部を会社が負担していることになるため、実質的な収入はもっと高いと考えられます。
離婚を見越した役員報酬の減額
離婚調停や別居が始まったタイミングで、会社の売上や業績は変わっていないにもかかわらず、自身の役員報酬や給与を不自然に減額するケースです。収入を低く見せることで、養育費などの負担を抑えようとするためです。
このような場合、裁判所は会社の決算書を確認し、売上や経費の推移と照らし合わせながら、報酬減額に業績悪化などの合理的な理由があるかどうかを慎重に判断します。
会社への利益留保による見かけ上の低収入
会社に十分な利益が出ているにもかかわらず、あえて役員報酬を低く設定しているケースもあります。オーナー社長の場合、高い役員報酬を受け取ると社会保険料や税金の負担が増えるため、報酬を抑えて会社に利益を残し(内部留保)、個人の所得を低く見せることがあります。
この場合、個人の確定申告書や源泉徴収票だけを見ると「低所得」に見えますが、実際には会社を自由に運営できる立場にあり、必要に応じて利益を役員報酬として受け取ることも可能です。そのため、実際の支払能力は表面上の収入より高いと評価されることがあります。
裁判所が行う「実質的収入」の認定方法
法務省の報告書によると、経営者の収入を判断する際、個人の源泉徴収票だけでなく、経営している会社の直近数期分の決算書も提出させ、売上や経費の推移、不自然な役員報酬の減額がないかを詳しく確認しています。
また、会社名義の車や社宅などを私的に利用している場合や、意図的に低く抑えられている役員報酬がある場合には、それらを実質的な収入として上乗せし、養育費を算定することもあります。ただし、事業用と私用の区別が難しいケースも多く、実際に立証するには高いハードルがあります。
このように、経営者との離婚では、書類上の収入と実際の生活実態に大きな差が生じやすい点が最大の争点になります。
適正な養育費を確保するためには、弁護士に依頼し、会社の財務状況を詳しく調査したうえで、表に出ていない収入を明らかにしていくことが重要です。
子どもの親権に関する問題
特に家族経営の企業の経営者は、自分の子どもに跡継ぎとなってくれることを期待するでしょう。しかし、離婚して妻に親権を取られてしまっては、跡継ぎにすることができません。
このように、親権をめぐって争いになり、なかなか離婚できないという事態が考えられます。
なお、民法改正により、2026年4月1日以降に離婚する場合は、父母双方が親権者となる「共同親権」も選択できるようになります。
離婚の親権問題については、『離婚したら親権はどう決まる?親権を獲得する方法は?』の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
経営者との離婚の注意点③夫婦で経営している場合
雇用関係の問題
夫婦で会社を経営している場合、妻は役員または従業員として働いていることが多いでしょう。
離婚後もその会社で働き続けたい方は、離婚を理由に解任・解雇されるリスクに留意しなければなりません。
仮に解任・解雇されてしまっても、正当な理由がない場合には、無効または損害賠償の対象となる可能性があります。
また、退職金を請求できる可能性もあります。不当に解任や解雇を言い渡されても、諦めずに戦うことで、自身の地位や利益を守ることができるでしょう。
家族経営の事業用の財産はどうなる?
家族経営の会社であっても、法人の財産と夫婦の財産は区別されるため、原則的に事業用の財産は財産分与の対象にはなりません。
とはいえ、法人名義とは名ばかりで、その実態が夫婦の財産といえる場合は、財産分与の対象にできる可能性があります。
なお、夫が個人事業主の場合は、事業用の財産も個人に帰属するため、財産分与の対象になります。
工場の設備や店舗の備品なども財産分与の対象となりますが、経営者からすればこれらを手放す訳にはいきませんので、実際には相当する金額を代償金として支払うことになるでしょう。
しかし、これも経営者の手元に資金がないと難しいため、夫が財産の分与に反発することが予想されます。
このように、個人事業主の離婚は財産分与で揉めてしまう可能性が高いといえます。
経営者の夫との離婚に関するよくある質問
Q. 会社経営者の夫との離婚で財産分与はいくらもらえる?
財産分与の基本は夫婦の共有財産を2分の1ずつ分けることです。
ただし、経営者の夫が「会社経営は自分の才覚によるもの」として割合の変更を主張してくる可能性があります。しかし、家事・育児によって夫が仕事に専念できる環境を作ったこと自体が重要な貢献であり、安易に割合を下げる必要はありません。自社株や退職金、会社名義の財産なども対象になる可能性があるため、財産の範囲と評価額を正確に把握することが重要です。
Q. 社長である夫が会社名義に財産を移して隠している場合の対処法は?
会社名義の財産は原則として財産分与の対象外ですが、個人財産と会社財産の区別が曖昧な場合や、離婚を見越して意図的に財産を会社名義に移した場合は、財産隠しとして財産分与の対象にできる可能性があります。
対策としては、離婚を切り出す前に夫名義の財産をリスト化し、通帳や不動産登記簿謄本のコピーを取得しておくことが有効です。離婚調停や訴訟になった場合、弁護士会照会や調査嘱託といった法的手段で資産の移動を追跡できます。
Q. 経営者の夫との離婚で養育費はいくらもらえる?
養育費は裁判所の算定表を基準に計算されますが、この表は給与所得者で年収2,000万円、自営業者で年収1,567万円が上限です。そのため、収入がこれを超える場合は、計算式で個別に算出するか、上限額を用いるかで争いになることがあります。
また、経営者は役員報酬のほかに配当金や不動産収入などを得ていることも多く、法務省の報告書では、離婚調停の開始に合わせて役員報酬を意図的に減額するケースも指摘されています。こうした収入を正確に把握するには、確定申告書や会社の決算書を確認し、必要に応じて弁護士会照会などで収入を調査することが重要です。
Q. 夫婦で会社経営している場合の離婚で気をつけることは?
夫婦で会社を経営している場合、離婚を理由に一方的に解雇や報酬減額をされるリスクに注意が必要です。正当な理由がなければ違法であり、解雇の無効を主張したり損害賠償を請求できます。離婚前に準備すべきこととして、自分の役員報酬の明細、業務内容の記録、取引先との関係を示す証拠を確保しておくことが重要です。
また、離婚後も会社で働き続けたい場合と、独立したい場合では対策が異なります。独立する場合は競業避止義務の範囲を限定的にするため、自分が担当していた顧客や業務を明確にしておく必要があります。さらに、家族経営の会社の財産は原則として財産分与の対象外ですが、法人名義とは名ばかりで実態が夫婦の財産といえる場合は対象になる可能性があります。
経営者との離婚は弁護士に相談
財産の評価や調査は弁護士に!
経営者との離婚は、その職業の特殊性から、財産分与や慰謝料、養育費、婚姻費用の金額の算定において、通常の基準や相場を適用せず、ケースごとに判断することが多くあります。
また、経営者は様々な形で財産を保有しており、それらを明らかにするには綿密な調査が必要です。
弁護士は、弁護士会照会などの法的な手段を用いて財産や収入の調査を行うことができます。
経営者との離婚でご自身の利益を守るためには、弁護士に任せて適正な金額を請求していくのがよいでしょう。
経営者との離婚は弁護士にご相談ください
以上のように、経営者との離婚は、交渉が難航する可能性が非常に高いため、対策が必要です。
夫が事業で築いた財産であっても、それは妻の内助の功がなければ得られなかったものです。その貢献を離婚時に正当に評価し、妻が最大限の経済的利益を得ることが公平であるといえます。
弁護士はこのような対応を通じて、依頼者の利益を守ります。
- 財産の調査や評価
- 相手方との離婚交渉の代理
- 離婚手続きの代行
- 離婚協議書・公正証書の作成サポート
- 離婚調停・離婚裁判のサポート

弁護士
経営者の夫との離婚を有利に戦いたいとお考えの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
こういったケースにおいては、非常に難しい判断が求められます。また、財産を渡したくない夫との間で争いになる可能性があるため、弁護士に調査や交渉を任せておくと安心です。